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鬼の野球

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3部分:第三章


第三章

「誰だったっけ、あれ」
「何でも真似得流というらしいぞ」
「真似得流!?何処の学校だ?」
「ノンプロか?」
「いや、何でもな」
 ここで詳しい人間が彼について言うのだった。
「東北の田舎の方の出身でな」
「東北?じゃあ地元か」
「極楽も逸材を見つけていたんだな」
「それがどうにもな」
 少し声のトーンが下がってひそひそとした話になる。
「あいつ素人だったらしいぞ」
「素人!?」
「嘘だろう?」
 皆そう言われても信じなかった。そもそもプロでありしかも練習風景だけ見てもとてもそうとは思えなかったからだ。だがその詳しい人間は言うのだった。
「地元の高校には野球部自体がなくてな」
「じゃあ本当に野球は」
「ああ、テストを受けるまではボールも握ったことがないらしいぞ」
「それであれか!?」
「あれだけできるのか」
 皆その話を聞いて首を捻るばかりであった。
「嘘みたいな話だな」
「身体能力がそれだけずば抜けているってことか」
「そういうことだな」
 こう結論付けられるのだった。
「けれどそれでもあいつはな」
「ああ、凄いな」
「見ろよ、監督」
 彼等は今度は村野を見る。見れば彼はマスクを被る真似得流のところに来て色々と教えている。真似得流のことを最もよくwかあっているのは彼らしかった。
「ええか、真似得流」
 村野はよく監督室に彼を呼んで話をするのだった。ソファーに向かい合って座り色々なファイルを見せながら彼に話すのであった。
「野球はな。身体でするもんやないんや」
「身体ではしないんだべか」
「そうや。それもあるがやっぱりここや」
 こう言って自分の頭を右の人差し指でこんこんと叩いてみせる野村であった。
「ここでするもんや」
「頭でですか」
「そや。御前は身体はほんま立派なもんや」
 それはもう誰もが認めるところだった。村野にしろそれを見て彼の採用を決めたからだ。だからそれはもう言うまでもないことであった。
「けれどや。そこにプラスアルファしてや」
「頭も」
「御前はキャッチャーや」
 次に彼は真似得流のポジションについて話した。
「相手のピッチャーやバッターをまず見る」
「見る・・・・・・」
「そのデータをしっかりと取っていくんや。どんな球を投げてどんな球が好きか」
 己の現役時代を思い出しながら話すのであった。
「そういうことをな。とことん調べていくんや。そうしたら御前は最高の野球選手になれるで」
「おらが最高の野球選手に」
「そや、なりたいやろ」
 真似得流の目を見て問うてみせた。
「最高の野球選手に。どや?」
「なりたいです」
 やはり答えはこれだった。これしかなかった。
「絶対。おら最高の野球選手になるだべ」
「よっしゃ。そやったら教えたろ」
 村野は会心の笑みを浮かべて真似得流に応えた。こうして彼は連日連夜野球漬けとなった。だが彼は素直な性格から飲み込みが早くオープン戦では早速。
 打ち守る。リードも見事なもので盗塁はまず確実に刺す。それを見て記者達もファン達も度肝を抜かれた。早速あちこちで彼のことが議論になった。
「何だよ、あの真似得流っていうの」
「凄いよな、全く」
「凄いなんてものじゃないぞ」
 こう言い合うのだった。
「あのバッティングな」
「もうホームラン何本打った?」
「五試合で三本だよ。ヒットだってな」
「ここぞって時に打つよな」
「そうそう」
 その勝負強さもまた話題になっていたのだった。
 
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