英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅰ篇)
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第174話
10月4日――――
~翌朝・鳳翼館・ロビー~
「窓の向こうが一面の雪景色だな……」
「幾ら何でも早すぎるだろう!?」
「山の天気は変わりやすいという話は聞いた事はありますが……」
「ああ……ノルドでも中々見ない現象だ……」
翌朝仲間達と共にロビーに集まったユーシスは窓の外の景色―――雪景色になったユミルを驚きの表情で見つめ、マキアスは信じられない表情で声を上げ、セレーネは戸惑いの表情をし、ガイウスは重々しい様子を纏って頷いた。
「どんどん積もってきている……これは雪かきが必要だね!」
「えー……めんどくさい。」
トワの話を聞いたエヴリーヌは嫌そうな表情をした。
「この勢いだと、午後には相当積もるはずです。帰りに俺達が乗るケーブルカーの運行にだって支障が出る可能性が―――」
「いや、もう遅い。」
「お早うございます……兄様、皆さん。」
そしてリィンが何かを言いかけたその時、シュバルツァー男爵とエリスがリィン達に近づいてきた。
「父さん……?エリスも……!」
「一通り郷を見て回ったが、山の斜面にも雪だまりができてしまっている。ケーブルカーはしばらく運行できないだろう。」
「そ、そうなんですか……昼には帰る予定でしたけど……」
「しばらく、身動きが取れなくなりそうね……」
シュバルツァー男爵の説明を聞いたエリオットは不安そうな表情をし、サラ教官は真剣な表情で考え込んだ。
「いや、その点に関しては心配いらない。このユミルがメンフィル領になって少ししてからメンフィル帝国によって設置された転移門があるから、それを使って帰るといい。先程そちらを調べた所、問題なく動いていたから転移先を経由してトリスタに帰る事は可能だ。」
「そうですか…………」
シュバルツァー男爵の話を聞いたエマは安堵の表情をし
「ちなみにその転移門はどこと繋がっているんですか?」
「セントアークとメンフィル大使館だ。ただし、メンフィル大使館は大使館側の許可を貰えなければ、使用できない。」
「フム……という事はセントアークから帰るのか。やれやれ、面倒な帰りになりそうだね。」
「でも、帰る手段があるだけラッキーと思った方がいい。」
アリサの質問に答えたシュバルツァー男爵の話を聞いたアンゼリカは疲れた表情で溜息を吐き、フィーは静かに呟いた。
「兄様……」
「ああ……」
「?どうかしたのか?深刻な顔をして……」
互いの顔を見合わせて重々しい様子を纏っているエリスとリィンに気付いたラウラは不思議そうな表情で尋ねた。
「実は……8年前ぐらいにも、似たような事があったんだ……」
「えっ!?」
「そうだったな……ちょうど同じ状況だ。あの時は確か……3日程雪が降り続いたはずだ。その後唐突に止んでしまったが…………」
「フム……何か事情がありそうだね?」
リィンの話を聞いたアリサは驚き、シュバルツァー男爵は8年前の出来事を思い出し、その様子をアンゼリカは真剣な表情で見つめた。
「そう言えばリィン、従業員からこれを預かってきた。――――”鳳翼館”トールズ士官学院Ⅶ組当てに来た郵便物だ。」
「え……」
「これって……実習の封筒!?」
「どういう事だ……!?」
「差出人は書いていないようだが……」
「一体何故このタイミングで……」
「へえ?面白いじゃない。リィン、開けてみなさい。」
シュバルツァー男爵がリィンに手渡した見覚えのある封筒にそれぞれが戸惑っている中、サラ教官は口元に笑みを浮かべて指示をした。
「あ……わかりました。…………―――『Ⅶ組諸君に、”特別実習”の”課題”を手配する。ユミル渓谷に赴き、季節外れの積雪を阻止せよ』……!?」
「しかも最後にリィン・シュバルツァー同行の事って書いてあるよ……!?」
「積雪を阻止せよって……どういう事!?」
謎の課題内容にリィンやエリオット、アリサは信じられない表情をした。
「とても信じられないが……どうやらこの異常な雪は何者かの仕業らしいな……」
「馬鹿な!?」
「だが……確かにそうも読める。」
リィンの推測にユーシスは声を上げ、ガイウスは真剣な表情で考え込んだ。
「それにこの文面……どこかで見た事のあるパターンのある気が……?」
「あ、わたくしもです。」
「ああ…………」
「……………(もしかして、あいつ?)」
フィーの言葉にセレーネとリィンは頷き、ある事に気付いたエヴリーヌはある人物を思い浮かべた。
「さて……どうするの?」
「……………―――行きます。この雪を降らせている何者かが、俺達を呼び出している……しかも、俺に関してはわざわざ名指しまでして……確証はありませんが、確かめない訳には行きません……!」
「そうですね。」
「フッ、頼もしい限りじゃないか。」
「うん、去年の試験運用を思い出すね……あの時も大変だったけど、Ⅶ組はわたし達の時よりずっと、いいチームに育ってくれたのかもしれないね。」
サラ教官に促され答えを出したリィン達の様子をアンゼリカは感心した様子で見守り、トワは嬉しそうな表情でアンゼリカの言葉に頷いた。
「みんな、早速向かおう!」
「フン、ならば準備するか。」
「き、危険です!」
そしてリィン達が行動を開始しようとしたその時、エリスが必死の表情で声を上げた。
「エ、エリス?」
「だ、だって……どんな得体の知れない相手が待っているかわからないのに……!そんな場所に……兄様達を行かせる訳にはいきません!」
「エリス……彼らは士官学院の生徒。危機に立ち向かう術を学ぶ者達だ。お前の兄も同じ……見守ってあげなさい。」
「父様……!でも、でも……!」
「エリス……大丈夫だ。」
シュバルツァー男爵に反論しようとしたエリスをリィンは優しく諭し始めた。
「兄様……」
「あの時と似た状況だけど、今回はみんながいるんだ。俺はきっと……”あの日”を乗り越えて見せる。だから……いい子で待っててくれ。……な?」
「……わかりました。絶対に……無事に戻って来て下さい……!もし戻って来なかったら、私が姉様と一緒に兄様を助けに行きますから……!」
「ああ……わかっている。」
真剣な表情で自分を見つめるエリスの言葉にリィンは静かに頷いた。
「フフ、リィンの事は私達に任せてちょうだい。」
「ああ!きっと無事に戻ると約束しよう!」
「はい……よろしくお願いします……!」
そしてアリサとマキアスの言葉に頷いたエリスは頭をアリサ達に頭を深く下げた。
「それじゃあ、行ってくるよ、エリス。」
「ええ……行ってらっしゃいませ、兄様……!」
その後準備を整えたリィン達はユミル渓谷に向かった。
~ユミル渓谷~
「ここでようやく中腹を越えたくらいだ。この渓谷のどこかに、手紙の差出人がいるはずなんだが……」
(この渓谷……精霊の気配を感じる。まさか……何かの封印……?)
リィンの説明を仲間達と聞きながら雪道を歩いているエマは真剣な表情で周囲を見回した。
「というかエヴリーヌ!君だけ浮いているとか、ズルイだろう!?」
「何度も実戦を経験している癖に、団体行動に足を乱してはいけない事を知らんのか?」
マキアスは疲れた表情で浮遊魔術で浮いて先へと進んでいるエヴリーヌに指摘し、ユーシスは呆れた表情で指摘した。
「だって、雪道歩くの面倒だし。それにエヴリーヌだったら、一人でも大丈夫だよ。」
「このガキは……」
「ま、まあまあ。その代わりエヴリーヌさんが最前線に立って積極的に襲い掛かってくる魔獣達をすぐに倒してくれるから、わたくし達は体力が温存出来ていいじゃないですか……」
エヴリーヌの答えを聞いた顔に青筋を立てているユーシスに気付いたセレーネは苦笑しながら諌めた。
「フウ……雪山はさすがに骨が折れるな、エマ。」
「えっ!?そ、そうですね……!魔獣達も妙に殺気立っていますから、突破が困難ですし。」
「真冬でもここまでの積雪は珍しいから、興奮してしまったんだろうな……」
「そう言えば……前にも同じような事があったって話だったわね。何か、事情がありそうだけど…………」
「ああ……」
「お兄様?」
アリサの質問に重々しい様子を纏って頷いたリィンをセレーネは不思議そうな表情で見つめた。
「その、言い辛いのなら無理に聞かないわ。」
「いや……みんなにはいつか話そうと思っていた。聞いてくれ。」
そしてリィンは8年前の出来事を話し始めた。
「8年前の事だ…………エリゼとエリスの3人で、渓流遊びに来ていた日……今日と同じように、突然大雪が降り始めたんだ。慌てて郷へと戻ろうとする途中……俺達は熊のような魔獣に出くわした。
その時、俺はまだ9歳でエリゼとエリスは7歳だったから、当然魔獣と戦う術なんてなくて……俺は必死になって、二人を魔獣から庇う事しかできなかった。薄れていく意識の中、近づいて来る魔獣の足音だけが俺の耳に聞こえて来た……
このままじゃ……二人が危ない……!そう思った時だった…………左胸のアザが焔のようにうずいて……俺の視界は真っ赤に染まった……
気が付いた時、俺は血の海に立っていた……俺の手に握られていたのは、枝払い用に持って来ていた小さな鉈だった……そんな物を使って、たった9歳だった俺が巨大な魔獣を切り刻んだんだ……
それから俺は、自分の中に眠る”力”を畏れるようになった。いつかまた暴走して、今度はエリゼ達や周りの人々を傷付けてしまうのではないかと…………フウ……これが―――俺が未だに克服できていないトラウマさ。
みんなも知っての通りユン老師とセリカ殿に師事を受けた今でも、俺は自分の”力”を制御できていない……もしかしたら、次はみんなを傷つけてしまうかもしれない……そうなったら、俺は……!」
「リィン…………」
「お兄様……」
辛そうな表情で身体を震わせているリィンをアリサとセレーネは心配そうな表情で見つめた。
「ハハ………さすがに引いただろう?」
リィンは苦笑しながら仲間達を見回したが
「―――そんな事はありません。」
「へ?」
静かな表情で答えたエマの言葉に呆けた。
「フン、見くびるな!”その程度”の話を聞かされて、今更ひくわけがあるまい。」
「むしろ、こうして打ち明けてくれたのが素直に嬉しいかな。」
「同じく。」
「はい、わたくしもお兄様の”パートナー”としてお兄様の過去を知れて嬉しかったですわ。」
「え……」
仲間達の言葉にリィンは呆け
「ま、そう言う事。」
「というか、レンは8歳の頃から族の討伐とかに参加して人を殺しまくっているから、それと比べれば大した事ないよ。」
「例え何が起きてもオレ達が傍にいるんだ。心配はないだろう?」
「いつでもそなたの力になろう。」
「一人じゃ無理でも、みんなと一緒なら大丈夫なんじゃない?」
「みんな……ありがとう……!」
仲間達の気遣いにリィンは明るい表情をし
(フフ、青春ね~。)
(クスクス、リィン様は本当に仲間に恵まれている方ですね……)
(ふふふ、さすがは私を敗北させただけはありますね。)
(フフ、本当に暖かい人達ばかりね、リィンの仲間達は……)
その様子をベルフェゴール達はそれぞれ微笑ましそうに見守っていた。
「―――この先は渓谷の上流だ!この異変を止める為に、改めて力を貸してくれ!」
「おおっ!!」
そしてリィンの号令に仲間達は力強く頷いた!その後先を進んでいたリィン達だったが、吹雪き始めた為、進行速度が遅くなり始めた。
「このあたりは吹雪いているな………」
「前がほとんど見えないです……」
「寒い……」
ユーシスは警戒の表情で周囲を見回し、セレーネは不安そうな表情をし、エヴリーヌはジト目で呟いた。
「ここが上流……渓谷の泉にあたる場所だ。いつもなら、ここから水が湧き出ているはずだけど、今は完全に凍り付いているな……ん?」
先頭を歩いていたリィンは何かを見つけた。
「あの石碑……何だか青白く光っている……それに……不思議な文様が浮き出ているみたい……!」
「ローエングリン城で見たかのオーブを思い出させるが……」
「ああ……確かに……ああっ!?」
「な、何だ!?」
青白く光り、文様が浮き出ている石碑を見つけて何かを思い出して声を上げたリィンを見たマキアスは驚いた。
「思い出した……!8年前、俺はあの石碑に触っている……!手に反応して、あんな文様が浮かび上がって来て……みるみる湧き水が凍り始めると思ったら、今みたいな大雪が降り始めたんだ……!」
「それは……何かしら、関係がありそうですね……!」
「何故、それを今まで言わなかった!?」
リィンの話を聞いたエマは考え込み、ユーシスはリィンを睨んだ。
「いや……すまない……俺も完全に忘れていたんだ……もしかすると、無意識の内に記憶の隅に追いやっていたのかもしれない……俺が石碑に触ったばかりに、エリゼとエリスを危険にさらしてしまったんだから……」
「そんな……リィンのせいじゃないよ!」
「ありがとう、エリオット。とにかく、あの石碑が大雪の元凶である可能性は高そうだ……!何とかする方法があればいいんだが……」
「試しにあの石碑に爆薬を仕掛けてみるとか?粉々にしてみれば異変が収まるかも。」
「それなら、エヴリーヌが大魔術で塵も残さず吹き飛ばしてあげるよ♪」
「それは最終手段だな……まずは一度、辺りを調べてみよう。」
フィーとエヴリーヌの提案を首を横に振って答えたリィンは提案した。
するとその時石碑は光を放った!
「な、なんだ!?」
「ま、眩し!?」
「キャアッ!?」
「何か……とてつもない”力”を感じます!」
そして光が収まると巨大な氷の魔獣が現れた!
「な―――」
「う、うわあああああっ!?」
「巨大な氷の魔獣……!もしかして……あの石碑に封印されていたのか!?」
魔獣を見て驚いたリィン達だったが、すぐにそれぞれ武器を構えて戦闘態勢に入った。
「みな、気を付けろ!」
「戦闘準備……!」
「くふっ♪撃ち落しがいがある大きな獲物だね♪」
「―――――――」
リィン達を敵と認めた魔獣が咆哮を上げるとリィン達は氷漬けになった!
「この人数を一瞬で氷漬けにするなんて………!」
「クソ、身動きが……!」
「そんな……!どんな状態異常にも強い竜の身体までも氷漬けにするなんて………!」
氷漬けになったエマは驚き、マキアスは呻き、セレーネは信じられない表情をした。
「―――――」
「来るぞ……!」
「クッ、このままでは……!」
ゆっくりと近づいてきた魔獣を見たユーシスは警告し、ガイウスは唇を噛みしめた。
「みんな!?(こんな所でやられる訳にはいかない……!だけど、どうすればいい!?)」
絶体絶命の状況にリィンが迷ったその時、ある事を思い出した。
『お前に授けた”七の型”は”無”。そして”ある事”と”ない事”はそもそも”同じ”……その意味を今一度考えて見ろ。』ですか?
一人じゃ無理でも、みんなと一緒なら大丈夫なんじゃない?
「あ………」
師匠からの手紙の内容とアリサの言葉を思い出したリィンが呆けた表情をしたその時、左胸のアザが焔のように熱くなり、ドクンドクンと鼓動を始めた!
「(そうか……あの”力”と同じ……目を背けていても、あれは俺の”一部”なんだ……無念無想……まずは”あるがままの自分を認める事”からか……!)ハァァァァァァ…………!」
ある事に気付いたリィンはその場で膨大な力を溜め始めた!
「リィン!?」
「ハアッ!!」
「―――”魔神”であるエヴリーヌをこの程度の氷で封じられると思うなんて、舐めてくれたね……!ハアッ!!」
「う、動ける!?」
そしてリィンが膨大な闘気と魔力を解放するエヴリーヌと共にその身に秘められた膨大な闘気を解放するとリィン達の身体を氷漬けていた氷は砕け散った!
「スゥゥゥゥ…………ハア…………」
膨大な闘気を纏ったリィンは深呼吸をして自分を落ち着かせていた。
「凄まじい闘気がリィンの身に宿っている……!」
「これがリィンの……真の”力”……!」
「―――みんな、行くぞ!全力を持って目標を撃破する!」
「わかりました!」
そしてリィンは仲間達に号令をかけて戦闘を開始した!
「――――――」
「う、うわああああっ!?また氷漬けにされる……!」
咆哮を上げた魔獣を見たエリオットは悲鳴を上げ
「させるかっ!―――ブレイクショット!!」
「どっかーん!―――旋風爆雷閃!!」
マキアスとエヴリーヌが先制攻撃を放って敵の行動を中断させた!
「さっきのお返し……!起爆!」
そしてフィーは一気に魔獣にFグレネードを投擲して敵の眼を眩ませ
「ハアアアアアアアッ!!」
「ヤアアアアアアッ!!」
その隙にラウラとセレーネが詰め寄って強烈な斬撃を叩き込んだ!
「今だ、リィン!」
「アリサ、リィンの援護を!」
「わかっているわ!―――えいっ!!」
ガイウスの指示に頷いたアリサがクラフト―――フランベルジュを敵の腹に命中させて怯ませたその時!
「うおおおおおおおおおっ!」
リィンが咆哮を上げながら魔獣に向かった!
「(エリスと約束したんだ……!必ず無事に戻ってくると……!”あの日”を乗り越えると……!)この手で……道を切り開く!ハアアアアアアッ!奥義―――――無想覇斬ッ!!」
そしてリィンは魔獣の背後へと駆け抜ける瞬間神速の抜刀を叩き込んだ。するとその瞬間魔獣の中心地に無数の斬撃が発生し
「―――――――――!!??」
斬撃に切り裂かれた魔獣は悲鳴を上げて地面に倒れて消滅した!
ページ上へ戻る