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ハイク

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第一章

                 ハイク
 アルジェリアはかつてカルタゴという国があった、この国はフェニキア人の植民都市であった。フェニキア人は中近東にいた民族だ。
 しかし今のアルジェリア人はというと。
「俺達ってカルタゴ人の末裔か?」
「多分違うだろ」
 ラシッド=ジャパールに彼の友人シャドル=バヤートが言った。
「それはな」
「違うか」
「ああ、そうだろ」
 こう言うのだった、彼等が通っている中学校のクラスの中で。二人共アラブ人らしい浅黒い肌と彫のある顔をしている。髪と目の色が黒で髪の毛は縮れ君だ。二人共背は一七〇位でラシッドの髪は後ろに撫でつけていてシャドルは伸ばしている。ラシッドの目は大きくシャドルの目は細い。同じ制服だが容姿は違う。
「俺達アラブ人だろ」
「ああ、そうだよ」
「カルタゴ人はあの戦争で滅んだだろ」
 ポエニ戦争、三度に渡ったそれによってだ。
「戦争の後生き残った人が奴隷に売られてな」
「後は散り散りか」
「ああ、だからもうな」
「カルタゴ人はか」
「残っていなくてな、俺達もな」
 シャドル達自身もというのだ。
「アラブ人だからな」
「アラビアの方から移住したか」
「そうした人間だろ」 
 民族的にはというのだ。
「だから俺達のいるアルジェは殆どカルタゴと同じ場所にあるにしても」
「俺達はカルタゴ人の血を引いていないか」
「あの国はもう滅んだんだよ」
 それこそ完全にというのだ。
「遥か昔にな」
「ヒジュラよりずっと前に」
「もう遥か彼方さ」
 歴史のというのだ。
「俺達とは直接関係のない歴史だよ」
「ハンニバルもか」
「ムスリムじゃないだろ」
 カルタゴの名将の彼もというのだ。
「そうだろ」
「それはな」
 聞いたラシッドも頷くことだった、このことは。
「その通りだな」
「そうだろ、もう本当にな」
「カルタゴもカルタゴ人も関係ないか」
「俺達にはな」
「歴史の教科書には出てもか」
「それはそれ、これはこれだよ」 
 それこそとだ、シャドルはドライだった。
「イスラムの話じゃないさ」
「だから俺達には直接関係ないか」
「バルバロッサは関係あってもな」
 オスマン=トルコの提督でアルジェリアの方でも活躍した、元海賊でありキリスト教徒達にとっては忌々しい敵だった。
「それでもな」
「ハンニバルは違うか」
「そういうことでな、それでな」
「ああ、何だ?」
「この学校の近くにえらい美人が引っ越してきたらしいな」
「美人!?」
「三十代位の人でな」
 年齢はそれ位だというのだ。
「何か一目見ただけでくらってなる位の」
「そんなに美人か」
「今日登校する時に通学路で爺さん達がそんな話してたぞ」
「へえ、そうなのか」
「この近所でな」
 実際にというのだ。
「そんな話をしてたぜ」
「そうなんだな、それでその人何処にいるんだ」
「よく市場を歩いているらしいな」
 彼等の通っているその学校の近くの市場をというのだ。
「そうらしいな」
「あそこにか」
「ああ、それも夕方にな」
「夕方か」
 時間を聞いてだ、ラシッドは真剣に考える顔になった。 
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