英雄伝説~焔の軌跡~ リメイク
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第32話
ル=ロックルでの訓練を終えたエステル達はリベールの王都――グランセルに到着した。
~グランセル国際空港~
「ふ~。半日以上、飛行船に乗ってたらさすがに疲れちゃったねぇ。早速、訓練終了と帰還の報告をギルドにしに行こっか?」
「……………」
「エステル?どうしたのかしら?」
定期船から降りて何も語らないエステルを不思議に思ったレンは首を傾げて尋ねた。
「う、うん……。そうよね。エルナンさんに挨拶しなきゃ。」
レンの声で我に返ったエステルは表情を僅かに強張らせながら答えた。
「えっと……もしかして。エステルちゃん、緊張してる?」
「う、うん、何でかな……。訓練に行く前はそんなこと感じなかったのに……。これから本格的に正遊撃士として動くと思うと何だか落ち着かなくって……」
「そっか。多分それは……武者震いなんじゃないかな。」
「む、武者震い?」
アネラスの推測を聞いたエステルは首を傾げた。
「エステルちゃんはこの一月の訓練で強くなった。それは、力だけじゃなくて知識とか慎重さとか判断力とかそういうものも含めてだと思う。謎の組織の陰謀を暴いてヨシュア君を連れ戻す……。たぶん、そのことの大変さが前より見えてるんじゃないかな?」
「あ……。うん。言われてみればそうかも。はあ……マヌケだわ。登ろうとする山の高さが見えてなかった登山者みたい。」
「うふふ、正遊撃士になってあれだけ訓練したのに結局、そそっかしい所は治っていないわねえ?」
「うっさいわね!そーいうレンこそ、その小生意気な所を治すべきなんじゃないの!?」
アネラスの話を聞いて僅かに元気をなくしていたエステルだったがレンの挑発とも取れる言葉を聞いてすぐに復活してレンを睨み
「やーね。レンはその小生意気な所がレンのチャームポイントだから許されるのよ♪そんな簡単な事もわからないのかしら?」
「何それ!?」
「アハハ……それじゃあ、ギルドに報告に行こうか?」
何度も見た事のある姉妹のやり取りを苦笑しながら見ていたアネラスは二人に提案し
「うん、了解!」
「ええ。」
そして3人はギルドに向かった。
~遊撃士協会・グランセル支部~
「そうですか……。3人ともご苦労さまでした。では、訓練の評価と合わせて報酬をお渡ししましょう。」
3人の報告を聞き終えたエルナンはエステル達にそれぞれ報酬を渡した。
「え?訓練なのに報酬なんてもらっていいの?」
「ええ、これも仕事の一環ですからね。もちろん、その分の活躍は期待させてもらいますよ。」
「あはは……頑張ります。」
「うふふ、どんどん活躍して、レンを”特例”扱いした期待に応えてあげるわ♪」
エルナンの言葉にプレッシャーを感じているエステルとは逆にレンはいつものような小悪魔な笑みを浮かべて答えた。
「どうやら、充実した訓練期間だったようですね。」
「うん!本当に勉強になっちゃった。」
「また機会があったらぜひとも利用したいですね。」
「むしろ今度は襲撃する遊撃士さん達をレン達が驚かせたいわね。」
エステル達は訓練での出来事を思い出し、それぞれ感想を言い合った。
「ふふ、それは何よりです。そういえば、クルツさんたちは訓練場に残ったそうですね?」
「うん、カルナさんたちと上級者向けの訓練をするらしいわ。しばらく帰って来れないみたい。」
「でも、正遊撃士が3人も国外に行ったきりだもんねぇ。これから猛烈に忙しくなりそう。カシウスさんも、もう本格的に王国軍で働いているんだったよね?」
遊撃士は実力はあるが、数は少なく、加えてS級正遊撃士であったカシウスが遊撃士協会から去った事でリベール各支部は常に人手不足の状態であった。
「あ、うん。確か、レイストン要塞勤務になるって聞いたけど……」
「カシウスさんは、准将待遇で軍作戦本部長に就任されました。実質上、現在の王国軍のトップとも言えるでしょうね。」
「ぐ、軍のトップ!?それって今だとモルガン将軍じゃないの!?」
「うふふ、貰えるお給金も上がってママも喜んでいるでしょうね♪」
父親の待遇にエステルは驚き、レンは全く動じず可愛らしい微笑みを浮かべていた。
「当初はその予定だったそうですが将軍ご自身の意向で、カシウスさんに権限が集中する体制になったそうです。将軍としては、若いカシウスさんに王国軍の未来を託したいんでしょうね。」
「うーん……。あんまり実感湧かないわねぇ。」
「クスクス、あのおじいさんにとっては、ようやく念願が叶ったって所でしょうね。」
エルナンの話を聞いたエステルはカシウスが軍を率いている瞬間が想像できず苦笑し、レンはモルガン将軍が喜んでいる様子を思い浮かべて口元に笑みを浮かべていた。
「あはは、カシウスさんならそれもアリって感じがしますけど。ただ、これでますますギルドの戦力が低下しますねぇ。」
「まあ、以前よりもさらに軍の協力は得られそうですが……。ただ、今の我々には新たに警戒すべき事があります。」
「え……」
「それって……。やっぱり『結社』のことよね。もしかして、何か動きがあったの?」
そして気になる情報が出てくると、エステルは真剣な表情で尋ねた。
「いいえ、今のところは。ただ、ここ1ヶ月の間、奇妙なことが起こっていましてね。たとえば……各地に棲息する魔獣の変化です。」
「魔獣の変化……」
「具体的にはどういう事ですか?」
「…………………」
エルナンの話を聞いたエステルは驚き、アネラスは尋ね、ミントは手帳に聞いた情報を書く準備をしていた。
「まず、今まで見たことのないタイプの魔獣が各地で現れました。さらに、既存の魔獣も今までよりはるかに手強くなっているそうです。今のところ、原因は判明していません。」
「そ、そんな事があったなんて……。『結社』っていうのが何かしたって事なんですかっ!?」
「いや、結論するのは現時点では早計でしょうね。ただ、女王生誕祭を境にして何かが起こり始めている……。それは確実に言えると思います。」
「そんな……」
「「………………………………」」
ようやく平和が戻ったリベールに新たな闇が迫っている事にアネラスは不安そうな表情をし、エステルとレンはそれぞれ複雑そうな表情で黙り込んでいた。
「実は、その件について対応策を立てることになりまして。エステルさんとアネラスさん、そしてレンさんにも是非、協力をお願いしたいんです。」
「へっ……?」
エルナンの提案にエステルが首を傾げたその時
「なんだ、もう到着してたのね。」
「どうやら以前と比べると大分成長したようだな。」
シェラザードとアガット、そしてルーク、フレン、アーシアがギルドに入って来た。
「あ、シェラ先輩!?それにアーシア先輩やフレンさんも!」
「お兄様!」
「シェラ姉!?それにアガットやフレンさん達も………久しぶり!」
シェラザード達の登場にエステル達はそれぞれ明るい表情をし
「お帰り、エステル、アネラス、レン。」
「ヘッ、思ったよりも早く帰ってきやがったな。」
「3人共訓練に行く前と比べたら貫禄が出ているんじゃねえのか?」
「ふふっ、あの訓練を受ければ、誰だって成長するから当然の結果だわ。」
「訓練の最終日は俺が言った通りマジで驚かされただろ?」
シェラザード達はエステルにそれぞれ労いの言葉をかけた。
「えへへ、まあね。それよりも……どうしてみんなが一緒にいるの?」
「うーん、確かに。珍しい組み合わせですよね。」
「あら、そうかしらね?」
「ま、確かに一緒に仕事をすることは少ないかもしれんな。」
エステル達の言葉を聞いたシェラザードは以外そうな表情をし、アガットは逆に頷き
「というか正遊撃士が4人も集まっていれば、絶対何かあると誰でも思うぜ?」
「おい、フレン。さりげなく自分だけ数に入れてねえぞ?」
「フフ、もしかしてサポーターだから遠慮しているのかしら?」
フレンに指摘するルークの言葉を聞いたアーシアは微笑みながらフレンを見つめた。
「実は、ルークさん達には、特別な任務に就いてもらうことになりましてね。そのために来てもらったんですよ」
「特別な任務?」
「あら。」
「『結社』の調査!?」
「そ、それってどういう……!?」
エルナンの口から出た予想外の話にレンは目を丸くし、エステルとアネラスは血相を変えた。
「調査と言っても、具体的に何かをするってわけじゃないわ。なにせ、実在そのものがはっきりしない組織だしね。」
「各地を回って仕事をしながら、『結社』の動向に目を光らせる……。ま、地味で面倒な任務ってわけだ。」
「まあ、要はいつも通り遊撃士としての仕事をするだけだな。」
「フフ、縁の下の力持ちが遊撃士の本分だしね。」
「ここまで言えばお前らが呼ばれた理由がわかるだろう?」
シェラザード、アガット、ルーク、アーシアは順に答えた後フレンはエステル達を見つめて尋ねた。
「な、なるほど……。でも、現時点ではそれくらいしか手はないのかも。それじゃあ、あたしたちに協力して欲しい事って……」
「ええ、ルークさん達のお手伝いです。二手に分かれて王国各地で情報収集するためにルークさん達には別々に行動してもらうのですが……。得体の知れない『結社』相手に単独行動は危険かもしれませんから。
エステルの疑問にエルナンは頷いた後真剣な表情で答えた。
「ちなみにどういう組み合わせで二手にわかれるのかしら?」
メンバーの編成が気になったレンはルーク達を見つめて尋ね
「シェラザードとアガット、フレンとアーシアはそれぞれ別々に組んで俺はその中の片方に入るな。」
ルークがレンの疑問に答えた。
「さて………どうでしょう。協力していただけませんか?」
「あたしはもちろん!元々、『結社』の動きについては調べるつもりだったから渡りに舟だわ。」
「うふふ、勿論レンも協力するに決まっているじゃない。」
「私も協力させてください。そんな怪しげな連中の暗躍を許しておくわけにはいきませんよ!」
「ありがとう、助かります。」
そして3人の力強い返事を聞いたエルナンはお礼を言った。
「さて、そうなるとチームの組み合わせが問題ね。あたしとしてはどちらのチームでもいいわ。」
「互いに面識はあるわけだしな。自分たちの適性を考えて3人で相談して決めてみろや。」
「うっ……。なかなか難しいこと言うわねぇ。アネラスさん、レン、どうしよう?」
自分達に判断を委ねられたエステルは呻き声を上げた後アネラスとレンに視線を向けた。
「レンは勿論お兄様と同じチームよ!」
「じゃあ私はエステルちゃんに先を譲るよ。」
「ええっ!?レンは何となく答えはわかっていたけど、アネラスさんはどうして!?」
自分に判断を丸投げした事に驚いたエステルは信じられない表情でアネラスを見つめて尋ねた。
「やっぱりエステルちゃんは正遊撃士になったばかりだもの。遊撃士としての自分のスタイルがまだまだ見えてないと思うんだ。だから、これを機会に自分がどういう風になりたいのか考えてみるといいんじゃないかな?」
「アネラスさん……」
「ふふ、アネラス。いつの間にか、いっちょまえな口を利くようになったじゃない?」
「ふふん、任せてくださいよ♪」
アネラスの言葉を聞いたエステルはアネラスを尊敬の眼差しで見て、シェラザードは口元に笑みを浮かべた。
「ま、言うことはもっともだ。例えば、俺とシェラザードは遊撃士のランクは同じくらいだが、戦闘スタイルのクセはかなり違う。俺はアーツは補助程度で重剣を使った攻撃がメインだが……」
「あたしは機動力と鞭の射程、そしてアーツも活用するタイプ。」
「俺はアーツはそれなりに使えて、トンファーによる接近戦がメインだ。」
「う~ん……どうしようかな~……あれ?そう言えばアーシアさんのバトルスタイルってどんなんだっけ?そう言えばあたしはアーシアさんと組んだ事ないから、どんな戦い方をするのかわからないし……」
アガット達の説明を聞いていたエステルは悩んでいたが一人だけ戦い方を知らない人物に思い当たり、アーシアに視線を向けた。
「私は法剣とボウガンの両方を使って遠近両方の戦い方に加えて、シェラザードみたいにアーツも得意よ。」
「へっ!?」
「うふふ、どうせならアーシアお姉さんを選んだ方がいいと思うわよ、エステル?アーシアお姉さんの戦技は以前共に戦った”星杯騎士”―――アリエッタお姉さんみたいに回復技もあるからとってもお得よ?」
アーシアのバトルスタイルの豊富さにエステルは驚き、レンはエステルに助言した。
「ちょっと、レンちゃん。私をお買い得品みたいな言い方をしないでくれる?」
レンの助言を聞いたアーシアはジト目でレンを見つめ
「いや、実際そうじゃねえか。アーシアと組んでいたらあらゆる局面で便利だぜ?」
「ギロリ。」
「すいません………」
からかいの表情で言ったフレンを冷たい視線で睨んで黙らせた。
「えっと……気になったんだけど、”法剣”って何??」
「伸縮自在の剣で刃が勝手に飛び回ったりするとても便利な剣だよ。……前々から疑問に思っていたんですけどアーシア先輩、一体どこでそんな剣を手に入れたんですか?少なくてもリベールの各地方で武装が販売されている店ではその剣が販売されている所なんて一度も見たことはないですよ?」
エステルの疑問に答えたアネラスはずっと疑問に思っていた事を口にしてアーシアを見つめた。
「フフ、遊撃士になる前に”星杯騎士団”に入団して”星杯騎士”を目指した事があるんだけど……理由があって”星杯騎士”になる事を諦めてね。その時に使っていたボウガンと”星杯騎士団”のみに伝わっている武器―――法剣を使い続けているのよ。」
「へ……せ、”星杯騎士”!?アーシアさんが!?」
「あら、それは初耳ね。」
「まさかアーシアさんが”星杯騎士団”に所属していた事があったとは………」
アーシアの説明を聞いたエステルは呆けた後驚き、シェラザードとエルナンは目を丸くし
「何でその事を今まで明かさなかったんだ?」
「以前出会ったアリエッタさんも言ってたと思うけど”星杯騎士団”の存在は極秘なのよ。だから、例え団を抜けてもみだりにその名を口にする訳にはいかなかったのよ。」
眉を顰めたアガットの疑問にアーシアは偽りの話でありながらも戸惑う事なく答えた。
「そうなんだ………」
「道理でアーシア先輩、シスターさんや神父さんみたいに食事の際には必ず祈りを奉げたり、クルツ先輩みたいに術が使える訳ですね。」
「まあ、”法術”が使える”元”星杯騎士であり”元”シスターでもあるしな。」
「うふふ、”元”とはいえさすがはあの”星杯騎士”だけあって、アリエッタお姉さんみたいに凄い強いわけね。」
アーシアの過去を聞いたエステルは呆け、アネラスは納得し、アーシアの事情を知るフレンとレンはそれぞれ口元に笑みを浮かべていた。
「ふふっ、”従騎士”にもなれず、”星杯騎士”になる事を諦めた落ちこぼれだから、”正騎士”のアリエッタさんと比べられても困るわよ。―――さて、エステル。貴女は誰と誰を選ぶのかしら?」
レンの言葉に微笑みながら答えたアーシアはエステルに視線を向け
「う、うーん。えっと、それじゃあ……。アーシアさんとアガット。協力してくれる?」
メンバーのバトルスタイルを考え、厳選したエステルはアーシアとアガットに視線を向けた。
「わかったわ。エステルとは初めて組む事になるけど、よろしくね。」
「そうか、わかった。正遊撃士になったからにはこれまで以上に厳しく行くからな。覚悟しとけよ。」
「はいはい、判ってますって。ホント、予想通りの憎まれ口を叩くんだから。」
「む……」
「フフ……」
自分の忠告を軽く受け取ったエステルをアガットは睨み、その様子をアーシアは微笑ましそうに見つめていた。
「はいはい、ケンカしないの。それじゃあ、あたしはアネラス達と組む事になるのか。訓練の成果、見せてもらうわよ。」
「はいっ。ふふ、久しぶりに先輩と組めて嬉しいなぁ。」
「うふふ、成長したレンの強さを見てビックリしないように心しておいた方がいいかもしれないわよ?」
「アンタの場合は本当にそうなっていそうだから洒落にもなっていないわ……ルークとフレンもよろしくね。”焔の剣聖”と”不屈”の力をみせてもらうわよ?」
レンの言葉を聞いて疲れた表情で溜息を吐いたシェラザードはルークとフレンに視線を向け
「ああ、こっちこそ”銀閃”の力、見せてもらうぜ。」
「よろしくな。」
視線を向けられた二人はそれぞれ頷いた。
「さてと、これでようやくこの問題はケリがついたが……。具体的にどういう風に各地を回るかってのが問題でだな。」
「エルナンさん。そのあたりはどうかしら?」
メンバーが決まり、エステル達はエルナンに今後の方針を尋ねた。
「そうですね……。当面は、忙しい地方支部の手伝いに行くのが良いでしょう。実は、ロレント支部とルーアン支部から応援要請が来ているんですが……」
「あちゃあ、さすがにロレントを留守にしすぎたか。ここは、アイナを助けるためにもあたしが行った方がいいのかな。」
「今までリッジ一人で頑張っていたんだから、俺達が先輩として助けてやらないとな。」
「うふふ、レンは”一応”後輩としてリッジお兄さんを助けないとね。」
「そうですね、私も賛成です。うーん、アイナさんに会うのは久しぶりだな~。」
「ロレントか……クーデター事件時以降だから2ヶ月ぶりか。」
エルナンの説明を聞いたシェラザードはそれぞれの想いを抱えていた。
「だったら俺たちはルーアン支部に行くとしよう。エステル、アーシア。それでいいな?」
「うん、もちろん。ルーアン地方か……。みんな、どうしてるのかな。」
「フフ、そう言えばエステルにはルーアン地方に多くの知り合いがいるのだったわね?」
ルーアン地方にいる知人達の顔を浮かべているエステルを微笑ましそうに見つめていたアーシアは尋ね
「うん!マーシア孤児院の先生にクラム達……それにクローゼ達―――ジェニス王立学園の人達と知り合いだよ!」
尋ねられたエステルは嬉しそうな表情で答えた。
「各支部への連絡は私の方からやっておきます。それでは皆さん。気を付けて行ってきてください。」
そしてエステル達はそれぞれの地方に向かうために空港に向かい、それぞれの飛行船に乗ってそれぞれの目的地へと向かった。
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