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黒衣の男

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1部分:第一章


第一章

                    黒衣の男
 昔から言われている話がある。所謂都市伝説だ。
「だからな。俺達みたいな人間はだ」
「狙われているっていうのかよ」
「そうだよ、その通りだ」
 壁には一面宇宙人やらUFOの写真、中にはこんなものはまず有り得ないだろうという奇怪な姿の宇宙人の模写まである。
 机や本棚には宇宙人やUFOの本、そうした小説まである。模型もあればフィギュアもある。そのフィギュアがまた異様で肌は黄色くスキンヘッドでその頭が異常に大きく吊り上がった目もまた不自然に巨大だ。時々テレビでアメリカ軍が接触したと騒がれるその宇宙人だ。
「UFOや宇宙人について詳しく研究している人間をな」
「狙っているのか」
「ああ」
 やたらと度の深い眼鏡に白いものが僅かに見られる長めの髪の少年が向かいにいる少し歯が出た口の大きな少年に答えたのだった。
「国家機密だぜ」
「国家機密っておい」
「アメリカ軍が隠しているんだ」
 眼鏡の少年の言葉がさらに緊張したものになる。
「日本の自衛隊じゃないんだぜ」
「そりゃ自衛隊だったらな」
 口の広い少年も自衛隊と聞いて少し気を抜かせたようであった。
「怖くとも何ともないな」
「やっぱりそうか」
「あんなの本当に怖くない」
 それだけ自衛隊が国民から軽く見られているということだろうか。ひょっとしたらある特撮映画でいつも怪獣にこれ以上はないという程負けていることが影響しているのだろうか。
「全然な」
「けれどアメリカ軍だったらどうだ?」
「やっぱり怖いな」
 そしてこうなる。
「あの連中はな」
「だからな。洲崎」
 眼鏡の少年はここで向かいの少年の名前を呼んだ。
「何だよ川口」
「そういうことなんだよ」
 彼もまた名前を呼ばれてそれに応えたのだった。
「あの連中ならそれをやる」
「UFOについて細かく調べている人間を狙う」
「俺も御前も」
 真剣な顔で洲崎に対して告げた。
「狙われているぞ。注意しろよ」
「その連中にか」
「もう一度言うぞ」
 真顔でまた洲崎に告げる。
「マン=イン=ブラック」
「黒衣の男か」
「そう、黒衣の男」
 この名が繰り返される。
「この連中には注意しろよ」
「葬式みたいな黒いスーツで黒いソフト帽か」
「いつもその格好だ」
 かなり目立つ格好ではある。まず街を歩いていれば不審者と思われる格好だ。
「その格好で一人、若しくは何人かで歩き」
「俺達みたいな人間を狙っている」
「そして隙を見せれば」
 語る川口の顔の緊張が頂点にまでなる。
「捕まるぞ」
「捕まってどうなるんだ?」
「消される」
 剣呑な言葉が出された。
「人知れずな。行方不明になった奴も何人もいるらしい」
「何人もっておい」
「隣の町の大学生の人が消えたらしい」
「何っ!?」
 隣の町といういい具合に身近な場所の話なので洲崎も注目したのだった。
「それは本当か!?」
「本当らしいぞ。三日前にな」
「三日前に・・・・・・」
「アパートの周りにその黒衣の男が何人か出て来て」
「消えたか」
「いきなり消えたらしい」
 強張った顔で洲崎に語る川口だった。
「いきなりな。煙みたいにな」
「マジかよ」
「実際に黒衣の男を見た人がいるんだ」
 話がさらに信憑性を帯びたものになる。少なくとも彼等の間ではそうなってきていた。
「何人もな」
「何人も・・・・・・」
「だから洲崎」
 真剣そのものの顔で洲崎に対して言う。
「気をつけろ」
「俺もか」
「当然俺もだ」
 川口の顔は強張る一方であった。
「何時何処で奴等に何をされるかわからないぞ」
「下手したらさらわれてか」
「アメリカ軍に洗脳されるかも知れない」
「洗脳・・・・・・」
「下手に殺してもまずいだろう?」
 何故かこの言葉は妙な現実味があった。と二人には考えられたのだった。二人で話し込んでいると自然にこうなってしまっていくのだろうか。
「俺達みたいな人間でも」
「けれど事故に見せかけることもできるよな」
「それもあるか」
「あるだろ、普通に」
 今度は洲崎が川口に対して語るのだった。
「そうしたことも。事故だったらわからないしな」
「どっちにしても気をつけないといけないのか」
「そうみたいだな。じゃあやっぱり」
「とにかく気をつけよう」
「ああ」
 お互いの顔を見て頷き合う。二人は本当に真剣そのものだった。
「街を歩く時でも学校でもな」
「家にいる時でもな」
 こうして二人は常に周囲を警戒するようになった。登下校の時は勿論家にいる時も学校にいる時もだ。常に周囲を警戒し緊張した顔になっていた。
 
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