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宇宙を駆ける狩猟民族がファンタジーに現れました

作者:獲物
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第二部
狩るということ
  じゅうなな

 
前書き
げろまず保存食 

 
 取り敢えずの腹拵えを終え、私は彼女の話を聞く体勢をとる。

 私がその場から離れたすぐ後であり、多少の罪悪感と後悔の念があるのが正直なところである。私が気すること事態がお門違いであり、自惚れだと言われれば、それは間違いではないだろう。
 しかし、それを理解しているからといって、『はい、そうですか』とはいかない人の心とは、どうにも儘ならないものである。

 まあ、プレデターですけども。

 それは兎も角として、彼女の言葉を要約すると、騎士団の前に突如として現れたのは混沌獣(ペルトゥール)であるとのこと。
 しかし、混沌獣(ペルトゥール)のその全てが書物として残っているわけではなく、ここが自領であることも合わせて、それなりにこの森に生息する獣や魔獣、混沌獣(ペルトゥール)の類が記されている書物を読み込んでいたようだが、該当するモノはなかったそうだ。

 なので名前も当然のこと、どの様な能力を持っているのかも分からないとのことであった。

 ただ、彼女は遭遇時、比較的その混沌獣(ペルトゥール)からは遠い位置にいたことで、全体像は何となくではあるが記憶にあるとのこと。
 それでも、自身が倒れ、地獄の嵐が通りすぎて辺りが静かになるまで、そう時間は掛かっていないとのことであった。

「あれは、虫の様でした。黒くて、表面は光沢があって……」
「虫? 足跡から二足歩行のように見えたが」
「はい。確かに7メートルほどの人型でした。膝から下は反対方向に曲がっていて」

 逆間接か。

 あれ系の生物の俊敏力と跳躍力はなかなか侮れないな。その点、左右の動きに対しては鈍足ではあるが、それだけデカければあまり関係ないな。

「腕は4本で、ノコギリのような刃が腕に何本も生えていたと思います」

 爪ではなく、ノコギリ状の刃ね。なるほど、それで切り裂いたりしたわけか。
 おまけに巨大な昆虫型ということは、当然外骨格で装甲車並みの強度があるのは想像に難くない。そんな全身鎧のような生物に、彼女たちが腰に下げている剣一本で太刀打ちすることは物理的に不可能だろう。掠り傷の一つでも付けているならば大したものだ。

 しかし、現実は無情を通り越して残酷だ。

 彼女達の攻撃の一切が通用しないと分かるや、その混沌獣(ペルトゥール)は切り裂いた側から食事を行っていたそうだ。
 頭は蟷螂のような三角形でありながら、重圧のあるもので、口内にはびっしりと牙が無数に生えていたとのこと。

 騎士達をまるで相手にせず、自身に刃を突き立てようものなら小蝿を振り払うかの如く次々と振り払われ、逃げ出そうと背を向けた者には真っ先に飛び掛かり、体のどこかしらを引き裂き、握り潰しと蹂躙していった。

 どうやら、勇敢にも向かっていった彼女は一太刀浴びせるも傷を付けること叶わず、左腕を切り裂かれたのち、足を引き千切られて、その足が咀嚼される音を聞きながら気を失ったそうだ。

 ある程度はその恐怖心と、インパクトから誇張されている部分があるとは思うが、かねがね彼女の見解に間違いはないだろう。実際、彼女を含めた騎士団は文字通り全滅しているのだから。

「総隊長だったか。奴の遺体はなかったようだが」
「えっ? まさか、そんな筈は……。でも、もしかしたら」
「何か思い当たる節でもあるのか?」

 彼女の含んだような言い方に、私は違和感を覚える。

 これ以上深入りしてはダメだと思いながらも、何故か私はその言葉を聞かないことにすることはできなかった。

「いえ……。私の勘違いかもしれませんし、今はなんとも」

 なんとも煮えきらないその態度に、私はヘルメット越しに目を細める。

「すみません。少し考える時間をいただけないでしょうか?」

 ふむ。そう言われてしまっては仕方がない。彼女の方が付き合いも長いし、いままで生活してきた中でふとしたことが思い出されることがあるように、頭を整理していく必要もあるだろう。

 私は短く了解の意を伝え、場を後にした。







 さて、なんとなくではあるが、対象の全体像が見えてきた。
 混沌獣(ペルトゥール)ということもあるため、何かしらの特殊能力は持っているだろう。あの面白生物であるガミュジュですら、なんか良く分からないけど魅了する能力を持っているらしいのだ。

 良く分からないけど、持っているそうな……。

 彼女の中で総隊長に対する何か、不信な点とでも言うべき事柄があったようだが、私の狩りとそれは全く関係がない。むしろ、これ以上巻き込まれないように徹するのが最善だ。

 というわけで、いまからその混沌獣(ペルトゥール)を狩りに行こうと思います。







 おはようございまーす。

 寝起きドッキリもかくや、私は森の深部に生い茂る木々を絶賛飛び跳ね中である。
 船に残した彼女には、少し出てくると伝えてあるし、ある程度の船内を自由に歩けるようにはしたが、ブリッジ周辺や重要施設にはもちろんセキュリティを掛け、立ち入りできないようにしてある。当然、外に出られないよう後部ハッチもだ。

 これで取り敢えず、彼女への心配は無用だろう。

 さあ、これで心置きなく狩りができるというものだ。

 いまは、ヘルメットの視覚情報を操作し、混沌獣(ペルトゥール)の足跡を追跡中だ。
 やはり、5日も経っているとなればそれなりの距離を移動しており、追跡もなかなか骨が折れる。

 かと言って、逃がすつもりは毛頭ないが。

 何故かいま、無性に高揚しております。理由は不明だが、胸の奥から沸々と沸き上がる、この感情はいつ以来だったか。

 まあ、いい。

「見付けたら速攻でブチのめす」

 そうやって自分でも訳の分からないテンションのまま森のかなり深くまで来てしまっていたことに気付く。
 私自身、ここまで来るのは初めてのことであるが、なんだか空気が重いような、陰鬱としているような。まるで泥水の中を泳いでいるような感覚だ。
 しかし、私は総重量なんキロか分からない数々の装備を身に付けながら、激流を泳ぎきることができるほどには体力も力もある。

 と言うことで、気にせずどんどん進んで行きましょう。

 ヘルメットの視覚情報および、音響情報を頼りに追跡を続けること1時間。

 不自然なほどに静かな森の深部は、獰猛な牙を剥き出しにし、いまにも突き立ててくるような気配がそこかしこから感じられる。
 この肌に突き刺さる気配を四方から感じつつも、今更野生動物如きの殺気に臆するほど、生半可な修羅場は越えてきていない。
 光学迷彩機能(クローキングデバイス)により、姿形は見えていないはずだが、どうやら深部にいる獣共は一味違うようだ。とはいえ、何となく違和感を感じているといった具合であり、必要以上にこちらが警戒をする必要はなさそうだ。

 と、私が追ってきていた混沌獣(ペルトゥール)の足跡が途中で消えているのを私のヘルメットが知らせる。
 私は音をさせずに地面へと降り立ち、光学迷彩機能(クローキングデバイス)を切って、最後の痕跡となった混沌獣(ペルトゥール)の足跡を観察する。

 まだ新しいが、こんな不自然極まりない場所で終点となったものだ。

……まあ、こんな場所でできることなど限られているが。

 私は後ろを確認することもなく、後方へ体を回して裏拳を打ち込む。

 ベコンだか、ボコンだか、まるでゴムタイヤを殴り飛ばしたような感触が右手に伝わり、拳を振り抜くのを止めてそのまま前方へと跳ぶ。
 空中に飛び上がっている間に体を後方へと向けて、私は殴り付けたモノの正体をその目で確認した。

……巫山戯んなよ。何が蟷螂だ。

 殴り付けたのはどうやら頭部だったようで、私を丸呑みにしようと開いた口、その顎が大きく歪んでいた。
 また、拳を振り抜いていたら間に合わなかったであろう。私が立っていた場所には、ヤツの4本腕の内の2本が私を押さえ付けようとした体勢で地面に手のひらをつけている状態であった。

 力比べで負けるつもりはないが、できれば触れるのは遠慮したい。

 というか、実際見たくもないし、その存在を容認すること事態できない。

 ヤツは今も昔も私の……。

 いや、全人類の敵だ。

 むしろ宿敵なのだ。

「どう見てもゴキブリじゃねぇか」

 ヘルメットの中で絶叫しそうになるのを必死に堪えた私は、誰がなんと言おうと誉められるべきである。

  
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