ムーンライトステーション
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夏の夜
ムワムワとした空気がこもっている東京の街。そんな街に似合わない涼やかな星空。
「君は、誰?」
「え?」
東京駅で淋しそうに切ない表情で立っている人に話しかけた。
別にナンパじゃないし、そう…なんだか引き寄せられたように話しかけたんだ。
「あ、いや、どうしたのかな?って思って…。」
明らかに困った表情を浮かべている彼女。
「すみません。迷惑…でしたよね?」
そう言って歩き出した。
人と待ち合わせだろう。だって今日は…
キュ。
…え?誰かに裾を掴まれた?
振り返るとさっきの彼女がいた。
「………す。」
聞き取りずらい。
耳をよくすませて聞いた。
「私を、一緒に暮らさせて下さい。
お願いします。」
え?
彼女の表情は照れている訳じゃないし、ただただ無表情だった。
そして、無表情には似合わない涙をうっすら浮かべていた。
「ちょっと待ってね。」
そう言って人気のない場所に移動した。
**********
「どうして?」
そう聞いても何も言わない。これで5回目だ。
「い…言えない…です。」
やっと口を開けそう言った。言えないほど辛い状況なのかな?
でも、別にそうには見えない。
見えないだけか。
しばらく考えた結果、
「良いよ。」
そう答えた。僕がそう言うとバッと驚いた表情で顔をあげた。
「ほ、本当ですか?」
綺麗な透き通った声で聞いてきた。
「うん。でも1つ条件。」
え?と不安な顔に変わる。
「君の名前と、君のことを教えられるだけ、教えて?」
一瞬顔を歪めた、でもすぐに、
「はい。」
と返事した。
僕が一緒に暮らすことを許した理由は、彼女の目が一瞬だけ、昔の僕と同じ目をしたからだ。
体目的ではないし、酷いこともしようとも思っていない。
さすがに20歳にもなって子供みたいなことはしない。
まぁ、同情したことになるな。
「じゃあ、行くか!」
「え?どこに?…ですか?」
「花火大会。」
爽やかな笑顔で彼女にそう言った。
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