英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅱ篇)
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第116話
~オーロックス砦~
「あ、あれは……!」
「”蒼の騎神”オルディーネ―――!」
「クロウ……来ていたのか!」
オルディーネの登場にトワは不安そうな表情をし、ジョルジュとリィンは驚きの表情で声を上げ
「フッ、どうやらお仲間が心配で様子を見に来ていたみたいだね。」
アンゼリカは苦笑しながら呟いた。
「……はは、まあな。しかし、まさかあんな大博打を打ってくるとは。爆発に巻き込まれたらどうするつもりだったんだ?」
「……無我夢中だったからな。でも、その程度の博打も打てないようじゃ誰かさんには届かない。そうだろう―――クロウ?」
クロウの問いかけに対し、静かな表情で答えたリィンはオルディーネを見つめた。
「………クク、なるほどな。ま、礼は言っておくぜ。それとゼムリアストーンで武器を強化するってのは悪くないアイデアだ。―――もっとも”強化”だけじゃオルディーネには届かないが。」
「……!」
「今後もせいぜい気合を入れて”試練”に挑むんだな。」
「クロウこそエフラム殿下達の手によってその無くなった腕と壊された目の部分はどうするつもりだ?」
「クク、ヴィータの知り合いの”蛇の使徒”で人形兵器を作る専門家がいてな。今日そいつにこのオルディーネを預けて直してもらう事になっているから心配いらねぇ。俺の事を心配している暇があったらとっととゼムリアストーンを集める事だな。」
リィンの問いかけに対して答えたクロウはオルディーネを空へと飛びあがらせ、カレイジャスを見つめた。
「そうそう、ジョルジュ。さすがに見事な剣の加工だ。総ゼムリアストーン製の得物―――楽しみに待ってるぜ。」
「……わかった。何としても鍛えて見せるよ。」
「トワにゼリカも”紅き翼”を完璧に乗りこなしたようだな?たった数日で最新鋭の巡洋艦を……どんだけ規格外だっつーの。」
「フッ、このくらいは当然さ。何せとっとと君の居る場所に辿り着かなきゃいけないからね。」
「……待ってて。その内絶対にクロウ君を取り戻してみせるから……!心配をかけた罰として卒業までずっと掃除当番くらいは覚悟してもらうからねっ!」
「ハハ……やれるもんならやってみな。お前らがオレのところに辿り着けるかどうか―――楽しみに待たせてもらうぜ。」
トワ達の決意を聞いたクロウは苦笑した後オルディーネと共に飛び去って行った。
「クロウ……」
「よしっ……切り換えないと!―――リィン君はこのままユーシス君達を追いかけて!」
「騎神の回収と周辺の警戒はこちらにまかせてくれ。」
「フフ、あとは頼んだよ。」
「―――わかりました!!」
そしてトワ達の言葉を聞いたリィンは砦内に突入した。リィンが砦内に突入する少し前、既に砦内に突入し終えた突入班が先に進もうとしたその時声が聞こえて来た。
「止まるがいい……!」
すると北の猟兵達が現れ、サラ教官達の行く手を阻んだ!
「………………!」
「ユミルを襲った猟兵達と同じ鎧……!」
北の猟兵達の登場にサラ教官とエリスは厳しい表情をし
「父に雇われた猟兵……”北の猟兵”だったか。そこを退くがいい。俺はアルバレア公に用がある。」
ユーシスは猟兵達を睨んで忠告した。
「それはできぬ相談だな。ユーシス・アルバレア。貴様を拘束するようにとの指示も受けている。」
「”我らが故郷”の名にかけてその依頼、果たらせてもらおう。」
「―――やれやれ。相変わらずみたいね。」
呆れた表情で呟いたサラ教官がユーシス達の前に出ると猟兵達は血相を変えた。
「サラ・バレスタイン……!」
「……貴様も一緒だったか。”紫電”の異名、遊撃士として聞き及んではいたが……」
「士官学院の教官になったという情報は確かだったらしいな。」
「……サラ…………」
「サラさんの知り合い……?」
サラ教官を知っている様子で話す猟兵達の言葉を聞いたフィーは心配そうな表情をし、ゲルドは不思議そうな表情で尋ねた。
「ええ、ちょっとした腐れ縁って奴ね。――――あんたたちのやり方は否定しないわ。団の送金で故郷のみんなが助かっているのも確か。でも―――今のあたしはこの子達の担任教官よ。そしてこの国は故郷を捨てたあたしにとって第二の故郷でもある……今はメンフィル帝国領とは言え、第二の故郷であった場所を焼討するような非道を働くなら容赦はしない―――2度と悪さができないよう叩きのめしてあげるわ!あたし一人の手でね……!」
そしてサラ教官は凄まじい闘気を纏って銃口を猟兵達に向けた。
「くっ………!」
「いくら貴様と言えど、この数を相手にするつもりか!?」
「へ……」
「まさか……一人で戦うんじゃ!?」
「高ランクの猟兵団……一人じゃ無謀すぎる!」
サラ教官の発言を聞いたミリアムは呆け、エリオットは不安そうな表情で尋ね、フィーは真剣な表情で警告した。
「馬鹿な、俺達も―――」
「―――いいえ。ここはあたしに任せて頂戴。6年目につけ損ねたケジメ……そのケリを付けるという意味でも!」
「どうしてそんな………」
「サラさん……」
ユーシスの申し出を断ったサラ教官の様子をエリスとゲルドは心配そうな表情で見つめた。
「いいだろう!サラ。バレスタイン!」
「団を抜け、故郷を捨てたこと後悔させてくれる―――!」
そしてサラ教官は猟兵達に向かって行った。
「久々に行くわよ……っ!ハァァァァァッ!!」
全身に膨大な紫電を纏って跳躍したサラ教官は猟兵達の目の前に着地し
「ハッ!セイッ!ハァァァァァッ!!」
強化ブレードで次々と猟兵達を斬りつけた後アクロバティックな動きで銃弾を連射して猟兵達に命中させ
「ノーザン――――イクシードッ!!」
そして一瞬で猟兵達に詰め寄って紫電を纏った強化ブレードと銃をクロスさせて叩きつけた。すると猟兵達の足元から紫電の大爆発が起こった!
「グアッ!?馬鹿な……」
「ガッ!?ク、クソ……ッ!?」
「ガアアアアアア――――ッ!?」
サラ教官の奥義を受けた猟兵達の一部は戦闘不能になって地面に膝をつき、軍用魔獣達は悲鳴を上げながら消滅した!
「フンッ!!」
「このっ!!」
その時大剣を持った猟兵達が跳躍して衝撃波を放ったが
「遅い――――セイッ!」
「グアッ!?」
「ガッ!?」
「これはオマケよ!!」
「グウッ!?」
「ば、馬鹿な……!?」
サラ教官は攻撃を回避し、クラフト―――電光石火を叩きつけて戦闘不能にした。
「喰らえ……!」
その時銃を持った猟兵が銃を連射させたが
「遅い!ヤァァァァ……!!」
サラ教官は銃弾をも回避してクラフト―――鳴神で反撃した。
「グッ!?これはどうだ!?」
「チッ!?」
しかし猟兵が投擲した手榴弾の爆発の回避に遅れたサラ教官はダメージを受けたが
「この程度で倒れると思ってんじゃないでしょうね!?―――斬り裂け!」
「ガアッ!?お、おのれ……!」
サラ教官はすぐに立ち直ってクラフト―――紫電一閃を放って猟兵を戦闘不能にした。
「さあ!とっとと立ち上がりなさい!あんた達がこの程度で倒れる程柔じゃないのはわかっているわよ!!」
「ク、クソ……ッ!」
「我ら北の猟兵を舐めるな……っ!」
そしてサラ教官に怒鳴られた猟兵達はそれぞれ立ち上がって再びサラ教官との戦闘を再開した。
「……これは……!」
サラ教官が猟兵達との戦闘を開始して少しするとリィンがその場に駆け付け、リィンは自分が見た光景―――疲弊した様子のサラ教官と同じように疲弊している猟兵達や地面に膝をついている猟兵達を見て信じられない表情をした。
「わ、我らの波状攻撃をたった一人で……」
「”紫電”のバレスタイン……」
「くっ……団にいた時以上か……」
「さあ――――まだやるの!?だったらいいわ!いっそ全員でかかってきなさい!最後まで、気のすむまで相手になってあげるわ―――!!」
「っ…………」
「……お前……」
サラ教官の気迫に押された北の猟兵達は驚きの表情でサラ教官を見つめた。
「……サラ……」
「……サラさん……」
「……どうしてそんな……」
「……フン、気が削がれた。これ以上、手負いの雌獅子とやり合うメリットは無さそうだ。」
「……戦機を逸した以上このあたりが退き時だろう。」
「クロイツェン州との契約はこの場で打ち切らせてもらう。」
「……あ…………」
「……父との契約を反故にしていいのか?」
猟兵達が口に出した意外な答えを聞いたサラ教官は呆け、ユーシスは驚きの表情で尋ねた。
「報酬分は既に働いている。それに他の仲間達は追加料金を貰ってケルディックの焼討ちを成功させたのに一人も戻って来ていない。」
「恐らくメンフィルによって捕縛されたか……もしくは処刑されたのだろう。」
「これ以上クロイツェン州に関われば、我らもメンフィルの報復対象にされる。そのようなリスクを背負ってまでクロイツェン州に雇われるべきではない。」
「さらばだ、バレスタイン。」
「少なくとも、この内戦ではもはや会うことはあるまい。」
「……ええ、そう願うわ。それと……近い内ノーザンブリアの状況はある意味いい方向へと向かうわ。」
猟兵達の言葉を聞いたサラ教官は静かな表情で答えた後複雑そうな表情をした。
「何……?それはどういう意味だ。」
「……それはその内わかるわ。……あたしから言えるのはこれだけよ。」
「…………いいだろう。かつての故郷にいた者のその言葉、信じさせてもらう。」
「―――撤収だ!各員、散開しつつ離脱ポイントまで撤退する!」
「了解!」
そして猟兵達は砦の出入口に向かい、その場から去って行った。
「どうやら……片付いたみたいだな。」
「ああ……そこの教官殿が文字通り獅子奮迅の働きをしてくれたからな。」
リィンの言葉に頷いたユーシスはサラ教官にリィンと共に近づいた。
「ったく、あいつら……手負いの雌獅子なんて失礼ね。ふふ……でもみっともない所を見せちゃったわね。どうやら秘密もバレちゃったみたいだし。」
「……何となく、察してはいました。やはり教官はフィーと同じ……?」
「ええ―――元猟兵よ。6年前、遊撃士になる前に”北の猟兵”に所属していた。ある一件でベアトリクス大佐に助けられてようやく抜け出せるまでね。」
「そ、そうだったんだ……」
「とても元猟兵だったとは思えないのですが……」
サラ教官の過去を知ったエリオットとエリスは驚き
「わたしは前に聞いて知ってたけど。」
「ニシシ、ボクたち”情報局”も一応掴んでたけどねー。」
フィーとミリアムは落ち着いた様子で答えた。
「……やっぱり教官も色々と抱えていたんですね。」
「ふふ、昔の話ではあるんだけどね……っ……!?」
リィンの言葉に苦笑したサラ教官は突如身体に痛みを感じ、地面に膝をつき
「サラさん……!?」
それを見たゲルドは心配そうな表情で声を上げた。
「無理はしないでもらおう。……後は俺達の仕事だ。」
「フフ……ちょっと張り切りすぎちゃったみたいね。でも、これで連中はもう介入してこないわ。アルバレア公は砦にいるはず……後は君達でケリをつけてきなさい!」
「教官……わかりました。ここで待っていてください!」
「行くぞ―――父上の元へ!」
そしてリィン達はサラ教官をその場に残して砦内の探索を開始した。
~オーロックス峡谷~
「―――見つけましたわよ。」
「何……!?」
「女の声だと……!?」
「一体どこにいる!?」
リィン達が砦内の探索をしているその頃、オーロックス砦から撤退して離脱ポイントに向かっていた猟兵達は突如聞こえて来た女性の声を聞き、周囲を警戒した。するとその時上空にペガサスを滞空していたシグルーンが飛び降りて猟兵達の行く手を遮り、鞘から細剣を抜いた。
「騎士だと……!?」
「女!何者だ!?我らに何用だ!?」
シグルーンの登場に猟兵達は驚いたりシグルーンを警戒していた。
「―――我が名はシグルーン・カドール。メンフィルの次代の皇帝たるリフィア・イリーナ・マーシルン皇女殿下の親衛隊の副長を務める者ですわ。」
「なっ!?」
「”聖魔皇女”の親衛隊の副長だと!?そのような者が我らに何の用だ!?」
シグルーンの正体を知った猟兵達は驚いたり、睨んだりしていた。
「フフッ、今朝リフィア殿下―――いえ、メンフィル帝国政府から命令があったのでこの場に参上したまでですわ。」
「メンフィル帝国政府からの”命令”だと……?それと我らがどう関係がある。」
「自国領であるユミル襲撃並びにケルディック焼討ちを直接行った”クロイツェン州が雇った北の猟兵”をメンフィル帝国が許すとお思いですか?」
猟兵の問いかけに対し、シグルーンは不敵な笑みを浮かべて膨大な殺気を猟兵達に向けた。
「何だとっ!?」
「まさか……!」
「”報復”か!」
「クッ、舐めるな……!幾ら親衛隊の副長と言えどたった一人で我ら”北の猟兵”を相手にできると思っているのか!?」
シグルーンの言葉を聞いて瞬時にシグルーンが自分達を殺しに来た事を理解した猟兵達は武器を構えてシグルーンに襲い掛かろうとしたが
「遅い――――」
シグルーンは一瞬で猟兵達に詰め寄って目にも見えない凄まじい突きを放ち始めた!
「え――――」
「な―――――」
解き放たれた細剣による神速の突きと共に発生した衝撃波に猟兵達は反応する事もできず受け続けた。
「絶技――――マザーズ・ロザリオ!!」
「ギャアアアアアア――――――ッ!?」
「ガアアアアアア――――――ッ!?」
「グアアアアアア――――――ッ!?」
そして一瞬で細剣で十字架を刻み込んだシグルーンがその中心部に強烈な突きを叩きつけると共に猟兵達の背後へと駆け抜けると闘気の大爆発が起こり、猟兵達は全身から血を噴出させながら地面に倒れた!
「ぐ……がっ!?」
「ば、馬鹿な………!?我らが何もできず無力化されるだと……!?」
「つ、強すぎる……!」
血だまりに倒れている猟兵達はそれぞれ呻き声を上げ
「フフ、冥途の土産に素晴らしい話を教えて差し上げますわ。―――――今朝メンフィル帝国はノーザンブリア自治州に宣戦布告をしました。」
「何だと!?」
「そ、そんな……!?」
シグルーンの話を聞くとそれぞれ血相を変えた。
「ノーザンブリアは本日中にメンフィル帝国によって攻め滅ぼされ、メンフィル帝国領となりますわ。よかったですわね?故郷にいる貴方達の家族や友人達は大国である我らメンフィルの加護を受けられるのですから。」
「き、貴様……ッ!」
「!!”紫電”のバレスタインが言っていたノーザンブリアが『ある意味いい方向へと向かっている』という言葉はまさかこの事か!?」
シグルーンの答えを聞いた猟兵達が声を上げたその時!
「フフ、その通りですわ。聖なる炎よ、悪しき者達の罪を焼き尽くせ!―――贖罪の聖炎!!」
「グアアアアアア―――――――ッ!?」
「ギャアアアアアア―――――ッ!?」
「む、無念……」
シグルーンの神聖魔術によって発生した聖なる炎で猟兵達を骨まで焼き尽くした!
「突入メンバーに選定される前に連絡が来て本当によかったですわ。もし突入メンバーに選定された場合、その場で彼らを滅しなければいけませんでしたから、元北の猟兵であるサラ殿の反応はわかりきっていますし、まだ学生の彼らに”この光景”を出来る限り見せる訳にもいきませんしね。――――ルチア!」
猟兵達を滅し終えたシグルーンは静かな表情で呟いた後愛馬の名を呼んだ。
「ブルルル……」
「さあ、カレイジャスに戻りますわよ。」
そしてシグルーンはルチアに騎乗し、その場から飛び去って行った。
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