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剣士さんとドラクエⅧ

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94話 異変2

 助けられた瞬間は私の意識は朦朧として、目を開くのさえ辛くて。全部、ククールのベホマであっと言う間に治してもらったのにしばらくはぐったり転がることしか出来なかった。あぁ、前衛として情けない……。でも、エルトが倒してくれたから、大丈夫。もう、大丈夫だ。

 ギガデイン……人間も魔物もなかなか使えない、エルト得意の雷属性の最高峰の呪文。その、目が潰れんばかりの眩い光は、私の意識だってしゃっきりさせたし、ドルマゲスにとどめを刺して塵ぐらいまで粉砕するのには充分の威力だった。

 陛下や姫の元のお姿が楽しみ。家に帰ったら父上も母上もいる。さすがに疲れちゃったし、しばらく休みたい。眠い、眠いよ。疲労感が酷い。一日ぐらいだらだらしたら治りそうだけど。

 ああ、終わったんだ。この旅も、ドルマゲスを追うことも。それはとっても嬉しいのに、間違っても寂しいわけないのに、もう私に自由なんてないんだと思うと……ね。これから私は……当主になるんだから……今まで以上にトロデーンの為、民のために尽くすだけになる。私のためになにか出来ることはないんだ。

 この美しい世界を、自分の意思で踏みしめて、駆け回って、青い空を仰いで、風の中思いっきり深呼吸して、みんなと笑い合うことなんて、もうない。

「……大丈夫か、トウカ」
「もちろん。これでよく分かったけどククールの回復の腕は世界一だね。すっかり治った。足まで生やすなんて、すごいよ」
「そうか。レディに褒めてもらえるとは光栄の極みだぜ」
「レディ?……ああ私のこと?あはは、そんな風に呼ばれるなんて初めてだよ。流石は色男だ」

 穏やかな気持ちで軽口を叩きながら、助けを借りてゆっくりと上体を起こした。溶けて足がなくなっていた記憶があるんだけど、すっかり元通りになっていた。晒すことなんてないから真っ白の足。我ながら実用的な筋肉が、前世と比べるまでもなくきちんとついている。おお……一から再生したからか、今世一なめらかな肌。

 もちろん傷一つなくね。そういえば鉄板入りのブーツ、お気に入りだったのに溶かされちゃったなぁ……まぁ変え時だったんだよね。手袋の中にも予備、あるし。服も当然溶かされて穴だらけ、その上足は何も纏ってない。お目汚し失礼ってやつだね。

 伸ばしてた髪の毛も、溶かされて短くなっちゃったなぁ……部分的に禿げてないのがマシかな?旅立った時よりも触った感じは短い。そうだね、本格的に男装してた時より少し長め、ベリーショートじゃない。エルト程度?もうちょい長いかな?

「髪の毛、変じゃないかな?」
「……短いのも似合ってるぜ」
「ありがとう。うーん、伸ばし直し。ククールみたいに長く伸ばそうと思ってたんだけどな」
「そうなのか?」
「そう。それまではずっと短かったんだよ。邪魔にもなるし」

 邪魔になったけど、あの頃は……内心、父上も髪の毛の長さが羨ましかったから、伸ばせる今は幸せだったんだな……。これからはちゃんと伸ばさないとね。

 無言になったククールがばさっとマントを、剥き出しの足にかけてくれた。おお……これが本物の紳士ってやつだ。そのマントも当然、激しい戦闘でボロボロになってしまっていたけど、その気持ちはとても嬉しかった。ありがとうと振り向いて言えば、気にするなと目を逸らされる。あ、お目汚し失礼。え、違う?

『兄さん、何故……人間なんかと』
「ん?ゼシカ?どうしたの?」

 ドルマゲスがいたところからあの、トロデーンの国宝の杖を拾ってくれたゼシカは、私の方を見ながら何か言った。低く言ってたから、「兄さん」しか聞こえなかった。ゼシカの兄さん?サーベルトさんだよね。

「……なんでもないわ。復讐しても兄さんが帰ってこないんだって、実感してただけなの」
「そうだね……」
「ええ。でも……これで兄さんも心配しなくていいわね。それには意義があったかもしれないわ」
「そう思えるならゼシカは大丈夫だよ。今までありがとう。君の強力な魔法があったから成し遂げられた」
「別れみたいなこと言わないでちょうだい。まだしばらくは一緒でしょ?」
「勿論!」

 少なくとも、トロデーンに戻ってトロデーン城がどうなったかは確かめるし、ゼシカはリーザス村に責任をもって送り届けるし、まぁ少しは一緒だね。ルーラするのはエルトかククールだけど、付いていくつもり。それぐらいのわがままは無理でも通すよ。かけがえのない仲間なんだから。

 手袋から予備のブーツと適当な着替えを引っ張り出す。普通のズボンと普通の上着。今着てるみたいに腕からナイフがぼろぼろ落ちてくる仕掛けはないよ。せいぜいボタンに仕込みナイフがあるぐらいさ。

 それをさっさと着て、ゼシカに出した方の綺麗な上着を貸して、ククールにマントを返す。そのククールにも本当は何か貸してあげたいけど……サイズが合わない。足も腕も長くて、背も高いククールに私のサイズの服を貸したってつんつるてんか、酷かったら着れないだろう。ていうかそれでも貸そうとしたらやんわり断られたし。

 ゼシカが「逆彼シャツは頂けないわね」ってなんのこと?彼シャツってなに?知らなくていい?そうなの?ククールのそんなに焦った顔、あんまり見ないね。

 そんな風に魔物の気配がなくて、やっと落ち着けたからかしばらく駄弁っていたら、陛下が来られた。……何故か姿は戻られていない。時間差で戻るのかな?それとも泉の水を飲めば完全に解除って感じなのかな?

 陛下に討伐の旨を伝え、私たちはとりあえずサザンビークに戻ることにした。

 あ、そういえば、戻ったら姫とあの馬鹿王子の結婚の話が進んじゃうよね。事故と見せかけてサザンビークに行ったついでになにか出来たら、良かったのにな。

 そればっかりは、かなり昔の約束事のせいで何ともならないよね……。

 エルトのリレミトが私たちを包み込む。黄色い光がピカっと光って、あっという間に外の空気が私たちを迎えた。

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