英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅱ篇)
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第51話
~鳳翼館・露天風呂~
(………静かな夜だな。みんな、そろそろ寝た頃か。それぞれ思い思いに過ごしながら考え事をしていたみたいだけど……本当に……みんなと再会できたんだな。道のりは長かったけど……ようやく目的の一つを成し遂げることができた。)
露天風呂に浸かっているリィンはふと露天風呂でのエリスとのやり取りを思い出した。
(あの時、エリスが背中を押してくれたから―――進むためのきっかけをくれたからここまでこれたんだよな。………待っていてくれ、エリス。皇女殿下も一緒に絶対に連れ戻してみせる。その時こそ、もう一度お前に礼を言わせてくれ。……いずれにしろ、結論を出すのは明日だ。俺も、これからのこと………考えを纏めておかないとな。俺達”Ⅶ組”が向かうべき”道”を見極めるためにも。)
新たなる決意をしたリィンは仲間達との再会を次々と思い出した。
(……みんな、困難な状況でどこまでも前向きに頑張っていた。離れ離れになっていてもそれぞれがやるべき事を考え、最善を尽くしてくれていた。……はは。特に印象的だったのは―――)
仲間達との再会を思い出したリィンはふとガレリア要塞跡で再会したクレア大尉を思い出した。
(クレア大尉―――鉄道憲兵隊として”第四機甲師団”に協力して、クレイグ中将を助けてくれていた。”鉄血宰相”が狙撃されて……大尉も自分自身の”道”を探しあぐねているのかもしれない。それでも、あくまでも理性的に、ユミルの護りの強化や俺達のサポートを熱心に務めてくれている。……俺も、そうありたい。あの人みたいに―――強く。)
「―――あら……リィンさん?」
リィンがクレア大尉を思い出していると何と湯着を身に纏ったクレア大尉が露天風呂に姿を現した。
「ク、クレア大尉……!?」
(あらあら♪何だか面白い展開になってきたわね♪)
(ふふふ、2度ある事は3度あるように、3度ある事は4度あるということですか。)
(ア、アハハ……さすがにそれはないと思いますが、リィン様、露天風呂と混浴に凄い縁がありますね……)
クレア大尉の登場にリィンが驚いている中、ベルフェゴールとリザイラは興味ありげな表情をし、メサイアは冷や汗をかいて苦笑していた。
「なんでこんな夜更けに……すみません、すぐに出ますから――――」
「い、いえ……とんでもない。こちらこそ、この時間なら誰もいないと思ってしまって…………」
慌てているリィンを制したクレア大尉は頬を赤らめてリィンから視線を逸らして考え込み
「……でも、そうですね。こうして湯着を着てるんですしこれも何かの縁でしょう。身体が冷えてしまう前にお邪魔させていただきますね。」
「え”。」
やがてリィンと入る事を決めたクレア大尉はリィンの傍で露天風呂に浸かっていた、
「ふふ……冬場の露天風呂はやはり風流ですね。いつもはシャワーで手早く済ませてしまうんですが、ついついゆっくりしてしまいます。」
「え、ええ……俺も温泉に入るならこの時期が一番好きで―――って、そうじゃなくて!その、大尉みたいな女性とご一緒できるのは光栄ですけど……」
(うふふ、私達の身体を何度も味わっているにも関わらず相変わらず初心なのがご主人様の良い所よね~。)
(私達の裸を何度も見て肌を重ねている上湯着もつけているのに、何故他の女性と混浴をするだけでそこまで慌てるのか、ご主人様の感覚は相変わらず理解不能ですね。)
(リ、リザイラ様……何度も言っているようにそう言う問題じゃありませんよ……)
クレア大尉の言葉に緊張した様子で答えるリィンの様子をベルフェゴールは微笑ましそうに見守り、リザイラの念話を聞いたメサイアは冷や汗をかいて疲れた表情で指摘した。
「ふふっ……そんなに慌てなくても。私も士官学院の卒業生ですし、そう固く構えないでください。なんでしたら、先輩として背中を流して差し上げましょうか?」
「け、結構です!というか、普通は後輩が背中を流すものでしょう!?い、いや、別に流したいとか言ってるわけじゃなくて!」
「ふふ、すみません。あまりからかっては悪いですね。…………折角の機会なので一言、労いたいと思いまして。」
慌てている様子のリィンを見たクレア大尉は苦笑した後静かな笑みを浮かべた。
「え……」
「……リィンさんは、本当によく頑張ってきたと思います。トリスタでの死闘から無事に生き延びて……ミリアムちゃんのこともちゃんと見つけてくれて……皆さんが無事に揃ったのもリィンさんのおかげでしょう。」
「俺の、って……そんなことはありません。俺だって、みんなや大尉が助けてくれたから…………」
クレア大尉の話を聞いたリィンは驚いた後今までの出来事を思い出し、複雑そうな表情をした。
「ふふ……私の助力など細やかなものです。リィンさんが中心にいたからこそ今の”Ⅶ組”があるのでしょう。貴方が立ち上がることを皆さんが信じぬいたからこそ、こうして再会できている……その事は、誇っていいと思います。」
「……あ……はは……ははははははっ……!」
「リィンさん……?……すみません。変な事を言ったでしょうか?」
突如大声で笑いだしたリィンに戸惑ったクレア大尉は苦笑した。
「はは、いえ……すみません、違うんです。本当に……エリスの言っていた通りでした。俺が想っている以上に、みんなは俺を想ってくれて、支えてくれる人もたくさんいて。俺はどこまでちっぽけな男だったんだろうって……それを再認識したら、なんだか笑えてきてしまって。」
「……ふふ、ちっぽけだなんて、そんなことはありません。でも、そうですね……貴方は憶えておくべきでしょう。その”縁”は、そう簡単に切れたりはしないはずですから。その……私も含めて。」
「はい、わかっています。クレア大尉……俺、頑張ってみます。みんなで一緒に過ごした……あの”Ⅶ組”の日々を。俺達の手に、何としても取り戻すためにも。」
「ふふ……はい。私も応援していますから。ただ……リィンさんの決意を鈍らせるかもしれなくて申し訳ないのですが、エレボニア帝国滅亡後も”トールズ士官学院”が存在していればよいですね……」
リィンの決意の表情を見たクレア大尉は微笑んだ後申し訳なさそうな表情をした。
「え…………ク、クレア大尉?突然何を……」
クレア大尉が呟いた言葉を聞いたリィンは信じられない表情をした後戸惑いの表情をしたが
「……リィンさんも既におわかりのはずです。エレボニア帝国とメンフィル帝国の間に決して埋める事ができない”溝”が出来てしまった事を。そして……―――メンフィル帝国がエレボニア帝国を滅ぼす準備を着々と進めている事を。」
「あ………………」
クレア大尉の指摘を聞いたリィンはユミル襲撃から始まったケルディック地方でのメンフィル帝国軍の動き、そしてシグルーンから聞かされたメンフィル帝国の動きを思い出して不安そうな表情をした。
「ユミル襲撃の事件から既に約2週間経っています。その間に貴族連合―――いえ、エレボニア帝国はメンフィル帝国に対して、ユミル襲撃の件に関しての謝罪等を一切行わなかった上、未だエリスさんを監禁しています。もし唯一貴族連合の魔の手から逃れ続けているエレボニア皇族のオリヴァルト殿下と合流でき、殿下がメンフィル帝国との和解を望んだとしてもメンフィル帝国が応じる事は絶対にありえません。」
「そ、それは…………で、でも郷の民達には犠牲者が出ていません!父さんは一時は危ない状況でしたが……今は回復も順調です。しかもエレボニア帝国は内戦中で皇族の方達は皆拘束されるか、行方が知れない状況です。それなのに戦争を仕掛けるなんて…………」
「私達に気を遣って頂きありがとうございます、リィンさん。ですがメンフィル帝国にとって犠牲者の有無やエレボニア帝国の内情は”一切関係ない”んです。エレボニア帝国がメンフィル帝国領を襲撃し、しかも未だ誘拐したエリスさん――自国の民……それも皇族が重用している家臣の家族を監禁し、約2週間も経っているのに賠償どころか謝罪や説明すらしない…………メンフィル帝国以外の他国でもそんな事をされれば戦争を仕掛けて当然です。むしろ約2週間も経っているのに、未だメンフィル帝国軍が侵攻してこないのが不思議なくらいです。」
「あ……………………なら、どうしてクレア大尉は郷の守備を手伝ってくれているんですか……?メンフィル帝国がエレボニア帝国に戦争を仕掛けるとわかっていて…………」
クレア大尉の説明を聞いて呆けたリィンは暗い表情をしてクレア大尉に尋ねた。
「……私は”エレボニア帝国が滅亡した後”を見据えて行動するべきだと思っているんです。郷の守備を手伝わさせてもらっているのは私達の内戦に巻き込んでしまったユミルやシュバルツァー家に対する”償い”も勿論ありますが、メンフィル帝国の侵攻によってエレボニア帝国全土が制圧され、エレボニア帝国が滅亡した後のメンフィル帝国のエレボニア帝国に対する”処分”を僅かでも軽くする為でもあるんです。」
「………その、クレア大尉自身はエレボニア帝国に侵攻して来るメンフィル帝国軍を迎撃してエレボニア帝国を守るとか、一矢報いようとかは考えなかったのですか?」
クレア大尉の話を聞いたリィンは辛そうな表情で尋ねた。
「ふふ、一矢報いる事ができたとしても結果は変わりません。それにメンフィルの戦力と私達の戦力を比べて考えると、私達の勝率は”0”です。最初から勝てないとわかっている戦に挑んだ所で、無駄な死傷者が増えるだけです。……クレイグ中将あたりが聞けば、軟弱な考えと仰るかもしれませんが…………―――滅亡した後のエレボニア帝国の民達を護り、そして祖国が滅亡する事になってしまった”原因”である私達は彼らに対して”償い”をするべきだと私は思っているんです。」
「………………」
寂しそうな笑みを浮かべた後決意の表情になったクレア大尉の様子をリィンは辛そうな表情で見つめたが
「………………」
「え…………ク、クレア大尉?」
突如クレア大尉に抱きしめられ、戸惑った。
「リィンさん。メンフィル帝国とエレボニア帝国の外交問題は私達――――”大人”の問題です。まだ学生のリィンさん達は気にする必要はありません。だからそんな辛そうな表情をしないで下さい。それに”Ⅶ組”のクラスメイトの中にはメンフィル帝国の皇族であり、リウイ陛下のご息女であられるプリネ姫もいるのですから、プリネ姫の性格を考えるともしかしたら”トールズ士官学院”は残すように進言してくださるかもしれませんから、トールズ士官学院自体が無くならない可能性は残されてあります。」
「でも……俺がもっとしっかりしていれば、ユミルの襲撃を未然に防いでエリスも誘拐されなかったかもしれません。…………俺の力不足でクレア大尉やアリサ達の祖国が滅亡の危機に陥っているのに”気にするな”、なんて無理ですよ……」
「―――それは違います、リィンさん。功を焦ったアルバレア公爵が猟兵達にユミル襲撃を指示したのも元を辿れば和解の道を探らず、決別して内戦に備えていた私達―――”革新派”と”貴族派”に責任があります。ですからリィンさんの責任ではありませんよ。」
リィンを抱きしめていたクレア大尉はリィンの頭を優しく撫でた。
「クレア大尉……………………………―――ありがとうございます。お蔭で元気が出てきました。」
「フフ、お役にたてて幸いです。」
リィンと離れたクレア大尉は互いに微笑み合った。
「あの……クレア大尉。間違っていたら申し訳ないのですが、もしかしてクレア大尉には弟さんがいらっしゃるんですか?」
「え………………どうしてそう思われたんですか?」
リィンの質問を聞いて目を丸くして呆けていたクレア大尉は我に返ると不思議そうな表情で尋ねた。
「さっき俺を元気付けた時といい、以前の休息日でビリヤードを教えてくれた時といい、何だか姉と接しているみたいに感じましたから……まあ、姉がいない俺が言っても説得力はないと思いますけど……ハハ…………」
「…………………………フフ、リィンさんには本当に驚かされますね。まさか私に弟が”いた”事を言い当てられるなんて。」
苦笑するリィンの様子を見た後複雑そうな表情で黙り込んでいたクレア大尉はやがて静かな笑みを浮かべて呟いた。
「え……”いた”って事は………………」
クレア大尉の答えを聞いたリィンはある事を察して不安そうな表情をした。
「……………………リィンさんは私のファミリーネームに聞き覚えはありませんか?」
「クレア大尉のファミリーネーム―――――”リーヴェルト”にですか?………………――――あ。もしかして、エレボニア帝国の音楽楽器の大手メーカーの……!と言う事はまさかクレア大尉はアリサと同じ……!?」
クレア大尉に問いかけられたリィンは考え込んだ後ある事を察し、驚きの表情でクレア大尉を見つめ
「――はい。一応リーヴェルト社の会長の娘に当たります。ですが私はアリサさんと違い、妾腹の子なので私にとっては継母に当たるリーヴェルト社の会長とは血が繋がっていません。」
「っ!」
クレア大尉の口から出た予想外の答えを聞いて息を呑んだ。そしてクレア大尉は過去を話し始めた。
「――――物心が着いた頃から母はいませんでした。家族は2歳下の弟と、父と……そして父の正妻の家族でした。父は母を愛していたらしく、母が亡くなった際にまだ幼い私達を引き取ったとの事です。
妾腹の子である私達は正妻を始めとした正妻の子供や親戚達から厳しい目で見られていましたが、父は私達を大切にしてくれました。父が手配した様々な分野の家庭教師から乗馬や礼儀作法等、貴族の子女や子息のように様々な分野を学び、習得しました。
弟と共に屋敷の離れに住まわされ、また日曜学校に行く事も許されず、ほとんど軟禁のような生活でしたが当時の私にとっては苦ではありませんでした。大切な弟と、時間ができた際は必ず顔を出してくれて一緒に遊んでくれる父…………不自由ではありましたが、毎日を家族と過ごす生活は幸せでした。
しかしそんな生活が10年前に父が亡くなった事で崩れ去りました。――――流行病だったそうです。私達を庇っていた父が亡くなった事で、正妻や正妻の家族たちは私と弟を父の葬儀に参列する事も許さず、屋敷から追い出しました。
実家に追い出された私達は七耀教会を頼りました。教会は私達の事情を聞くと同情してくれ、帝都内にある教会の福音施設に私達を入れてくれました。屋敷にいた頃と比べると質素な生活ではありましたが、衣食住には困りませんでした。
貴族の子女のような言葉遣いをし、愛想もなかった私は同じ福音施設に住む子供達からも敬遠され、友人もできませんでしたが、人なつっこい性格をしている弟は私とは逆に多くの友人ができました。ここが私達の安住の地になる……―――そう思った矢先に弟が父がかかった流行病にかかってしまいました。その頃のその流行病の治療法はゼムリア大陸ではまだ見つかっていなかったそうです。
唯一の治療法は異世界の癒しを専門とした宗教――――”癒しの女神”教の”癒しの聖女”を始めとした”癒しの女神”教の高位司祭による治癒魔術か”癒しの女神”教のみに伝わる秘薬――――”イーリュンの息吹”という秘薬のみだったそうですが…………リィンさんも学院の授業等で習い、知っていらっしゃるとは思いますが”癒しの聖女”を始めとした”癒しの女神”教の高位司祭達は”癒しの女神”教の治癒魔術の使い手を必要とする場所―――――病院等近くに医療施設がない場所を回っています。その為巨大な病院があり、七耀教会の大聖堂もある帝都には”癒しの女神”教の規模はそれほど大きくない為高位司祭も常駐しておらず、当然秘薬もその教会には置いておらず……弟は逝きました。
後は……以前お話した通り、宰相閣下に拾ってもらい、閣下より”居場所”を与えてもらい、今に到るんです。」
「…………………そんな事が。その……クレア大尉は”癒しの女神”教に関しては思う事はないのですか?」
「フフ、あの子の死が”癒しの女神”教の責任ではない事くらいわかっていますから彼らの事は恨んで等いません。それどころか無償で私の頼みを聞いて秘薬や高位司祭の手配の努力をしてくれた上、弟が死んだ時も葬儀に参列してまるで自分の家族が亡くなったかのように悲しんでくれましたから、今でも彼らには感謝しています。弟が死んだ理由は私が無力だった……―――ただそれだけです。」
過去を聞き終えたリィンに尋ねられたクレア大尉は苦笑した後静かな表情になり
「……今でもたまに思うんです…………私はあの子の姉としてあの子の短い生涯を幸せにできたのか、と。」
やがて辛そうな表情で呟いた。
「…………あくまで俺の推測ですが、弟さんは幸せだったと思います。」
静かな表情で黙り込んでいたリィンはクレア大尉を見て呟き
「え……な、何故ですか?」
リィンの答えを聞いたクレア大尉は戸惑いの表情で尋ねた。
「以前にも答えましたがクレア大尉はとても優しい方ですから。しかもクレア大尉は今でもとても美人な方ですから、子供の頃からとても可愛い女の子だったと思います。」
「か、可愛……っ!?」
リィンの言葉を聞いたクレア大尉は顔を真っ赤にして若干混乱し
(うふふ、その調子よ、ご主人様♪そこで一気にたたみかければ、その娘も落ちるわ♪)
(ふふふ、どうやら”4度目”になる確率が非常に高くなってきましたね。)
(リ、リィン様……どうしてそう、女性がその時に求めている言葉をすぐに思いついた上、躊躇う事なく口に出せるのですか……?)
その様子を見守っていたベルフェゴールとリザイラは興味ありげな表情をし、メサイアは冷や汗をかいて表情を引き攣らせていた。
「そんなクレア大尉が自分のお姉さんなのですから、弟さんも誇らしかったと思います。もし俺がクレア大尉の弟でしたら、きっとクレア大尉の事を誇らしく思っていたでしょう。」
「そう……でしょうか……?結局何もしてあげられなかったのに…………」
「――クレア大尉。辛い事を思い出させるようで大変申し訳ないのですが、クレア大尉は弟さんを看取る事はできたのですか?」
「え?はい。」
リィンの問いかけに不思議そうな表情をしたクレア大尉は頷き
「…………弟さんの死に顔はどのような表情だったんですか?」
「え…………―――あ……………………」
リィンに尋ねられたクレア大尉はかつての哀しい出来事――――自分の弟が死ぬ際、弟は安らかな笑顔をクレア大尉自身に向けていた事を思い出した。
「笑って……いました……あの子……安らかな笑顔を浮かべ……て…………私の、事…………”最高の姉さんがいて幸せだった”、と……言って………………どう、して…………今まで思い出せなかったの、でしょう……?………」
かつての出来事を思い出したクレア大尉は涙を流し始めて身体を震わせ
「クレア大尉。」
「あ…………」
涙を流すクレア大尉をリィンは自分の胸に引き寄せた。
「頼りない俺の胸でよければ、いつでもお貸しします。」
「リィン、さん…………う……く………あ、ああっ、ああああああ………ッ!」
そしてクレア大尉はリィンの胸の中で泣き始め
(うふふ、ここは空気を読んで結界を張っておきましょ♪)
(ふふふ、一体”どちらの意味”で結界を張ったのやら。)
(さ、さすがにここからすぐに肉体関係の間柄には発展しないと思うのですが……)
その様子を見て結界を張るベルフェゴールの様子をリザイラは静かな笑みを浮かべて見守り、メサイアは冷や汗をかいて表情を引き攣らせていた。
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