英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅰ篇)
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第171話
~シュバルツァー男爵邸~
「ここがお兄様の実家ですか……立派なお住まいですわね。」
「ハハ、他の貴族達の家と比べれば大した事はないよ。(この門をくぐるのも……半年ぶりか……5歳から13歳までの8年、ここで過ごしたんだよな……忘れてしまいたい忌まわしい記憶もあるけど、俺にとってはそれ以上に暖かくて大切な場所だ。)」
実家を見つめるセレーネの言葉に苦笑しながら頷いたリィンは懐かしそうな表情で実家を見つめた。
「あ……」
するとその時扉が開き、自分の両親であるシュバルツァー男爵と男爵の妻、ルシア夫人が現れ、リィン達に近づいてきた。
「お帰りなさい、リィン。」
「よく戻ったな。」
「ただいま戻りました。父さん、母さん。その……こんな形で帰って来てしまって……」
自分を見つめる両親に挨拶をしたリィンは複雑そうな表情をした。
「え……」
するとその時ルシア夫人がリィンを優しく抱きしめた。
「フフッ、子供が家に帰るのに理由はいりません。こうして母親が子供を抱きしめる事にも……」
「母さん…………」
「父様、母様。兄様がいらっしゃったの―――あ、ああっ!?」
ルシア夫人の言葉を聞いたリィンが驚いたその時エリスが屋敷から現れ、状況を見て驚いた。
「エリス?」
「ズ、ズルイです母様!私は皆さんの前だったので我慢して―――」
「え?」
頬を膨らませてルシア夫人を睨むエリスの言葉を聞いたリィンは呆けた表情をし
「あ……っ!」
「フフ、全く……いつも素直なら安心なんだけど?」
すぐにリィンの目の前で恥ずかしい事を口にした事に気付いて顔を赤らめたエリスをルシア夫人は微笑みながら見つめた。
「か、母様……!」
「ハッハッハッ……何はともあれこうして家族がそろったんだ。エリゼがいないの非常に残念だが……お茶でも飲みながらゆっくり語り合おうではないか。」
「そうですね……」
シュバルツァー男爵の提案を聞いたリィンは口元に笑みを浮かべて頷き
「リィンの学院での生活を是非聞きたいわ。例えばそちらの綺麗なお嬢さんの事とかね?」
「え、えっと……」
セレーネに視線を向けたルシア夫人の言葉を聞いたリィンは口ごもった。
「フフッ、もしかして学院でできた恋人か?」
「フフ、わたくしはリィンお兄様とそんな関係になれたら嬉しいと思っていますが。」
シュバルツァー男爵に視線を向けられたセレーネは微笑み
「ちょっ、セレーネ!?」
「なっ!?抜け駆けなんてズルイわよ、セレーネ!」
セレーネの言葉を聞いたリィンは慌て、エリスはセレーネを睨んだ。
(アハハハハ!この後私達の事を知ったら、両親はどう思うのかしらね~?)
(ふふふ、驚く事は間違いないでしょうね。)
(まあ、普通に考えれば4人もの女性を侍らしているようにしか見えませんものね……)
(フフ、さすがリィンの両親ね。二人からリィンに対する暖かい気持ちが溢れ出ているわ。)
一方ベルフェゴールは腹を抱えて笑い、リザイラは静かな笑みを浮かべ、メサイアは冷や汗をかいて苦笑し、アイドスは微笑みながらリィンの両親を見つめた。
「クスクス、どうやら本当に色々あったみたいね?あなた、狩りの話はほどほどにしてくださいね?」
「ハハ……気を付けるよ。ああ、子供達の久々の帰郷だ。しかも息子は学友たちと共にユーゲント陛下よりお褒めの言葉を賜っている。せめてユミルのものを仕留めてもてなさなければな。」
「きっとみんな喜びます……!」
「さあ、入って。すぐにお茶の用意をしますから。リビングで寛いでくださいな。」
「はい。」
その後実家の中に入って行ったリィンとセレーネはルシア夫人が出したお茶をご馳走になりながら、シュバルツァー男爵夫婦に学院で起こった様々な出来事を話した。
「まあ……貴女がリィン達の手紙にあったルクセンベール卿の妹君だったの……フフ、私はてっきり学院でできた将来の伴侶を紹介する為に連れてきたのかと思ったわ。」
「か、母さん!?」
微笑みながらセレーネを見つめて言ったルシア夫人の言葉を聞いたリィンは慌て
「に・い・さ・ま~~~~~!?」
エリスは膨大な威圧を纏ってリィンに微笑んだ。
「な、何でそこで俺を睨むんだよ!?」
「ギロッ。」
「う”っ。」
エリスにギロリと睨まれたリィンは唸り声を上げて冷や汗をかき
「フフ……―――お兄様。わたくしの事をご両親に紹介したのですから、ベルフェゴール様達の事も紹介した方がよろしいのではないですか?」
「そ、それは…………」
セレーネの提案を聞いたリィンは表情を青褪めさせて冷や汗を滝のように流し始めた。
「確か学院での生活や実習先で出会った際にリィンに力を貸してくれている異種族の方達だったか?できれば私達も挨拶をしておきたいな。」
「そうですね……その方達がリィンに力を貸してくださっているお蔭で、シュバルツァー家の爵位が将来上がる事も決まっているのですから、リィンにいつも力を貸してくれている事も含めて是非お礼を言っておきたいですね。」
「へっ!?シュ、シュバルツァー家の爵位が上がるってどういう事ですか!?」
「私も初耳ですが……」
男爵夫婦の話を聞いたリィンは驚き、エリスは目を丸くした。
「実は3ヶ月くらい前にメンフィル帝国から通達があってね。エリゼがリフィア殿下の専属侍女長としての仕事を立派に務めている功績と、リィンが友好を結んだ相手―――”魔神”と”精霊王女”という種族をメンフィル帝国に所属させた功績をたたえてシュバルツァー家の爵位を上げる事を決定した通達が来たのよ。」
「通達によればすぐにでも爵位を上げる準備は整っていたが、私はリィン達がシュバルツァー家を継いだ際に上げて欲しいと頼んだんだ。リィン達の手柄なのだから、それを受け取るのは当然リィン達だろう?」
「父さん…………」
「まあ、この人にとっては爵位が上がった際に与えられる領地も増えれば領主としての仕事が多忙になって、趣味の狩りをする時間が減るからもあるでしょうけど。」
「ハハ…………―――それと3週間前にリウイ陛下がイリーナ皇妃と側室であられるペテレーネ様とシルフィエッタ様とシルフィエッタ様のご息女であられるセオビット様、そしてリフィア殿下がエリゼと共にユミルに訪れて休暇を過ごした際にシュバルツァー家の爵位が更に上がる事も説明されたんだ。」
ルシア夫人の話を聞いて苦笑したシュバルツァー男爵は気を取り直して説明を続け
「まあ……!リウイ陛下達もこちらに訪れていたのですか……!」
「ハハ……何だ。エリゼは一足早く帰省していたのか……」
「父様、母様。シュバルツァー家の爵位が上がるとの事ですが、どの爵位に上がるのでしょうか?リウイ陛下のお話を含めればもしかして”伯爵”になるのでしょうか?」
シュバルツァー男爵の話を聞いたセレーネは目を丸くし、リィンは苦笑し、エリスは不思議そうな表情で尋ねた。
「フフ……リウイ陛下の話によるとメンフィル帝国はシュバルツァー家に”侯爵”の爵位を授けて下さるそうよ。」
「こ、”侯爵”!?」
「爵位を3段階も一気に上げるなんて、普通に考えれば絶対にありえない事ですよね……?」
「まあ……!フフ、じゃあお兄様は将来”侯爵”になられるのですから、エリゼお姉様より出世なされますね♪」
ルシア夫人の説明を聞いたリィンは驚き、エリスは戸惑い、セレーネは嬉しそうな表情でリィンを見つめ
「それに伴ってメンフィル帝国の直轄領になっている領地の一部をシュバルツァー家に任せて下さるそうだ。その中には”セントアーク”や”ケルディック”も入っているぞ?」
「……………………」
「かつて”四大名門”の一つ―――”ハイアームズ侯爵家”が治めていた”サザーラント州”の中心都市に加えてエレボニアの貿易の中心部として有名だった”ケルディック”までシュバルツァー家が治める事になったんですか!?」
「ええ。」
シュバルツァー男爵の説明を聞いたリィンは話の壮大さに口をパクパクさせ、エリスは信じられない表情で声を上げた。
「リウイ陛下からはすぐに軍を辞めろとは言わないが、リィンにはできれば将来に向けて領主として色々勉強して欲しいとありがたいお言葉を賜ったぞ?」
「まあ……!リウイ陛下からそのようなお言葉が……よかったですね、兄様……!リウイ陛下が養子である兄様がシュバルツァー家の跡継ぎである事を認めてくれた事にもなるのですから。」
「あ、ああ………(というか、俺が”侯爵”でセントアークやケルディックの領地経営をするなんて、想像もできないよな……ハハ…………)」
シュバルツァー男爵の話を聞いて嬉しそうな表情で自分を見つめるエリスの言葉にリィンは戸惑いの表情で頷いた後心の中で苦笑した。
「あの……先程リウイ陛下達が休暇に訪れた際にシュバルツァー男爵閣下達に爵位が更に上がる事を通達したと仰っていましたが……一体何故そんな事になったのですか?」
その時ある事を疑問に思っていたセレーネは不思議そうな表情で尋ねた。
「何でも陛下達の話によればリィンが友好を結んだ相手が女神様だからという理由だそうだけど……リィン、本当に女神様とそんなに親しいのかしら?俄かには信じられないのだけど……」
「え、えっと……実際に会ってみて判断してください。―――みんな、出て来てくれ!」
ルシア夫人に尋ねられたリィンは戸惑いの表情をした後ベルフェゴール達を召喚した!
「ハ~イ♪貴方達がご主人様の両親ね?私はベルフェゴール。”七大罪”の一柱を司る”魔神”よ。よろしくね♪」
「―――精霊領域”リスレドネー”を治める”精霊王女”リザイラと申します。どうぞお見知り置きを。」
「―――メルキア皇帝ヴァイスハイト・ツェリンダーの妾―――マルギレッタ・シリオスの娘のメサイア・シリオスと申します。以後お見知り置きをお願いします。」
「―――アイドス・セイルーン。”慈悲の大女神”にして今はリィンの”運命”を見守る者よ。」
リィンに召喚されたベルフェゴール達はそれぞれ自己紹介をした。
「貴女達が…………―――初めまして。リィンの父のテオ・シュバルツァーと申します。いつもリィンを守って頂きありがとうございます。」
「テオ・シュバルツァーの妻のルシアと申します。どうぞお見知り置きを。それにしても……随分と綺麗な方々と一緒にいるのね、リィン?特にアイドス様は女の私でも見惚れるような美人の女性だし、ベルフェゴール様のスタイルは女性なら誰もが羨むようなスタイルよ?」
「う”っ……気付いたらいつの間にかこうなっていたんです……」
ルシア夫人の指摘にリィンは唸り声を上げた後疲れた表情で答え
「まさかリィンが年上が好みだったとはな…………これはエリゼやエリスは相当頑張らなければ勝ち目はないかもしれないな。」
「フフ、何を言っているんですか、あなた。メンフィル帝国の法律では貴族どころか一般人でも重婚が可能ですから、まだまだ可能性はありますよ?」
「と、父様!母様!」
真剣な表情で考え込みながら呟いたシュバルツァー男爵と微笑みながら言ったルシア夫人の言葉を聞いたエリスは顔を真っ赤にして慌てた。
「ああそうそう。ちなみにアリサって言うご主人様のクラスメイトもリィンに好意を抱いているわよ?」
「勿論、異性としてですが。」
「クスクス…………ちなみにアリサさんは”ラインフォルトグループ”という会社の会長の一人娘なんです。」
「ちょっ!?セレーネまで一緒になって何でベルフェゴールとリザイラと一緒に説明しているんだよ!?」
そしてシュバルツァー男爵夫婦に説明したベルフェゴール達の説明を聞いたリィンは慌て
「まあ……!”ラインフォルトグループ”のご令嬢まで。しかもクラスメイトなら今回の小旅行にリィンと一緒に来ているじゃない。」
「フム……という事は将来の義娘になるかもしれない娘だな。後で挨拶をしておかないとな。」
「あわわわわわ……っ!?」
両親の会話を聞いていたリィンは冷や汗を滝のように流しながら慌て出し
「に・い・さ・ま~~~~!?」
「………………」
更に膨大な威圧を纏ったエリスに微笑まれると表情を青褪めさせて石化したかのように固まった。
「う~ん……リィンがモテる事は予想していたけど、まさか半年でこんなに増やすなんて、予想していなかったわね。アルフィン殿下が私達にまで手紙を送って来られる理由も何となくわかりましたね、あなた?」
「ハハ……そうだな。最初はマスコミの憶測かと思っていたが、どうやらマスコミの憶測通りのようだな。」
「へっ!?」
「ひ、姫様が父様達に手紙を送っていたなんて初耳ですよ!?」
シュバルツァー男爵夫婦の会話を聞いていたリィンは驚き、エリスは信じられない表情で尋ねた。
「おや、エリスは知らないのか?殿下と友人同士だとそれぞれの手紙には書いてあったが……」
「フフ、もしかしたらエリスを驚かせたかったかもしれませんね。―――8月の中旬くらいかしら?そのくらいの時期からアルフィン殿下からの手紙が届くようになって、今では1週間に一度くらいの頻度で手紙のやり取りをしているのよ。」
「…………………………」
ルシア夫人の話を聞いたリィンは石化したかのように固まり
「あらあら♪あのお姫様も抜け目がないわね♪」
「ふふふ、”ご主人様(将)”を射る前にまずは”ご両親(馬)”を射ようとしているようですね。」
「アハハ……リィン様の周囲の状況を考えて、一番不利なアルフィン皇女が皆さんと同等の立場になる為にも仕方ないかと。」
「まあ、個人的にお世話になったお兄様のご両親であられるシュバルツァー男爵閣下達にご挨拶をするのは”皇女として”間違ってはいませんが………」
「フフッ、アルフィン皇女は一人の女性としてリィンのご両親に気に入られようとしているのでしょうね。」
ベルフェゴールはからかいの表情になり、リザイラは静かな笑みを浮かべ、メサイアとセレーネは苦笑し、アイドスは微笑み
「もう!姫様ったら……!」
エリスは声を上げた後頬を膨らませた。
その後リィンはベルフェゴール達との出会い等も説明し、説明を終えるとベルフェゴール達はそれぞれリィンの身体に戻った。
「そう言えばリィン。二月ほど前に老師と会ったぞ。」
ベルフェゴール達との話を終えたシュバルツァー男爵はある出来事を思い出してリィンを見つめて言った。
「ユン老師に!?本当ですか!?」
「ああ、相変わらずご壮健でいらっしゃった。気を抜いていたら、飲み比べで負けてしまったよ。」
「もう……何をしていらっしゃるんですか?」
苦笑しながら答えたシュバルツァー男爵の話を聞いたエリスは呆れた表情で父親を見つめ
「ハッハッハッ!」
シュバルツァー男爵は笑って答えを誤魔化した。
「俺については何か仰っていましたか?」
「ああ……」
リィンに尋ねられたシュバルツァー男爵は手紙をリィンに手渡した。
「手紙?」
「老師から預かった。読んでみるとよかろう。」
「は、はい。これは……」
シュバルツァー男爵に促されたリィンは手紙の封を切って手紙の内容を読み始めると驚きの表情をした。
「どうしました?」
「何か気になる事でも書いてあるのですか?」
リィンの様子を見たエリスとセレーネは不思議そうな表情でリィンを見つめた。
「ハハ……相変わらず自由に過ごされているみたいだ。大陸各地をのんびり放浪しているらしい。そんな近況報告と、俺はの”ある言葉”が書かれている。」
「”師として”のお言葉ですか……?」
「一体何が書かれてあるのでしょうか?」
「ああ……これさ。」
エリスとセレーネの問いかけに頷いたリィンはエリスとセレーネに手紙の内容を見せた。
「……『お前に授けた”七の型”は”無”。そして”ある事”と”ない事”はそもそも”同じ”……その意味を今一度考えて見ろ。』ですか?」
「どういう意味でしょうか?」
「…………」
「どうやら老師は気付いていたみたいですね。」
エリスとセレーネに尋ねられて押し黙るシュバルツァー男爵にリィンは静かな表情で尋ねた。
「「え……?」」
「その言葉は老師に弟子入りして、最初に教えてもらった言葉だ。俺が未だにその意味を掴めないでいる事を、そして……色々な意味で迷っている事を老師は見抜いていたという事さ。」
「あ……」
「それは……」
リィンの説明を聞いた二人はリィンが抱え込んでいる”悩み”を思い出して複雑そうな表情をした。
「老師からの”宿題”と言う訳だ。仲間と湯につかりながら、せいぜい考えてみるといい。」
「はい……」
シュバルツァー男爵の言葉にリィンは真剣な表情で頷いた。
「あなた!すみません……!ジャムの蓋が固くなってしまって……開けて下さらない?」
「ああ、今行く!」
そしてルシア夫人に呼ばれたシュバルツァー男爵は立ち上がってキッチンで用事をしているルシア夫人の元へと向かった。
「そろそろお茶の支度も整うみたいですから、難しい話はこのくらいにしましょう?」
「ああ、そうだな。」
「そうだ、兄様。今夜は屋敷でお休みになるんでしょう?」
「ああ……すまない、エリス。お茶を飲んだら”鳳翼館”に戻るよ。」
目を輝かしたエリスに尋ねられたリィンは申し訳なさそうな表情で答えた。
「うっ……そ、そんな!今日くらい、いいじゃないですか!」
「今回の帰郷はあくまで陛下のご厚意によるものだからな。食事も宿泊も士官学院のみんなと過ごすのが筋だと思うんだ。」
「もう……お兄様は真面目すぎですわ。エリスお姉様のお気持ちを少しは考えてあげてはどうですか?」
「理屈はわかりますけど……フウ。仕方ありません……あ、明日もちゃんと来てくださいね!?」
リィンの説明を聞いたセレーネは呆れた表情で指摘し、エリスは溜息を吐いた後真剣な表情でリィンを見つめた。
「ああ、わかっている。」
「絶対ですからね!?」
「お兄様、これを機会にエリスお姉様ともっと親交を深めてくださいね?」
「わ、わかっているって!というか何でそこでセレーネがエリスの味方になるんだよ……」
「フフッ、あらあら……”兄様”を避ける為に女学院に行ってしまった娘はどこに行ったのかしら?」
「3年前、リィンが養子だと知った頃合いだったか。」
リィン達の様子をシュバルツァー男爵夫婦は微笑ましく見守りながら昔の事を思い出した。
「それまでミルスからエリゼと一緒に帰ってくる度にべったりだったのに……いきなりよそよそしくなって。よほど混乱したんでしょう。フウ……リィンがあの娘達をお嫁にもらってくれれば、万事収まるんですけど……」
「うむ……よくできた息子だとは思うが、そう簡単に娘達はやれんぞ。」
ルシア夫人の希望を聞いたシュバルツァー男爵は複雑そうな表情で考え込みながら呟いた。
「大人気ないですよ、あなた?フフ……でも、学院のお嬢さんたちも素敵だという噂ですし、今の時点でも今まで会った事のないような素敵な女性の方々に慕われているのですから、未来がどうなるかは誰にもわかりませんわね♪」
「”未来”か………両帝国で過ごしている子供達が無事に望む未来を掴めるといいんだが……」
ルシア夫人の話を聞いたシュバルツァー男爵は重々しい様子を纏って呟いた。
その後お茶をご馳走になったリィンとセレーネは”鳳翼館”に戻り、仲間達と共に夕食を取り始めた。
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