ロボット選手
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2部分:第二章
第二章
一打席目からタイムリー、出る打席で常に打ちだ。打点を重ねていった。気付けば彼一人で巨人を完膚なきまで粉砕してである。
優勝を決めた。阪神の監督が胴上げで宙を舞う。そして次に。
「よし、オマリーや!」
「オマリーの胴上げや!」
「優勝させてくれたんはオマリーのお陰やからな!」
選手達だけでなくファン達も歓喜の声の中で言ってだ。彼を胴上げしようとする。
しかしここでだ。彼は言うのであった。
「いや、それはまだや」
「まだ?」
「まだなんかいな」
「まだ日本一があるで」
実に流暢な関西弁でこう言うのである。
「そやから。まだや」
「そやな。言われてみればや」
「まだ日本一があるんや」
「日本シリーズに勝ってこそや」
「ほんまの優勝や」
誰もがこう言い合う。そしてそのうえでだ。
彼等は思い出していた。かつての千葉ロッテマリンズとの日本シリーズを。あの見事なまでに惨敗したシリーズを思い出してだ。言うのであった。
「あんな負け方はコリゴリや」
「日本一になってこそホンマや」
「それやったら」
「阪神は日本一になるんや!」
オマリーも高らかに叫ぶ。
「胴上げはそれからや!」
「そや。日本一になってや!」
「オマリー胴上げや!」
「そうすんで!」
誰もがそのロボットである筈のオマリーを囲んで熱く言うのであった。彼等は今一つになっていた。オマリーを中心に置いたうえで。
彼等は一丸となってシリーズに挑む。その中でだ。
まずは第一戦だ。阪神は一回から攻めたてランナー一、二塁。ここで。
「三番レフトオマリー」
大歓声の中バッターボックスに向かうのはそのオマリーだった。彼は。
一球目からだ。ボールを見据えて大きく振った。そうしてだ。
ボールはスタンドの最上段に突き刺さった。ライナーでそこまで突き刺さる凄まじいホームランだった。それを放ったのだ。
この第一戦での先制アーチがだ。まず阪神を勝たせた。
そしてだ。第二戦ではだ。
同点で迎えた七回にだ。彼の打順が来た。マウンドにいるのは相手チームの誇る中継ぎエースだ。頭脳的な投球で知られている。
「あいつコントロールええからなあ」
「しかも変化球の数も多いで」
「ロッテにおった小宮山みたいな奴やからな」
阪神ファンの席からこういう声が出る。
「オマリーもロボットやから頭はええけど」
「あいつはミスターコントロールでしかも頭はスパコンや」
「世界一のや」
二番ではない。この辺りマスコミに甘やかされているだけで大臣にまでなれた襟を立てるだけが取り得の女性議員とは違っている。
「あれを打てばこの試合も勝てるんやけれどな」
「どないや?難しいんちゃうか?打つのは」
「防御率零点台やしな」
そこまで完璧なピッチャーが相手だ。如何にオマリーといえども打てないのではないのかと周囲も考えた。その彼がバッターボックスに入る。
彼はここでは粘りに粘った。ボールをよく見てボールになる球は見送りストライクになる球はことごとくファールにしてみせた。そうして勝負を続けたのだ。
投球は十球を超えて十五球に至った。しかしそれでもだ。
オマリーはボールをカットし続ける。それを見てだ。
まず相手チームの方からだ。苛立ちの声が出て来た。
「おい、打つ気ないのか?」
「早く打てよ」
「それで終わらせろよ」
彼等はじれだしていた。そしてそれは。
マウンドの相手ピッチャーもそうであるしベンチもだ。それでだ。
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