馬の様に牛の様に
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7部分:第七章
第七章
「えっ、嘘」
「あの隣にいる小さいの」
小柄で童顔のやけに可愛い若者がいた。髪型は坊ちゃん刈りにして服装も蝶ネクタイでまるで漫画のお坊ちゃまである。しかしその食べる勢いはかなりのものだった。
何と丈に匹敵する、いやそれ以上とも思える速さだった。まさに電光石火だった。
丈も必死に食べる。しかしだった。勢いは相手の方が上であった。
「化け物か!?」
「あの小さいの」
観客達もそのライバルを見て言うのだった。
「不滅のチャンピオンを超えるのか!?」
「まさか」
チャンピオンとは丈のことである。彼はフードファイトの世界ではかなり高い評価を得ているのである。
「あれだけの化け物が出て来るなんて」
「まさかチャンピオンが敗れる?」
唖然としだした。そのうえで勝負を見ている。
「あの無敗の記録が」
「まさか!?」
「そんな、丈さんが負けるって」
周りの声を聞いた美佳は顔を青くさせてしまった。
「まさか、そんな」
「いや、これは」
「わからないわよ」
だが彼の親達も不安な顔になってこう話すのだった。
「このままじゃ」
「本当に」
「もっと食べないと」
美佳は夫の危機にそう思うようになってきていた。彼は相変わらず必死に食べているがそれでも相手の方が上であった。勢いもまた。
「もっと」
「けれどこのままだと」
「まずいわよ」
義父母は言い合う。その中でだった。
「負けるかもな」
「下手をしなくても。このままじゃ」
我が子の危機が迫ろうとしていたのを見ていた。勝負は決しようとしていた。
だが美佳は思わず叫んだのだった。
「負けないでよ!」
こう叫んだのである。
「チャンピオンなのよね!じゃあもっとしっかり食べてよ!」
この言葉を聞いた丈はすぐに動いた。勢いを増しそのうえで。次々に切られて皿の上に置かれるその肉を食べていたのであった。
そして遂には。彼は勝った。何とか勝利を収めたのだった。
丈は優勝しトロフィーを受ける。そしてその場でインタビューにこう答えたのだった。
「優勝についてのコメントは」
「妻に言いたいです」
まずはこう述べるのだった。
「まずは」
「奥さんにですか」
「美佳!」
観客席にいるその美佳に対しての言葉である。
「君のおかげで勝てたぞ!」
「私のおかげ!?」
「有り難う!どうも有り難う!」
皆で話すのだった。そしてそのうえでだった。
「この優勝、妻に捧げます!」
「よかったわね」
義母が微笑んでその美佳に対して言ってきた。
「あの子美佳さんのことが心からね」
「そうね。心からね」
美佳はそのことがわかったのだった。そうしてだった。
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