魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第2章:埋もれし過去の産物
第44話「心の傷」
前書き
緋雪を喪った悲しみ。
...それはあまりにも深くて....。
=優輝side=
「....ぁ...っつぅ...!?」
ふと、目を覚ます。そして、それと同時に体とリンカーコアに激痛が走る。
「っ、ぁ...霊力による自然治癒促進...切れてたか....。」
昨日は、椿たちが夕飯を作ってくれて、それを食べた後は風呂に入る体力もなかったのでそのまま寝てしまったんだっけ...?
「つぅ...リビングに...行かなきゃ....。」
筋肉痛のように、一晩寝て痛みが悪化していた。
それでも、我慢してリビングへと向かおうとする。
「..って、優輝!?無理しないの!ほら、私に掴まって!」
向かおうと、扉へ歩き出そうとして、様子を見に来たらしい椿に助けられた。
「ひ、一人で...行ける...!」
「嘘言わないの!私だって神の端くれだから、貴方の容態は見ただけでも分かるのよ!」
そう言って無理矢理椿は僕を支える。
「居間へ行くのでしょう?負ぶってあげるわ。」
「っ....ありがとう...。」
だけど、椿の言うとおりだ。僕は無理をしている。
素直に、僕は椿に負ぶられてリビングへと向かった。
「....えっ?士郎さん?」
「...おはよう、優輝君。」
リビングへと行くと、既に作られていた朝食と、なぜか士郎さんがいた。
「なんで、士郎さんが...。」
「...椿から事情は聞かせてもらったよ。」
「っ...!?」
士郎さんの言葉に僕は驚き、椿を見る。
「...隠し通せないのは、優輝も分かっているでしょ?なら、信用ができ、頼れる人には話しておくべきだと判断したわ。」
「椿...。」
確かに、緋雪が死んだなんて隠し通せる訳がない。
その点においては、良い判断だと思う。
「...慰めの言葉はむしろ逆効果だと思うから言わないが...何か、してほしい事はあるかい?」
「....緋雪が死んだことには変わりありません。...そして、それを隠しておくのはただの“逃げ”です。....なので、葬式を....きちんと、緋雪を葬らせてください。」
「...分かった。ただ、魔法の事は隠すしかないよ?」
「構いません。」
体も心もボロボロな状態の僕が何かするより、士郎さんに任せた方がいいだろう。
「それと優輝君。君には一度、病院に入院してもらう。」
「えっ?」
唐突な言葉に僕は聞き返してしまう。
「椿から君がボロボロだと言われてね。...表面上は取り繕ってるけど、バレバレだよ。」
「っ.....。」
「...世間上は事故と言う事にしておく。...まずは、体を癒してくれ。」
「....はい。」
確かに、士郎さんの言うとおり僕は体を癒すのが先決だろう。
魔法も使えなく、ちょっとした治癒魔法でも僕のリンカーコアが過剰に反応して激痛を迸らせる。...霊力で自然治癒を促進させるしかない今、安静にしておくべきだな。
「...当事者ではない僕は、君の今の気持ちがどんなのかは分からない。君自身も容易に理解はされたくないだろう。....だけど、辛ければ頼ってくれ。分かったかい?」
「.....はい。」
僕の琴線に触れないように言葉を選んで気遣えてる時点で、士郎さんは十分に僕の気持ちを理解できてると思う。
...それでいて、理論や言葉では解決できない事は避けてくれている。
それが、本当にありがたかった。
=out side=
「(....あれ?優輝君、遅刻かな?)」
月曜日、学校にて司はSHRの時間なのに優輝の席が空席なのに気付く。
「ほらー、皆座れー。SHRだぞー。」
担任の先生がやってきて、SHRが始まる。
「...えっと、だ。皆に重要なお知らせがある。....皆は志導が来ていない事に気付いていると思うが....その志導が、先日事故に遭った。」
「え....!?」
先生の言葉に、クラスの全員がざわめく。
優輝はそこまで深くなくとも広く友好関係があったため、皆驚いたようだ。
「(嘘...!?一昨日、あんなに元気だったのに...!?)」
司は、一昨日に会ったばかりなので、事故に遭ったのが信じられなかった。
「...兄妹揃って事故に遭い、志導の方は軽傷だったが....四年生の妹の方は.....。」
「っ....!?」
今度は、ざわめく事も出来なかった。
「...っ、いや、なんでもない。..とにかく、志導は事故によって入院中だ。...なので、皆でお見舞いの手紙を次のLHRで書いてもらう。」
失言だったのか、先生は誤魔化したが、全員今ので察してしまったようだ。
先生の言葉に耳を傾ける事もできず、ただ人が死んだ事を実感できずにいた。
「.....連絡は以上だ。」
自身も動揺して言わないべきだった事を言ってしまった先生は、さっさとSHRを終わらせ、教室を出て行った。
「(....嘘....?緋雪ちゃんが....?)」
皆が沈黙する中、緋雪とも仲が良かった司は、信じられずにいた。
「(...嘘、嘘だよ...!きっと、緋雪ちゃんの教室では...!)」
SHRと一時間目の間の休み時間を使って、司はすぐさま緋雪がいた教室へと向かった。
「アリサちゃん!すずかちゃn....っ!!?」
教室の扉を開け、確認を取ろうとアリサとすずかを呼ぼうとして、司は言葉を詰まらせた。
「....ぇ....?」
教室内の空気が、あまりにも重かったのだ。
...まるで、先程伝えられた事が事実だと証明するかのように。
「司...さん...?」
「ぁ..す、すずかちゃん...緋雪ちゃん、は....?」
信じられない、信じたくない。
そんな気持ちで、恐る恐る司はすずかに聞いた。
「っ.......。」
「う、そ....!?そん、な.....!」
信じたくなかった。しかし、それは事実だった。
その事を悟り、司は膝から崩れ落ちた。
「...さて、志導へこの手紙を届ける訳だが...行きたい奴はいるか?」
午後にあったLHRで、先生がそう言う。
しかし、衝撃的な事を知った皆は、それどころじゃなかった。
「.....はい。」
「.....聖奈だけか?」
その中で、唯一司だけが手を挙げ、司が優輝のお見舞いに行くこととなった。
「(優輝君に、訳をちゃんと聞かなきゃ...!でないと...でないと...!)」
...尤も、司自身も心の中では焦燥感に煽られていたが。
―――コンコンコンコン
「.....はい?」
「...優輝君、お見舞いに来たよ。」
「司さん?...入っていいよ。」
病室のドアをノックし、司は優輝の病室へと入る。
「.....優輝君、あの、これ....。」
「お見舞いありがとう司さん。...花束と...手紙?」
「...クラスの皆からだよ。」
なるべく...できるだけ平静を装いつつ、司は優輝へお見舞いの品を渡す。
「ありがとう。後で読んでおくよ。」
「うん。...それで、えっと...。」
まだ信じられない気持ちが強く、司は口ごもる。
「....緋雪の、事...?」
「っ....!....うん。」
司の考えを汲み取ったのか、優輝は司が聞きたい事を言い当てる。
「...学校に伝えられた通り...って言っても、信じられないよね?」
「....うん。緋雪ちゃんは....言ってはなんだけど、吸血鬼。...生半可な事故で死ぬ訳ないよね?....どう考えても、魔法等に関連した事件に巻き込まれた...。」
「........。」
司は信じられないながらも、ある程度の予測は立てていた。
その予測を、優輝は黙って聞いた。
「...概ね、当たってるよ。」
「....でも!それだと、どうして私が...クロノ君とか、他の魔導師が気付かなかったの!?それも、つい一昨日か昨日の事だよ!?」
信じられない。嘘であってほしい。
そんな想いを込めて、司は事の真偽を確かめようとする。
「....事件の細かい事情は話せない...というか、記憶を封印してるから分からないけど、事件は今より過去で起きたんだよ。...だから、皆気づかなかった。」
「え...?過去....?」
“過去で起きた”という言葉に戸惑う司。
ちなみに、記憶を封印している優輝だが、覚えている事だけでも過去に遡った事は推測できた。先程司が言った通り、日付は全く進んでいないのを疑問に思えたからだ。
「....ごめんな、司さん。せっかく、“嫌な予感がする”って忠告してもらったのに、結局命は助けられなかった...!」
「ぇ...あ.....。」
過去に遡る前、司に言われた事を重要視しきれていなかった事を謝る優輝。
「...司さんには、話しておくよ。...過去に....緋雪に何が起こったのかを....。」
ゆっくりと、優輝は司に覚えている事のあらましを話した。
「―――と言う訳だよ。....士郎さんに頼んで、世間には事故扱いにしてもらってる。」
「.....そん、な....。」
絶望に近い、そんな気持ちを司は味わっていた。
信じられない。その気持ちは途轍もなく強い。
しかし、心のどこかで分かっているのだ。“それは紛れもない真実だ”と。
...過去での司は、事件の全てを知っていて、そして記憶は封印されている。
その名残が今の司にあるのだろう。
「...っ、ごめん優輝君...せっかくお見舞いに来たのに....ちょっと気分悪くなっちゃった。...帰っていい?」
「....いいよ。僕こそ、信じたくない事を話してごめん。」
ふらふらと、少し覚束ない足取りで司は優輝の病室を後にした。
「(....優輝君が、一番ショックを受けているのに....。)」
―――どうして、そんな平然を装おうとしているの...?
司は帰路を歩きながら、病室でのやり取りを思い出していた。
優輝は、平然を装っているつもりだったのだが、司にはそうではないと見破られていた。
「(...どうして....どうしてこんな事に....。)」
―――過去に起きた事だから仕方ない?...違う。
「(過去にも私はいた。だから仕方ない訳がない。)」
グルグル。グルグルと思考が回る。
それが運命だと、仕方ない事だと思いたくないから。
「(何がいけなかったの?何が悪かったの?.....あぁ、そうだ..)」
―――....悪いのは、私が存在してるからだよ...。
....そして、その思考は負の方面へと向かっていく。
根拠はない。無理矢理こじつけたかのように、司は自分のせいだと決めつける。
「(私がいたから、私なんかと二人が関わってしまったから、こんな....こんな事に...!!)」
一種の狂気のような、そんな歪んだ思考に司は囚われて行く。
「(全部...全部全部全部全部!!私が!私がいるからいけないんだ!!私がいるから皆を不幸にするんだ!!“お母さんお父さん”の時も...今回だって!!)」
叫んで気持ちをぶちまけたくなるのを抑えながら、司はそう考える。
「.....もう、僕なんて....。」
「―――司!」
「っ....!」
突如、呼びかけられた事に硬直する司。
「司!どうしたのですか!?」
「ぇ、あ....リニスさん....?」
「使い魔のパスに違和感があったので様子を見に来たのです。」
使い魔との魔力によるパス。
それはある程度の精神状態なら、パスで繋がっている相手の状態が分かる。
それによってリニスは司の所へ駆けつけたのだ。
「...なにがあったのですか?」
「っ...なんでもない。」
リニスの問いに、司はなんでもないと答える。
...もう、自分に関わらせたくないがために。
「嘘でしょう?」
「...緋雪ちゃんの事で、動揺してただけだよ。」
「.....話を聞かせてもらっても?」
司はリニスに優輝から聞いた話を話す。
「....それで司は先程のような....。」
「...うん。」
嘘だ。そう、司は心の中で自虐する。
リニスは緋雪が死んだショックで先程のような精神状態になっていると思うが、実際は違う。ただ、歪んだ思考で自分を責めていただけにすぎない。
「...とにかく、今日はゆっくり休んでください。まずは、心の整理が必要です。」
「...分かったよ。」
リニスに言われた通り、司は早く家に戻ろうとする。
リニスも心配なため、付いてきた。
「(....どうせ、私なんて...。)」
暗い気持ちのまま、司は家へと帰っていった。
―――....ズズ....。
...シュラインの中にある存在が、黒く染まった気がした....。
=優輝side=
「.....はぁ....。」
視界に広がるのは、緋雪の葬式として装飾された家。
ささやかではあるが、きっちり葬式は済ます事になっている。
僕も入院しているけど車椅子で参加した。
「緋雪ちゃん....。」
「緋雪....。」
...参加したのは、高町家、月村家、バニングス家など、知り合いの家族や、他には魔法関連の人達。....皆、話を聞きつけて来れる人は来たようだ。
「....優輝、大丈夫か?」
「...クロノか...。...無事に見えたら、お前の目は節穴だぞ。」
「.....だろうな。」
クロノが僕を心配して声を掛けてくれる。
ちなみに、クロノは執務官の身でありながら、態々急遽有休を取ってきたらしい。
「...家族を、二度も失う事になるなんてな...。」
「.......すまない。」
ふと、自嘲気味に呟いた僕にいきなり謝ってくるクロノ。
「...どうしたんだよ、いきなり。」
「...ただ、僕は無力だと思ってね...気にしないでくれ...。」
苦虫を噛み潰したような...思い出したくない事を思い浮かべたような顔で、クロノは僕にそう言った。
「.....無力を感じてるのは、僕の方だよ。」
「それでも君は、よくやった方だ。...すまない、君も一人の方が落ち着けるだろう。そろそろ僕は向こうに戻ってるよ。」
そう言ってクロノは管理局組の方へ戻る。
...今はその気遣いだけでも辛いんだけどね...。
「(親を失い、次は妹を失う....か。まるで疫病神だな。僕って。)」
それなのに、僕だけは生きている。
なんとなく、それがもどかしく感じられた。
「......。」
葬式が終わり、葬式の片づけを黙って見ている。
高町家の人達が気を利かせて片づけを手伝ってくれたようだ。
ちなみに、僕は無理をしないようにじっとしておくように言われた。
「(....死に別れって、ここまで辛かったっけな...?)」
僕が今まで経験した死に別れは、前世での両親と聖司。
それと、世間上ではあるが、今世の両親。
「(...皆、確かに辛かった。でもここまでは...。)」
つい先日まで知っていた人物と会えなくなる。
確かにそれは辛い。だけど、今回ばかりは違った。
「(緋雪だから....シュネーだから...か。)」
ムートだった時の、大切な幼馴染だから。
家族で、僕の妹だったから。
...一度助けられず、そして二度目の機会でも命を助けれなかったから。
チャンスを逃し、そして、僕自身が殺した。
だからここまで辛いのだろう。
「(...全部、全部僕の力不足だな...。)」
あの時、僕がシュネーをもっと早く助けれたら...。
あの時、僕が解決策を編み出せていたら...。
...全て、僕が至らなかったせいで、緋雪の命は喪った。
「っ......。」
悲しみの夜は過ぎて行く。
しかし、心に空いた穴はそのままで、喪ったモノは戻らない。
―――心に刻まれた傷はあまりに深く、その痛みからは逃れられない...。
後書き
↑悲壮感を出そうと頑張ってみた結果。
司は、優輝に次いで緋雪を喪って傷ついています。
司自身の歪さゆえに、自分のせいで不幸な運命になったと、そう思い込んでいるからです。
相変わらず原作キャラを上手く動かせない...。
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