迷信
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1部分:第一章
第一章
迷信
眞鍋秀吉は健康を大事にしている。それで何か健康にいいと聞くとすぐにそれをしてみる。そうしないでいられない性格なのである。
「あなた、今度はそれ?」
「うん、やってみているよ」
妻の典子の言葉に応える。応えながらココアを飲んでいる。背は高く痩せた身体をしている。額は少し広くなってきていて顔も細い。しかも色白である。目は優しくまさにスーパーの店員といった外見だ。実際に仕事はそれである。
「身体にいいんだって?」
「そうらしいわね」
典子は無表情に答えてきた。
「そう聞いてるわ」
「だからさ。やってみてるんだよ」
妻に応えながらココアを飲み続ける。
「こうしてさ」
「まあ。ココアは美味しいし」
妻が気にするのはそこだった。
「安いし。困るものじゃないわね」
「森永ココアな」
彼が今飲んでいるのはそれだった。
「いや、かなりいいね」
「森永ココアなの」
「別にそれでもいいだろ?」
「いいけれど何かキン肉マンみたいね」
妻が話に出してきたのはこのヒーローだった。実はこのヒーローは牛丼だけでなく森永ココアも好物なのだ。なおエネルギー源は大蒜である。
「それじゃあ」
「じゃあ四十八の殺人技でも身に着けるか」
「そうしたら?プロレスラーにでも転職して」
「そうするか・・・・・・ってあまり柄じゃないな」
「絶対に向いてないわね」
それは断言するのだった。
「はっきり言って」
「じゃあ転職はしないよ」
秀吉もあっさりと話す。
「やっぱりスーパーの店員でいいよ」
「そうなの」
「しかし。健康法って色々あるね」
そのココアをもう一杯入れた。ホットミルクの中にココアを入れてそれをスプーンでかき混ぜる。それで完成する。実に簡単である。
「本当に」
「中にはおかしなものもあるけれどね」
「そうかな」
「おしっこ飲むとかそういうのは止めてね」
典子はそれはきつい調子で言ってきた。
「絶対にね」
「ああ、そういうのはね」
彼もすぐに頷く。
「やらないから」
「絶対によ。わかったわね」
「ああ、流石に自分のそうしたものを飲んだりできないからね」
「そうよ。そういうのは絶対に止めて」
「わかってるよ」
こんな話もした。そのうえでココアを飲んでいく。そうしてだった。
ある日のことだ。彼はとある週刊誌を読んでいた。そこに歯磨き粉が身体によくないと書かれていたのである。
何でも歯をぼろぼろにして歯から身体全体を悪くしてしまうらしい。歯は全ての健康の元だから大事にとも書かれていた。それを読んでだ。
「そうだったのか」
歯磨きのことは考えていなかった。読んで驚愕してしまった。
彼はすぐに歯磨き粉で歯を磨くのを止めた。そのままで何も使わずに歯磨きをするようになったのである。
典子もそれに気付いた。それで怪訝な顔で夫に問うた。
「それも健康法?」
「ああ、そうなんだ」
こう妻に答える。
「歯磨き粉が身体に悪いって聞いてね」
「歯磨き粉が身体に!?」
「そうらしいよ。何か歯をぼろぼろにするらしいじゃないか」
こう雑誌の受け売りを妻に話す。
「歯が悪くなったらそれは身体全体にも影響するじゃない」
「ええ、そう言われてるわね」
「だからだよ。もう歯磨きは使わないんだ」
そうするというのである。
「それでなんだ」
「おかしな話ね」
妻は夫のその話を聞いてだ。女子高生の時と比べると多少肉付きのよくなった首を傾げさせた。黒い髪を少しパーマにして丸く大きな目が印象的だ。
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