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秀吉と二人の前田

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第一章

                  秀吉と二人の前田
 豊臣秀吉は前田利家とは共に織田家に仕えていた若い頃からの馴染みだ、それこそ家族ぐるみの付き合いである。
 だから太閤となってからも親しく付き合っている、秀吉も砕けた物腰であり利家にしても仕えてはいるが臆したところはない。
 その利家にだ、秀吉はある日笑って尋ねた。
「又左殿、甥御はどうしておられる」
「甥といいますと慶次ですか」
「そうじゃ、あの者は今はどうしておるか」
「どうしたもこうしたもありませぬ」 
 むっとした顔で返した利家だった。
「それがしに悪戯をして当家を出た後は」
「御主に冬に水風呂をご馳走した後で、じゃな」
「あの時ぶん殴ってやろうと風呂から飛び出たら」
 その時にはというのだ。
「笑って出奔しました」
「ははは、そうらしいのう」
「全く、あの馬鹿者は」
 目を怒らせて言う利家だった。
「昔からああでして」
「傾いておるとか」
「若い時のそれがし以上に」
 利家は若い頃は傾奇者として知られていた、派手な身なりで武辺を出してそのうえで戦の場で暴れていた。
「傾いています」
「天下一の傾奇者というらしいな」
「どうやら」
「それでは」
 ここまで聞いてだ、秀吉は持ち前の好奇心を出して言った。
「一度会ってみたいのう」
「そこでそう言われますか」
「わしの気質は知っておろう」
「全く、若い時から」
「ははは、わしの前でどれだけ傾くか」
「それを見たいのですな」
「是非な」
 笑っての言葉だった。
「そうしたいからな」
「慶次をこの大坂に呼びますか」
「今あ奴は何処におる」
 出奔したとはいえ叔父である利家に尋ねた。
「居場所はわかるか」
「都におります」
 利家は即座に答えた。
「そこで日々遊んでおります」
「それではじゃ」
「都にいるあ奴をですか」
「大坂に呼んでじゃ」
 そのうえでというのだった。
「会おうぞ」
「それではですな」
「都に人をやるぞ」
「あ奴は大抵遊郭におるとか」
 利家は秀吉に話した。
「そこに人をやればよいかと」
「どんな身なりかのう」
「背は大きく髪は荒い髷で」
 利家は慶次の体格のこともだ、秀吉に話した。
「傾奇者の中でもとりわけ派手な身なりをしていてやたら大きな煙管や朱槍を持っています」
「わかった、ではな」
「全く、昔からですな」
「わしのもの好きはか」
「興味を持てば見ずにはいられませぬな」
「ははは、猿じゃからな」
 自分の仇名を笑って言った。
「どうしてもそうじゃ」
「困ったことですな」
「困ったと言いながら又左殿も付き合ってくれるではないか」
「昔からのこと故」
 利家もまた笑ってだ、秀吉に返した。
「こうした話も乗りまする」
「面白いからか」
「左様、こうした話に乗ることもまた」
「傾くこと」
「そうでありますからな」
「やはり又左殿もじゃな」
「根はですな」
 それこそとだ、利家も否定しなかった。 
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