夢値とあれと遊戯王 太陽は絶交日和
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レベル4 これは全ての始まりであり、大いなる叙事詩である。
前書き
※今回のデュエルはかなり軽めです
『鮒、私とあなたは、血の繋がった兄妹なの』
『しめじ……嘘だろ?嘘だよなぁ!?』
17月136日、ロードショー
「凄い……」
老伍路 夢値は小さな口から感嘆のため息をついた。
「グイグイと引き込まれるようなテンポの良さ、そして映像と阿吽の呼吸のテロップ、あとサブリミナル効果。本来ぼくは恋愛ものにあまり興味を持てないのですが、それでも鮒としめじの恋の行く末が気になってしまいます」
「……あの、」
「どうしました?あの映画のDVDを借りたいならここから近くて品揃えのいいお店を紹介できますよ?」
「いや、そうじゃなくて」
「?」
「いつまでCMを観せられるの?」
哀手 樢は、パニックコメディ小説の宣伝をしているテレビ画面に、白い目を向けた。かれこれ10分位は、宣伝を聞かされ続けている。
「それでしたら……うーん、」
夢値は部屋の時計を見た。
「あと19分ぐらいでしょうか?」
「はぁ!?」
樢は思わず立ち上がった。カップに入った緑茶が小さく波を立てる。
「長すぎでしょ!」
「仕方無いですよ。経費削減の為にはこういう細かい所が大事なんですから」
「全然細かくない!!」
樢は立ち上がったものの、樢の部屋を出てもどうしようもないので、半ば見せつけるようにため息をついてから夢値が用意したパイプチェアに座り直した。
話は少し遡る。
「ねぇ、いい加減説明してよ?」
樢の部屋に忍び込んだハンターが敗れ、夢値がなにやらしたおかげか部屋も完全に修復され一息ついた樢だが、こういったことがこれから起こるならば、自分は腹をくくらざるをえないと感じた。
「なにをですか?」
「私はなんで、サンサーブ?ってのを持ってることになってるの?」
「あ、そうですね。それを忘れていました」
夢値はそう言うと、いつの間にか持っていた教育用カスタネットをカチッと鳴らした。
するとそれを合図にしているのか、床に空間が空きそこからプラスチックのような透明の筒がせり上がってきた。その中に入っているのは、手持ちサイズより少し大きな、四角い機器だった。
「サンサーヴとは何か、ぼく達はどういうお仕事をしているのか、そして夢値さんはどう関わっているのか、それを解説する為のショートドラマを作っていたんです」
「ショ、ショートドラマ?」
樢がなんとも言えない気分でいると、夢値は筒の中から機器を取り出した。機器には液晶画面があるようだ。小型のテレビのようなものだろうか
「ちなみにぼくもエキストラとして出ているので、良かったら探してみて下さいね」
夢値はそう言ってはにかみながらなにやら機器を操作した。
「さて、これでドラマを観られるようになります。長時間の視聴が出来るように、簡易的な椅子と机も用意してあります」
そして夢値がなにやらいそいそと準備をすると、あれよあれよと言う間にショートドラマを視聴する準備が整ってしまった。
「では、お楽しみ下さい」
夢値がいつの間にか持っていたリモコンを操作すると、液晶画面に光が点いた……
(まさかそれから延々とCMを観せ続けられるとは……)
樢は心の中で溜息をついてから深呼吸した。
「じゃあ、CM飛ばしてよ。早送りとかチャプターのスキップとか無いの?」
「うーんと、このタイプの物は初めてでー……」
樢の単純な案に、夢値は首を傾げた。
「これかな、えいっ」
ドパァーン!テレビは爆発した。
「なんで爆発するのよ!」
「あれー?自爆ボタン押したら爆発してしまいました」
「それは当たり前でしょ!ていうかなんでそんなのあるの!?」
「自爆付きの方が視覚的にも楽しめると思いまして」
「自爆付きって字幕付きみたいなノリで言わないでよ」
「うーん、じゃあ、これかな?えいっ」
「えいっ、って爆発しちゃってもうテレビが無いじゃない」
『ハイ、じゃあ最初のシーン、ヨーイ始め!』
「ってあった!」
それどころか、テレビには傷1つついていない。
「これはNG集ですね。どうやら、最後のチャ……チャプなんとかーまで飛んでしまったようですね」
「なんでそこまで覚えてて忘れるのよ。チャプターねチャプター」
「ええっと、これからどうすれば……」
夢値は拙い動きでわちゃわちゃとリモコンを操作した。すると、
『デス・エクスプローォジョン!』
リモコンから男の覇気ある大声がしたかと思うと、
ドパァーン!テレビは爆発した。
「またぁ!?」
「え、ええっと」
夢値は折りたたまれた紙を開き始めた。説明書か何かだろうか。
「……P→C→Sで、デス・エクスプロージョン。説明書に書いてありました。どうやらリモコンの特定の操作によって爆発するようになってるみたいですね」
「その機能いる!?」
「うぅーん、……」
夢値は暫く額に皺を作りながら説明書とにらめっこしていたが、
「これは、織羅さんを呼んだ方が早いですね」
そう呟くと説明書を畳んでパイプチェアを発って膝立ちになった。
(知り合いかな……?)
夢値は床に正座すると床に顔を近づけてコンコンと扉にするような軽いノックをした。
「……え、まさか」
ガチャリ。夢値がノックをした辺りからノブを回したような音がすると、そこから何かがにゅっと姿を覗かせる。
「老伍路くん、こんちはー」
ノリのいいお兄さんといった声と共に姿を現したのは、
「え?」
(服、が、浮いて……え?)
真っ白の衣に悪魔のような翼を付けて、天使のような輪っかを頭につけた、だがそれらだけの存在だった。
樢は、それの体の部分を目視することが出来ないのである。
服や装飾品だけがぷかぷか浮かぶその姿は、まるで透明人間でも中にいるようだった。
「お久し振りです、織羅さん」
夢値はぺこんと軽くお辞儀をした。
「お、君がサンサーヴの子?初めましてー」
と、オレラと呼ばれたのは樢を見つけると右の袖をフルフルさせた。
「え、えっと、こんにちは」
「いやぁ、話は聞いてるけど、本物見るのは初めてだなぁ」
(な、なんていうか……)
樢は冷静に状況を見直した。
(こういうのにそんなに驚かなくなってきたなぁ……)
とんでもないものに慣れてしまったものである。
「彼は、織羅 園羅さん。老舗なんでも屋『インヴィシ』の第2216代店長さんです。働く人です」
「店長なんて親がやってんの継いでるだけだって。俺は大したことしてないし」
そう言いながらも園羅は嬉しそうだった。黒い翼がパタパタしている。
「んで、どうした?」
「それが、樢さんにサンサーヴについて説明したいのですが、これの機能がよく分からなくて」
夢値は例のテレビを手に取った。
「なーるほど」
「地球の似たような物だと、チャ、チャキップのスプター?が出来るとかなんとかなのでこれでも出来るのかと思うのですが」
「チャプターのスキップが出来るのは市販にビデオだけだぞ?これは私的に作ったやつだから無理」
「え?」
「んーと、CM飛ばすだけなら、早送りすればいいじゃんか?」
「早送り、というのはどうやってするのでしょうか?」
「んー?」
園羅はリモコンをスッと手に取ると「あー」と納得のいったように呟き、それを裏返した。
「この型ははっきり言ってフォーマが迷走してた頃のやつで、早送りと巻き戻しがリモコンの裏にあるんだよねぇ。自爆付き機能の質は評判いいけど」
「それ評判いいんですか!?」
園羅がテレビをつけてリモコンをいじると、テレビに映っているCMが高速で消費されていった。
「ん。これでよし」
「ありがとうございました」
「ありがとうございました」
夢値と樢は頭を下げた。
「早送りと巻き戻しは押す度に速くなってくから、好きに調整してねー。んじゃ、またナナー」
園羅は右の袖をシュッと上げると、自分で開けた扉の中に入っていった。
「あ、」
夢値は手をパンと叩いた。
「また料金の話をするの忘れてました。経費だから遠慮なさらなくてもいいのに……」
夢値がそんなことを呟いていると、本編らしき映像が高速で流れだした。
「これで、少し巻き戻せばいいんですね」
夢値がリモコンを操作すると、やっと冒頭の映像が流れたのであった。
『う、うおおおお。俺は、これでさいきょになれる。見下してきたやつらに、復讐が出来るんだ』
樢は視聴数分後には、欠伸を噛み殺すのに必死だった。
役者は素人、セットはちゃち、演出は煩雑、どうでもいい映像をさんざん流しておきながら要点はナレーションが殆ど話している。あと下手くそなサブリミナル効果。つまらないと思いながら隣を盗み見ると、夢値は画面に釘付けになっていた。
もう今の時点で視聴意欲が大いに削がれている(暇すぎてエキストラとして夢値が歩いているのを見つけた)が、仕方が無いので観続ける。
観始めてから90分ぐらい経った。話も大方終わりだろうか。夢値に尋ねると、全体で120分ぐらいだそうだ。
眠気覚ましも兼ねて、樢は情報を整理することにした。
ある墓荒らしが、ある王の墓から1つの小さな宝石を奪った。それがサンサーヴだ。
その宝石は太陽の光を吸収することで、人智を超えた力を所有者にもたらす物だった。
その墓荒らしは近くの小さな村に降りると、絶大な力を振るい人々を無理やり従わせていたが、ある日村人の1人がサンサーヴを盗み出して失踪してしまった。
そうやって幾年か経つと、サンサーヴはその村人の元をも離れ、サンサーヴのことは伝説として語られるようになった。そして、それを手に入れようと画策する者も跡を絶たなかった。時に強引な手を使うことも厭わない彼らは、ハンターと呼ばれるようになった。
その中の1人が、サンサーヴの宝石としての美しさに目をつけた。名を、トガ ディアンという。彼はサンサーヴを無力化し、自分の宝石コレクションに加えようとした。ディアンはサンサーヴを手に入れる為に、「アミゼ」を組織した。その中に夢値もいる。
ディアンは紆余曲折あってサンサーヴを手に入れたが、それを求めて多くのハンターが襲いかかってきた。
アミゼのメンバーは決闘でそれを追い返し続けているが、それもやり続けられる保証は無い。ジリ貧になりそうな中で、ディアンがある1つの作戦を提案した。
と、ここまでは観終わったが、今はそこから場面が変わって、病院のシーン。ディアンが、明かりが仄暗い部屋で1人の医者と対峙する。どうやらここは、歯医者のようだ。
これが樢と関係のあるノンフィクションという時点で、樢は思い当たりがあるし良い気はしなかった。
『なぁ……ボイサさんよぉ』
ディアンはボイサに悪役のような笑みを向けた。
『子供に、いい暮らしさせたくないですかねぇ?』
ディアンが指を鳴らすと、黒服にサングラスの男が2人、アタッシェケースを2人で持ちながら現れた。
『……』
ボイサは視線をゆらゆらさせている。小刻みすぎて、観ているだけで酔いそうだ。
『ふっふっふ』
ディアンがニタリと笑うと、黒服2人がアタッシェケースの中を開いた。
中には、戦隊ヒーロー物の合体ロボットのおもちゃと大量の緩衝材が入っていた。
『息子さん、好きでしょう?』
『…………う、』
ボイサは脂汗でもかきそうな顔をしながら顔をゆらゆらし続けている。
『別に俺も、患者を裏切れだとかそういうことを言ってるんじゃない。ただちょっと、サンサーヴを哀手 樢の体内に埋め込んでくれって頼んでるだけだろ?』
(名指し!?)
変な画策に巻き込まれた気はしていたが。
『……分かった』
こうして、場面が変わり、おそらく樢役の女が歯医者で治療を受けている時に、ボイサが意を決したようにサンサーヴを樢の口の中に落として、映画が終わった。
「……ちなみにこの、とても普通の人間の体内にサンサーヴを隠す作戦ですが、1日もしないうちにハンター達にバレたそうですよ」
「私必要無くない!?」
「……というか、麻酔かけてても流石に飲み込んだら分かるでしょ」
動画が終わってもいまいち解消しきれていない疑問を、片付けの最中の夢値に投げかけた。
「あぁ、あれはドラマ上の演出で、実際は飲み込ませてはいないのです」
「じゃあどうしたの?」
「顎の中に埋め込んだのです」
「それ歯医者!?」
等と、補完しきれていない質問をいくつかしていると、夢値が部屋の時計を見ながら、「そろそろですね」と呟いた。
「ん?」
「もうそろそろ、お暇します」
窓の外を見ると、空がうっすらと暗くなっていた。
「あ、そうなの」
四六時中居座る気は無いようで樢は少しホッとした。
「もしぼくがいない時にハンターが現れたら、」
「うん」
「頑張って逃げて下さい」
「あ、そう」
「おそらく早めにぼくが駆けつける予定ですので」
「凄くアバウトね」
「そういうわけで、」
夢値は樢の目の前に立つと、スッと小さな手を差し出した。
「これから、宜しくお願いしますね」
夢値はニコッと微笑んだ。
「……うん」
半ば強制ではあったが、樢は自分の意志で夢値の手を握った。
ガシャァァン!!
「サァァアァァアアンサアアァァァァアアアァアァアヴウウゥゥウゥウウウウウゥウゥ!!」
「いきなり何!?」
突然、ルベーサが窓ガラスを割りながら乱入してきた。ガラスの破片の嵐が吹く。
「今日こそサンサーヴをぉ……」
「ぼくの先攻、テラ・フォーミングチキン・レース闇の誘惑テラ・フォーミングチキン・レース擬似空間トレード・イン無の煉獄デステニー・ドローチキン・レースSin サイバー・エンド・ドラゴンアームズ・ホール反目の従者反目の従者シエンの間者」
「グアアアアァ!」
ルベーサ LP8000→4000→0
ルベーサは割れた窓から吹っ飛んでいった。
「さて、用も済んだしお暇しますね」
夢値は何事も無かったように窓を修復しながら帰り支度を整えた。
「あ、うん」
「つまらないものですが、温泉まんじゅう置いておきますね」
「うん」
後書き
どうでもいい映像をさんざん流しておきながら要点はナレーションが殆ど話しているような小説を書いている、臣杖 特と申します。恥知らずイェイ。
1ヶ月1話が普通になってきましたね。これでいいのか人類。
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