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【仮題】黒翼騎士の英雄譚

作者:MARIE
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第02話:落第騎士vs紅蓮の皇女

 
前書き
就活の憂鬱な気分を発散するために、就活中ではありますが更新です。

前回の更新後、一時的にランキングに入っていたようで、読者の皆様に感謝です。
今回の内容は一輝vsステラ。拙作ではありますが楽しんでいただければ。 

 
 
「どういうことですか!」バンッ

 黒鉄一輝in理事長。まさかの本日二度目である。
 そして一輝の目の前ではステラが理事長の机に手を叩き付けて猛抗議中である。

「だ、か、ら!何故私とそこの変態が同じ部屋なんですか!」
「いや、変態って...」
「何か申し開きでも?」ギロリ
「い、いえ...申し開きはありません」

 コワイ。テレビで見るようなお姫様キャラは何処にいったというのか。

「先程説明しただろう?同レベルの者同士で部屋を組ませ、切磋琢磨できる環境を作る。そのための措置だ。」
「何故男女が同室なんですか!」
「そうだそうだー」
「ステラ・ヴァ―ミリオンと黒鉄一輝の同レベルがいなかった。要は余りものだ。」
「え、貴方もAランクなの!?」
「いやいや、逆だよ逆。Fだよ。使えるのも最低限の身体強化くらいで、評価項目の殆どが最低ランクだね。去年は授業すら受けさせて貰えなかったから休学してたんだ」
「何よそれ!男女同室でしかもFランクとだなんておかしすぎるでしょ!」
「だから言っただろう、余りものだと。それに男女同室のペアなど他にもある。君達だけではないのだよ。」
「ですが!」
「はい、ワカリマシター」
「は?」

 うん、自分たちだけではなくて他のところも同じって言うなら文句を言えないな。少なくとも男女同室のペアが全て反対意見を出さないと抗議する理由が無い。今回みたいに「他の奴らは我慢してる」って言われておしまいだ。

「ちょっと、何諦めてんのよ!ハッ、まさか私と同室になって厭らしい事をしようと――」
「してない!してないから誤解はやめて!」
「ほう、どのような間違いが起こるのかね?」
「理事長も煽らないで!」
「人の着替えを覗いた癖に!」
「確かにそうだけども!」
「さっきは私の下着姿をガン見してた癖に!」
「えーと...」
「厭らしい目で、嘗めるように、じっとりと視姦してきたくせに!」
「いやいや、綺麗な女性がいたら見惚れてしまうのは当然だから!」
「へ?」ボンッ

 褒め言葉を受けていきなり頬を朱く染めて、真っ赤になったステラを見た一輝と黒乃は視線を併せ――

「ちょろいな」
「ちょろいですね」

「~~っ、ちょろくない!」

 再び再燃したステラを宥めるに、十秒もいらなかったという。


 ☩☩☩


「さて、とりあえずお前たち二人は当面の間寝食を共にする訳だ。仲良くしたまえ」
「…仕方ないから条件を出します。」
「条件?」

 再度黒乃がステラを説き伏せた後、ステラが譲歩の形をとったので一輝はこれ幸いと従順な態度をとることにした。
 これ以上問題を起こさないように、穏便に、平和に、円満に。多少の譲歩は仕方がない――

「一つ、目を開かない事。一つ、口を開かない事。一つ、息をしない事。これを守りさえすれば――」
「ちょっとまった!」

 譲歩終了。厳重抗議開始である。

「何よ、これ以上譲歩しろって言うの?」
「むしろそれが最大限の譲歩なのが驚きだよ!絶対その一輝君死ぬ!死んじゃうから!」
「じゃあハラキリで許してあげるわ」
「…はい?」
「ハラキリよ。ハ、ラ、キ、リ。日本人の十八番なんでしょ?」
「とりあえずその間違った知識は早急にどうにかしてください。」

 ダメだ、この皇女様。我が強すぎる。知り合いの絵師と同レベルだ...

「まあ待て待て。2人とも、何事も勝敗は剣で、が我々抜刀者(ブレイザー)の流儀だろう。違うかね?」
「つまり、試合で勝った方が生活のルールを決めると?」
「ああ、そうだ。幸いまだ学校は春休みだからな。私の権限で直ぐにでもアリーナを貸しきれるぞ?」

 なるほど。つまり...

「理事長、俺に死ねと?」
「あら、随分と物分かりが良いのね。Fランクさん」

 むっ。

 ちょっと今のは...いただけないな。
 確かに僕はFランクだけど、今の僕があるのは師匠と友人たちのおかげだ。
 僕自身の批評は構わないけども、師匠のもとで鍛え、知り合いのアイツらと研鑽した実力をランク程度でバカにされるのは嫌だ。

「ステラさん。とりあえず試合、受けて貰えないかな?」
「あら、良いのかしら?」
「ああ。またとない機会だ。(君も)色々と勉強できるだろうからね」
「良いわ。ならこの勝負、敗者は勝者の奴隷よ!」

 …マジで?


 ☩☩☩


 そして数十分後。破軍学園のアリーナの中央で、一輝とステラは向かい合っていた。
 観客席には春休みに学園に残っていた数十名程度の生徒と学生がギャラリーとして座っており、事の原因であり、審判を行う黒乃もいた。

「さてと、それじゃあステラさん。よろしく」
「ええ。―――――――――(どうせ努力したけど才能には勝てなかったとか言うんでしょうけど)」ボソッ
「(聞こえてるよ、ステラさん)」

 あの影法師から授かった"術"によって超人の域にいる一輝にはステラの呟きもハッキリと聞き取る事が出来た。
 天才故の苦悩という奴だろうか。きっと勝つ度にそういう言い訳を相手から聞かされ続けてきたのだろう。正直、一輝には分から無い話ではあるが。
 ただ――

「(この一戦に、君にも得られるものがある事を祈るよ)」

 なんだかんだで御人好しの一輝である。
 久々の格上相手である。幻想形態での勝負という久々の平和な勝負(・・・・・)である。自分の全力をぶつけるついでに、ステラにも吹っ切れて欲しいと感じるのだから大概である。

『両者!固有霊装(デバイス)を幻想形態で展開!』

「傅きなさいッ!《妃竜の罪剣(レーヴァテイン)》――!!」

「行くよ、《陰鉄》」

 両者が固有霊装(デバイス)を展開し構える。
 距離はおよそ10メートル前後。戦意を滾らせるステラと、対照的に静かに佇む一輝。
 そして二人の緊張が最大に達したその瞬間――


『Let's Go Ahead !!』


 いつの間にかステラの目の前に現れていた一輝が、一輝へ向けて突貫しようとしていたステラの足の甲を踏みつけていた。

「なっ――!?」
「状況判断が遅いよ」
「ぐっ」

 そして、出鼻を挫かれ唖然としているステラの胴を、一輝の容赦ない峰打ちが襲う。かろうじてステラは妃竜の罪剣(レーヴァテイン)を軌道に挟み込み直撃を免れるが、想定外の威力に体勢を崩す。
 本来なら自分から後退し威力を殺すところだが、一輝に足を踏まれているのでその場から動けない。

「こんのッ―!」

 更にステラが一輝に向けて妃竜の罪剣(レーヴァテイン)を振るう時には既に一輝は離脱しており、数メートルも距離をとっている。

「(速い!目が追い付かない!)」
「悪いけど、様子見はしないよ。完封するつもりで挑ませて貰う」
「っ、それはこっちのセリフよ!」

 そして一輝は自分へ向かって突貫してきたステラを迎え撃った。


 一方、ギャラリーはというと混乱に満ち溢れていた。

 ――おいおい、AランクとFランクの戦いだろ!?どうなってんだこれ!
 ――嘘、まさかFランクが...

 そんな声が入り混じる中、審判を務めている黒乃も驚きと疑念で思考が埋め尽くされていた。

「あれは――いや、でもしかし――」
「おいおいくーちゃん。こういう面白いのは私にも教えてくれないと――」
「おい寧音(ねね)、あれは《抜き足》か?」
「…いや、多分違うね。少なくとも、私にはそうは見えないよ。」
「そうか。」

 破軍学園の臨時講師にして現役の世界ランク3位で《夜叉姫》の異名を持つ彼女、西京寧音(さいきょうねね)。彼女は《闘神》の異名で知られる南郷寅次郎(なんごうとらじろう)の弟子で、《抜き足》と呼ばれる技術の使い手である。
 彼女が《抜き足》でないというのならば、実際に一輝は《抜き足》を使っていないのだろう。つまり――

「寧音。お前はあの速さに覚えはあるか。」
「…そんなん、聞くまでも無いっしょ。ありゃあ間違いなく、《比翼》だよ。」

 世界最高の剣士、《比翼》のエーデルワイス。彼女が扱うゼロからMAXまでの瞬時加速。それを一輝が使っている。

「何故使えるのか...後で問いただす必要がありそうだな。」
「ま、素直に教えてくれるといいけどね。ただまあ、それを差し引いても意外じゃないかい?」
「何が――いや、聞くまでも無いな」
「うん。あの《紅蓮の皇女》さまが――」

 まるで子供扱いだ。


「こんのッ!(なにこれ、全部受け流されてる)」

 ステラが一輝へ打ち込む全ての剛剣が、逸らされ、力を上手く受け流されている。
 更に――

「せあっ!」
「ぐっ!」

 ステラの隙を突いて放たれる一輝の袈裟。それは先程までステラが振るっていた太刀筋と酷似していた。

「何で私の剣が…!?」
「生憎と指導者に恵まれなくてね。おかげさまで"見稽古"のレベルは相当だと自負しているよ!」

模倣剣技(ブレイドスティール)』。これぞ一輝が習得した見稽古の終着点。一輝はある程度観察すれば大抵の流派の太刀筋を覚え、その身で再現できるのだ。

「(だったら、フェイントで!)」

 そして、ステラが薙ぎに見せかけて太刀筋を変更、切上を仕掛ける。だが――

「太刀筋が寝ぼけているよ」

 不慣れなフェイントに走ったせいで持ち前のパワーが伴っていない一撃は、易々と一輝が柄で受け止めてしまった。

「変則ガードッ!?」
「焦ったね?直ぐに軽々と勝ちに走って――。小手先の逃げの一撃なんて君のスタイルじゃないだろ。この太刀筋(こんなもの)は君の剣じゃない。この一撃は致命的だ!」

 そして、ステラの妃竜の罪剣(レーヴァテイン)が打ち払われ、そのままがら空きのステラに一輝が《陰鉄》を振り下ろし――

「おっと、これは参ったねッ」

 《陰鉄》の切先はステラからおよそ数ミリといったところで、魔力の壁に阻まれていた。
 一輝はすぐさまステラの間合いから離脱し、油断なく構え直す。

「あーあ、かっこわるいなあ...」

 そして、心底悔やむ様にステラが呟く。彼女の身体の周りには、彼女の魔力が可視化されるほど高密度で展開されている。妃竜の羽衣(エンプレスドレス)。彼女が誇る炎の鎧だ。

「…どうやら、僕の攻撃力では君を傷つけられないと分かってたみたいだね」
「ええ。でも、どうせなら貴方には剣で勝ちたかったわ。認めてあげる。確かに私の勝因は、魔力量(才能)の差だったわ。だから――」

 最大の敬意を以て、最大の技で決着を。

「蒼天を穿て、煉獄の焔!」

 瞬く間にステラの周りの温度が急上昇し、灼熱の焔が形作られる。そして形成される光り輝く光剣のエネルギー量は、明らかに一輝が防御できる範疇を超えている。
 そんなステラの決め技(最強)を前に、一輝は驚くほどに冷静だった。
 ステラの魔力の前には通常攻撃はノーダメージ。
 ならば、才能がない奴(黒鉄一輝)才能がある相手(ステラ・ヴァ―ミリオン)に勝つにはどうしたらいいか。
 答えは一つ。

 ――瞬間火力で上回るだけだ!

「焼き尽くせ!天壌焼き焦がす竜王の焔(カルサリティオ・サラマンドラ)―――ッッ!!」

 そして、ステラが妃竜の罪剣(レーヴァテイン)を振り下ろすと同時に、灼熱の焔(火竜)が一輝に襲いかかる。
 だが、一般の抜刀者(ブレイザー)であれば簡単に戦闘不能に出来る大技を前に、一輝はあえて前進する。

「行くよステラ(・・・)!僕の最弱(さいきょう)を以て、君の最強を打ち破る――!!」

 そして一輝の身体から噴き出す蒼い燐光。
 これが一輝が格上に勝つために編み出した抜刀絶技(ノウブルアーツ)

『一刀修羅!』

「なっ――(避けられた!?)」

 誰もが決着がついたと思った瞬間、ステラの視界から一輝が消えていた。そして視界の端で奔る燐光。ステラが妃竜の罪剣(レーヴァテイン)で防御したのは直感だった。

「~~~~っ!」

 そしてステラの身体がリングの中央から後退させられ、あろうことかリングの端まで吹き飛ばされる。

「(この威力、当たったらヤバい!)――このっ!」

 再び一輝へ襲いかかる灼熱の焔(火竜)。たが、またしても直撃寸前で一輝の姿をステラは見失う。

「嘘でしょっ!?それに魔力も上がって――」

 魔力量は生まれた時から決まっている。その常識に当て嵌まらない目の前の光景にステラの思考が追い付かない。
 そんなステラに、まるで生徒に教える先生のような口調で一輝は説明する。

「いや、魔力量が上がってる訳じゃ無いよ。あくまで全力を出してるだけさ!」
「(まさか、肉体の限界(リミッター)を外して――)――マズっ!?」

 そして《比翼》と《一刀修羅》の重ね技により瞬く間にステラの懐に潜りこんだ一輝がステラの胴を薙ぎ払う。それを妃竜の羽衣(エンプレスドレス)の出力を上げることで何とか防ぐも再びステラの華奢な身体が吹き飛ばされる。ステラの土俵であるパワープレイで上を行く。その事実がステラのプライドを刺激した。

天壌焼き焦がす竜王の焔(カルサリティオ・サラマンドラ)!」

 再度大技を繰り出すステラ。しかも今回は()では無く()での範囲攻撃。実体を持たない剣だからこそ出来る一振り。

「(幾ら速くてもこれなら――!)」

 だが、そんなステラの希望を嘲笑うかのように一輝はその上を行った。

「嘘でしょッ!?」

 行った事は簡単。全方位360度の範囲攻撃といってもあくまで平面上の話。おまけに女性にしては高身長のステラが水平に振るった剣は、地面と炎の間に50センチばかりの隙間を生みだしていた。一輝は身体を倒し、強靭な足首を軸にその僅かな隙間を振り子のように潜り抜け、そして炎が通過するのと同時に振り子の反動で上体を起こしたのだ。
 渾身の大振りを避けられ、ステラが晒した決定的な隙を一輝は見逃さない。

 ――《比翼》

 ステラが気づいたときには既に懐に潜り込んでいた一輝が《陰鉄》を振りぬいていた。

「あ―――」

 そして衝撃と共にステラの意識が落ちていく。
 幻想形態でのダメージによる意識のブラックアウトによってステラの身体がリングに崩れ落ち――

「おっと。」

 その腰に腕を回し、ステラ抱き留める一輝。そしてゆっくりと、壊れものを扱うのようにステラをリングへと横たわらせ、自身も側に座りこむ。《一刀修羅》の反動による急激な体への負荷に倒れてしまいそうになる一輝だったが、勝者の意地として耐えていた。


「そこまで!――勝者、黒鉄一輝!」

 そして、誰が見ても明らかな決着に静まり返る闘技場の中を、レフェリーである黒乃の声が響き渡った。
 
 

 
後書き
一輝が何故《比翼》の剣技を使えるのか。休学中の一年間何をしていたのか。
色々と気になる事はあるでしょう。今後の展開でそこらへんを明かしていければいいですね。

…早く就活終わらねえかな。面接とか無くなれば良いのに。
(↑愚痴です。気にしないでください。) 
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