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ソードアート・オンライン―【黒き剣士と暗銀の魔刃】

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鉄色の刃と紅色の狂喜
  零節:【魔刃】

 
前書き
お待たせしました。
リメイク版・【黒き剣士と暗銀の魔刃】開始です!

……初っ端から原作など放り投げ、原作キャラも全く影も形も無くなっていますので、どうかご注意を。 

 
 
 
 ―――此処で一つ……ただ聞き流せば荒唐無稽な、おかしいだけの絵空事を口にしよう。

 

 片方に陣取るは碧き『刄の悪魔』
 身体中に夥しいほど数多の、刃物を、刀剣を、凶器を纏う魔物。
 鮫に似ている細く鋭い頭部を持てど、しかし明らかに鮫とは違う身の毛の弥立つ風貌。
 二つの眼を持ち、憤怒を込めて睥睨する、人知外の化物が其処に居る。

 片方に陣取るは紅き『骨の悪魔』
 骨とは言いつつも半分ばかり肉は残り、去れどもその所為でおぞましさが増している。
 更に言えば背骨にも似た刺だらけの尻尾、どの骨の部分であろうとも紅と赤黒の歪な斑。
 二つの異なる眼に同じ狂気を迸らせた、嗤う一匹の魔物が其処に居る。
 

 各々様々な意匠を取り込み、膨大な数の紋章が壁に床にと描かれる、余りにも異質なる石室。
 厳かささえ感じる石造りの中で…………台無しにする程濃密な波動が互いを潰さんとぶつかり合う。


「アァ―――ァァァアアアアッ!!」
「キシ―――キシシシシシシィ!!」


 暗き単色が風を立ち、二重螺旋が空を裂き、ぶつかる(たび)に地を震わせる。

 片方はありったけの憤怒を叩き込み、片方はありったけの悦楽を注ぎ込み、激昂する暴意と狂気纏う歓喜が真正面から衝突し続ける。
 無意識にか彼等の放つ闘気―――否、最早()()()()()()()を感じる密度で放たれる殺気に当てられれば、心臓の弱い者で無かろうと気絶は必至。
 遥か高みから、喰らうべき獲物を狙う眼で睥睨されれば……少なくとも常人であれば恐怖しない者などいないだろう。

 異様なまでに膨れ上がる殺意を放って尚、片割れ達は止まる事を知らない。

 宙を鋭き緑色の影が這う。
 地を嗤う赤色の影が飛ぶ。
 凄惨な命の取り合いを、ごく僅かに()()()()()や、幾つも重なって感じる“気配”など構うかと、ただ本能と激情のままに爆動する。
 血の臭いが所構わずに漂い、肉と石の焼ける不快な臭いが同時に鼻をつく。


「ゼェェエェッ!!」
「ッハアァ~……♡」


 裏拳を捌き続いて繰り出されるストレートを柄で撃ち落とし、顔へ放たれる刃を避けようと仰け反り、其処からすぐ放たれる蹴りあげを腕で流し―――そうして時に圧倒的な技術を持って。
 突如として空間が真っ赤に爆ぜ強引に距離を取らされ、迫りくる更なる『紅』を何色とも形容できない『光』が真っ向叩き落し、また斬り裂き―――そうして時に圧倒的な異能を持って。

 体を極限まで鍛え上げ、武器を操作し扱うという酷く人間的な闘い。夢物語の中にしかない筈の、魔法染みた一撃が飛び交う酷く人知を逸脱した闘い。
 それらが時に混ざりあい、時に反発しあい、延々と留まることなく続く。

 刹那の時に合わさり響くその音は、果たして金属によるものかそれとも異質なるモノか。
 瞳に映り、抉らんばかりに刺激する光は、碧なのかはたまた紅か……。



 まるで永久に続きそうだとも思えてしまう、終わりの見えない悪魔達による闘争。
 先の読めない戦の中で、それだけが唯一無二の真実であり―――



「シャァ……―――ッ♫」


 ―――しかし唐突として、その均衡に亀裂が走った。


「……!?」


 されどコレと言った色を持たなかった碧い悪魔の【無色の光】を、一つの濃い色が僅かに塗りつぶす。
 その色は―――“赤” また “緋” そして “朱”。
 自分の側へ下れとばかりに、紅き鮮血が片方の魔物に斑を作ったのだ。


「ガ、ァア―――アアアアァァァァアァァァァァァァァアアアアアアアアアア!!!」


 苦悶、憤怒、怨恨……ごちゃ混ぜになった“負”と共に、激痛が招く絶叫が喉から競り上がり、口より一気に迸る。

 ―――――だが止まらない。

 碧い悪魔の鋭利な殺気は収まらない。その歩みは、まるで留まらない。
 それどころか吹き出る圧力が倍以上に膨れ上がり、もう常人か如何か関係なく触れた全てを圧し潰して――――否、“斬り刻んで”しまいそうなぐらい力を増して噴き上がる。


「グ、ガ、ア゛……ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛アアアァァァアアァァ――――――――ッ!!!」


 咆哮する碧い刃の悪魔から人影が飛び出した。

 ……いや、違う。今まで『悪魔に見えるほど濃密な気を纏っていた』が為にそう見えていたのだ。


「キシィ♫ …………アハハハハハハハハハハハハハハハハハハァァァアアァァ!!!」


 つまり、もう片方の紅い骨の悪魔もまた、そう錯覚するぐらいに強い狂喜が故に、そう見えていただけなのだ。


「「アアアアアァァァアアアァァァアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」」
 

 小細工など知らぬと突撃し、策略など微塵も考えずに、両名の得物がただ閃いて―――――




 ―――そこで、世界は光に包まれた。





















「ア…………ぁ……―――――あ?」


 柔らかな日差しが瞼を刺激する。
 碧い悪魔“だった者”は、そこで脈絡無く眼を覚ます。


「……?」


 まず片割れが抱いた感想は……多少複雑。
 何もかもが、いっそ酷い程に『適当な造形を持っている』という単純なモノと……それ故に、余りに“違和感”が、“不快感”が漂って要るように思える―――と言ったものだった。

 清潔と片付けるのもおこがましい位に、何故か空気に匂いが感じられ無い。
 風の吹き方に歪なほど法則性があり、何処も彼処も違和感しかない。
 木々や草花の質感が、細部を無視して作られた工芸品の様な感触を受ける。

 尤もソコだけではない、一番の不思議は其処ではない―――片割れは“石室”に居たのに、何が一体どうなって、何故此処に寝ているのか。
 血生臭い狭所へ赴いた筈なのに、どうして長閑な草原の上に座しているのか。
 ……それが、不可思議でならなかった。

 自分は紅い悪魔“だった者”と、雌雄を決するという言葉から最も遠い、凄惨な殺し合いをしていたのではないのか?
 真正面から突っ込んでいき、力滾らせ得物を振りかざし、ぶつかり合ったのでは無かったのか?
 ならば今まで起きた事は本当に絵空事で有り、その者は草原の上で転寝をしていただけだったのだろうか?


「……これ、は……?」


 ……いや、違う。絶対に違う。
 碧い悪魔“だった者”は心の底からそう思っていた。

 上を見て広がるのは真っ青な青空ではなく……まるで空に蓋でもしているかのように鎮座する鉄の底。青空は横にしか広がっておらず、上を幾ら見上げていても雲一つ見えはしない。
 ならば建造物の中なのだと仮定しても――――おそらく何層にも重なっていて、規模がしれない程巨大な建造物など、その碧い悪魔“だった者”は全くもって覚えがなかった。
 
 そもそも、嘗て居た場所から一瞬で此処まで移動するなど……荒唐無稽もいい加減にしろと言いたくなるような所業だ。
 碧い悪魔“だった者”は勿論、紅い悪魔“だった者”やごく少ない()()()、更に彼等が兼ねてより感じていた()()ですら、コレを行える(つわもの)などいなかっただろう。


 ならば一体何なのか……。


「……まさかあのアレ……遺跡、か……?」


 偶然にも、碧い悪魔“だった者”には、ボヤけてはいれどある種の心当たりがあったらしい。

 口にした遺跡―――それ即ち、彼等がぶつかり合っていたあの石室の事だろう。
 幾つもの紋章が描いてあったその意匠からして、どうもタダの石造りではなかった模様。

 様子から見るに意図としてあの場で闘っていた訳では無いらしいが……それが、幸か不幸か強制長距離転移という、途轍もない『異業』を身に受ける羽目を呼んでしまったようだ。


 碧い悪魔“だった者”は己の頭を押さえ、顔にある大きな十字の傷をなぞる。
 一瞬の硬直と静寂から……怒りが湧きあがって来たのか体を震わせ、跳ねる様にして立ち上がり辺りを見回した。

 ……が、目当ての者はおろか、勝手知ったる“モノ”すら欠片も影が見えない。


「そう、だったな……あぁ……」


 此処で改めて思い出す。
 この奇々怪々な建物はただ座り呼吸しているだけで、五感へ珍妙な事ばかり押しつけて来るのだった―――と。

 何故に草木や色鮮やかな花々、宙を舞う虫達まで異様に()()()めいていて、整合性など知った事かとばかりに不自然なのか。

 眼を閉じて《遺跡》の詳細を思い出して尚、此処に広がる光景は酷く歪で不愉快な物ばかりだった。


「……アレだ……情報収集する、しかねえのか……」


 明らかに不自然な場所で、その都度切って話しながら、碧い悪魔“だった者”は緩慢に立ち上がる。

 腰に手をやり、己の“得物”が存在している事に安堵すると……胸に付いたペンダントを強く握りしめた。


「……イーシャ……」


 手を放した『男』はそう呟くと、未だに滾々と湧き出ていた怒りを鎮め―――獲物を抜き放ち後ろを睨みつけた。


「『グルルルルゥゥ……!!』」


 其処いたのはあろう事か、体高ニmはありそうな犬……否、狗の化物だった。

 が―――またしても此処で違和感が生じる。


(何だアレ、は……?)


 通常何もない筈の頭上に、何故か“赤い菱形”に似た立方体が浮かんでいる上、顔の横には多少長い“アルファベット”と枠で囲われた“青色のバー”が浮かんでいる。

 だがそれら奇妙な要素に反し……放たれる迫力自体は、幾つかのいびつさを入れても尚“本物”。

 涎を垂らし唸る声へ肝を強制的に冷却させられ、獰猛な光を宿す相貌に脚が竦んでも可笑しくない筈なのに、男は真っ直ぐに目線を向けたまま外そうとしない。

 互いに視線で相手を捉えて離さない。


 そんな沈黙の時が数秒間流れ……


「『ガアアアァァァッ!!』」


 動いたのは、化物狗の方だった。


 突撃の勢いは殺さず右爪を振りかざし、目の前の男を八つ裂きにせんと叩きつける。
 対する男は……睨みつけたまま動こうとしない。

 残り数十㎝もない距離まで近付いて、彼のその身を太い爪が切り裂く―――


「……遅ぇ……」


 ―――直前に左腕が付きだされ、ものの見事に軌道を変えられ外される。
 されど、数センチ近くを凶器が通り過ぎたのも事実。
 事実……の筈なのだが、動揺はかけらも見られない。

 それどころか男は反撃に転じた。
 狗の爪が地面へ落下するかしないかの間に、アッパーの動作で下顎を斬り上げる。
 続く肘鉄で鼻っ柱を打ちすえ、吠えながら顔を上げた瞬間体重を乗せて斬り降ろす。


「……シッ!」


 最後に左ストレートを決めて、サマーソルトキックを放ちながら距離を取った。

 化物狗は大きなダメージでも喰らったのか、不自然な位置で硬直した……瞬間、身体から青い光が迸って、“蒼い無数の破片”と化し虚空へ()()()()()()しまった。


「は…………!?」


 間抜けすぎる表情を男は浮かべている。
 目の前で起きた現象を、信じられないとでも言いたげに。

 しかし驚愕したのは僅かな間。
 すぐに頭を左右へ振り、遠くを見やって歩き出す。


 その光景を―――


「あ、あのモンスターをたった五回の攻撃で……!?」
「ソードスキルも使って無かったよ!?」


 ――――見ず知らずの他者に見られていた事に、彼は気が付いていたのだろうか。
 色違いの菱形をまたも頭上に浮かべる者達の存在を、彼は視界に留めていたのだろうか。

 ……その見ず知らずの他者たちは、他ならぬ彼自身がどれだけ『奇妙』なのか、気が付いているのだろうか。

 其れは、誰にも分からない。





 そしてこれが―――これが後に起こる、余りに奇怪な幾つもの事件の、全ての置ける『始まり』なのだと……知る事など到底叶わなかった。

 
 

 
後書き
 もう見たまんまと言うか、前にお気に入りに入れてくださった方々はお気付きでしょうが……書きなおしどころか、改めて書き起こした新・第一話です。

 悪魔がどうとか、色がどうとか表現して、ボヤかしているとは言えなんかもう―――初っ端からネタバレっぽいですね……喋り方の所為で、誰が誰なのか丸わかりだし。
 でも、行き成り出して行くより、ある程度バックがあった方が良いかなー……と思った次第でして。

では、また次回。 
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