納豆ジェネレーション
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2部分:第二章
第二章
「世の中が終わりとかそんなん」
「まあ豆腐とか枝豆で充分やな」
大豆自体は好きなのだった。
「ほな。そういうことでな」
「はいはい」
そんな話をして夕食を食べるのだった。子供の淳はまだ部活である。サッカーが強い高校なのでかなり遅くまで練習しているのである。
「それならね」
「納豆がなかったらええ」
こんな話をしていた。とにかく彼は納豆が嫌いだった。しかし次の日。その日はたまたま健吾の仕事が遅く淳と一緒の食卓だった。そこにあったのは。
「それだけはあかんやろが!」
「どないしたんや父ちゃん」
息子の淳は父親がいきなり食卓において叫びだしたのでまずは呆然とした。
「いきなり。酒飲み過ぎたんか?」
「アホ、まだ飲んでないわ」
それはすぐに否定する健吾だった。とりあえずその細い目と細長い顔はまだ白い。一応ビールは側にあるが。なお息子の淳はあまり細長い顔ではなく長髪で細い目に厚めの唇をしている。髪は黒いが結構童顔で可愛いと言った方がいいような顔をしている少年だった。
「ビールは食後や」
「そやったら何でもう酔ってるんや?」
「酔ってないわ」
それはあくまで否定する父だった。
「酔ってはない。安心せい」
「そうなんか」
「そうや。わしが何で大声出したのかは」
「んっ!?阪神えらいボロ負けやな」
ふとテーブルの横に置かれているテレビでの野球中継を見ればそうだった。
「ヤクルトに。何や、十点差かいな」
「それは腹立つが巨人が相手やなかったらまあええ」
彼はそれはまずはいいとしたのだった。
「大体それやったら御前も怒ってるやろが」
「まあそやけどな。巨人応援することなんかできるかい」
「その巨人と同じもんや」
父はまた言ってきた。
「御前が今食うてるもんはな」
「んっ!?これかいな」
「そや、それや」
顔を思いきり顰めさせて言ってきた。
「その納豆や。何でそんなん食うてるねん」
「って身体にええもん」
白いプラスチックの中のそれにたれと芥子を入れたうえでそのうえで箸でかき混ぜている。納豆の食べ方としては極めて基本である。
「美味しいし」
「そんなもん美味い筈があるかい」
父はそれを頭から完全否定した。
「納豆なんてな。人間の食い物やない」
「皆食うてるで」
「御前のクラスの奴全員か」
「今時皆そうやろ?」
少しきょとんとした顔で告げてきた。
「納豆なんて。皆食うやろ」
「じゃあその皆がおかしいんや」
むっとしながら鮭の焼いたものの皮を取っていた。なお妻の千賀子は二人の間、丁度テレビが正面に見える位置に座って黙々と御飯を食べている。
「それやったらな」
「皆がおかしいってそれ暴論やろ」
「暴論ちゃうわ」
殆ど子供の口喧嘩である。
「納豆食うなんてな。腐って糸引いてる豆食うなんてな」
「これ発酵やし」
息子の方が正論であった。
「腐ってるんちゃうで」
「腐ってるに決まってるやろが」
しかし健吾は息子の話を聞こうとしない。
「糸引いてて何処が腐ってないんや」
「だからこれ発酵や」
淳はあくまで正論を主張する。
「ヨーグルトと一緒やで」
「ヨーグルトとかい」
「そや。父ちゃんヨーグルト好きやろが」
実は彼はヨーグルトが好物だったりする。それも毎朝食べる程だ。
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