ジュラバ
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第二章
「ひょっとしたら日本かもな」
「どっちにしても外国か」
「そうだな、外国のファッションだな」
「ミニスカートで胸元まで出して袖なんてなくてな」
「足はもう素足で」
「昔とえらい違いだが」
それこそというのだ。
「今は」
「そうだろ、御前もそう思うだろ」
「幾ら何でもってな」
マスルールは自分のコーヒーを飲みつつ友に答えた。
「思うさ」
「何かこうな」
「イスラムの伝統をか」
「もうちょっと大事にして欲しいな」
「そうも思うな、俺も」
「娘達なんてな」
モサーネドはここで自分の家庭のことを話した。
「最近ズボンに凝ってるんだよ」
「ズボンか」
「それも半ズボンな、ホットパンツだ」
「おいおい、それはまた凄いな」
「女房も流石にホットパンツじゃないがな」
それでもというのだ。
「昔の服なんてな」
「ヴェールはか」
「着やしないさ」
「うちと一緒だな、うちの女房と娘達もな」
マスルールも自分の家のことを話した。
「一緒だよ」
「そっちもか」
「ああ、こっちはミニスカートだよ」
「奥さんもか?」
「女房もだよ」
マスルールの家はというのだ。
「ミニスカートに凝ってるよ」
「俺のところより凄いな」
「とにかくな、こっちもな」
「洋服ばかりか」
「ジュラバなんてな」
モロッコの民族衣装はというのだ。
「存在の時点で忘れられてるさ」
「何処も一緒だな」
道行くモロッコ人、観光客以外の面々も誰も彼もがだった。洋服であり民族衣装を着ている者は一人もいない。その彼等を見てだった。
モサーネドはまただ、こう言ったのだった。
「たまにはな、女房もな」
「ジュラバ着て欲しいか」
「そう思うよ、どうしたものかな」
「じゃあ俺達が勝ってやるか?」
ここでこう提案したマスルールだった。
「女房や娘達にジュラバをな」
「買ってやるか」
「そうするか」
「そうだな」
モサーネドも友の言葉に頷いた。
「ここはな」
「よし、それじゃあそうするか」
「ジュラバ買いに行くか」
「そうしような、ただな」
ここでだ、マスルールはこんなことを言った。
「ジュラバはアラブ人の服だがな」
「御前は黒人だからか」
「着てもいいか」
「別にいいだろ」
実に素っ気なくだ、モサーネドはマスルールに答えた。
「それは」
「いいか?」
「黒人もアラブ人もムスリムだろ」
「アッラーの前に全ての人間は等しいか」
「そうだよ、御前の名前の人だってそうだろ」
アラビアンナイトのマスルールもというのだ。
「あの人だってな」
「カリフの傍にいたな」
ハールーン=アル=ラシードのだ、アラビアンナイトでの姿と実際の姿は違っているらしい。
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