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おぢばにおかえり

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第二十九話 お墓地でその七

「けれど学校生活があるじゃない」
「そうですよね。三年間は先輩と一緒に」
「何でそこで私が出て来るのよっ」
 この話の流れがさっぱりわかりません。
「私は関係ないでしょ、どうしてなのよ」
「けれど先輩大学は」
「天理大学受けるつもりよ」
 これはもう決めています。
「落ちてもここに残って本部勤務か詰所か。どっちにしろいる場所は詰所ね」
「じゃあ三年間ずっと一緒ですよね」
 このうえなく能天気な言葉でした。
「やっぱりそうじゃないですか。じゃあこの三年間も」
「一緒だっていうの?」
「宜しく御願いしますね」
「私はお断りよっ」
 冗談ではありません、本当に。
「勝手に横に来ていて、いつも」
「まあまあ」
「まあまあじゃなくてね」
 言いながら道路の前に立ちます。車が横切っているのでそれをやり過ごしているのです。車が通り過ぎてから横断歩道を渡ります。階段を登って黒く小さな門をくぐって神殿の中に入ります。阿波野君はその間何故か急に黙ってしまいました。それが私には不思議でした。
「どうしたの?急に静かになって」
「いえ。こんな道もあるんだなって」
 よく見れば周囲を見回しています。どうやらこの道もはじめてだったみたいです。
「面白いですね、神殿には色々な道から行けるんですね」
「まあそれはね」
 そういうことでした。確かに神殿に行く方法も道も一つではありません。ここは少し裏道めいていますけれどそれでもちゃんとした道なのです。
「その通りよ」
「ですよね。神殿に入ればすぐにそうだってわかるし」
「砂利で?」
「この砂利もいつも丁寧に敷かれていますよね」
 今は白いコンクリートのところを歩いています。けれどその横にある砂利を見て言っています。
「こういうのもやっぱり人がやってるんですよね」
「そうよ。皆でやってるのよ」
 このことも阿波野君に教えました。
「全部ね。この神殿だってね」
「ええ、皆で建てたんですよね」
「それは漫画にも描いていたでしょう?」
「はい、教祖物語に」
 そこまでしっかりと描いている漫画なんです。本当に凄くよくできています。
「描いてましたね」
「その時の盛り上がりって凄かったらしいわ」
「みたいですね」
 味気ない返事ですけれど読んでいるのはわかります。多分返事が味気ないのは阿波野君がまだ天理教について入り口にしかいなくてそれでそのことの凄さがわかっていないからだと思いました。人間知らないとどうしても感動も薄くなってしまうものですから。
「檜だし。木なんか」
「それを集める話なんかもかなり凄かったみたいで」
「皆さん必死だったのよ」
 私も話をしながら教祖物語のその場面を頭の中で思い出して。何故か心がすっきりとしてくるのを感じました。どうしてすっきりしてきたのかは自分でもわからないですけれど。
「それだけね」
「そうなんですか、そんなに」
「そういうのやっぱり知りたい?」 
 阿波野君に本格的に顔を向けて尋ねました。
「阿波野君は。どうなの?」
「まあ知りたいっていえばですね」
 今一つぼんやりとした返事ですがそれでも言うのでした。
「知りたいですね」
「そう。よかった」
「よかったんですか」
「天理教のこと知りたいっていうのがいいのよ」
 こう阿波野君に述べました。 
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