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サイボーグ軍人

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6部分:第六章


第六章

「敗北ですね」
「その通りだ。この戦いはな」
 ここでは英国での空での戦いのことだけだった。しかしこのことはそれで終わりではなかった。ドイツ軍はヒトラーに率いられていた。その彼もまた政治を優先させていた。
 ハルトマンはレニングラードの前にいた。凍て付く中にその西欧風の美しい街が見える。だがドイツ軍はそこに突入できないでいた。
 その軍の中にハルトマンもいる。彼はその街を見ながら言うのであった。
「このまま突入すればだ」
「陥落させられます」
「今の我等なら」
「そうだ、できる」
 彼は確信していた。今街はドイツ軍により包囲されていたのだ。
 それを見てだ。彼はまた言うのであった。
「今だというのにだ」
「大佐、何故でしょうか」
「何故突撃されないのでしょうか」
「それはわからない」
 ハルトマンは表情は変わらない。だが苦い声であった。
「しかしだ」
「命令は出されていませんか」
「まだ」
「そうだ、出されていない」
 軍人として絶対のものがだ。出されていないというのである。
「全くだ」
「では。このままですか」
「包囲したままだというのですか」
「あの街を」
「まだだ」
 苦い声のままでの言葉だった。
「待っているのだ、命令を」
「はい、わかりました」
「それでは」
「勝機を逸するか」
 ハルトマンは苦い言葉をだ。今は自分だけに出すのであった。
「そうなるか」
「中央軍集団はモスクワに向かっています」
「今報告が入りました」
「そうか」
 後ろから部下達の言葉を聞いていた。今戦っているソ連のその首都だ。首都を陥落させることこそがその戦略的目標なのだった。
「間も無く陥落させられます」
「きっとです」
「そうだな」72
 部下達の言葉に頷きはする。しかしだった。
「だが」
「だが、ですか」
「この街でもだ」
 目の前にはソ連軍がいる。幾重にも塹壕や機関銃に迫撃砲、そして建物を使ってだ。防衛ラインを敷いて彼等の前にいるのである。
「この有様だ。モスクワでもだ」
「こうした有様ですか」
「やはり」
「突破できればいいがな」
 そしてであった。こうも言うのであった。
「そしてだ」
「そして」
「まだ何かありますか」
「雪だ」
 話に出したのはこれだった。雪だった。
「雪が降る前にだ。ケリをつけないといけない」
「冬が来る前に」
「それよりも前にモスクワを」
「ナポレオンも敗れたあの冬が来る前にモスクワを陥落させなければならない。そしてこのレニングラードもだ。何としても陥落させなければならない」
「ですが今は」
「命令が」
「軍人は命令がなければどうしようもない」
 ハルトマンは歯噛みしていた。その機械の口でだ。
 機械といえどその構造は人のものと全く同じにされている。ただ強くなっているだけなのだ。それだけで本当に口の中も人のものと全く同じようになっていたのである。舌もあれば歯もあるのだ。
 
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