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おっぱい

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2部分:第二章


第二章

「んっ!?」
 夫の胸を見た。何かがおかしかった。彼女が知る夫の胸は逞しく厚い。しかしその胸は何かが違っていたのだ。
 大きいのだ。しかも膨らんでいる。シャツの上からもわかるそれは見るからに異様なものだった。彼女はそれを見てまずは首を傾げさせた。
「見間違いかしら」
 こうも思った。ところが。それは見間違いではなかった。
 シャツも脱ぐと何とそこに現われたのは。女のものだった。幹枝と同じ胸がそこにあった。トランクスを穿いているがそこにあるのは紛れもなく女の胸だったのだ。幹枝はそれを見て自分の顎が外れたのではないかという程口を大きく開けた。そのうえでこれまで出したことのない大きな叫び声をあげたのだった。
「お、女ーーーーーーーーーーーっ!!」
 叫びながら夫の部屋に飛び込む。すると目の前にいる夫は妻の方に顔を向けてトランクス一枚で固まっていた。そしてその胸は。紛れもなく女のものであった。
「み、幹枝!?」
「あなた、どうしたのその胸!!」
 さっきと同じこれまでにない慌てふためいた声で康友に問う。
「何の冗談なの、それって」
「冗談なんかじゃない!」
 夫はこう妻に言い返した。
「俺だって困ってるんだよ」
「困ってる?」
「ああ、そうだよ」
 まだ学生の頃の名残が残る若々しい顔に困惑の色を見せてきた。七三で分けた髪が揺れる。しかしその揺れ方が今では。女の髪のそれに見えるのだった。
「何でこうなったのかな」
「自分ではわからないのね」
「わかると思うか?」
 二人は台所のテーブルに向かい合って話をしている。何かあればいつもそこで向かい合って座って話をしている。今日もその場所を使っているのだ。
「男がこんな。急に」
「急になのね」
「そうだよ」
 困り果てた顔での言葉だった。
「何が何なのか。全く」
「そうなの」
 幹枝はここまで康友の話を聞いていた。しかしそれを聞いたうえで一つ気になることがあった。そちらを夫に対して問うことにした。それで実際に問うてみた。
「ところで」
「何だ?」
「下の方はどうなの」
「下というと」
「だから。女にはなくて男にはあるものよ」
 こう表現してきた。
「ああ、あれか」
「あっちはどうなのよ。異常はないの?」
「ああ、ないよ」
 その問いにはこう答えるのだった。
「そっちはな」
「そう。じゃあそちらは問題ないのね」
 それを聞いてまずは安心した。とりあえずそっちが大丈夫なら、と妻として安心するのだった。どちらかといえば女として安心したと言うべきか。
「よかった」
「それはまだよかったさ」
 本人もそれは言う。
「けれどな。何でまた胸が急に」
「それでこれからどうするの?」
「医者にでも行こうか」
 首を捻りながらこう述べるのだった。
「やっぱりな。これはそうでもしないとな」
「まあそうでもないと治らないわよね」
 幹枝も康友の言葉に頷いた。
「手術するなり何なりしてね」
「そうだよな。やっぱり」
「それにしても」
 困惑したままの夫の顔を見るのも少し飽きてきたので胸を見る。見れば見る程大きくしかも形が非常にいい。女の幹枝から見てもそう思わせる胸だった。
「いい胸ね」
「そうか?」
「そうよ。私も胸には自慢があるけれどね」
 その豊かで張りのある胸は彼女の自慢の一つなのだ。ところがこともあろうに夫がその自分より見事な胸を持ってしまった。男がだ。それでどう言っていいのかさえわかりかねていたのである。
「それでも。これは」
「ないっていうのか?」
「その通りよ。何よ」
 溜息さえつくのだった。
「こんなのって。ないでしょ」
「けれど俺は困ってるんだ」
 相変わらず困惑した様子を見せる。
「急にこんな胸をもらってな」
「まあ困るのはわかるわ」
 自分も下に急に夫と同じものができれば、と思うとわかることだった。これで困惑しない方がおかしい話だ。
「それでもよ」
「それでも。何だ?」
「やっぱり手術するのよね」
「ああ」
 妻の言葉にはっきりとした顔で頷いてきた。
「そのつもりだよ。こんなのそのままにしておいたら」
そうよね。やっぱり」
 あらためて夫の言葉に納得するのだった。
「それはね」
「だからどうしたんだ?俺が手術したら嫌なのか?」
「別に。ただ」
 しかしそうは言いながらも顔は笑っている。くすりとしたものになっていた。
 
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