英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅱ篇)
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第97話
食堂の前に到着したリィン達は中にいると思われる人物にドア越しに声をかけて返事が返ってくると中に入った。
~ルーレ市・ドヴァンス食堂~
「ユーナ、ドヴァンスさん!」
「おう、よく来たなあ。同じクラスの友達も一緒か。」
「アリサ、無事でいてくれてよかった……!また会えて嬉しいわ。」
馴染みがある友人とその父親の無事な姿を見たアリサは安堵の表情をした。
「ふふっ、私もよ。急ぎの用みたいだけど、大事な話ってなんなの?」
「ええ、それは……」
「ここからはわたくしが説明させて頂きます。」
アリサが自分達を呼んだ用件を尋ねたその時リィン達が大聖堂で出会ったシスターが店の奥から姿を現した。
「お待ちしておりましたわ、士官学院Ⅶ組の皆様並びにシグルーン中将閣下とゲルド様。」
「教会のシスター……?さっき大聖堂ですれ違った。どうしてこんなところに?」
「それにどうして私を知っているの?」
リィンとゲルドはシスターに質問し
「?貴女、まさかとは思いますが……」
ある事に気付いたシグルーンは目を丸くしてシスターを見つめた。
「ま、待って……この声。も、もしかしてあなたは……!」
そして血相を変えたアリサがシスターを見つめたその時
「――――フフ、御明察だ。」
シスターは頭に被っていたヴェールを脱いだ。するとヴェールが無くなった事により髪や顔が顕わになり、シスターの正体はアンゼリカだった。
「ア……アンゼリカさんっ!」
「やあ、アリサ君。それにリィン君達とシグルーン中将閣下も。まさかこんなところまで来てくれるとはね。」
アンゼリカがウインクをするとリィン達は冷や汗をかいた。
「やれやれ、もしかしてとは思ったけど。」
「まさか、シスターに扮しているとは……普段のイメージと正反対でまったく気付きませんでしたよ。」
「フッ、我ながら完璧な変装だったみたいだね。実家で学んだ淑やかな振る舞いも少しは役に立ったと言う事かな。」
「ふう、どう考えても使い所を間違っていそうですが。」
「ア、アハハ……変装の為に淑女の振る舞いを使う方なんてアンゼリカさんくらいでしょうね……」
笑顔で言ったアンゼリカの言葉を聞いたラウラは呆れ、セレーネは苦笑した。
「で、でも………どうしてアンゼリカさんがそんな格好を?」
「ああ、それも含めて説明させてもらうよ。マスター、彼女達になにか温かい飲み物を。」
「ガッハッハッ、わかった!ちょっと待ってろい!」
「さてと席に着く前に…………」
食堂のマスターに注文したアンゼリカはゲルドに近づいて突如ゲルドを抱きしめた。
「ん~、やっぱり新しい女の子はいいねぇ♪クンクン……ん……この香水は確かエマ君がつけていたやつだったかな……?」
「えっと……?どうして私を抱きしめているの?」
アンゼリカに抱きしめられたゲルドは戸惑いの表情をし
「フフッ、これが私なりの愛情表現なのさ♪」
アンゼリカは心の底から嬉しいかのような表情を見せて答えた。
「ハハ……」
「そう言う所も相変わらずのご様子である意味安心しましたね……」
その様子を仲間達と共に冷や汗をかいて見ていたリィンとセレーネは苦笑した。その後席についたリィン達はアンゼリカにルーレに来た事情を説明した。
「そうか………それでわざわざここまで来てくれたのか。フフ、やれやれ。『こちらは気にするな』というのは逆効果だったかな?」
「ええ、当然でしょう。」
「でも……街の状況はやはりよくないみたいですね。RF社もハイデル取締役に完全に牛耳られたみたいですし。」
「ああ、市内の工場も半数近くが操業停止している。稼働している工場も貴族連合の軍需物資のために操業させられているようだ。それと機甲兵の生産も行われているみたいだね。」
「………………」
(アリサ……大丈夫~?)
アンゼリカの話を聞いて暗い表情をしたアリサを見たミルモは心配そうな表情でアリサに念話を伝えた。
「市民の間でも貴族への不満が高まっているみたいですし……」
「それを何とかする為にレン姫の許を離れたというわけですか。」
「ま、概ねそんなところさ。この地を治めるログナー家の一人娘としてできることはないかと思ってね。今はルーレ市や領邦軍の中で協力者を集めているというわけさ。」
「なるほど……ユーナやドヴァンスさんもその中の一人と言う訳ですね。」
「ふむ、領邦軍にも支持者がいるというのは幸いですね。」
「ええ、さすがはアンゼリカ先輩ですわ。」
アンゼリカの話を聞いたアリサは納得し、ラウラとセレーネは口元に笑みを浮かべた。
「もしかして、街に入る時に取りなしてくれた見張りの兵士も?」
「ああ、私の知り合いと気付いてとりなしてくれたんだろう。まあ、それでも当然、大多数は父の味方だがね。……今回の帝都の占領とメンフィル帝国領であるユミルに2度襲撃した件とメンフィル帝国の貴族の子女であるエリス君を誘拐した件―――言語道断だが、父もどこか後ろめたく思っているようでね。」
「ログナー侯爵が………?」
「それは……意外ですね。四大名門の一人だから、貴族連合の中核のはずですが。」
アンゼリカの話を聞いたアリサとリィンは目を丸くした。
「革新派はともかく、皇帝陛下に対する忠誠心は決して低くはなかったからね。それに父もさすがに宣戦布告もせずに他国の領を猟兵達に襲撃させて領主夫妻に危害を加えさせた挙句領主の子女を誘拐するなどの卑劣な行為は帝国貴族として許せなかったのだろう。…………最もメンフィル帝国軍による帝都襲撃並びにバルヘイム宮爆撃、後はカレル離宮で近衛兵達を虐殺した事による貴族連合―――いや、エレボニア帝国に対する”報復”についてはどう思っているか知らないが。」
「あ…………」
アンゼリカの説明を聞いたリィンは辛そうな表情をし
「……君達に聞きたい。エレボニア帝国とメンフィル帝国の外交関係は今どうなっているんだい?それに何故リフィア皇女殿下の親衛隊の副長を務めているシグルーン中将閣下が君達と共に行動しているんだい?」
アンゼリカは真剣な表情でリィン達を見回して尋ね、リィン達は様々な事情を説明した。
「……そうか。そんな事になっていたのか。メンフィル帝国と戦争状態に陥る事は予想していたが、まさかクロスベルまで関わってくるなんてね……」
事情を全て聞き終えて重々しい様子を纏っていたアンゼリカは疲れた表情で溜息を吐いた。
「正直俺達も何とか状況を変えようと思ってその場で意見を何度も口にしたのですが…………」
「”貴族連合”がメンフィル帝国に対して行った数々の卑劣にして愚かな行為に加えて、最初の襲撃の後から約2週間も猶予を与えて頂いたにも関わらずエレボニア帝国はメンフィル帝国の”当然の要求”に一切応えなかったどころか、謝罪や説明すらもしなかったというメンフィル帝国に対する”負い目”がある為、殿下達でも状況を変える事はできませんでした……」
リィンとラウラは複雑そうな表情で答えた。
「まあ幾らオリヴァルト皇子殿下達でも無理だよ。メンフィル帝国は当然の事を言っているだけで、全ての非はエレボニア帝国にあるのだから。第一相手はあのレン君だからね……彼女の傍にいる私も彼女の凄さも十分理解しているつもりだ。何せあの年齢で僅かな時間で親父殿を説得して、軟禁の身となりかけていた私を連れ出す事ができたくらいだし、交渉の際も多くの大人達とも渡り合えるくらいだからね……」
「……ま、あたしは”殲滅天使”より”微笑みの剣妃”の方がそう言う事については”上”だと思っているわ。」
複雑そうな表情で呟いたアンゼリカに続くようにサラ教官は真剣な表情で呟き
「”六銃士”の一人である”微笑みの剣妃”ルイーネ・サーキュリー。リウイ陛下達と旧知の間柄であるヴァイスハイト殿の話によりますと元々あの方は祖国では内政と外交を一手に引き受け、更に策略を巡らせて”敵国”と対抗していたとの事ですわ。」
「ええっ!?」
「ど、道理で論争に強いはずですわね……」
「下手をすればあのオズボーン宰相をも上回るのではないか……?」
シグルーンの話を聞いたアリサは驚き、セレーネは疲れた表情をし、ラウラは真剣な表情で推測した。
「そしてそんな彼女が”クロスベル帝国”建国に関わった後は、間違いなく今後の外交などにも関わってくるのだろうね。やれやれ……噂には聞いていたけど、まさか”六銃士”がそんな凄い能力を持つ存在だったとはね。……まあ、メンフィルとクロスベルが攻めてくる前に内戦を終結させてもこのルーレはどの道メンフィルに贈与された後クロスベル領となってしまうのか……」
「アンゼリカさん…………」
「……どうしてそんなに辛そうな表情をしているの?」
肩を落として辛そうな表情をしたアリサは悲しそうな表情をし、ゲルドは不思議そうな表情で尋ねた。
「ルーレはアリサ君同様私にとって生まれ育った故郷だからね。……で、メンフィルとの戦争を回避する為には私の実家―――”ログナー侯爵家”はこのルーレから出て行かなければならないから色々と思う所があるんだよ。”救済条約”とやらを使っても”四大名門”の帰属は許されないのだろう?」
「はい…………」
ゲルドの説明したアンゼリカはリィンに視線を向け、視線を向けられたリィンは辛そうな表情で頷いた。
「まあ、皇帝陛下への忠誠も低くないあの父が他国に鞍替えするなんてことはありえないし、”平民”に落とされてまでルーレに住むつもりもないだろう。それに”貴族として”ルーレを治める事や住む事を禁止しているだけなのですから、”旅行”で訪れたり、”一般人として”住む事は問題ないでしょう?シグルーン中将閣下。」
「ええ。さすがにそこまでは制限していませんわ。」
アンゼリカに問いかけられたシグルーンは静かな表情で頷き
「それを聞けて安心しました。元々私は頻繁に他の娘達の所で泊まっていたから、私はそれ程問題ではないさ。それにレン君の指摘通り7年ものチャンスが与えられたのだから、実家やエレボニア帝国の為にもそのチャンスをモノにしてみせるさ。」
「フフ……たくましいですね。」
アンゼリカの答えを聞いたラウラは苦笑した。
「―――まあ、そんな事よりも。まさか本当にリィン君がアルフィン皇女殿下のお相手になるとはねぇ?」
「う”……そ、それは…………」
口元に笑みを浮かべたアンゼリカに視線を向けられたリィンは表情を引き攣らせて言葉を濁し
「しかも話を聞く限り”ラインフォルトグループ”を護る為にもアリサ君とも結婚しなければならないし、養子とはいえメンフィル皇家の一員であるセレーネ君を捨てるなんてことはできないから当然彼女も娶らなければいけない上、心から大切にしている妹であるエリゼ君とエリス君の想いも兄として無下にできないから、現時点でも5人もの麗しい女性達と結婚しなければならないという事になるね。君は世界中の男達の嫉妬の対象だろうねぇ?この私ですら君の女運に嫉妬しているくらいだし。」
「確かにその通りよねぇ?というかつい最近、”氷の乙女”まで落としたのよ♪」
アンゼリカとサラ教官は口元をニヤニヤさせながらリィンを見つめた。
「なっ……あのクレア大尉をですか!?サラ教官、その話後で詳しく教えて貰ってもいいですか?」
「ええ、いいわよ♪」
「きょ、教官!?」
そして二人の会話を聞いたリィンは慌て始めた。
「ア、アハハ……」
「………本当に後何人増やせば気がすむのよ……」
その様子を見ていたセレーネは苦笑し、アリサはジト目でリィンを見つめ
「……ゲルド。そなたの予知能力とやらではわからぬか?」
「えっと…………」
「いやいやいやっ!?そんな事の為に予知能力を使わなくていいから!」
ラウラに尋ねられて自分をジッと見つめ始めたゲルドにリィンは疲れた表情で指摘した。
「フフ……―――話を戻すが家を飛び出す直前に言い争いにもなったんだが……『お前が正しいと主張するなら俺を力ずくで納得させてみろ!』―――なんて言われてしまってね。」
「そ、それは……」
「とても名門貴族の当主とは思えない方ですわね………」
「というか何気に考え方がメンフィルと似ているじゃない……」
アンゼリカの話を聞いて仲間達と共に冷や汗をかいたリィンは表情を引き攣らせ、シグルーンは目を丸くし、サラ教官は疲れた表情をした。
「でも……迷いがあるのも当然かもしれませんね。」
「ああ……―――父は今、”黒竜関”で領邦軍の指揮をとっている。そして少数だが、一部の兵士は私の決起を待ってくれている。装甲車も数体確保できたし、機甲兵も何機かは動かせるだろう。時が来れば父に挑み、お望み通り”力ずく”納得させてやるつもりだ。そういう意味では―――君達の出る幕はないだろう。これはあくまで、ログナー家の問題だ。来てくれたのは嬉しいし、エレボニア帝国を滅亡させない為にも一日でも早く内戦を終結させたい気持ちはわかるがどうか手を引いてくれないか?勿論私も出来る限り早く父と決着をつけるつもりだ。」
「それは……」
「アンゼリカ、あんた……」
アンゼリカの頼みを聞いたリィンは複雑そうな表情をし、サラ教官は真剣な表情をし
「いいえ―――アンゼリカさん。これは、侯爵家だけの問題じゃありません。故郷のルーレが……何よりRF社が絡んでいる。その時点でこれは、”私”の問題でもあるんです。」
アリサは首を横に振った後静かな表情で答えた。
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