英雄伝説~焔の軌跡~ リメイク
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第15話
翌日グランセルに向かうジンとバダックを見送ったルーク達はアガットの看病を続けるティータと分かれて一端ギルドに報告など行うと検問を解除するなど、王国軍が不可解な行動を取っている事がわかった。
そこにドロシーがやって来て、ルーク達に見せた軍に無許可で撮った写真にはラッセル博士を攫った男達が乗る飛行艇のシルエットがレイストン要塞の傍に写っており、真偽を確かめる為にルーク達はレイストン要塞に向かった。
守備隊長であるシード少佐がルーク達に対処したが、ルーク達の質問をのらりくらりとかわし、諦めたルーク達が帰ろうとした所、導力で動いている開閉装置が止まるというラッセル博士と共に消えた黒のオーブメントの件を思い出し、ラッセル博士がレイストン要塞の中にいる事を理解したルーク達はギルドに戻り、キリカに報告した。
~遊撃士協会・ツァイス支部~
「ま、まさか王国軍が博士を攫うとは……中央工房は王国軍と長年協力関係を築いてきた。なぜこんなことを……」
「王国軍とは言っても一枚岩ではありません。博士をさらった時、親衛隊の服を着てたのもそれが原因かもしれませんね。」
「確かにその可能性が一番考えられそうね。」
信じられない思いになっているマードックにヨシュアとレンはそれぞれ頷いていた。
「じゃあまさか、親衛隊が嵌められたってこと!?」
「もしかしたら親衛隊を嵌める為でもあったかもしれねえな。」
「うん、その可能性はありそうだよ。」
憤慨しているエステルと厳しい表情をしているルークの推理にヨシュアは頷いた。
「ううむ、なんたることだ……しかし、どうして博士がそのような陰謀に巻き込まれたのか……」
「あら、”導力革命の父”とまで称されているのだから、色々と可能性は考えられるわよ?―――例えば新兵器の開発とかね。」
ラッセル博士が軍内の陰謀に巻き込まれた事に理解できないマードックにレンは信じられない事を口にした。
「ちょっと、レン?」
「さすがにそれは考えすぎじゃねえか?」
レンの口から出た物騒な推測にエステルはジト目でレンを見つめ、ルークは表情を引き攣らせた。
「いや、でもレンの推測の可能性も充分考えられるよ。」
「うむ。かの”百日戦役”での反撃作戦の要となった飛行艇を開発したのは博士だしな……」
ヨシュアとマードックはそれぞれ重々しい様子を纏ってレンの推測に頷いた。
「……どうやら犯人どもの手がかりを掴んだみてえだな。」
その時アガットがティータと共にギルド内に入って来た。
「え……アガット!?」
「もう意識を取り戻したんですね。」
「もう動いて大丈夫なのか?」
「あら、相変わらず体力”だけ”は立派ね。」
エステル達がアガットの登場に驚いている中、レンだけはからかいの意味も込めて口元に笑みを浮かべてアガットを見つめた。
「ハッ、テメェとは鍛え方が違うんだよ。むしろ今まで寝ていたせいで身体がなまっちまっているぐらいだ。とにかく今は思いっきり身体を動かしたい気分だぜ。」
レンを睨んだ後片手を軽く振り回して答えた。
「で、でも無理しちゃダメですよぉ……毒が抜けたばかりだからしばらく安静にって先生が……」
「だ~から、大丈夫だって何べんも言ってるだろうが。鍛え方が違うんだよ、鍛え方が。」
そしてティータの心配を一蹴しようとしたが
「う~………」
「う……わかった、わかったっての!本調子に戻るまでは無茶しなきゃいいんだろ?」
「えへへ……はいっ。」
頬を膨らませたティータの睨みに圧されて頷き、自分の希望に頷いてくれたアガットの様子をティータは嬉しそうに見つめていた。
「ったく……これだからガキってのは……」
「あはは、さすがのアンタもティータには形なしみたいね。」
「ずっと付きっきりで看病してもらった身としてはしばらく頭が上がりませんね。」
「確かにティータが一番熱心にアガットを看病していたもんな。」
「うふふ、レディに付きっきりに看病してもらえるなんて、幸せ者ね。」
ティータの笑顔にアガットが呆れている中、エステル達はそれぞれからかいの言葉を言い合った。
「あ~もう、うるせえなっ。それより俺がくたばってた時に色々と動きがあったみたいだな。聞かせてもらおうじゃねえか。」
そしてルーク達はラッセル博士がレイストン要塞にとらわれていることを2人に説明した。
「お、おじいちゃんがそんな所にいるなんて……」
「しかも、あの黒装束どもが軍関係者だったとはな……フン、正体が判ってすっきりしたぜ。キッチリ落とし前を付けさせてもらうことにするか。」
ラッセル博士が要塞にいる事をしったティータは信じられない表情をし、アガットは鼻を鳴らした後提案した。
「落とし前っていうと?」
「決まってるだろう。レイストン要塞に忍び込む。博士を解放して奴らに一泡吹かせてやるのさ。」
「なるほど逆に奪い返すのか。」
「うふふ、きっと慌てふためくでしょうね♪」
黒装束の男達が慌てた様子を思い浮かべたルークとレンはそれぞれ口元に笑みを浮かべた。
「そう簡単にはいかないわ。」
「へっ?」
「ギルドの決まりとして各国の軍隊には不干渉の原則があるわ。協会規約第3項。”国家権力に対する不干渉”……『遊撃士協会は、国家主権及びそれが認めた公的機関に対して捜査権・逮捕剣を公使できない。』……つまり、軍がシラを切る陰り、こちらに手を出す権利はないの。」
「チッ、そいつがあったか……」
「まさかここに来て、あの規則が足かせになるとはな……」
しかしキリカの忠告を聞いたアガットは舌打ちをし、ルークは悔しそうな表情をした。
「そ、そんな……そんなのっておかしいわよ!目の前で起きている悪事をそのまま見過ごせっていうわけ!?」
「エステル、確かにそうだけど、どんな決まり事にも抜け道はあるわ。そうでしょう、キリカお姉さん?」
憤慨しているエステルとは逆にレンは落ち着いた様子で諌めた後、小悪魔な笑みを浮かべて尋ねた。
「ええ。協会規約第2項。”民間人に対する保護義務”……『遊撃士は、民間人の生命・権利が不当に脅かされようとしていた場合、これを保護する義務と責任を持つ。』……これが何を意味するかわかる?」
「なるほど……博士は役人でも軍人でもない。保護されるべき民間人ですね。」
「そ、それじゃあ……」
自分達を縛る”抜け道”の話を聞かされたエステル達は最終決定権を持つマードックをキリカと共に見つめた。
「あとは……工房長さん、あなた次第ね。この件に関して王国軍と対立することになってもラッセル博士を救出するつもりは?」
「……考えるまでもない。博士は中央工房の……いや、リベールにとっても欠かすことのできない人材だ。救出を依頼する。」
軍を敵に回すかもしれない行動にマードックは迷わず頷き
「工房長さん……!あ、ありがとーございます!」
「礼を言う事はないさ。博士は私にとっても恩人だしね。」
マードックの返事を聞いたティータは嬉しそうな表情になった。
「これで大義名分は出来たわ。……遊撃士アガット。それからエステルにヨシュア。レイストン要塞内に捕まっていると推測されるラッセル博士の救出を要請するわ。非公式ではあるけど遊撃士協会からの正式な要請よ。」
「フン、上等だ。」
「了解しました。」
「そう来なくっちゃ!……ってあれ、なんでルーク兄とレンの名前がないの?」
遊撃士協会の依頼に頼りになる兄と妹の名前が無かったことに気付いたエステルは首を傾げ
「その二人は別件があって近い内、ツァイスを離れなければならないのよ。そうでしょう?」
「!!ああ。」
「(ラッセル博士を攫ったんだから、次はママの可能性も充分にありえそうね。)ええ、実を言うと本当ならエステル達が来る前に戻らないとダメだったんだけどそれを今まで伸ばしてきたから、そろそろ戻らないとマズイのよ。」
キリカに視線を向けられた二人はカシウスの手紙の内容を思い出し、それぞれ頷いた。
「そうなんだ……二人とも、もうちょっと伸ばすのは無理?」
「エステル……二人にも事情があるんだから無理を言ったらいけないよ。それに潜入捜査になるんだからあまり人数を多く連れていけないし。」
「ヨシュア……ごめんね、無理を言っちゃて……」
ヨシュアに諌められたエステルは申し訳なさそうな表情で二人を見つめた。
「ううん、今まで残ってたのはレンの我儘だから気にしなくていいわよ。ティータ、ごめんね。博士救出に最後までかかわれなくて……」
「しばらく泊まらせてもらったのに、肝心な時に役に立たなくて本当にごめん!」
「そ、そんな。わたしとおじいちゃんの事は気にしないで下さい。」
謝罪する二人にティータは慌てた様子で謙遜した。
「お詫びと言ってはなんだけど………その赤毛のお兄さんに博士の救出作戦にティータを連れて行くようにこの場ですぐに説得してあげるわ。」
「へ?」
「ふえ?」
「レン?」
「おい、一体何を言うつもりだ?」
「何ふざけた事ぬかしてんだ?”紅蓮の塔”の件を忘れたのか?」
レンの口から出た意外な言葉を聞いたエステル達が首を傾げている中、アガットは厳しい表情でレンを睨んだ。
「ハア、少し考えたらわかる事でしょう?――――ラッセル博士を救出した後、赤毛のお兄さんはどうするつもりなのよ。」
アガットの睨みにレンは怯む事無く溜息を吐いた後尋ねた。
「そんなの勿論爺さんを連れてしばらくどっかに隠れて機を窺うに決まって………チッ、そういう事か。おい、チビ。お前は強制参加決定だ。爺さんを助けに行くまでに、荷物の中に着替えを2,3着入れとけ。」
今まで対峙した黒装束達の行動を思い出し、例えラッセル博士を助け出しても今度はティータに男達の魔の手が伸びる事に気付いたアガットは、子供であるレンに指摘された事の自分の不甲斐なさに舌打ちをした後ティータに視線を向けた。
「えっ!?」
「なんだ、嫌なのか?」
「い、いえ!今度は足手まといにならないように精一杯頑張ります!」
「フン、お前はこっちの指示通りに動くだけでいい。異論は許さねえぞ。」
「はい!」
ラッセル博士の救出作戦の参加に申し出るつもりであったティータは真っ先に反対すると思われる人物から許可が出た事に驚きつつ、アガットの指示に頷いた。
「えっと、どういう事??」
「レンはティータが攫われる可能性を危惧しているんだよ。」
「確かに奪われたラッセル博士をいぶりだすのにありえそうだよな……」
一方アガットの急な心変わりに首を傾げているエステルにヨシュアは説明し、ルークは真剣な表情で頷き
「あっ!」
「ふええええええええっ!?」
「ううむ、ティータ君まで狙うとは………一体今の王国軍は何を考えているんだ?」
ヨシュアの説明を聞いたエステルは声を上げてティータを見つめ、自分が狙われる事を聞いたティータは驚きの表情で声を上げ、マードックは信頼する祖国の軍の行動に唸った。
「まあ、その事については博士を救出してから考える事にしましょう。」
その後エステル達はラッセル博士の救出作戦を開始する為に動き出し、ルークとレンは飛行船でロレントに向かった。救出作戦を開始したエステル達は見事ラッセル博士を奪還し、ラッセル博士とティータを連れて潜伏するアガットと別れ、その経緯をキリカに報告した。
~翌日・グランセル城内~
「全く博士を逃がすなんて、あなた達はそれでも誇り高き特務兵ですか!?」
翌日、ラッセル博士が奪われた報告をした黒装束の男達――――王国軍情報部”特務兵”達は上官であるカノーネ大尉に叱責を受けていた。
「申し訳ございません!」
「聞けば、”紅蓮の塔”の時にはまだ16になったばかりの子供達も混じったメンバーに敗北したそうね?全く、そんな事が第三者に知れ渡ったら情報部どころか閣下の顔に泥を塗る事になるのよ?」
「カノーネ君、そこまで言うなら彼らに汚名返上のチャンスを与えたらどうかね?」
叱責されている部下達を見かねた情報部のリーダーにしてリベールの各地で起こった怪しげな事件の元凶である王国軍大佐、アラン・リシャールはカノーネ大尉を諌め始めた。
「チャンス……ですか?」
「ああ。」
「大佐、どうか私達にチャンスを!」
「どんな命令でもこなしてみせます!」
「お願いします!」
リシャール大佐の提案にカノーネ大尉が目を丸くしている中、特務兵達は自分達の失態を取り返す為に必死になって声を上げた。
「現在、S級正遊撃士にしてリベールを救った英雄である”剣聖”カシウス・ブライトは行方不明だ。私はこれでも彼には恩があってね。彼は今まで得た名声や地位を捨ててまで家族をとても大切にしている。しかも彼は行方不明の上、彼の子供達も遊撃士としてリベール中を飛び廻り、今は奥方を守る人はいないだろう。そこで彼らに私のかわりに奥方を”保護”してもらおうと思っているのだがどうだろう?」
「おお……そのような重大な任務を我らに……」
「その任務、ありがたく拝命いたします!」
「わかりました。でしたら念の為に私自らが一個小隊を引き攣れて此度の作戦に当たりますわ。」
「ああ、よろしく頼んだよ。」
後にリシャール大佐はこの指示によって予想外の組織の者達が”敵”になるとはこの時想像もできなかった……………
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