英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅱ篇)
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第4話
挨拶回りをしている途中、リィンは酒場で休憩しているトヴァルを見つけて話しかけた。
~温泉郷ユミル~
「とにかく、お前さん達を無事に助け出せてよかったよ。お嬢さんや皇女殿下もずいぶん心配していたしな。」
「ええ……本当に助かりました。まさか、あんな場所まで助けに来てもらえるなんて……さすがは遊撃士、ですね。」
「……ああ、それなんだが。実はお前さん達の場所は俺が突き止めたんじゃなくてな。」
トヴァルはリィンを見つけるまでの経緯を思い出すかのように目を閉じて考え込んでいた。
「と、いうと……?」
「一昨日、俺のARCUS宛てにいきなり通信があったんだ。一方的にお前さんとあの竜のお嬢さんのいる場所をこと細かく教えてくれて、そのまま切れちまってな。念のため調べに行ってみたら案の定、お前さん達がいたわけだ。」
「それは……かなり気になりますね。正体不明の通信……いったい何者なんでしょう?」
自分達の居場所を知っていた人物が正体不明である事にリィンは真剣な表情でまだ見ぬ人物を警戒していた。
「見当もつかないな……聞き覚えのない声だったし。いや、どこかで聞いたことがあったような、なかったような……まあ、こっちのほうはこれ以上考えても仕方ないか。今は、まさに起こってるエレボニアの内戦の方が問題だろう。」
「……ええ、そうですね。トヴァルさんたち”遊撃士協会”の皆さんはどう動いているんですか?」
「俺達も、俺達なりに色々と動いてはいたんだが。今じゃ帝国ギルドも本格的に分断されてる状態でな。せっかく復活した帝都方面のギルドからも情報が入って来ねぇんだ。サラのやつも含めて、みんな無事だといいんだが……」
「……やっぱり、内戦の状況はかなり深刻みたいですね。」
エレボニア帝国内の状況が非常に深刻である事を改めて知ったリィンは重々しい様子を纏った。
「ああ……一般市民も巻き込まれているようだしな。まあ、唯一の救いはメンフィル帝国領に避難して来た戦災者達をメンフィル帝国が受け入れている事だな。戦況としては、貴族連合が完全に主導権を握っているが……正規軍の方も、一部では激しく抵抗を続けてるらしい。」
「そうですか……」
「それと、ちょとばかりキナ臭い情報も入って来てる。幾つかの猟兵団や、”身喰らう蛇”の連中が各地で動き始めているらしい。」
トヴァルの話を聞いたリィンは”結社”に所属している人物―――”怪盗紳士”ブルブランと”蒼の深淵”クロチルダを思い出した。
「猟兵団に”身喰らう蛇”―――例の秘密結社ですか。」
「ああ、猟兵団については元々貴族派が運用していたがより大規模に雇い入れたらしい。”結社”の方は、どうせまた色々と引っ掻きまわすつもりなんだろう。どうやらクロスベル方面もかなり深刻な状況みたいだし……ふう、心配事が多すぎて胃に穴が開きそうになるぜ。」
「……………………」
「っと、悪い。余計な心配をさせちまった。とにかく心と身体を休めるのを第一に考えるといい。この先、お前さん自身がどうするかを見極めるためにも。」
「トヴァルさん……本当に色々とありがとうございます。」
「なに、人生の先輩からのささやかなアドバイスってやつさ。そうだ、せっかくだから温泉にでも行って来たらどうだ?”鳳翼館”だったか……ゆっくりつかれば、身体も頭も芯からほぐれるんじゃないか?」
「はは、そうですね…………」
その後郷を歩き回っていると足湯の付近にいるエリスとセリーヌに気付いて二人にエリス達に近づいた。
「エリス、セリーヌと一緒にいたのか。」
「ええ、外は冷えますから温かいミルクをご馳走しようかと。」
「ふう、お構いなくって言ってるんだけどね。アタシはここの湯気に当たってるだけで十分だわ。」
エリスの話を聞いたセリーヌは呆れた表情で答えた。
「そういうわけには。なにせ、兄様を救って頂いたご恩がある方でもありますし。」
「救って頂いた……?(そういうことになっているとは初耳だな。)」
エリスの言葉に首を傾げたリィンはトリスタでのヴァリマール撤退の事である事を察し、ジト目でセリーヌに視線を向け
(べ、別にアタシが言ったんじゃないわよ?なんだか勝手にそう受け取ってるみたいで。)
視線を向けられたセリーヌは慌てた様子で小声で答えた。
「ええと……兄様?どうかなさいましたか?」
「いや、なんでもないさ。」
「……でもホント、恩人とか言うのはやめてちょうだい。どっちかっていうと、アンタには借りもあるワケだし。」
「借り……?」
セリーヌが言った言葉が気になったエリスは不思議そうな表情でセリーヌに視線を向けた。
「あっと……何でもないわ。イイ感じにぬるめであるし、ありがたくご馳走になるわね~。」
「???」
「………………」
セリーヌの様子にエリスが首を傾げている中、何かに気付いたリィンはセリーヌに視線を向けて小声で尋ねた。
(そういえば、前にエリスが旧校舎に入り込んだ時に猫を追いかけていたらしいが……まさか…………)
(べ、別に危害を加えようとして連れ込んだ訳じゃないわよ?アンタが”試しの扉”に中途半端に反応していたからじれったくなったというか……)
(あのなぁ……!)
(へー……ついに本音が聞けたわねー…………)
(ふふふ、どうやら改めて”躾ける”必要がありそうですね……)
(……リィン様達が怒っている理由は判りませんが、さすがに自分の目的の為にエリスさんを利用するのはどうかと思うのですが……)
(……そうね。)
リィンがセリーヌを睨んでいる中、ベルフェゴールは顔に青筋を立てて笑顔でサディスティックな笑みを浮かべているリザイラと共にセリーヌを見つめ、眉を顰めているメサイアの念話にアイドスは静かに頷いた。
(あ、あのガーディアンは本来、関係ない人間は襲わないんだって!その証拠に、あの子を前にしても微動だにしてなかったでしょ?エマにも散々怒られた上、アンタを溺愛している魔王達によって酷い目に合された事に加えて脅迫までされたし、悪かったとは思ってるわよ……)
(くっ、だからって……)
旧校舎での出来事を思い出したリィンが唇を噛みしめている中、リィンの様子に気付いたエリスは不思議そうな表情でリィンに視線を向けた。
「えっと……?とにかく私、セリーヌさんには本当に感謝しているんです。郷にいらっしゃる間はお世話させていただきますから何でもおっしゃってくださいね?」
「い、いや~……ホントお構いなくでいいから…………それと。何と言うか、悪かったわね。」
「?はあ……?」
(まあ、一応反省している事に加えてベルフェゴール達も何かやったみたいだから、勘弁しておくか。それにしても……凄いなうちの妹は……それに比べて……)
そして住民への挨拶回りを再会したリィンは教会の礼拝堂で祈りを奉げているアルフィン皇女を見つけ、近づいた。
「……………………」
(アルフィン殿下……熱心にお祈りされているな。そうか、考えてみればこの子は俺以上に……)
「あ、リィンさん。ふふっ、昨日と較べたらだいぶ顔色もいいみたいですね?」
リィンの気配に気付いたアルフィン皇女は振り向いて熱心に祈っていた様子を見せないかのように微笑みを浮かべてリィンを見つめた。
「ええ、おかげさまで。皇女殿下は……ご不便なことはありませんか?とにかく辺鄙な場所ですから何かあれば遠慮なく仰ってください。」
「そんな、とんでもない!素晴らしい温泉に風情ある雪景色……ルシアおばさまのお料理も絶品ですし、この上なく堪能させて頂いてますわ。さすがは我が親友―――エリスが生まれ育った場所ですね。」
「はは、そう言って頂けると……ですが―――」
アルフィン皇女が無理をして笑っている事に気付いていたリィンは辛そうな表情をした。
「うふふ、予想外のサプライズで愛しのリィンさんとも会えましたし♪あ、セリーヌさんなんていう喋る不思議な猫さんともお知り合いになれました!うーん、できればリィンさんが乗ったという”灰色の騎士”にも会ってみたいのですけど……今は眠っているのでしたっけ?ふふっ、いつ目を覚ますのかしら。」
「殿下……………………」
無理をしているアルフィン皇女の様子を見たリィンはアルフィン皇女の頭を優しく撫で
(リ、リィン様……)
(あらあら♪目覚めた早々早速やるとはさすがはご主人様ね♪)
(ふふふ、相変わらず私達の期待を裏切りませんね。)
(フフ……それでこそリィンよ。)
その様子を見ていたメサイアは冷や汗をかき、ベルフェゴールとリザイラは興味深そうに見守り、アイドスは微笑ましそうに見守っていた。
「…………ぁ………………………」
一方リィンに頭を撫でられたアルフィン皇女は呆けた声を出した後辛そうな表情になった。
「俺が言うのもなんですがどうか無理はしないで下さい。自分も仲間―――大切な人達と離れ離れになってしまいました。だから、少しはわかるつもりです。」
「……リィンさん…………ううっ…………」
リィンの優しさに胸を打たれたアルフィン皇女は涙を流してリィンの胸に寄り添った。
「……す、すみません……ぐすっ……皇族の一員として……この程度のことで心乱すなんて……あってはならないのに…………お父様やお母様……セドリックやお兄様の事を考えると…………」
「………………」
「あの恐ろしい日、セドリックと朝、ちょっとした喧嘩をしたんです……夜には仲直りをしようと思っていたのにあんな事になってしまって……わたくし……ううっ…………」
「大丈夫……きっと無事でいますから。すぐに再会して……仲直りもちゃんとできますから。だから殿下も、無理に明るく振舞おうとしなくていいんです。エリスも、俺も、父と母も。トヴァルさんやセレーネ、ベルフェゴール達や郷のみんなもきっと殿下の力になりますから。」
「…………リィンさん……ぐすっ……ふふっ…………ありがとうございます…………」
リィンに元気付けられたアルフィン皇女はリィンから離れて涙をぬぐってはずかしそうにリィンを見つめた。
「……も、もう大丈夫です。そ、その、わたくしよりも妹さんに優しくしてあげないと。せっかくの兄妹水いらずの機会……横取りしてはエリスやリィンさんと再会すらはたしていないエリゼさんに悪いですし。」
「???はは、確かに二人とも少し、できていませんからね。でも、今回の件で随分と心配させてしまったみたいですし……せいぜい二人の機嫌を取っておきますよ。」
(リ、リィン様……アルフィン皇女のお気遣いはそういう意味じゃないのですが……)
(アハハハハハハハッ!目覚めて早々、飛ばしているわね♪)
(ふふふ、目覚めて早々、無自覚かつ鈍感な態度を連続で出すとは、少々驚きました。)
(でも、それがリィンの良いところなんだけどね……ふふっ…………)
アルフィン皇女の言葉に首を傾げた後苦笑したリィンの答えを聞いたメサイアは冷や汗をかいて表情を引き攣らせ、ベルフェゴールは腹を抱えて笑い、リザイラは静かな笑みを浮かべ、アイドスは微笑ましそうに見守っていた。
「ううっ、そういう意味ではなくて……ああもう、リィンさんはいつもズルいです!後夜祭の時にわたくしの告白を断ろうとしたくせに、またそうやってわたくしの心を無自覚に射止めて、わたくしのリィンさんへの想いをどんどんと膨らませているのですから!」
「ええっ!?そ、そんな事を言われても……」
頬を赤らめたアルフィン皇女に睨まれたリィンは慌てた後疲れた表情をしたが
「リィン兄様の鈍感!女の敵!超朴念仁!!」
「うぐっ!?」
アルフィン皇女が自分に向けて言った言葉がまるで妹達に言われているかのように錯覚すると共に次々と胸に刺さった感覚がして胸を押さえた。
「うふふ、エリスとエリゼさんの真似をしてみましたけど、どうでしたか?」
「ハ、ハハ……一瞬殿下の背後にエリゼとエリスがいるように見えましたよ…………」
悪戯が成功したかのような微笑みを浮かべて自分を見つめるアルフィン皇女をリィンは表情を引き攣らせて見つめ
(アハハハハハハハハッ!やるじゃない、あのお姫様!)
(ご主人様にとっては急所になる言葉を次々と思いつくとは見事です。)
(ア、アハハ……)
(クスクス……)
その様子をベルフェゴール達は微笑ましそうに見守っていた。
「ふふっ、”鞭”はこれで終わりにして、今度は”飴”を差し上げますわね♪」
「へ?”飴”っていった――――」
そして頬を赤らめたアルフィン皇女の言葉にリィンが呆けたその時
「ん…………………」
「!!!!!!?????」
「……ちゅ……んんっ………リィンさん……!ちゅる…………れる……大好き………!」
なんとアルフィン皇女はリィンに自分の想いを伝えるかのように幸せそうな表情でリィンに情熱的な口付けをした。
「ふう………」
「な、なななななななななっ!?」
情熱的な口付けを終えたアルフィン皇女が満足した様子でリィンから離れるとリィンは混乱した様子でアルフィン皇女を見つめ
「ふふっ、空の女神が見ている前でキスをするなんて、まるで結婚式の誓いのキスみたいで縁起がいいですわね♪」
「で、殿下…………心臓に悪い冗談は勘弁してほしいのですが………」
頬を赤らめて嬉しそうな表情で女神像に視線を向けた後自分を見つめるアルフィン皇女の言葉にリィンは表情を引き攣らせた後疲れた表情をしたが
「むっ……わたくしは本気でいつか必ずエリス達と一緒にリィンさんと結婚して、リィンさんの妻の一人になるつもりですのよ?そんな風に思われるなんて心外ですわ。」
「う”っ…………」
頬を可愛らしく膨らませて真剣な表情で自分への想いを口にするアルフィン皇女に何も答える事ができなかった。
「ふふっ、いつもわたくしやエリス達の心を乱している”仕返し”ですわ♪」
そしてリィンの様子を見たアルフィン皇女はからかいの表情でリィンを見つめてウインクをした。
その後住民たちへの挨拶回りを終えたリィンは温泉に入ってゆっくりと身体を休める事にし、露天風呂に入って身体を休ませ始めた。
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