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虹のお好み焼き

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5部分:第五章


第五章

「倒れないわよね」
「毒はないの」
「いえ、ちょっと待って」
 またここで女の子の中の一人が言うのだった。
「倒れないどころかさ。先生」
「先生!?」
「見てよ、あの顔」
 見れば先生の顔が強張ったものから見る見るうちに和らいでいく。そうして次第に笑顔になっていくのであった。石から人間に戻っていくように。
「元に戻っていってる」
「治癒の魔法使ったのかしら」
「まさか」
 またそういう話になっていた。
「ユニコーンの角ともまた違うわよね」
「多分ね」
「それじゃないわね」
 それはすぐにわかった。そういう毒ではなく今は味覚の問題だ。それについても危惧されていたからだ。
 だがそれにおいても。先生の顔が和らいだものになったのだ。そうして先生が言う言葉は彼女達が予想だにしなかったものであった。
「美味しいわ」
「美味しい!?」
「嘘・・・・・・」
 今の先生の言葉に思わず声をあげた。
「そのお好み焼きが美味しいって」
「嘘でしょ!?先生」
「先生は嘘は言わないわ」
 だがその彼女達に顔を向けて答える先生だった。見ればその顔は笑顔になっている。
「それはね。言わないわよ」
「言わないってそれじゃあ」
「本当に美味しいんですか」
「そのお好み焼き」
「ええ」
 満面の笑みでの言葉であった。
「そうよ。美味しいわ」
「嘘・・・・・・じゃないのよね」
「先生そう仰ってるじゃない」
 皆この先生が嘘をつかないことは知っている。それに今の笑顔は。とても演技のそれには見えないのだった。つまりそこから出される結論は。
「本当に美味しいみたいね」
「そうみたいね」
 顔を見合わせて真剣な顔で言い合うのだった。
「まだ全然信じられないけれど」
「美味しいの」
「よかったら皆も」
 ここでその虹のお好み焼きを作った本人が彼女達に言ってきた。
「食べて。どんどんね」
「どうする?」
「どうするって?」
 皆芙美子の言葉を聞いて顔を見合わせる。まだ怪訝な顔のままではある。流石にそうおいそれと警戒を解いてはいなかったのである。
「食べてみる?」
「やっぱりそうする?」
「それしかないわね、この流れは」
「そうね」
 それしかないのであった。今の流れだと。ここに至っては彼女達も意を決して箸を手にそのお好み焼きに向かうしかなかったのである。
「それじゃあ。まずは」
「覚悟を決めてね」
「そうね」
 顔を見合わせて言い合う。そのうえで特攻するようにしてお好み焼きを箸に取った。そのまま一気に口の中に入れて頬張る。すると不思議なことに。
「本当・・・・・・」
「美味しい・・・・・・」
 そうなのだった。確かに美味かった。その色は確かに不気味だが程よく焼けているしソースも上手く使っている。そのうえ調味料の使い方も絶品だった。全てにおいて完璧だった。口の中に広がる芳香もまた。お好み焼きとしては最高のものであったのであった。
「見事ね」
「そうね。確かに」
「これはね」
 一口食べてから皆で言い合うのであった。
「こんな美味しいお好み焼き滅多にないわよね」
「お店だったら行列ものよ」
「私絶対買うわよ」
「ねっ、美味しいでしょ」
 皆が食べ終えたのを見てまた笑顔で言う芙美子であった。
 
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