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英雄伝説~焔の軌跡~ リメイク

作者:sorano
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第104話

~七耀教会・星杯騎士団所属・特殊作戦艇”メルカパ”伍号機~



「グラハム卿。お疲れ様でした。」

「お疲れ様です。今回は割とあっさり片付いたみたいですね。」

”守護騎士”のみが所有する事が許される特殊飛行艇―――”メルカパ”。その中で操縦をしていたケビンの部下――”従騎士”達はブリッジに入って来たケビンに気付くと労いの言葉をかけた。

「ま、いつもと比べたら気楽なんは助かったわ。はー、時間に余裕があったら有閑マダムとのアバンチュールも楽しめたんやけどなぁ。」

「また、そのような……」

「あんまり羽目を外してると総長に睨まれますよ?」

およそ神父とは思えない発言をしているケビンに従騎士たちは呆れたり、忠告をしていた。

「へいへい。まったく君らも固いなぁ。なんでオレみたいないい加減なヤツのところに配属されたかわからんわ。」

「ふう……まがりなりにも”守護騎士”の1人でいらっしゃるのですから。この”メルカパ”を含めてそれなりのバックアップは受けていただかないと。」

「従騎士の数だって定員をかなり下回っていますし。いっそ、ここらで思い切って人を増やしてみたらどうです?」

「んな事したら、余計に一人で動きにくくなるやん。謹んで遠慮させてもらうわ。」

従騎士の提案を聞いたケビンは溜息を吐いた後、苦笑した。



「やれやれ……」

「もう少し頼っていただけると我々も安心なのですが……半年前の一件にしても”塩の杭”の運搬しかお手伝いできませんでしたし。」

「アレの運搬はそれなりの重大な任務なんやけどな……(下手に動いてヤツに警戒されるわけにもいかへんかったし………)」

「え?」

「いや、何でもない。―――予定通り、このままアルテリアへ帰還する。明日の………いやもう今日か。昼過ぎには戻れるやろ。」

「ラジャー。」

ケビンの指示に従騎士が頷いたその時、通信が来た。



「どこからや?」

「アルテリア―――セルナート総長からの直々のご連絡です。」

「げっ、マジでか?(こういうタイミングであの人から連絡が入った時はロクなことが無いんやけど……)しゃあない…………繋いでや。」

「了解。」

ケビンの指示に頷いた従騎士が操作をするとケビンの近くにモニターが現れ、そして画面に紅耀石のような紅い瞳と濃いエメラルドの髪を持つ女性――”星杯騎士団”を率いる第一位の”守護騎士”―――”紅耀石(カーネリア)”アイン・セルナート総長の顔が映り、セルナート総長は話し始めた。

「やあケビン。ご苦労だったな。首尾の方はどうだ?」

「ええ、つつがなく。ブツは”愚者のロケット”。”蛇”の気配はありましたけど多分、尻尾切りの対象ですやろ。」

「そうか……ほぼ睨んだ通りだったな。ご苦労だった。帰還して身体を休めてくれ―――と、言いたいところだが。」

(そらきた………)

セルナート総長の意味深な言葉を聞き、新しい任務を言い渡される事を悟っていたケビンは疲れた表情で溜息を吐いた。



「ん、なんだ?」

「いやいや。続けたってください。」

「うむ、任務終了そうそう悪いんだが………一つ君に頼みたいことがあってね。」

「ふむ………”外法”絡み、ですか?」

「いや、ただの”回収物”だ。グランセル大聖堂の地下に一時的に保管してあるらしい。」

「グランセル………!なるほど、”環”関係かもしれないっちゅう事ですか………」

「可能性は高いだろう。お前と同じ”環”に関わっていたイオンに頼んでもよかったのだが、あいつは既に別の任務についていて、すぐに動けないからな。どうだろう、頼めるかな?」

「………了解ですわ。ホシの護送もあるんでこのまま”メルカパ”はアルテリアに戻らせます。リベールへはオレ一人で。」

「ああ、よろしく頼む。そうそう、この件に関しては新人の従騎士を1人派遣した。君の下に新たに付けるからよろしく面倒を見てやってくれ。」

「ちょ、ちょっと待って下さいよ!新人って………あんたそんないきなり!」

セルナート総長が突然口にした自分の下に所属する新人の存在を知ったケビンは驚いた後慌てた様子で反論しようとしたが

「フッ、女神の巡り合わせはいつでも唐突なものだよ。訓練の成績も優秀だったから足手まといにはならないだろう。それでは健闘を祈る。」

セルナート総長は聞く耳を持たず、通信を切った。



「……………………」

「はは………その、何と言うか。」

「よ、良かったじゃないですか。新人が入ってくるみたいで。」

口をパクパクさせて呆けているケビンの様子を従騎士達は苦笑していた。

「いいことあるかいっ!はあ、まったくあの人は昔っから変わらへんな………とても小説のモデルになった人とは思えへんわ。」

「ああ……『カーネリア』でしたっけ。」

「あれ、いいんですかね?”騎士団(われわれ)”の存在を世に周知しているような気が………」

「あれくらい芝居がかかった内容ならかえって良い目くらましやろ。ヒロインが死んだとかいうのも適当な攪乱情報になっとるし。………もっとも実物を知ってたら簡単に死ぬようなタマやないってすぐにわかりそうなもんやけどな。」

「はは………」

「まあ、コメントは差し控えておきましょう。」

疲れた表情で溜息を吐いたケビンの言葉を聞き、ある小説で出てくるヒロインとセルナート総長を頭の中で比べていた従騎士達は苦笑していた。



「ともかく………話は聞いての通りや。今回の件の後始末は君らに全面的に引き継ぐ。ミラの流れは洗った方がええな。まだまだ隠し口座がありそうや。」

「なるほど………お任せ下さい。」

「我々はこのままアルテリアに戻るとして………あなたの方はどうします?」

「そやな………適当な自治州で降ろしてや。できれば国際定期船が出とる街の近くがええかな。」

「ラジャー。」

ケビンの指示に従騎士が頷いたその時、朝日がブリッジを照らした。

「おっと………そろそろ夜明けですね。」

その後ケビンは近くの自治州に降りた後、国際定期船に乗って、リベールへ向かった。その時、ドロシーと再会し、談笑しているといつの間にかグランセルに到着し、ドロシーと別れたケビンは久しぶりのグランセルを懐かしんでいるとある人物が話しかけた。



~グランセル国際空港~



「グラハム神父……」

「シード中佐………!?」

自分に声をかけて、近づいて来た人物――シード中佐の登場にケビンは驚いた。

「はは、久しぶりだね。事件後の祝賀会以来かな………元気そうで何よりだよ。」

「中佐こそお変わりないようで安心しましたわ。しかし、王国軍が絡んでいるとは聞いていましたけど………てっきりユリアさんあたりが来はるかと思ってましたわ。」

「シュバルツ大尉は今、別の任務に就いててね。こうして暇な私が出張らせてもらったわけさ。

「またまた~、ご謙遜を。風の噂で、大佐への昇進も間近と聞いてますで~?」

「はは、今更ながら君達の情報網には驚かされるが………生憎、今の私にはいささか荷が重い地位かな。それにカシウス准将にもまだまだ頑張ってもらいたいしね。」

ケビンの言葉を聞いたシード中佐は苦笑しながら答えた。



「はは、カシウスさんも大変や。………それで………例のブツは大聖堂に?」

シード中佐の話を聞いて苦笑していたケビンだったが、すぐに気を引き締めてシード中佐を見つめて訊ねた。

「ああ………地下に保管されているらしい。何でも、部外者の立入には騎士団の許可が必要らしいな?」

「ええ、まあ。ちょいと特殊な場所ですから。詳しい話はそこでさせてもらいますね。」

「……わかった。紹介したい人もいるからさっそく大聖堂に向かおうか。」

「へ………紹介したい人?」

シード中佐の話を聞いたケビンは首を傾げた。

「フフ……今回の件における協力者でね。詳しい事情はその人から聞くといいだろう。」

そしてケビンはシード中佐の案内によって、大聖堂に到着した。



~グランセル・大聖堂~



「おお、よく来たな。」

ケビン達が大聖堂に入るとグランセルの大聖堂の責任者である大司教――――カラント大司教とその隣にはエリカ・ラッセルがいた。

「カラント大司教。ご無沙汰してましたわ。……あれ、そちらは………」

「ふ~ん、聞いていたよりも若いわね。あなた、幾つ?」

「へ………?に、22になった所ですけど。」

素性がわからないエリカに唐突に尋ねられたケビンは戸惑いながら答えた。

「ふむ………予想以上に若い。”星杯騎士団”というのはそんな若さで要職を任されるのかしら?”守護騎士(ドミニオン)”第5位――ケビン・グラハム殿。」

「……………………………」

「フフン、顔色が変わったわね。この程度で動揺するなんて修行不足じゃないかしら?それとも、その態度も演技の一環なのかしらね?」

「………あんた、一体………」

不敵な笑みを浮かべて自分を見つめている正体不明のエリカをケビンは真剣な表情で見つめていたが

「ふう、ラッセル博士………あまり挑発的な言動は控えていただけませんか?」

「へ………」

疲れた表情で溜息を吐いて指摘したシード中佐のの口から出た聞き覚えのある名前が出ると呆けた。



「イ・ヤ。だってこの人、せっかく引き上げたアレを持って行っちゃうんでしょ?それと、あたしの事はその名で呼ばないでちょうだい。あんなクソジジイと同じ呼ばれ方なんて不愉快だわ。」

「やれやれ………」

「ラ、ラッセルって………ひょっとしてティータちゃんの………?」

「フフン、初めましてと言うべきかしらね。私の名はエリカ。エリカ・ラッセルよ。以後、お見知りおきを。」

そしてケビンはシード中佐とエリカと共にある場所に向かった。



「や~………まさかティータちゃんのお母さんやったとは。たしかご夫婦で外国にいるって聞いてましたけど戻ってきはったんですね?」

「あんな事件があったと聞いて戻って来ない訳ないじゃない。もっとも辺境にいたから情報が届くのがだいぶ遅れて後の祭りだったけど………まったく、そうじゃなきゃあのクソジジイの好き放題にさせなかったものを………」

「な、なんやラッセル博士にえらいご立腹みたいですね?」

父親であるラッセル博士に対して怒りを抱いている様子のエリカを見たケビンは戸惑いながら訊ねた。

「あったりまえでしょ!聞けば、その崩壊した浮遊都市にティータを連れていったそうじゃない!いくら孫に甘いからって限度ってもんがあるってーの!」

「は、はあ………」

「挙句の果てに、あんなチンピラみたいな男を娘に近寄らせるなんて………おのれ赤毛モミアゲ男………私の可愛いティータによくも………」

「赤毛モミアゲ男って………アガットさんのことですか?」

「その忌々しい名前を口にしないでちょうだい!くくく、覚悟してなさいよ、アガット・クロスナー……今度はさらにパワーアップした機体で叩きのめしてあげるわ………」

不敵な笑みを浮かべて独り言を呟きだしたエリカの様子にケビンは冷や汗をかいた後、エリカから下がって、シード中佐と並んで歩きながら小声で話しかけた。



(な、なんや色々、あったみたいですねぇ………)

(ああ………私も詳しい事情は知らないが。ちなみにラッセル博士はちょうど外国に旅行中でね。今回の件に関しては全面的に彼女に協力をお願いしているんだ。)

(そうやったんですか………)

ケビンとシード中佐は小声で会話していたが

「―――そこ、聞いてるの!?」

「はっ!」

「はい!」

突然振り向いたエリカに怒鳴られると、姿勢を正して返事をした。

「ふん、まあいいわ。―――それにしてもずいぶん長い階段ね。あとどれくらいで終わるのかしら?」

「あー、そろそろで終わりですわ。……おっと見えてきたいみたいやね。」

そして3人は階段を降りた後、ケビンの案内の元、行き止まりに到着した。



「行き止まり………?」

「ちょっと、どういう事なのかしら……?」

行き止まりに到着したシード中佐は眉を顰め、エリカはケビンを睨んだ。

「エリカ博士、シード中佐。ここから先に進むためにはお二人にある処置を受けてもらう必要があるんですわ。」

「ふむ……」

「いきなり胡散臭い話になってきたわね。さしずめ、教会お得意の法術ってところかしら?」

「ええ、そんなモンです。具体的に言うと、暗示を受けてもらいます。」

「暗示………」

「ここで見たことは誰にも喋るなとかいうわけ?」

ケビンの説明を聞いたシード中佐は驚いた表情で呟き、エリカはケビンを睨みながら尋ねた。



「いや、中佐なんかは上への報告もあるでしょうからそこまでの無理は言いません。ただ単に、ここで見たことを信頼できる者以外には話さない。……そう心から思ってくれるだけで結構ですわ。」

「ずいぶんアバウトね………まあ、その程度でよければいくらでも思ってあげるけど。」

「こちらも了解した。頭の中念じればいいのかな?」

「いえ、あくまで自然体でリラックスしてて結構ですわ。ほな、行きますよ―――」

2人に答えたケビンは”星杯”が彫られてあるロケットを2人の前に出して聖句を唱え始めた。

「―――空の女神の名において聖別されし七耀、ここに在り。空の金耀、識の銀耀―――その相克をもって秘蹟へ至る道を彼の者らに指し示したまえ。」

ケビンが聖句を唱え終えるとペンダントがより一層輝いた後、シード中佐とエリカに淡い光が包んだ。すると行き止まりだった壁に扉が現れた!



「な………!」

「扉が………!?」

「ご協力、感謝しますわ。信頼できる者以外には話さない―――心から思ってくれたようで何よりです。」

「……なるほど。口先だけだと扉は”見えない”わけか。」

「驚いたな………どういう仕掛けなのかと聞くだけ野暮なのだろうね。」

「ええ、できれば勘弁したってください。……それでは、中へどうぞ。」

その後3人は扉の先に入って行った。



~始まりの地~



「こ、ここは………」

「驚いたな……まさか大聖堂の地下にこのような場所があったとは。」

エリカとシード中佐は扉の先を進み、到着した広い場所を見回して驚いていた。

「一応、リベール王家と七耀教会との盟約によって建造された場所ですわ。この場所の目的はただ一つ………古代遺物の力と機能を抑え、外に広がらんようにする事です。」

「……なるほど。」

「君達騎士団の役目に直結した場所というわけか。とすると、似たような場所はリベール意外にもありそうだね。」

「ま、否定はしません。一応、オレらはこの場所を”始まりの地”と呼んでます。」

「”始まりの地”………やたらと意味深じゃない。さしずめオリジナルはアルテリアにあるのかしら?」

「………………………」

口元に笑みを浮かべて尋ねたエリカの疑問にケビンは呆けた表情で黙っていた。



「あら、図星?」

「いや、なんちゅうか………さすがはラッセル博士の娘さんやなぁと思いまして。」

「あのハゲと一緒にしないでちょうだい。基礎理論はともかく応用工学では私の方が上よ。”カペル”や”アルセイユ”の基本システムにしたって設計担当は私なんだから。」

「へ~、そうやったんですか。……とと、話が脱線しましたわ。」

話を戻したケビンは中央の台座におかれてある何かの物体に2人と共に近づいた。

「―――これが例のブツですか。」

「ああ、その通り―――3日前、浮遊都市(リベル=アーク)の水没地点から引き上げられた古代遺物と思わしき物体さ。」

そしてシード中佐はケビンに3日前、中央工房と軍が共同で半年前の”異変”で崩壊した浮遊都市の遺物をヴァレリア湖で引き上げている時に見つかり、その時に物体が輝いていたことを説明した。



「なるほど……事情は大体わかりましたわ。……しかしこいつは………」

「ええ、見てのとおりよ。すでにその物体から導力反応は消えている。これが何を意味するかわかる?」

「力を失った古代遺物は盟約による引き渡しの対象外……なるほど、博士がオレを待っとった理由がわかりましたわ。」

「フフン。察しが良くて助かるわ。」

「実際、導力反応が消えたのはこちらの大聖堂に渡す直前でね。一時的に預けはしたが正式な引き渡しが済んでいない以上、所有権は曖昧な形になっている。さて………この場合、どうすべきなのかな?」

「………ふむ……痛いトコ突いてきますなぁ。リベールとしてはこれの所有権を主張したいと?」

シード中佐に尋ねられたケビンは真剣な表情で考え込んだ後、二人に視線を向けて訊ねた。



「それを見極めるために私はこの場に同席している。ちなみに主張しているのはどちらかというとエリカ博士だ。」

「もともと中央工房が進めていたサルベージで見つかった物だもの。当然の権利じゃないかしら?」

「……死んだ古代遺物は完全なブラックボックスです。いかなる手段をもってしても解析は不可能やと言われてます。それでも引き取りたいと?」

エリカの話を聞いたケビンは静かな表情で説明した後、苦笑しながら尋ねた。

「ええ、その通りよ。考えてもみなさい。あんな事件があった後なのよ?私はその場にいなかったけど少なくとも我々の常識は根底から覆されてしまったわ。七耀教会(あなたたち)が千年かけて覆い隠してきた真実によってね。それにこれがリベル=アークにあった古代遺物(アーティファクト)と決まった訳じゃないでしょう?謎の自爆によって、崩壊した浮遊都市と共にヴァレリア湖に沈んだ”身喰らう蛇”の戦艦――――”グロリアス”にあった”結社”が開発した何らかの装置の可能性もあるでしょう?もし後者だったら、そちらが引き取る権利はないと思うのだけど?」

「…………………………」

エリカの指摘を聞いたケビンは真剣な表情で黙り込んでいた。



「”身喰らう蛇”とかいう得体の知れない結社も同じ。聞けば聞くほど、その技術水準はデタラメだわ。一体、何が真実で何が起ころうとしているのか………私を含め、大勢の人がもう無関心ではいられないのよ。それこそ、手掛かりがあるなら何でも調べたくなるくらいにはね。」

「……………………」

「博士、そのくらいで。依頼人を問い詰めたところでどうなる問題でもないでしょう。」

説明を聞いて黙りこんでいるケビンを見かねたシードはエリカを宥めた。

「……まあね。とにかく……こちらの事情は説明したわ。この古代遺物―――いえ、ただの金属片の固まり。渡すの、渡さないの?」

「………それは…………」

そしてエリカに尋ねられたケビンが戸惑った表情で呟いたその時

「『その一握りの迷いが邪なものを生んだ―――」

突然エリカ達の背後から女性の声が聞こえてきた。



「!?」

「な………」

(え………)

女性――シスターの登場にシード中佐とエリカは驚き、ケビンはシスターの容姿を見て信じられない表情をした。

「『それは野を這いずり丘を駆け抜け空に災厄を振り撒いた………』―――エゼル記第二節、『解き放たれた災厄』より………」

シスターは聖書の一部を読んだ後、聖書を仕舞ってケビン達に近づいた。

「グラハム卿、遅くなりました。七耀教会、星杯騎士団所属、従騎士リース・アルジェントです。以後、よろしくご指導下さい。」

そしてセルナート総長の話に出ていた新たなケビンの従騎士――――リース・アルジェントは静かな表情で自己紹介をした。



「…………………」

「……また唐突に現れたわね。って、あなた!?」

驚きのあまりケビンが口をパクパクしている中リースを睨んでいたエリカは何かに気づくを顔色を変えた。

「………何か?」

「くっ………騙されないわよ!そんな恰好してるからって騙されてあげないんだから!」

「???」

自分を睨んで声を上げたエリカの言葉が理解できていないリースは不思議そうな表情でエリカを見つめた。



「お、恐るべし星杯騎士団……こんな娘を派遣してこちらの意気を挫くなんて………で、でも!私には強い味方があるわッ!見るがいい、これを!!」

そしてエリカは大声で叫んで笑顔のティータが映った写真をリースに見せた。

「博士、それは………」

「ティータちゃんの写真?」

「………可愛い。」

ティータの写真を見たシード中佐とケビンは呆け、初めて目にしたティータの愛らしさにリースは口元に笑みを浮かべて呟いた。

「いま可愛いって言った!?可愛いって言ったわよね!?そうでしょ、そうでしょ!これがもうホッペぷにぷにで愛くるしくて最高なのよ!うーん、やっぱり可愛いは可愛いを知るのか!」

「「「……………………」」」

「コホン、そういうわけで………あなたがいくら可愛いからって免疫のある私には通用しないんだからね?」

自分の暴走を黙って見つめている3人に気付いたエリカは慌てた後、気を取り直してリースに指摘した。



「あの………先ほどから仰っていることがいささかわかりかねるのですが。可愛いって………その、私のことですか?」

「当たり前じゃない!クールで涼しげなのにどこか幼さを残した端正な容貌!少女から脱皮したばかりのしなやかな身体を包み込む可憐で控えめなシスター服!くっ、なかなかの破壊力だわ…………」

「………………………」

エリカの説明を聞いたリースは冷たい目線でエリカを見つめた。

「はっ…………だから違うんだってば~!」

「………グラハム卿。こちらの方々は?」

「あ、ああ………中央工房のエリカ・ラッセル博士と王国軍のシード中佐や。せやけどお前、グラハム卿って…………」

「なるほど………発見者の方々でしたか。………ご苦労様でした。後はこちらで引き受けます。どうかお引き取り下さい。」

ケビンの疑問にリースは答えず、シード中佐とエリカに頭を下げて口を開いた。



「へっ………」

「え…………」

「ちょ、ちょっと待った!なに勝手に話進めてんねん!」

リースの行動に2人は呆け、リースの独断行動に慌てたケビンは血相を変えてリースに指摘した。

「………グラハム卿の手間を省略しただけです。いくら力を失ったとはいえかの”七至宝”に関わる遺物………おいそれと世俗の者に渡せるとでも………?」

「そ、それは………」

「ふ、ふ~ん。なかなか言ってくれるわね。でも悪いけど盟約が絶対である以上、そっちの法的根拠はないのよ?どうゴリ押しするつもりなのかしら?」

「………法的根拠が無いのはそちらも同じではないかと。盟約を絶対とするなら力を失った古代遺物は誰も所有権を主張できません。ただそこに打ち捨てられた物。それにもしその遺物が”グロリアス”にあった場合でも”身喰らう蛇”が遺跡から盗掘した可能性もある。そう解釈するしかできない筈です。」

「要するに……そっちがこのままガメても文句は言わせないってことね?」

「ありていに言えば。」

「フン、上等じゃない………」

リースと舌戦を繰り広げていたエリカは鼻を鳴らした後、振り向いてケビンを睨んで判断を促した。



「ケビン・グラハム!あなたの考えはどうなの!?」

「………どうなのですか?」

「オ、オレ!?いきなり振られても…………正直言うんなら回収したいのは山々ですわ。せやけど、リベールは色々と協力した仲ですから無碍にするんもちょいと………」

エリカに続くようにリースに尋ねられたケビンは慌てた後、疲れた表情で答えを濁していた。

「ふむ、どちらの言い分にも決め手に欠けるということか。これは面倒なことになったね。」

「ちょっと中佐………そんな他人事みたいに。」

シード中佐の言葉を聞いてケビンが溜息を吐いたその時、ケビンとリースは何かの音を聞いた!



「え………」

「あ………」

音を聞いた2人は呆けた表情で呟いた。

「なんだ、どうした?」

「2人とも………なに目を丸くしてるのよ?」

「な、なにって………」

「……今の聞こえなかったのですか?」

シード中佐とエリカに尋ねられたケビンは戸惑った表情をし、リースは尋ねた。

「だから何が聞こえたって言うの―――え。」

リースの疑問にエリカが答えようとしたその時、何かに気付いたエリカは振り向いて封印されているアーティファクトと思われる遺物を見つめた。



「あ………」

そしてリースが呟くと今まで沈黙していたアーティファクトが突如輝き出し、封印が解かれ、中から小さな”方石”が現れ、宙に浮いた!

「こ、これは………」

「あ、ありえない………だって導力反応が完全に消えていたのよ!?なのに、どうして………」

「……………………決まり、ですね。」

「ああ………」

今まで沈黙していたアーティファクトが起動した事にエリカとシード中佐が驚いている中、冷静な表情をしていたリースの言葉に頷いたケビンはアーティファクトが置かれてある台座に近づいた。



「立方体のアーティファクト………今まで見たことも聞いたこともないタイプや。あえて呼ぶとしたら”方石”といったとこか。」

そしてケビンがアーティファクト――”方石”を手に取ると輝いていた光は収まった。

「あ………」

「…………………シード中佐………それにエリカ・ラッセル博士。盟約に従い、星杯騎士団、ケビン・グラハムの名において当古代遺物(アーティファクト)を回収させてもらいます。お二方、ならびに関係者の方々の誠意ある対応に感謝しますわ。」

その後ケビンはエリカ達を見送った後、リースと共に大聖堂を出た。 
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