英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅱ篇)
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序章 帰郷~失意の果てに~ プロローグ
11月29日―――
~アイゼンガルド連峰・峡谷地帯~
「――――ぅ………………ここ……は…………?」
地面に倒れ続けていたリィンは目を覚まして起き上がった。
「…………俺は、一体…………たしか、今まで……戦って…………夢…………?」
(リィン様……!)
(ようやく目覚めたわね……)
ようやく目覚めたリィンを見たメサイアとアイドスは安堵の表情をした。
「―――そんなワケないでしょ。」
「―――――!」
突如聞こえて来た声に驚いたリィンが立ち上がって振り向くとそこには地面に膝をついているヴァリマールの肩にセリーヌが乗っていた!
「―――ようやくお目覚めね、リィン・シュバルツァー。」
「き……君は……」
「あいにくだけどこれは夢なんかじゃない。過酷で、冷酷で、残酷な―――嘘も偽りもない”現実”よ。グズグズしている暇はないわ。”核”が傷ついたことで”彼”はしばらく動けない。まずは自分の身を守る事を考えなさい―――”灰の起動者”。」
呆けているリィンの目を覚ますかのようにセリーヌは淡々と厳しい現実を口にした。
「灰の起動者……何を言ってるんだ……?いや――――」
セリーヌの言葉に呆けたリィンだったがすぐにトリスタでの戦いを思い出した。
「―――説明してくれ!一体、何がどうなっている!?その巨大な人形は何だっていうんだ……!?そもそも君はいったい―――」
「ああもう、説明するから落ち着きなさいって。―――アンタは選ばれたのよ。古より伝わる”巨いなる力”……その一端にね。」
混乱した様子で自分を睨むリィンの様子にセリーヌはめんどくさそうな様子を見せながら答えた。
「巨いなる、力……!?」
「そう、帝国の古い伝承の一つ、”巨いなる騎士”の由来となった存在。時に災厄を退けて人々を護り、時に全てを破壊し、支配するもの。”彼”はその一角―――”灰の騎神”と呼ばれるものよ。」
「”灰の騎神”……―――ヴァリマール。」
リィンが自分に刻まれた目の前の人形――ヴァリマールの名を忘れないかのように繰り返して呟いた。
「そう、アンタは既にその名前を知っていたハズよね。そして、貴族派という勢力にはそれとは”別の力”が伝わっていた。―――”蒼の騎神”オルディーネ。アンタが挑み、敗れた相手よ。」
「……ワケが、わからない……みんな、どうして…………クロウ…………」
オルディーネとの戦いや仲間達との別れを全て思い出したリィンは悔しそうに唇を噛みしめた。
「はあ、アタシもすっかり騙されたもんだわ。まさかあのお調子者が”蒼の騎神”の起動者だったとはね。しかも相当乗りこなしてたし……これも執念の賜物ってヤツかしら?」
「……っ……!」
すぐに仲間達の元へと向かわなければならない事を思い出したリィンはヴァリマールに駆け寄ってヴァリマールを起こすかのように機体を殴った。
「おい、起きてくれ!俺の言葉が聞こえているんだろう!?俺をトリスタに―――みんなのところに帰してくれ!」
懇願するかのようにヴァリマールを見上げて声を上げたリィンだったが、ヴァリマールは黙して何も語らず、反応もしなかった。
「今はムダよ。言ったでしょ、あの戦闘で”核”が傷ついたって。おまけに、こんな所まで飛んできて完全に力を使い果たしちゃったの。初めての”同期”で消耗しきったアンタの回復を優先したみたいだし。」
「くっ……!」
セリーヌの説明を聞いて唇を噛みしめたリィンは周囲を見回して自分がどこにいるかの把握をした。
「……ここは…………元ノルティア州の北方にして現在はメンフィル領の”アイゼンガルド連峰”の一角か。」
「へえ、よくわかったわね?さすが山育ちだけはあるじゃない―――」
リィンの言葉を聞いたセリーヌが感心したその時リィンは歩き出し
「って、どこに行くのよ!?」
リィンの様子を見たセリーヌは慌てた様子で追って行った。そしてリィンはセリーヌの制止する声を無視して先を進み続けていた。
(……このまま進んでいけば峡谷を抜けられそうだな。)
「ねえ、待ちなさいってば!あんなところに”彼”を置いていくつもり?な、何とか言いなさいよ。ひょっとして怒ってるわけ?」
「……別に。こちらの意志を無視して、勝手なことをしてくれたと思っているだけだ。よく考えたら俺が負けてもベルフェゴール達に手伝ってもらえれば、あの場は何とかできたはずだ。」
(否定していながらも怒っていますよね、リィン様……)
(まあ、当然でしょうね……)
セリーヌに問いかけられてジト目で答えたリィンの様子をメサイアとアイドスは静かな表情で見守っていた。
「ふう、あの場合は仕方ないでしょ。あそこで離脱しなきゃ、アンタ確実に死んでたわよ?確かにアンタが”契約”している魔王――――ベルフェゴール達なら”騎神”相手にも対抗できたかもしれないけど、あんな衰弱した状態で魔王達を召喚すればアンタがどうなるかわかったもんじゃないし、下手すれば”彼”まで失うところだったんだし、感謝して欲しいくらいだわ。……というか、あの後魔王達に滅茶苦茶文句を言われたのよ?」
「……もういい。とにかく一刻も早く……みんなの元に戻らないと。このまま尾根伝いに降りてけば街道に出られるはずだ……!」
「んー、無駄だと思うけどね。―――あれから、かれこれ1ヵ月は経ってるし。というか、精霊王達がエマ達を逃がしたそうだから、そんなに心配する事はないと思うけど。」
「なんだって……!?――馬鹿なことをいうな!そんなに経っている訳が……!」
セリーヌの指摘を聞いたリィンは声を上げた後信じられない表情でセリーヌを見つめた。
「ハア、だから言ってるじゃない。いい?初めての”同期”でアンタは消耗しきっていたの。それこそ、下手すれば命に関わるくらいにね。」
「なっ…………」
「それを、たかがひと月程度で歩けるまでに回復できたのは彼―――”灰の騎神”とアンタが契約している”魔王”達による”精気”を分け与えていたお蔭。”灰の騎神”に到っては僅かに残っていた霊力を全部アンタの回復に充てたのよ。ちなみにアタシも付き合ってあげたんだからね?まあ、”魔王”達による精気の供給は一回見た後は付き合うのは遠慮させてもらったけどね。あいつらにも言ったけどお礼を言われるならまだしも、恨まれる筋合いはないっての。」
「…………そんな…………(……あれから、1ヵ月だって?それじゃあトリスタは……士官学院のみんなは一体…………)」
セリーヌの説明を聞いたリィンが辛そうな表情で目を閉じたその時
「お兄……様……?」
「え………………」
峡谷の頂上から中腹まで往復でランニングをして自分自身を鍛えていたセレーネがリィンを見つめて呆けていた。
「お兄様っ!ようやく目覚めたんですね……!本当によかった……!」
「セレーネ……!よかった、無事で…………でも、どうしてあの時アリサ達と一緒に残ったセレーネが…………」
セレーネに抱きしめられたリィンはセレーネを抱き返した後戸惑いの表情でセレーネを見つめ
「はい……!あの後、レン姫達やベルフェゴールさん達が現れてクロウさんが操る”蒼の騎神”相手に善戦した後、リザイラさんがアリサさん達を逃がして、ベルフェゴールさんは私をお兄様の元まで連れていってくれたんです……!」
「え……………い、今の話は本当か、ベルフェゴール、リザイラ!?」
セレーネの話を聞いて呆けた後真剣な表情でセレーネと共にいるベルフェゴールとリザイラを見つめた。
「うふふ、”善戦”じゃなくて”勝利”したんだけどね♪」
「あの場にいたご主人様の仲間の方達については私の精霊魔術であの場から脱出させましたから、あの時点では全員無事なのは確かです。まあ、あれから既に1ヵ月も経っていますからその後どうなっているかまではわかりませんが…………」
「そう………か…………それでも……それでもみんなはあの時、あの場から全員無事で脱出できたのか……!よかった……!――――ありがとう、ベルフェゴール、リザイラ……!本当にありがとう……!」
二人の話を聞いたリィンは肩を落としたがアリサ達が無事に脱出できた事に安堵の表情で涙を流して二人を見つめた。
「お兄様……」
リィンの様子を見たセレーネは微笑み
「ふふふ、私達は当然の事をしたまでですよ。」
「はいはい、ご主人様はこの私達が”契約”した男の子なんだからそのくらいの事で泣かないの。――――ここからが本番よ?」
リザイラは静かな笑みを浮かべ、ベルフェゴールは泣いているリィンをあやすかのように苦笑しながらリィンを自分の豊満な胸の谷間に抱き寄せてリィンの頭を手で優しく撫でた後リィンから離れた。
「ああ……!アリサ達と……みんなと合流する為にも改めて俺に力を貸してくれ……!みんな……!」
「はい、お兄様……!」
「ふふ、任せて♪」
「―――この私がついて行くと決めたのですから、全力で協力しましょう。」
(勿論、私もですわ、リィン様……!)
(私もみんなとまた会う為に協力するわ、リィン……)
そしてリィンの言葉にリィンと”契約”している心強き協力者たちはそれぞれ力強く頷いた後、ベルフェゴールとリザイラはリィンの身体に戻り、仲間達の安否がある程度分かった事によって落ち着いたリィンはある事を思い出してセリーヌを見つめて尋ねた。
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