コルト
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第五章
「作られる人が減っています」
「じゃあやっぱりこの人達も普段はですね」
「普通の洋服着てるんですね」
「そうなんですね」
「そうです、元々トカナイと一緒にクラス遊牧、狩猟の人達でしたが」
それがというのだ。
「今は定住している方が多いです」
「そうなったんですね」
「何かそこもよくあることですね」
「最近は」
「遊牧とかの時代じゃなくなってるんですね」
「そうですね、近代になってから」
つまり近代文明が地球を覆ってからというのだ。
「そうなってきて」
「サーメの人達もですね」
「定住される様になって」
「それでなんですね」
「コルトもですか」
「そうです、ですが」
「そのコルトを売りに来られたんです」
通訳の人も話してきた、この人は金髪碧眼に長身の男の人で見るからに北欧といった感じである。
「如何でしょうか」
「ああ、お買いものですね」
「お話されていた」
「それですね」
「そうです、ではどうぞです」
またガイドが言ってきた、通訳の人と息が合っている。
「お買いになって下さい」
「はい、それでは」
「そうさせてもらいます」
「俺達も買うか」
吾朗は自分の隣にいる慎吾に提案した。
「そうするか」
「折角ここまで来たしな」
オーロラが見られる場所までとだ、慎吾も応える。
「それでこの人達にも会えたし」
「サーメの人達にもな」
「それならだな」
「これも縁ってことでな」
「買うか、コルト」
「そうさせてもらうか」
「着られるかどうかは別にして」
「家族への土産にもなるしな」
しかも買うだけの金はある、それでだった。
二人もそのコルトをサーメ人達から買った、他のツアー客達もこぞって買いサーメ人達は笑顔で去って行った。そして遠くから。
車の音がした、吾朗はその車の音を聞いてガイドに尋ねた。
「今の音は」
「はい、サーメの人達が乗ってきたです」
「それで帰りに乗っている」
「乗用車です」
「やっぱりそうですか」
「現代化していますので」
元々遊牧、狩猟で暮らしていた彼等も今ではというのだ。
「ですから」
「だからですか」
「車に乗っておられます」
「そういうことですね」
「はい、今お帰りになりました」
「何か少し」
慎吾は首を傾げさせて行った。
「複雑な気持ちになりました」
「昔ながらの民族衣装の後で、だからですね」
「それで」
「まあそういうことで」
「それが現代なんですね」
「そもそも観光でのお買いものがです」
ガイドは自分達の仕事の話もした。
「現代ですね」
「買う方も売る方も」
「そういうものですから」
「納得することですね」
「そうです、そこは納得されて下さい」
「わかりました、それで」
釈然としないのは確かだがそれでもだ、理屈は抜きにしてその中にいたから納得するしかなくてだ。慎吾は頷いた。
そのうえでだ、彼は吾朗に言った。
「そういうことだな」
「そうだな、じゃあコルト買ったし」
「後は街に戻ってな」
「次の観光か」
「予定はまだありますから」
ガイドも二人に話す。
「次はそちらということで」
「わかりました、それじゃあ」
「引き続きお願いします」
「そういうことで、では次の場所に行きましょう」
ガイドはツアー客達を通訳と共に案内していった、吾朗と慎吾はその中にいたがいい旅だった。それで日本に戻りバイトの休憩の時に言った。
「いい買いものしたな」
「それでいい旅行だったな」
「ああ、また行きたいな」
「金が出来たらな」
「北欧行こうな」
「またな」
こう話すのだった、バイトで金を溜めながら。またオーロラを見てサーメ人達と会う、そのことを再びと話すのだった。
コルト 完
2016・4・24
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