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私は町の何でも屋

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6部分:第六章


第六章

「そっちも?」
「ええ、そっちもよ」
 すぐに言い返すスザンナだった。
「御願いするわ」
「じゃあさ、スザンナ」
「今度は何?」
「スザンナもお店御願いできるかな」
 彼が言うのはこのことだった。
「そちもさ。いいかな」
「ええ、いいわよ」
 スザンナの返答はすぐだった。
「勿論よ、それは」
「それならいいよ。じゃあ是非にね」
「そういうことね。じゃあね」
「うん、頼んだから」
「それでマゼットさんは?」
 ここで彼の名前も出て来た。
「今日は大丈夫よね」
「ああ、今日ね」
「マゼットさんのお店はお休みよね」
 こう夫に問うのだった。家の中からだ。
「だから助っ人に来てくれるって聞いたけれど」
「本人だけじゃなくて奥さんも来るよ」
 フィガロは妻の問いに答えた。
「あの人もね」
「ツェルリーナちゃんもね」
「来てくれるよ。安心していいから」
「わかったわ。ただ」
「ただ?」
「出来るだけ早く来て欲しいわね」
 切実な願いだった。今の彼女にとっては。
「本当にね」
「実は僕もそう思うよ」
「まあ当然ね」
「そうだよ。今日は特に忙しいなあ」
 今度は店の隅で何やら書いている。恋文の代筆だった。
「本当に」
「散髪だけじゃないからね」
「そう、何でも屋」
 それだというのだった。
「この街の何でも屋だからね」
「だから大変なのね」
「仕事は多いよ。それに仕事は待ってくれないから」
「しかも次から次に来るしね」
「そうよ。それにお家のこともあるから」
「今までの倍以上忙しいよ」
 結婚する前と比べてのことである。それを今心から思ったのである。
「本当にね。凄いよ」
「けれど嫌?」
 スザンナがここで問う。
「それは嫌かしら」
「嫌って言われたら」
「そうじゃないでしょ」
「うん、それはね」
 違うというのだった。
「嫌だったらとっくに止めてるよ」
「そうでしょ。楽しいわよね」
「人生は色々忙しいから楽しいからね」
 フィガロは笑って話した。
「だからね」
「そういうことよ。それじゃあマゼットさん達が来るまでね」
「うん、それまで」
「気合入れて頑張りましょう」
「わかったよ」
 スザンナの言葉に笑顔で頷く。そのうえで店の仕事を終わらせてから子供達の相手もするのだった。そんな多忙な毎日を送るフィガロは幸せだった。


私は町の何でも屋   完


                 2010・6・11
 
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