英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅰ篇)
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第193話
~1年Ⅶ組~
「今見えたのは……本当の事なの?」
映像が消えるとアリサは真剣な表情でエマに尋ねた。
「……ええ、間違いありません。”深淵の魔女”と呼ばれる私の”身内”の得意技……特定のイメージを唄声に乗せて遠くに届ける事ができます。」
「う、唄の”魔法”ですか……今まで聞いた事のない”魔法”ですね……」
「”深淵の魔女”…………」
「あ、あのミスティさんがそうだっていうのか……」
エマの答えを聞いたセレーネは戸惑い、リィンは真剣な表情をし、マキアスは信じられない表情をし
「じゃ、じゃあクロチルダさんがレオンハルト教官を”レオン”って親しげに呼んでいた理由もしかして……”結社”の仲間だったから?」
エリオットは不安そうな表情で推測した。
「……まるで夢でも見ているような心地だが……」
「だが……間違いなく現実だろう。」
「ま、その事についてはとりあえず置いときましょう。問題は宰相が暗殺されて―――帝都が占領されたことだわ。」
「そ、そうだった……!」
「まさか、今頃父さんも……」
サラ教官の言葉にエリオットは我に返り、マキアスは不安そうな表情をし
「くっ……(もしかして女学院も……?)」
エリスの身が心配になったリィンは唇を噛みしめた。
「……あの巨大な飛行船に”機甲兵”という兵器……用意したのは間違いなく”貴族派”というわけか……」
「……わたしの身内もあの映像に映っていた。ずっと行方がわからなかったのにこんなタイミングで……」
「フィー……」
「以前すれ違ったあの男達はそんたの身内だったのか……」
「最強の猟兵団”西風の旅団”……”帝国解放戦線”と同じように貴族派に雇われているみたいね。そして――――」
「やっぱり”C”の正体は睨んだ通りだったみたいだねー。なんか蒼くて凄そうなのに乗ってっちゃたけど。」
「クロウ、どうして………」
「……………………」
クロウが敵になった事に様々な想いをリィン達が抱えていると放送が入った。
「……校内に残った皆さん、どうか落ち着いて下さい。今しがた、ラジオ放送中に不思議な映像が映りましたが……その事について学院長からの連絡があります。」
「―――学院生諸君、学院長のヴァンダイクだ。先程我々が見た映像はおそらく本物の可能性が高い。だが、確かな情報はまだ何もわかっていない状況じゃ。現在、確認を急いでおるのでどうかしばらく待機して欲しい。」
トワとヴァンダイク学院長による放送を聞いたリィン達は黙り込んだ。
「あの映像、他のクラスのみんなも見ていたのね……」
「ラジオ放送を通じて俺達士官学院の人間とケルディックにいると思われるレオンハルト教官にだけあんな映像を見せる……そんな事が可能なのか?」
「はい……私の”姉さん”なら造作もないと思います。」
リィンの問いかけにエマが重々しい様子を纏って頷いたその時サラ教官のアークスに通信が来てサラ教官は素早く通信を開始した。
「はい、こちらバレスタイン―――ナイトハルト教官、これから緊急会議ですか?…………………なんですって!?当然、あたしも手伝います!ええ、ええ……それでは正門前で。少し出かけてくるわ。君達は絶対に学院から出るんじゃないわよ。」
通信を終えたサラ教官は血相を変えて教室から出て行った。
「な、なんだったんだ……」
「どうやら尋常ではない出来事があったようだが……」
「も、もう十分すぎるほど尋常じゃないと思うんだけど……」
「一体何があったのでしょう……?」
サラ教官の様子にクラスメイト達が戸惑っていると何かに気付いたガイウスが窓を開け、フィーも窓に近づいて様子を伺った。
「ガイウス……どうした?」
「……西の方から何かが近づいてきている。」
「……装甲車数台。この駆動音は……あの人形兵器も来てるね。」
「ま、まさか……」
「帝都に続いてトリスタまで……というより、この学院を押さえるつもり!?」
ガイウスとフィーの話を聞いたマキアスとアリサは仲間達と共に血相を変えた。
「んー、可能性は高いかも。貴族派、革新派の子弟とか、学院長みたいな重鎮もいる上メンフィル帝国の貴族の子弟や子女もいるし。保護するから人質にするか……ま、どっちもありそうかな?」
「そんな……!他国の貴族の子弟や子女にそんな事をすればどうなるか、わかっているのでしょうか……?」
「クッ、ふざけるな……!」
「狙いはどうあれ、あのような暴挙を認められるものか……!」
ミリアムの推測を聞いたセレーネは不安そうな表情をし、ユーシスとラウラは怒りの表情で声を上げ
「も、もしかして教官たち、それを喰い止めるために……?」
エリオットは不安そうな表情で推測した。
「……相手は主力戦車すら凌駕できるほどの新兵器だ。いくら教官達が強いとはいえ、限界があるだろう。俺達の力がどこまで通用するかわからないが―――みんな、せめて助太刀くらいはさせてもらわないか……!?」
「リィン……ええ!」
「言うまでもない……!」
「ど、どこまで力になれるかちょっとわからないけど……」
「こうなった以上はとにかく全力を出すだけだ!」
「……私も。全力を尽くさせて頂きます。」
「わたくしも短い間ですがこの学院の皆さんにお世話になったのですから、お手伝いします!」
「フン、立場がどうあれ、無礼者に遠慮するつもりはない。」
「めんどくさいけどま、仕方ないか。」
「えへへ、ガーちゃんのチカラ、どこまで通用するかなー。」
「時間がない……正門へ向かうとしよう。」
「ああ……!」
リィンの言葉に頷いたクラスメイト達は次々と戦う決意を表明した後正門へ急行していると教室からパトリックとフェリスが出て来た。
「アリサ!?な、なんですの!?そんなに慌てて……」
「フェリス……そっか、まだいたのね。」
「き、君達……いったい何があったんだ!?教官達が正門から出て行くのを窓から見かけたんだが……!」
リィン達の尋常じゃない様子にフェリスは戸惑い、パトリックは真剣な表情で尋ねた。
「くっ……もう打って出たか。」
「パトリック……どうか学院にいてくれ。他のクラスと協力して士官学院を守るんだ……!」
そしてリィン達は正門へ急行し
「お前達……」
「い、一体なにを……?」
リィン達の様子をパトリックとフェリスはそれぞれの想いを抱えて見つめていた。
~正門~
リィン達が正門に到着する頃にはトワ達―――生徒会が市民達の避難誘導をしていた。
「会長、ジョルジュ先輩!」
「リ、リィン君たち……?」
「君達、どうして……」
リィン達の登場にトワとジョルジュは戸惑ったがすぐにある事を察した。
「ま、まさか……!」
「教官たちの助太刀に行くつもりかい!?」
「その、まさかです。」
「迫りくる狼藉者を迎え撃たぬはアルゼイド家の名折れですゆえ。」
「無理をしない程度に全力で助太刀するつもりです。」
「お願いします!どうかわたくし達を行かせてください!」
「む、無茶苦茶だよ~!」
「……あの映像は見たがとんでもない兵器みたいだ。生身の人間が勝てる可能性は限りなく低い……それでもやるつもりかい?」
リィン達の決意を聞いたトワは慌て、ジョルジュは重々しい様子を纏って問いかけた。
「ええ、俺達がこれからも共に学び、高め合う場所―――この士官学院を守る為に!」
「あ……」
「……参ったな……君達が来たら止めろって、教官たちに言われたのに……」
「……わかったよ。生徒会長として許可します。でも、リィン君達はまだ軍人じゃないんだから……!命が危ないと思ったら絶対に、絶対に無理をしないこと……!逃げるか、相手に投降するか……とにかく死んじゃダメなんだから!ちゃんと約束できますかっ!?」
リィン達の揺るぎなき決意を知ったトワは真剣な表情でリィン達に問いかけた。
「会長……はい!」
「約束します……!」
その後最後の準備を整えたリィン達はトワ達に正門を開けてもらおうとした。
「……クロウ君……」
「テロリスト……”C”……まさかあいつが、鉄血宰相を狙撃するなんて……この学院を、襲撃しようとしているだなんて……」
「会長、ジョルジュ先輩……」
悲しそうな表情をしているトワとジョルジュをリィンは静かな表情で見つめた。
「……今にして思えば、クロウ君はいつも事件の現場にいたんだね。夏至祭の事件のときだって……あの時負っていた酷い怪我はリウイ陛下との戦いで負った傷だったんだね……」
「僕も……ルーレの時は微妙に違和感を感じていた。それが何かなんて疑いもしなかったけど……」
「……無理もありません。この目で映像を見た今でさえ、信じられないくらいですから……」
「……去年、テスト実習でクロウと初めて出会って……最初は、人当たりはいいのにどこか虚ろなやつだって印象だった。でも、すぐにアンがそれを真正面から言い当てて……」
「えへへ……最初の頃は衝突もあったよね。でも、実習を通じて少しずつ仲良くなっていったんだ。……どうしてこんな事になっちゃったのかな……」
昔を思い出していたトワは悲しそうな表情で呟いた。
「会長……」
「……とにかく、”敵”の思い通りになんかさせません。俺達が必ず、この学院を守ってみせます。そして……クロウにも真意を問いただしてみせる……!」
「……リィン君。」
「……うん、そうだよね。リィン君達……どうか頑張って。アンちゃんや学院のみんな……クロウ君の友達であるわたしたちの分まで……!」
「はい……!」
そしてリィン達は二人に開けられた正門を越えて街道に急行した!
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