夜空の武偵
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Ammo05。 VS竜悴公姫・ヒルダ
(竜悴公姫・ヒルダ……!)
手に持つ日傘をくるくる、くるくると回しながら顔を隠しつつ、ヒルダは俺の方へ歩み寄ってきた。
その顔を見ることが出来たが……
(ああ、原作金次の言う通り______美人だな)
原作でもヒス金が見惚れてしまったほどの美人とあったが、成る程。
確かに綺麗だ。飴細工のような白い肌。怪しく輝く、切れ長の赤瞳。ルージュに彩られた唇。金髪の縦ロールをかけたツインテール。筋が通った綺麗な鼻先。
漆黒を強調したゴスロリ服もヒルダが着ると、排他的・魔的な感じがして違和感がない。
フリルやレース、リボンが付けられたそのドレスを着こなしたヒルダはまるで……
「ふふっ。見惚れているのね。まあ、無理もない事だけど。私は、美しいから」
まるで……世界の頂点に君臨している女神……いや、魔王のように。
そんなヒルダの姿に見惚れるというより、飲まれた。
そう飲まれてしまったんだ。
一目見ただけで悟った。悟ってしまった、理解出来てしまった。生物としての『格』が違うと。
この触れることすら許されない不可侵の気配。
魔王。
ヒルダを顕すならその二文字がピッタリだと思ってしまった。
「お前達人間が名も無き雑草なら______私達吸血鬼は、手入れの行き届いた温室のバラ。
天が与えたデザインからして違うのだから。だから、好きなだけ見なさい。恋い焦がれなさい。希いなさい。ただ見ることしかできないのだから、せめて、見るのよ。ご覧、ご覧、目を逸らせずに……」
その声色は柔らかく、安心させるような、彼女の言う事を聞きたくなるようなそんな感じがした。
……何故だ。ヒルダの顔を、その姿から目が離せない。離すことができない。
目を逸らしたらいけない、そんな気がしてきた。
「そう。それでいいのよ。そのままじっとしてなさい。そう……そうよ。私の言う事をよく聞いて。いい子ね。ほほほっ!
下等な人間ごときが吸血鬼の領域に浸入するなんて、身の程を知りなさい」
柔らかい声色を一変させて高圧的な態度で俺に告げた。
身の程を知る?
それはヒルダ、お前の方だ!
子供だと思って油断したのが運のツキだ!
俺はヒルダに視線を向けたまま、ガンダールヴの反射神経を利用して手に持った銃を超高速で動かし撃つ。
(喰らいやがれ! ______不可視の銃撃______!)
ヒルダに視線を向けてる間にコッソリマガジンは入れ替えておいた。
入ってる銃弾はヒルダが苦手な法化銀弾だ。
作戦で使うようにと武偵局から支給されたその銃弾でヒルダを撃とうとしたが……。
……。
……⁉︎
「______ッ……⁉︎」
どうして______どうして動かないんだ。
手が……手が、動かない……!
これは、まさか……⁉︎
「ふふっ、なんで手が動かないのかしらね? 不思議よね? 身体の自由が効かないなんて」
「クソッ……やりやがったな、糞吸血鬼!」
これは原作で金次がかかった……。
「糞吸血鬼? 口が悪いのね。高貴な私達を糞呼ばわりするなんて許せないわ。下等な______人間の分際で!」
ヒルダがムチを振るった。ただそれだけの動作で。
______バチッッッ!
電流音が鳴り響く。
「……ッ⁉︎」
身体が痺れ、俺は地面に倒れてしまった。
感電させられたのだ。ヒルダが持つムチが当たったことによって。
そういや、ヒルダは催眠術で動きを封じて、電気を操るんだったなー、なーんて思っていると。
「下品な香水のように、銀弾の香りをプンプンさせて、私が気付かないとでも思ったのかしら? 高貴な私達を糞呼ばわりしたその罪、身体で払ってもらうわ。具体的に言うと、血を全て抜いて、肝臓は魔術の材料として利用してあげる。ああ、安心していいわよ、私は優秀な2種超能力者でもあるから。だから貴方の身体は無駄にはしないわ」
「……」
「ああ、人間の血を思いっきり浴びれるかと思ったら、なんだかドキドキしてきたわ。久しぶりに血液風呂なんてのもいいわね。最近、お肌荒れ気味だし……」
「……」
「あら? 抵抗はしないの? いえ、できないのね。可哀想に……何も出来ないほど弱いなんて。非力な弱者は強者に踏みにじられる。でも悲観する必要はないわ。それは生物の現実なのだから」
カツン、カツンとヒルダのハイヒールが鳴る音が響く。
俺に近づいてくるその姿はまるで死神を連想させる。
「そしてその現実からは、人間は逃れられない。弱者は強者に従う。力こそ全てなのだから……。
さあ、強者に従って血を流しなさい」
弱者は強者に踏みにじられる?
「………フッハ……アハハハハッ! 面白れぇ! 面白いよ、お前……」
「……ッ⁉︎ 何が可笑しいのかしら?」
「……『力こそ全て』かぁ。まるで古い少年漫画に出てくる悪役のようで、面白いな、ヒルダさんよぉ?」
「なん、ですって……?」
「『力がなければ従うしかない』……成る程。確かにそれはあるな。心が強くなければそもそも自分の意思を思い描こうともしないし、力がなければ誰かを守ることも出来ない。心強さと力強さがなければ意志を貫き通すことも出来ない。
お前の言う通り確かに力や強さは必要だ。
けどな! 『武偵憲章第3条。強くあれ。但し、その前に正しくあれ。』……正しくなければ強さを通してはいけない。それが武偵のルールだ!」
「フン、強がっていられるも今のうちよ。貴方は私に勝つ事は出来ない。いいえ、満足に動くことすらできない。虫は虫らしく地べたに這いずってればいいのよ」
「そうか、なら……まずは虫らしく身を守ってやるよ!
来いよ、吸血鬼! さあ、殺せるもんなら、殺してみやがれ!」
俺は敢えて小馬鹿にするかのように、ヒルダを挑発した。
今からやる技は完全なカウンター技だ。
ヒルダのような能力持ちから攻撃されないと、俺はまだ自身が抱えるこの体質を上手く使うことが出来ないのだから……。
「______人間の分際で!」
バチバチバチッ!
ヒルダの持つムチから高圧の電流が流れるのを感じられた。
(さあ、来いヒルダ! お前の言う、『力があるものに弱者は従う』……その意味を身をもって知れ!)
バチバチバチッ!
電流が俺の身体を貪る。俺は抵抗はしないでその電流を敢えて受ける。
「ほーほほほほほほッ! 口先だけで何もできないのね。これだから人間は……下等種族の分際で高貴な私達に逆らった罪、身をもって知りなさい。おっーほほほほほほほほ!」
ヒルダが口に手を当てながら高笑いをする。そして、俺から視線を逸らした。
(______今だ!)
バチバチバチ、バチィィィッ!
「ん? 何の音……なんですって?」
俺の方を振り向いたヒルダが驚愕の顔を浮かべる。
「……ハッ、アハハハハッ!
礼を言っとくぜ、ヒルダ。お前のおかげで俺は『次の段階』へと進めた」
大事で笑いながら俺は起き上がり、油断して立ち尽くしてたヒルダの腕を掴む!
「な、なんで生きてるのよ。電流は弱くなかった筈……」
「ああ、人が死ぬくらいには電流も電圧も足りてたさ。充電できない環境でよくやった、と素直に感心するぜヒルダ」
俺の言葉にヒルダは再び驚愕の顔を浮かべた。
ヒルダの能力は『素粒子を操ること』。
放電はヒルダの真の能力ではない。
魚のDNAを取り入れて得た後付けの能力だ。
その為、ヒルダ自身に発電能力はない。
放電する為には外から電気を盗み、変圧器で調整しなければいけないのだ。
そのことを知っていた俺は一芝居打つことにしたのだ。
法化銀弾で撃とうとして失敗したのも、ワザとだ。
ヒルダは匂いに敏感だからな。
ただ撃とうとしただけでは気付かれる。
だから、ヒルダが接近してくるように仕向ける。
その必要があったんだ。ヒルダは格闘戦は下手だからな。
もっとも、本当に催眠術にかかったのは予想外だったけど。
「……ど、どうやって?」
「なあ、人間の……いや、生物の筋肉はなんで動くと思う?」
「?」
「いろいろな条件とかあるけどな、脳から出された命令が神経を通る際に微弱な電気を発生させるんだ。その電流によって筋肉は動く。
で、だ。もし、人より筋肉の密度が高くて、筋繊維のバネが密集してる奴に電流を多く流せばどうなると思う?
答えは簡単……いつもより、筋肉が動きやすくなるんだよ。今の俺みたいに、な」
もちろん、誰でも出来ることじゃない!
高圧電流に耐えられる耐久性、忍耐力、体質。
それらがなければ死に至る。
幸いにも俺は普段から電流に対抗する為の訓練を受けて、身体は電流流しに慣れていた為出来る。
(まさかヒルダの奴もキレた時の母さんのお仕置き方法が高圧電流を流すこととは思わないよなー……日常的にビリビリ受けてれば嫌でも慣れるさ、うん……)
今の俺はヒステリアモードの金次以上の力が出せる。
俺は金次のように性的興奮で神経系の強化はできないが、外的要因によって筋繊維を刺激することで筋肉の動きをより活性化できる!
今の俺なら筋肉だけで常人の250倍の出力を余裕で出せる!
これは高圧電流を受けることで身体強化する技。
名付けて『雷神』。
「さて、問題です。ヒルダさん。
『弱者が強い者に遭遇しました』……貴女ならどうしますか?」
俺はさっきヒルダがした発言を質問に変えて彼女に返した。
さあ、答えてみろよ。
高貴な吸血鬼なら答えられるだろう?
「……このッ……ネズミの分際で!」
「俺がネズミならお前はハムスターか?」
俺は至近距離から不可視の銃撃で法化銀弾を放ち、ヒルダの背に生えている翼に風穴を開けた。
「……ッ!」
「オラオラまだ行くよ!」
続いて二丁撃ちで法化銀弾を放ちまくる!
右の翼に大きな風穴が開いて、飛んで逃げようとしたヒルダはバランスを崩す。
続いて左の翼に風穴を開ける。数十発の銀弾が翼に命中してヒルダは飛行が出来なくなった。
大きく穴が開いた翼は形が保てなくなり、重さで崩れ落ちた。
だが……それでも。
それでも、まだ。ヒルダはまだ戦意を失っていなかった。
「……許さない、許さないわ……お前、絶対に許さない」
翼がもげた状態になってもヒルダは倒れない。
それどころか翼は自己蘇生を始めている。
……『無限回復力』か。
やはり、『魔臓』を破壊しないと倒れないようだな。
さすがは吸血鬼。耐久性ハンパないな。
なら……アレを試すか。
「オラオラ……まだだ、まだ終わらんよ」
俺は人生で一度は言ってみたかった台詞を呟きながら、弾切れになったFiveSevenと、デザートイーグルを地面に落とし、背中に背負っていた木刀と腰に差していた日本刀を抜いて、ヒルダの体を切り刻む!
狙うのは目玉模様の付いた皮膚。
そこに魔臓はある……というのはブラドだけだ。
ヒルダのソレはフェイク。
正確な位置は本人も知らない。
だから、魔臓の位置が解るまで斬りまくってやった。
斬った場所はすぐに塞がるから、そう簡単に死なないだろうしな。
「やッ……やめ……やめなさいッ……やめろっ……」
「そういった理子の言葉に耳を貸した事はあるのか?」
「……何故、アイツの名前を……そうか、そういうことね。……可笑しいと思った……のよ。武偵が来るなんて。 ……アイツが……アイツが呼んだのね? ……全てはアイツが……許さない!」
「なんか、勘違いしてるみたいだけど……それは違うからな?」
あれ? もしかして、変なフラグ立てた?
りこりん強襲フラグ立てちゃった?
……気のせいだな。うん。
りこりんは無実ですことよ?
聞いてる? あっ、聞いてないな。 ……ドンマイりこりん!
さて、気をとりなおして。
ヒルダが隠してる魔臓見つけないとな。
魔臓とは、一種の臓器みたいなものだ。
臓器は筋肉の集まりみたいなものだから。
その理屈なら音が聞こえるはずだ!
『筋肉感知』で他の筋肉や臓器とは違った音がする箇所を確認する。
ふむふむ、なるほど、魔臓はそことあそことそこらにあるのか……。
魔臓の位置を確認した俺は木刀を腰に差し、日本刀を鞘に収める。
そして。超高速で移動して不可視の銃撃の要領で同時攻撃の居合を放った。
「星空流奥義『龍星群!』」
ザシュザシュザシュザシュ……!!!
脚の筋肉の出力を上げることで速く動き、さらに武器を持つことでガンダールヴの力も使い、高速移動を可能にする。今の俺は忍者みたいに分身してるかのような動きが出来る!
四人に分身して(実際には超高速で動くことで分身してるかのように見える)居合を同時に放って、四つあるヒルダの魔臓を破壊した。
魔臓を破壊されたヒルダは断末魔を上げる。
「……キャァァァアアア‼︎」
その効果はすぐに現れた。
(無限回復力が途切れた……いける!)
ヒルダの体からはおびただしい血が流れている。
普通の人間なら失神してるか、出血死してるくらいの出血量だ。
しかし、そんな中でも。
「______ひぃいぃ……!
……私が、この私が、悪い夢だわ……夢よ。これは、夢……だってありえないわ。この私が…………」
まだ意識があるヒルダはずりずりと這いずりまわって、逃げようとしていた。
「どこに行くんだ? 人間ごときから逃げるのか _____高貴な吸血鬼さんよ?」
「ひぃ……ひぃいぃぃぃ……!」
「竜悴公姫・ヒルダ。お前を傷害・殺人未遂の現行犯で逮捕する」
俺はヒルダの眉間にデザートイーグルを突きつけてそう告げた。
逃げたら、今度は素手で捕まえてやる!
催眠術にかかったのは想定外だが。
捕まえることは出来たのだから、結果オーライ、だよな?
血塗れ吸血鬼……GETだぜー!
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