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英雄伝説~焔の軌跡~ リメイク

作者:sorano
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第69話

~アルセイユ・会議室~



「なるほど……そんな事があったのか。」

「とりあえず、その”β”は博士に渡しておくわね。あ、それと塔の中でこんなのを見つけたんだけど。」

アルセイユに戻り、ラッセル博士に翡翠の塔での出来事を伝えたエステルは”怪盗紳士”が回収する事なく塔の最上階の装置に設置していた”ゴスペル”とデータクリスタルを渡した。

「ほう……古代導力文明で使われていた情報を保存するための記憶媒体か。」

「内部のデータが破損してしまっているんですが何とか復元はできませんか?」

「そうじゃな……モノ自体は結晶回路(クオーツ)と同じ七耀石素材を使っておるようじゃ。時間はかかるが”カペル”なら何とか解決できるかもしれん。」

「お願いしちゃっていい?」

「うむ、任せておくがいい。しかし『裏の塔』とも言うべき、別の空間に広がる内部構造か……うむむ……わしも付いていけばよかった。」

「お、おじいちゃあん……」

「”執行者”が待ち構えているとわかっている場所に護衛が必要な人物を普通連れて行けるかっつーの。」

裏の塔の内部構造に興味津々の様子のラッセル博士の言葉を聞いたティータは苦笑し、ルークは呆れた表情で指摘した。



「おそらく、あれこそが”四輪の塔”本来の姿でしょう。”輝く環”を封印する”デバイスタワー”としての。」

「それが元に戻ったって事は安心してもいいハズやけど……屋上の装置も止まったのはちょいとばかり気になるなぁ。」

「ええ……しかも今までリベール各地で行った”実験”と違い、”ゴスペル”を回収せずに去った事も気になります。」

「………俺達に回収されるとわかっているにも関わらず回収しなかったという事は……その”ゴスペル”は”既に役目を果たし、結社にとっては無用の物になった”と考えるのが妥当だろうな。」

「そう、ですね。そして”ゴスペル”を設置された装置が全て停止した時、”何が起こるか”が、一番気になります。」

屋上の装置や”ゴスペル”を回収せずに去った事が気になっていたケビンやイオン、バダックとアリエッタはそれぞれ考え込んでいた。



「ふむ……確かにな。」

「いずれにせよ……このまま”結社”の連中を放っておくわけにはいかないわ。急いで次の塔に向かわなくちゃ!」

「ユリア大尉、他の塔の情報は入っているかい?」

「先程、ツァイス方面の斥候部隊から続報が入りました。”紅蓮の塔”に現れたのは黒眼鏡をかけた男だったそうです。」

「あ……」

「”痩せ狼”か……」

レイスの質問に答えたユリア大尉の話を聞いたエステルは不安そうな表情でジンを見つめ、アガットは目を細めた。



「へへ……やっと直接、やり合えるチャンスがめぐってきたか。」

「ジンさん……」

「エステル、ヨシュア。”紅蓮の塔”には俺も付き合わせてもらうぜ。」

ジンが紅蓮の塔への同行を申し出たその時部屋に備え付けられてある通信機がなった。

「―――シュバルツだ。何があった?…………何?わかった、報告ご苦労。……先程更に”紅蓮の塔”についての続報が入った。身の丈程ある巨大な斧を持った長髪の青髪の大男が先程”紅蓮の塔”の内部に入っていたそうだ。」

「一体何者かしら……?」

「身の丈程ある巨大な斧を持った長髪の青髪の大男……?何かどっかで見たことがある特徴ね……?」

「エステルさんもですか?実は私もです。」

「あ、わたしもなんだか見たことがある特徴だなって思いました。」

ユリア大尉の話を聞いたシェラザードは考え込み、エステルやクローゼ、ティータはそれぞれ首を傾げていた。



(坊ちゃん、今の話の特徴を聞く限り……!)

「ああ、間違いなくバルバトスだな。」

「あ………っ!」

「確かに私達が”ハーメル”で戦ったバルバトスの特徴と同じだね。」

シャルティエの言葉に頷いたリオンの推測を聞いたエステルは目を見開き、ソフィは静かな表情で頷き

「うふふ、話にあったリオンお兄さんと同じ世界から現れた”狂戦士”ね。”紅蓮の塔”に入ったという事は自分にとっての獲物――――”強者”である”痩せ狼”を狙ってかしら?だったら、レン達にとっては好都合ね♪」

「好都合ってどういう事よ?敵が増えるんだから、むしろあたし達にとっては不都合じゃない。」

レンが呟いた言葉の意味がわからなかったエステルは眉を顰めて訊ねた。

「だってもしそのバルバトスが”痩せ狼”と戦ってくれたら、レン達は互いが疲弊している瞬間を狙って両方制圧して”漁夫の利”を得る事ができるじゃない♪それにもしこの策が成功したら、バルバトスとの戦いによって逃げる事もできないくらい疲労困憊になった”執行者”を簡単に捕まえて”結社”の戦力を低下させることができる事に加えて、今後の”結社”の動きを知っている人を確保する事もできるから、レン達にとっては一石二―――いえ、一石四鳥じゃない♪」

「レ、レンちゃ~ん……」

「相変わらず”正道”の遊撃士では思いつけないくらいのとんでもなく腹黒い事を思いつく嬢ちゃんだな……」

「ホントよね……手段を選ばずに”結果”だけを求めるなんて考え、”猟兵”の考え方に近いわよ?」

「え、えっと……レンちゃんは本当に遊撃士なのよね??」

そしてレンが考えている事を聞いたその場にいる全員が冷や汗をかいている中、ティータは疲れた表情で呟き、フレンとシェラザードは呆れた表情でレンを見つめ、ステラは表情を引き攣らせてレンを見つめた。



「まあ、レンの言う事にも一理あるけど……エルモ温泉での戦いを考えると万が一二人がぶつかり合ったとしても、”痩せ狼”はともかくバルバトス・ゲーティアを容易く制圧できると思わない方がいいでしょうね。」

「はい……あの”痩せ狼”を圧倒していましたからね……」

真剣な表情をしているアーシアの意見にクローゼは不安そうな表情で頷き

「それよりも今の状況だと、最悪僕達と”痩せ狼”、そしてバルバトスによる三つ巴の乱戦に発展する可能性も考えられます。ですから”痩せ狼”と戦っている時に万が一バルバトスが現れた場合はレンの提案通り、一旦距離を取って決着が付くまで見守って、残ったもう一人を制圧するやり方がベストだと思います。」

「で、でもそれだとジンさんが……」

ヨシュアの提案を聞いたエステルは不安そうな表情でジンを見つめた。

「……俺の事は気にする必要はないぞ、エステル。ヴァルターとの戦いと遊撃士としての仕事……どちらを優先すべきかは理解しているし、幾らなんでもヴァルターと同時にヴァルターを圧倒した男を相手にするのは無謀である事はわかっているしな。せいぜいヴァルターとの戦いの時にバルバトスが現れない事を女神に祈っておくぜ。」

「ジンさん…………」

そしてジンの答えを聞いたエステルは複雑そうな表情をした。



「―――それよりもバルバトスが現れた場合の対策を考えるべきだ。」

「そうだな……”執行者”を圧倒したという話なのだから、相当な使い手だろうから対策は必須だな。確か話によるとヨシュア達はバルバトスの撃退に成功したとの事だったが……」

ジンの提案にバダックは頷いてヨシュアに視線を向けた。

「……ええ。ですが正直な所バルバトスを撃退する事ができたのはソフィとリオンさんのお陰で、僕はあまり役に立てなかったと思っています。」

「ええっ!?本当にそうだったの?」

ヨシュアの答えを聞いて驚いたエステルはソフィとリオンに訊ね

「そんな事はないよ。ヨシュアがスピードでバルバトスを攪乱してくれたお陰で私達も戦いやすかったし。」

「フン、あの時のお前は運悪くバルバトスが独自のカウンターを放つ前の行動が多かっただけだ。初見で奴と戦ったにしては、健闘していたくらいだ。」

ソフィは首を横に振って答え、リオンは鼻を鳴らして答えた。



「独自のカウンターだと?」

「その言い方だとまさか、そのカウンターを放つ前の行動に何か法則みたいなものでもあるのか?」

リオンの話の中にあったある言葉が気になったアガットは眉を顰め、ルークは不思議そうな表情で訊ねた。

「ああ。どうやら奴は戦いに独自の美学を持っているようでな。昌術やアーツ―――いわゆる魔法系の攻撃に対しては足元に重力を発生させる地属性昌術―――”エアプレッシャー”から上空から岩石を降り注がせる地属性昌術――――”シリングフォール”へと連携するか、もしくは闇の魔空間を発生させて攻撃する闇属性―――このゼムリア大陸で言えば時属性中級昌術―――”イービルスフィア”。後退した時に対してのカウンターは同じく”エアプレッシャー”から”シリングフォール”への連携。回復魔法に対しては上空と地面にそれぞれ暗黒の魔方陣を発生させて広範囲を攻撃する時属性上級昌術の”エクセキューション”。背後からの奇襲に対しては奇襲した者を上空へと投げた後炎の弾丸を降り注がせる火属性中級昌術―――”バーンストライク”による追撃。そして回復薬等アイテムを使った場合は、アイテムを使った者に秘奥義―――Sクラフトクラスの強烈な攻撃を叩き込む。ちなみにそれぞれのカウンター行動を取る前に必ず叫ぶ台詞があってな……術行動に対してのカウンター時は『術に頼るかザコどもが!』か『いつまでも術に頼るか!』。後退に対してのカウンター時は『男に後退の二文字はねえ!』。回復行動に対してのカウンター時は『回復晶術だと?貧弱すぎるわ!』。背後からの奇襲に対するカウンター時は『俺の背後に立つんじゃねえ!』。アイテム使用時に対してのカウンター時は『アイテムなぞ使ってんじゃねえ!』だ。」

そしてリオンがバルバトスの行動パターンについて答えるとその場にいる全員は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。

「な、なにその理不尽なカウンター……」

「幾らなんでも自分勝手過ぎんだろ……」

「つーか、術に対するカウンター時にもそいつも術を使っている癖に『術に頼るかザコどもが!』や『いつまでも術に頼るか!』とか叫ぶとか行動と台詞が矛盾してんだろ……」

「うふふ、レンはアイテムを使用した時に対してだけ、どうしてそんなに過剰な攻撃を加えるのかが気になるわね♪アイテムに関して何か嫌な想い出でもあったのかしら♪」

(というか坊ちゃん、それぞれの行動に対するカウンター内容はともかくバルバトスのカウンター時に叫ぶ台詞までよく一言一句間違えずに覚えていましたねぇ。)

「僕だって覚えたくて覚えた訳じゃない!奴と何度も戦っていれば、嫌でも頭の片隅に残るぞ、普通は!?」

我に返ったエステルはジト目で呟き、フレンとルークは呆れた表情で呟き、レンは小悪魔な笑みを浮かべ、苦笑しているシャルティエにリオンは顔に青筋を立てて声をあげて答え、剣であるシャルティエと会話をしている様子のリオンを見たエステルを除いたその場にいる全員は再び冷や汗をかいた。



「ふ~む………話には聞いていたがあれが特定の者にしか声が聞こえず、おまけにコア自身が意志を持っている上コア自身が自ら起動して魔法(アーツ)のような事もできる異世界の剣――――”ソーディアン”か。技術者としては一体どんな技術が使われているのか調べたいの~。」

「お、おじいちゃあん。気持ちはわかるけど、シャルティエさんはリオンさんにとって大切な剣だから、そんな事をしたらダメだし、もし調べてシャルティエさんを壊したりしたら、わたし達の技術じゃ直せないからダメだよ~。」

興味ありげな表情でシャルティエを見つめるラッセル博士にティータは疲れた表情で指摘し

「むう……ならばせめて”カペル”でその剣を調べさせてくれんかの?」

「断る!大体貴様のような技術と聞けば目の色を変えるマッドサイエンティストにロクな奴がいないのは今までの経験でわかりきっているから、信用できるか!」

(アハハ……確かにハロルドの件を考えたら、そう思ってしまうのも無理はありませんね。)

諦めない様子のラッセル博士を睨んで叫んだリオンの言葉を聞いたシャルティエは苦笑しながらある人物を思い浮かべ

「マッドサイエンティストとは失敬な奴じゃの。むしろマッドサイエンティストと言う言葉が当てはまる人物はエリカの方じゃろうに。」

「ア、アハハ……………」

ラッセル博士の言葉を聞いてある人物を思い浮かべたティータは冷や汗をかいて苦笑していた。



「えっと……”エリカ”って、誰?」

「あ、うん。わたしのお母さんの事だよ、お姉ちゃん。前にも話したけど、お母さんはお父さんと一緒に外国のオーブメントが発達していない町や村の人達に技術指導をしているの。」

「フフ、純粋で健気な性格をしているティータちゃんのお母さんだから、性格もきっとティータちゃんに似ているのでしょうね。」

エステルの疑問にティータは答え、ステラは微笑みながら推測を口にしたが

「え、えっと……その……」

「エリカがティータに?そんな事は天地がひっくり返ってもありえんわ。唯一似ておるのは容姿だけで、性格はティータと比べたら月とスッポンなくらい全然似ておらんぞ。」

ティータは答えを濁し、ラッセル博士は呆れた表情で答え、ラッセル博士の答えを聞いたその場にいる全員は冷や汗をかいた。

「えっと……本当にそうなの?ティータちゃん。」

「は、はい……お恥ずかしながら……というかむしろお母さんの方がおじいちゃんより強引でパワフルな性格でして……後おじいちゃんとはいつも取っ組み合いの喧嘩をしています。」

そしてクローゼの質問に疲れた表情で答えたティータの答えを聞いたその場にいる全員は再び冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。

「この爺さんより強引でパワフルな性格に加えてマッドサイエンティストとか、どんな母親だよ……」

「うふふ、話を聞く限りティータのお母さんはエステルと共通している部分がいくつかあるわね♪」

「何でそこであたしが出てくるのよ。」

「まあまあ。」

アガットは呆れた表情で呟き、小悪魔な笑みを浮かべているレンをジト目で見つめるエステルをヨシュアは苦笑しながら諫め

「あ、それとお母さんは確かユリアさんの大ファンだったはずです。以前のクーデターの件でユリアさんと会った話を手紙に書いた時も、返事の手紙でユリアさんのサインやボタンを貰ってきて欲しい事も書いてありましたし。」

「え”。」

「ア、アハハ…………」

ある事を思い出して苦笑しながら自分を見つめるティータの話を聞いたユリア大尉は表情を引き攣らせ、その様子をクローゼは苦笑しながら見守っていた。



「フフ……話をバルバトスに戻すけど確かにバルバトスのカウンターは理不尽なカウンターだけど、それを逆手に取れば私達にも勝機はあるわ。」

「そうだね。それに前もってそれぞれの行動に対するカウンターの内容がわかっていたら、対処も取りやすいね。バルバトス・ゲーティアと戦う事があればアイテムの使用は極力控えて、もし使うにしてもバルバトスにカウンターも発動させないくらいの複数の仲間で挑んで時間を稼ぐ必要があるだろうね。」

話を戻したアーシアの意見にレイスは頷いた。

「フン、『飛んで火にいる夏の虫』とはこの事だな。”紅蓮の塔”の探索には僕も同行させてもらうぞ。」

「勿論私も。自分の世界に帰る前にバルバトスをできれば討ち取っておきたいし。」

「エステル、バルバトスが現れた時も考えて”紅蓮の塔”に挑むメンバーは他の塔より手強いと考えて兄さんやバダックさんみたいな相当な使い手を選ぶべきだと思う。」

「うん!」

その後アルセイユは紅蓮の塔に向かい始めた。



エステル達が紅蓮の塔に向かったその頃、紅蓮の塔付近の街道、トラッド平原道では結社の人形兵器達と王国軍の戦いが繰り広げられていた……!

 
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