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ソードアート・オンライン~隻腕の大剣使い~

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第35話《隻竜》散る、その先に見た世界

三人称side

つい先ほどまで王の存在したこの部屋に、多くの人間が倒れ、二人の男が向かい合っている。
片や世界の神。最強の矛、無敵の盾を携え、皆を守って来た最強の味方。その正体は二年前、一万もの人間をこの世界に閉じ込め、4000人もの命を奪った大犯罪者でありこの世界の、茅場晶彦。
片や隻腕の剣士。かつて失った左腕を求めこの世界に足を踏み入れ、ドラゴンと呼ばれる腕力と獣の戦闘本能を手に入れた《隻腕のドラゴン》、または《隻竜》と呼ばれる少年。だが彼はドラゴンになりたかった訳ではない。自分を追い、この世界に囚われた友を守れず、死なせてしまった自分への怒り、復讐の(レッド)を心に宿した結果、彼を狂戦士にーーードラゴンへと変えてしまった。
不死の力を自ら捨てた世界の神に、友の色を纏い悪魔の大剣を握る少年ライリュウ。今、この世界ーーー《ソードアート・オンライン》の運命を分ける戦いが始まるーーー

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

最初に攻撃を仕掛けたのは《隻竜》。雄叫びをあげ敵の目の前へ跳び、かつて己が滅ぼした青眼の悪魔が手にしていた大剣を大きく降り下ろす。だが神は動じる事はなく、左手に携える十字型の盾で防ぐ。防いでも尚ガタガタと震える盾は、少年ライリュウの腕力の強さを表している。ライリュウの攻撃はまだ終わらない。剣を激しく右横一文字に斬りつけ、その状態から剣のダガーのように逆手に持ち先ほどの逆方向に斬りつけ、右足を軸にして左足で蹴りを叩き込み、そのまま剣を握った右の拳で正拳突き。剣技と武術の猛ラッシュを受けても尚砕けない盾は、《神聖剣》という攻防自在の剣技を成立させる強固な砦。
その砦を沈めるにはただ剣を振り回すだけでは足りない。この世界でのみ扱える剣技ーーーソードスキルほどの威力がなければこの盾を粉砕する事は出来ない。それはライリュウも理解している。だがそれを実行しない理由がある。それはーーー

(茅場はSAOの全てを創った!その中にはソードスキルも当然含まれてる・・・つまりソードスキルの挙動も全部頭の中に入ってる!オレ自身の剣技じゃないと確実に負ける!)

この世界を生み出した神、茅場晶彦は全てを創った。モンスター、武器、街の構造、戦闘および日常に使えるスキル。ソードスキルもその中に含まれている。ヒット数、効果、挙動、全て覚えている。そんな剣技を発動しても、待っているのは全て避けられ、硬直の間に殺される未来のみ。たとえ防がれてもいい、あの防御を崩せるならそれでもいい、そう考え剣をひたすら振るう。

「フンッ!グゥ・・・!ハァァァァ!!」

「実に力強い剣だ。速度も悪くない・・・流石はライリュウくんだ」

「いつまでその余裕のツラ出していられっかなァァ!」

全て防いでいるとはいえ、笑みを浮かべる茅場晶彦は何故こんなにも余裕なのだろうか。対するライリュウは笑える余裕もなく、むしろ押しているのに逆に押されているような状況だ。ライリュウには後ろで倒れている親友の《黒の剣士》のような反応速度も、その妻である《閃光》のような素で出せるスピードもない。あるとすればーーー

(もっとオレに力を・・・《オーバーロード》!!)

圧倒的なスピードを出す代わりに、その代償として脳に多大な負担を掛ける覚醒能力のみ。それは乱用すれば精神を崩壊させ、廃人となるデメリットも存在する神や悪魔にも匹敵する能力。

(さっきスカルリーパー戦で結構使っちまったけど・・・こいつを倒すまで耐えてくれ!オレの脳!オレの身体!)

つい先ほどまで存在した王ーーー白骨の処刑獣(スカルリーパー)を滅殺する際に今までにないほどの長時間の間、この能力を発動した。これ以上乱用すれば気絶で済むレベルでは収まらない。だがそれでもいい、この男を殺し、世界を終わらせるまで耐えられればそれでも構わない。
ライリュウの見る世界は止まったかのように遅く見えた。この少年は脳を活性化し、周りの動きをスローモーションで再生、一時的に神速のバーサーカーへと変貌、覚醒する。
神速のバーサーカーの猛攻が始まった。先ほどまで少年の剣を防いでいた盾はその猛攻に間に合わず、威力と速度に圧倒されている。なんとか盾で己を守ろうとしても、ライリュウの剣がそれを阻む。

(いける・・・!あと少しで・・・全部終わる!!!)

彼は最後の一撃として、悪魔の大剣を真っ直ぐに、茅場の心臓へ突き刺そうとーーーしたが、盾に阻まれ剣が折れる。

(・・・え?なんで・・・)

剣が折れたのは耐久値がなくなったから、それなら分かる。でも盾がラッシュに追い付いた理由が分からない。その理由はーーー突如脳を駆け巡った痛みで理解した。

(しまった・・・《オーバーロード》が・・・)

ーーー《オーバーロード》、強制終了。

「最後は本気でどうなる事かと思ったよ・・・だが」

疲労でしゃがみこみ、肩で大きく呼吸をしているライリュウをたった今まで斬られていた茅場が見下ろす。

「私の勝ちだ」

今まで全く向けられなかった《神聖剣》の矛がーーー

「さらばだ・・・ライリュウくん」

ーーーライリュウの胸を貫いた。
その光景は残酷な物だった。彼の親友、《黒の剣士》キリトは彼の名を叫び、その妻《閃光》のアスナは声も出せず、口を両手で覆う。侍クラインと巨漢商人エギルは絶句するだけで、驚愕と哀しみ以外の反応を顔に出せないでいる。

(あぁ・・・エネルギー切れで最後は心臓を串刺しかよ・・・)

胸を貫かれ、視線をフォーカスして左上に見える己の命のゲージを見て、そう心で呟いた。

(こうなるなら、未来に「ただいま」って言ってればよかったなぁ・・・)

ただいまーーーそう花畑の街に建っている自宅で待っている妹を思い浮かべて、してもどうにもならない後悔をしている。

(絶対帰るって未来と約束したのに、絶対SAOを終わらせるって翼たちと約束したのに・・・)

必ず帰って来ると妹と交わした約束、必ずこの世界を滅ぼし、現実世界に帰還すると今は亡き親友たちと交わした約束をーーー破ってしまった。

(最後にこれだけ言おう。未来・・・)

命のゲージが完全に消える前に、妹にこれだけは伝えたい。それはーーー

(オレをお前の兄貴にしてくれて・・・ありがとう)

この瞬間を最期に命のゲージが完全に消え、《隻腕のドラゴン》は光の破片となりーーー《ソードアート・オンライン》から消え去った。




******




ここに、一人の少年が横たわっていた。その少年は不意に目を覚まし、周りを見渡した。そこは何もない世界。前後左右、360度真っ白に染まった虚無の空間。そこにこの少年は横たわっていた。だが、彼はすでに存在しない人間のはずだ。
少しボサボサで男としては長めの黒髪、額に青いバンダナを巻き、赤いインナーシャツの上にすみれ色の忍者装束、さらにその上に白いマントを纏った少年ーーー

「ここ・・・どこだ?オレ、確か茅場に刺されて死んだはずじゃ・・・」

彼の名は、ライリュウ。つい先ほど茅場晶彦に心臓を貫かれて、死亡した《隻腕のドラゴン》である。
何故死亡した彼がこんな訳も分からない世界にいるのか知る者はいない。そこでライリュウが行き着いた結論はーーー

「そうか、ここがあの世か」

死者の魂が行き着く終着駅、あの世。そう結論付けたのだ。「だったら天国かな?地獄かな?」などと誰もいないのに冗談めいたテンションで笑い飛ばす。だが次第にライリュウの顔に影が射した。

「キリト、後は任せた・・・」

自分を殺した茅場の次の対戦相手ーーー殺し合いの相手は親友(キリト)。茅場晶彦は最後には《二刀流》と戦う事を望んでいた。あいつなら勝てるだろうーーーそう信じて呟いた。

「本当にそれでいいのか?」

「アンタ、自分が失敗しても他人に任せるタマやないやろ?」

「!?」

自分以外に誰もいない世界で、自分以外の誰かの声が耳に入った。それも、とても聞き覚えのある、懐かしい声が。ライリュウは声が聞こえた方向を恐る恐る振り向くとーーー金髪の白い侍の少年と、赤いチャイナドレスの少女、青い髪のアニメキャラの服装をしている少年、そしてすみれ色のくの一装束を着た少女が立っていた。

「翼!?弾!?かんな!?・・・亜利沙まで!?」

かつて殺人ギルド《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》に殺害されたライリュウの友、明石翼、雨宮かんな、霧島弾、河村亜利沙、ギルド《リトルギガント》が目の前にいた。それを見た瞬間、本当に死んでしまったのかとライリュウの頭はパニックに陥った。その様子を見たリーダーの翼はライリュウよりも少し高い身長を利用して、彼の頭をくしゃくしゃに掻き回した。

「お前はまだ死んでない。ここがちょっと特殊なだけだ」

ライリュウの心の中を見透かしたかのような彼の言葉は、ライリュウを黙らせた。
死んでないーーー確かに心臓を貫かれたはずだ。それなのに生きている。どれだけHPが多く残っていても、心臓や頭を貫かれたら絶対に死ぬ。そこを突けば、まさしく必殺の一撃になる。

「神鳴・・・いや、竜。お前、蘇生アイテム持ってただろ?効果はどれくらいだ」

「使用対象の死後10秒以内・・・つーか、お前らよく知ってんな」

「ここから竜くんと未来ちゃんをずっと見てたからね」

弾の質問にライリュウがそのような反応をしたので、亜利沙が答える。この虚無の空間からずっと見ていた、だったらここはこの世とあの世の境目なのだろうか。ライリュウが生きているのなら、《リトルギガント》は生者と死者、どちらなのだろうか。

「蘇生アイテムで生き返れって言いてーんなら無駄だぞ?自分に使うなら最低でも身体が消える前に使わないと間に合わないし、そもそも蘇生アイテム《聖夜の輝石》は結晶だった。オレが死んだ場所は結晶は使えないエリアだった。おまけにそれを持ってるのは未来だ」

昨年のクリスマスイブ行われたイベントクエストは、そこで戦うイベントボスを倒せば蘇生アイテム《聖夜の輝石》を入手出来るというイベントだった。だがそのアイテムは自分に使うなら身体が消える前に使わないといけない物だった。それが出来てもライリュウの死に場所は《結晶(クリスタル)無効エリア》になっていたボス部屋、結晶アイテムだった《聖夜の輝石》を使う事は出来ない。そもそも《聖夜の輝石》を持っているのは彼ではなく妹のミラこと未来である。絶対に蘇生は叶わない、完全にそう思っていたーーー

「キリトって奴が持ってるぜ?」

「せや」

「はぁぁっ!?」

妹が持っている物をキリトが所持している。それを翼とかんなからしれっとした顔で知らされたライリュウは大声をあげて驚いてしまった。

「ボス戦の前に未来ちゃんがキリトって人に渡してたの」

「未来の奴いつの間に・・・」

「さて、そろそろ武器を取れ。向こうの時間じゃ3秒経ってる」

「まだ3秒なのか!?もう2分くらいは喋ってる感覚なんだけど!!」

亜利沙が簡単に理由を話して弾が早く戦闘準備は済ませろ急かす。今自分たちがいる世界は時間の流れがおかしいのか、そう思いながらもシステムウィンドウを操作して剣を装備する。システムウィンドウが出せるのだから、まだSAOの中にいるようだ。
あとはキリトが《聖夜の輝石》を使い自分を蘇生してくれるのを待つだけ。だがその間に、伝えたい事がある。ライリュウは《リトルギガント》の方へ向き直りーーー

「みんな、何がなんだかまだ分かんねぇけど、これだけは言わせてくれ・・・」

一年と少し前に死んだ友に、どうしてもこれだけは、伝えたいーーー

「守れなくてごめん。力を貸してくれて・・・ありがとう」

これだけ伝えたライリュウは《リトルギガント》に笑顔で見送られて、この虚無の空間から姿を消したーーー




******




第75層・《迷宮区塔ボス部屋》

「さて、次は君の番だ。キリトくん」

ライリュウを撃破した茅場晶彦は、次の対戦相手であるキリトを呼んだ。キリトの側にいるアスナは彼を止めようとしている。たった今、キリトと互角に戦えるライリュウが殺された。今キリトが戦えば確実に殺される。絶対に死んでほしくない最愛の夫の手には、一つの結晶が握られていた。

「いや、俺の出番はまだ来ない・・・」

彼は何を言っているのだろうか。ライリュウを倒したら次はキリトが戦う、ライリュウは敗北した。次はキリト出番のはずだ。キリトは手に握る結晶を前に出し、起動する。それはかつて、たった今死んだ親友に渡したクリスマスプレゼントーーー

「お前とライリュウの戦いはまだ終わってない・・・そうだろ?」

茅場晶彦の目の前に、黄金の光の粒子が現れた。それは少しずつ集合し、形を形成していく。光が消えた瞬間、そこには彼がいたーーー

「そうだろ・・・ライリュウ!!」

「あぁ!もう4、5秒前みてぇには行かねえぞ!茅場晶彦ォォォォォォォ!!!!!」

ーーー復活、《隻腕のドラゴン》。
 
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