英雄伝説~光と闇の軌跡~(FC篇)
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外伝~重剣の追跡~
~アイナ街道・夜~
リベールの名所でもあるエア=レッテンに続く道に先ほどの黒装束の男達が息を切らせていた。
「はあはあ……」
「な、何てしつこいヤツだ!」
「おらおらおらッ!」
そこに勢いをもったアガットが追いついた。
「あんな大剣をかつぎながらどうして付いてこられるんだ!?」
黒装束の男達は逃げながらもアガットの身体能力に驚愕していた。
「ハッ、鍛え方が違うんだよ……らああああああっ!」
ズドン!!
アガットは近くにあった岩にジャンプし、さらに勢いを持って男達に攻撃を仕掛けた。
「クッ……これ以上は振り切れんか……」
「仕方ない、迎撃するぞ!」
男達は装備している武器を構えた。それを見てアガットは不敵に笑った。
「ようやくその気になってくれたみたいだな……てめぇらとの鬼ごっこもここまでで嬉しいぜ。」
「しつこく追って来なければ、死なずにすんだものを……」
「馬鹿な奴だ……、2対1で勝てると思うのか?」
「ハッ、勝てるに決まってるだろ。喧嘩は気合だ!!」
男達の言葉にアガットは不敵に笑って答えた。
「なに……!?」
「ケンカは気合だ。気迫で負けたら終わりなんだよ。尻尾巻いて逃げ出した時点でてめえらは負け犬決定ってわけさ。」
「ほ、ほざけ!ギルドの犬がッ!」
「2人がかりでなぶり殺しにしてやる!」
アガットの言葉に怒った男達は同時にアガットに襲いかかったが
「ふおらあぁぁぁ!フレイムスマッシュ!」
「「ぐあああああっ……!!」」
アガットの強烈なクラフトによって膝をついた。
「クッ……ここで捕まるわけには……」
「フン、とっとと降伏して洗いざらい白状して貰おうか。てめえらが何者で何を企んでるのかをな……」
アガットが男達に近づこうとした時、聞いた事もない青年の声が男達の背後から聞こえた。
「―――それは困るな」
「なッ!?」
男達の背後からは仮面を被った青年が現れた。
「い、いつのまに……」
仮面の青年の気配に気付けなかった事にアガットは驚いた。
「た、隊長!?」
「来て下さったんですか!」
青年の登場に男達は喜んだ。
「仕方のない連中だ。定時連絡に遅れた上こんなところで遊んでいるとは。」
「も、申し訳ありません。」
「いろいろと邪魔が入りまして……」
青年の嘆息に男達は焦って言い訳をした。
「なるほどな……。てめえが親玉ってわけか?」
男達の態度からアガットは仮面の青年の正体を推測して言った。
「フフ、自分はただの現場責任者にすぎない……。部下たちの非礼は詫びよう。ここは見逃してもらえないか?」
「はあ?今……なんて言った?」
青年の突拍子のない提案にアガットは一瞬呆けた。
「見逃して貰えないかと言った。こちらとしても遊撃士協会と事を構えたくないのでね。」
「アホか!んな都合のいい話があるか!」
繰り返すように言う青年の言葉をアガットは否定した。そしてアガットの答えに青年は溜息をついて、男達に指示をした。
「やれやれ……悪くない話だと思ったんだが……お前達、ここは自分が食い止める。早く合流地点に向かうがいい。」
「は、はい!」
「感謝いたします、隊長!」
そして男達は走り出した。
「逃がすか、おらあ!」
「…………」
アガットは追うように追撃をかけようとしたが仮面の青年が邪魔をした。
「てめえ……。フン、まあいい。だったら獲物を変えるまでだ。てめえが持ってる情報の方がはるかに重要そうだからな……」
「フフ……。そう簡単に狩れるかな?」
「上等ッ!」
そしてアガットは重剣を、青年は長剣を構えて戦い始めた!
キン!ガン!シャッ!ズドン!
アガットと仮面の青年はしばらく剣を交わしたりそれぞれの攻撃を回避した。
そしてお互い、ある程度の距離を持った。
「フン、やるじゃねぇか。」
「抑えきれない激情を持って鉄魂を振るうか……お前は自分と似たところがある。」
「………………なんだと?」
「己の無力さに打ちのめされた……そんな眼をしているぞ。」
「………クックックッ、いいねぇ。どこの誰かは知らねぇが気にいったぜ………」
アガットは何かを抑えるように笑った。
「自分もお前のような不器用な男は嫌いではない。お互い、このあたりで手打ちということでどうかな?」
「ふざけんなぁぁぁぁぁぁっ!!黙って聞いてりゃあ知った風な事をほざきやがって!徹底的にぶちのめしてやらぁ!」
「フッ……」
そしてお互いが力を溜めた。
「おおおおおおっ!」
「はああああああっ!」
そして一瞬の刹那、両者が交錯し、仮面の青年が呻いて膝をついた。
「ぐっ……」
「へっ……。口ほどにもないヤツだぜ。ギルドに運んで徹底的に締め上げてやるとするか……」
アガットが青年に近付いたその時、青年の姿が揺らいだ。
「な、何だ?」
そして完全に青年の姿は消えた。その正体に感づいたアガットは信じられない表情で叫んだ。
「こ、これは……分け身のクラフト!?」
そして暗い木々の中から声が聞こえてきた。
「フフフ……悪くない一撃だったがまだ迷いがあるようだな。その迷いが太刀を狂わせる。」
「な、何!?」
「修羅と化するなら全てを捨てる覚悟が必要だ……人として生きたいなら……怒りと悲しみは忘れるがいい。
それではさらばだ……」
そして完全に気配がなくなった。
「……忘れろだと……そんな事、できる訳ねぇだろ……」
アガットは何かを堪えるように呻いた後叫んだ。
「うおおおおおおおっ!!!!!」
その後アガットは一端報告をするために悔しさの思いを忘れずルーアンのギルドに向かって夜闇の道を進んで行った。
「ハア、ハア、どうにか無事につきそうだな。」
「ああ、これも隊長のお陰だな。」
そのころ、仮面の男に助けられた男たちは安堵の息をはいていた。
「残念だったな。そうはさせん。」
「な、何!?」
突然自分達の背後から声が聞こえ、驚いた男達が振り向くとそこには鞘から愛剣を抜いて立っているリウイがいた。
「いつの間に……!」
「リベールの間諜達よ。一度だけ言う。自分達のやった罪を認め、武器を退き大人しく俺に降伏するがいい。命だけは保証してやろう。」
「なっ!?」
「なぜ、我々の正体を知っている……!」
リウイの宣言に黒装束の男達は驚いた。
「2度は言わぬ。是か否か。どちらだ。」
「何者かはわからぬが我等の正体を今の時点で知ってて貰っては困る……!」
「閣下の悲願のために死んでもらうぞ……!」
黒装束の男達――リベール軍大佐、リシャールが率いる情報部の兵、特務兵達は武器を構えてリウイに襲いかかった!しかし
「……雑魚共が。俺に戦いを挑んだ事、後悔するがいい。メーテアルザ!!」
「「ぎゃぁぁぁぁっ!?」」
無謀にもリウイに挑んだ特務兵達はリウイの魔法剣により、一撃で全身血達磨になり、悲鳴を上げて地面に倒れた。
「お前達には少々聞きたい事があるからな。急所は外してある。お前達の謀を聞かせてもらうと同時に罪なき者達を襲った報いも受けてもらうぞ……お前達がやった事、後悔するがいい。」
「く、くそ……」
「か、身体が動かない……!」
リウイの一撃で身体中の神経を傷つけられ、身体が動かない特務兵達は地面に伏せたまま呻いた。
「これは………」
そこに先ほどアガットと戦った仮面の男がやって来て、特務兵達の惨状を見て驚いた。
「た、隊長!」
「も、申し訳……ありま……せん……!どうか、撤退の援護を……!」
特務兵達は仮面の男に希望を持った顔を向けて助けを求めた。
「やれやれ……遊撃士協会の次はメンフィル帝国か。……今日は厄日だな。」
助けを求める特務兵達を一瞬だけ見た後、レイピアを構えているリウイから目を離さず溜息をついて呟いた後、リウイに交渉を持ちかけた。
「このような所で貴殿のような方に会えるとは夢にも思いませんでした。リウイ皇帝陛下。」
「なっ!?」
「た、隊長……!今、なんと……!?」
仮面の男の言葉に倒れている特務兵達は驚愕の表情で仮面の男とリウイを見た。
「フン。お前が特務兵を率いる将の一人、ロランス少尉か。」
「フフ……”大陸最強”と讃えられる陛下に自分のような未熟者の事を知っていただいているとは、恐悦至極でございます。」
「世辞はいい。何の用だ。」
「ハッ……ここはお互い見なかった事にしていただけないでしょうか?」
「ほう………ならば今ここで大使館の周りでコソコソと嗅ぎまわるネズミ共を退かせる事を誓え。こちらとしては鬱陶しいし、こちらに来てから結びつけた同盟を女王の目を盗み、謀を考えているお前達のせいで崩すのは心苦しい。」
仮面の男――ロランスの交渉にリウイは余裕の笑みで答えた。
「ハッ。明日には連絡をして退かせましょう。なのでここは見逃してはいただけないでしょうか?」
「さて……な。お前達がなぜ、俺達を嗅ぎまわるか教えるのならば別にいいぞ。」
「わかりました。………自分達は同盟国の事をより深く知りたかっただけです。」
「フン。要は俺達の弱みを探っていたようなものではないか。………それで俺達の弱みは握れたか?」
ロランスの言葉を嘲笑したリウイは表情を余裕の笑みに変えて尋ねた。
「フフ、まさか。わかった事は陛下は身分もない見知らぬ少女を重用している剛胆な方という事しかわかりませんでした。」
「……ほう………興味深い話だな。部下達にはみな平等に接しているつもりなのだがな。」
ロランスの言葉が遠回しにイリーナの事を示している事に気付いたリウイは目を細めて、先を促した。
「確かイリーナという少女でしたかな?大使館で使用人として働いているその少女だけ、こちらの出身である事がわかりました。……しかもその少女は陛下達のお世話をしているそうですな?」
「………………何が言いたい。」
顔には出さず、リウイはロランスを最大限に警戒した。
「フフ、少し気になっただけですよ。陛下はその少女を大事にしているのか、少女が大使館を外出した際、メンフィル兵らしき私服の者達が隠れて護衛をしている所を見ましたから、何かあると思っただけです。」
「…………………」
「ですから自分達は陛下に安心してもらうために、僭越ながら自分達がその少女を見守っていただけです。」
「余計なお世話だ。その者共も退かせろ。」
「フフ。今後自分達、情報部のする事にメンフィル帝国が関わらなければ貴殿等の事はもう調べない事を誓いましょう。」
「……いいだろう。同盟国とはいえそこまで関わるつもりはなかったしな。ただしあくまでメンフィル帝国が関わらないだけだ。個人が勝手に首を突っ込む事までは責任を持たんぞ。」
「フフ、それだけで十分です。では………」
リウイの言葉にロランスは口元に笑みを浮かべて、呻いている特務兵達に近寄ろうとしたがリウイに阻まれた。
「……どういうおつもりで?」
「そちらこそどういうつもりだ?そいつらは王である俺を襲ったのだぞ?拘束し、事情を聞くのは当然の事だろう?それにその者達は放火や一般市民の襲撃を行っている。王としてそいつらの事は見過ごせん。」
「…………陛下ともあろう御方が約定を反故されるつもりですか?」
「何を言っている。俺はあくまでお前がここに現れた事を見逃し、そちらの謀に関与しないとしか言っていない。誰がこいつらを見逃すと言った?」
「(クッ……やはり向こうの方が上手か。)………………仕方ありません。こう見えても部下思いなので、申し訳ありませんが力づくでもその者達を連れて行く事をお許し下さい……!」
騙された事に気付いたロランスは心の中で舌打ちをした後、長剣を構えた。
「フッ……よく言う。俺を見た時から、殺気を向けていた事に気付いていないと思ったのか?」
「…………………………」
「まあいい。俺に一太刀でも浴びせればそいつらを解放してやろう。ただし、逆にお前が戦闘不能まで陥れば、部下共々拘束させてもらい、貴様等の謀を全て話してもらうぞ。」
「……その言葉、偽りはないでしょうな?」
「誇り高き”闇夜の眷属”の王として、偽りはない事を誓おう。」
ロランスの確認の言葉にリウイはレイピアの切っ先をロランスに向けて宣言した。
「フッ……では……!」
そしてリウイとロランスの戦いが始まった………!
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