魔法少女リリカルなのはINNOCENT ブレイブバトル
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DUEL16 込められた想い
前書き
こんにちはblueoceanです。
遅くなってすみません。GWに大いに進めるぜ!!………と思いましたが、まさかの五月病の様にだらだらと過ごしながら懐かしのゲームをやる日々。
某実況動画の影響で久々にゲームにドハマりしました。
俺の屍を超えてゆけ恐るべし………
因みにSTSの方は現在半分ほど書き終わりました。
五月中に投稿出来たら嬉しいなぁ………
「………」
あの事件から数日が経った。事件の翌日には他の店でイベントが大盛況だったと聞いたが、グランツ研究所の方は慌ただしく、重苦しい雰囲気が続いていた。
「………で、あるからして………」
俺の身体も1日ゆっくり休んでいたらほぼ回復した。今では普通に学校に登校している。
………しかし未だに焔は目覚めない。
「ここ、テストに出すからな!!」
先生の言葉に皆がそれぞれ不満そうな声をあげた。
他には神崎の様子もおかしい。先週までは事あるごとにブレイブデュエルの話題を持ちかけて来たが、今では自分からは決して話そうとしない。
………まあある意味、俺もありがたかったが。
「零治」
「黒崎………」
「飯行こうぜ」
「ああ」
「………」
「………」
「お前らなぁ………」
何も話さず無言で食べる俺と神崎を見て、黒崎はため息を吐いた。
「片方は何か暗いし、もう片方はぼーっとしてるし………何かあったなら言ってみろよ!!」
居心地の悪い空間に耐えきれなかった黒崎が叫ぶ。因みに暗いのは神崎でぼーっとしているのは俺だろう。
「俺さ………あれだけ楽しかった筈もブレイブデュエルが最近怖いんだ………」
黒崎の叱咤に神崎は悩みを話し始める。
「別に痛めつけられたとか、いじめられたとかそういうのじゃないんだ。ただこの前戦った相手の気迫と言うか………鬼気迫る勢いに腰が引けて何も出来なかった。情けなくて恥ずかしくて………ホルダー握るだけでも震えるんだ、手が………」
そう言ってポケットからホルダーを取り出す。確かに言っていた通り、持つ手が自然に震えている。
「俺って情けなくてさ………中学の時はこんなんじゃなくてもっと太っててオタクだってバカにされててさ………悔しくって高校デビューで気合い入れてダイエットとイメチェンしてこうなったけど、あの頃の事を不意に思い浮かべちゃって駄目なんだ………」
そう悔しそうに呟く神崎。
「この学校に入る際、昔の自分を完全に越えるって思ってたのに結局俺はやっぱりで………」
「あのな………」
そんな弱気ばかりの神崎の頭を黒崎は思いっきり叩いた。
「いったあああああああああ!?何するんだよ!!」
「そんな事うじうじ悩んでいる暇があったらブレイブデュエルしようぜ!!」
「だ、だからそのブレイブデュエルが………」
「知るか、昔の自分を超えるんだろ?だったら弱気なんて言ってる暇ないだろ」
「だ、だから………」
「怖くたって逃げるな!直ぐに自分は駄目だと言い訳付けて諦めるな!!お前はそこから変えないと駄目だ!!今日、付き合ってやるからやるぞブレイブデュエル」
「えっ、でも心の準備が………」
「良いんだよそんなの。いいからやるぞ」
そう言って無理矢理約束する黒崎。黒崎の言葉が効いたのか、不安そうだが、怯えや恐怖の様な感情を表には出してなかった。
「零治はどうする?」
「俺は今ホルダー無いんだ。………だから今日はいいや」
「そうか?見てるのも勉強になると思うが………」
「いや、いい」
でないと今の俺はどうなるか分からないから………
「?」
俯く俺の顔を不思議そうに見る黒崎。
俺はその顔に気が付かないふりをして食事に集中するのだった………
「ティア早く~」
「ま、待ちなさいよ!!」
放課後、黒崎と神崎と早々に別れ、帰路に着く。
その途中前から2人の小学生の女の子が走り去る。手にはホルダーが持っていた。
「………まただ」
自分の内から何かが噴き出しそうな感覚。直感的に爆発すれば自分じゃない自分が現れる。そんな風に感じる。
「あの時からずっと………」
あの戦いからずっとこの感覚が続いていた。自分じゃ無くなる感覚、何とか抑えつけているが、何時どうなるかは分からない。
「もう駄目なのかもな………」
そう呟いている事に気が付いて、慌てて首を振るう。
最近はもう諦め始めている自分が居た。
「くそっ!!」
鬱憤が溜まり、近くにあったゴミ箱を蹴る。辺りにゴミが散らばるが無視して、歩く。
「おい!!人の店のゴミ箱蹴ってそのまま帰るつもりか!!」
後ろから怒鳴り声が聞こえ、振り向くとほうきを持っていた中年の男性が怒っていた。そのすぐ目の前にはラーメン屋があったのでそこの店長の様だ。
「おい、何とか言え!!」
近づき、胸ぐらを掴まれる。
「!!?」
咄嗟にその手を払い走り出す。
「おいお前逃げるな!!」
そんな声を無視して走る走る。
「はぁはぁ………」
無我夢中で走り続けて気が付けば研究所に帰って来ていた。
「あっ、お帰りなさい」
「お帰りマスター」
庭にはユーリとユリが一緒に花壇に水をやっていた。
「どうしたんですか?顔が青いですけど………?」
「大丈夫だ………ちょっと走っただけだから………」
「マスター、何かエッチな悪戯がばれた?」
「それよりも性質が悪いかもな………ちょっと休むよ」
そう言い残し、俺は自分の部屋に向かう………
『………』
『………』
互いに何も言わず、見据え、そしてぶつかり合う。自分の限界を超えた戦いはある意味快感を得られた戦いだったのかもしれない。
「違う!!!」
起き上がり周りを見ると外はすっかり日が落ちていた。
「21時か………」
部屋の電気を付け、立ち上がる。どうやら部屋に着いてすぐに寝ていた様だ。
「メモ………?」
机の上にはメモが置いてあった。
『ごはんはリビングにラップをかけておいた。後、もしその気があるならシミュレータールームに来てくれないか?』
メモを残したのはディアの様だ。
「シミュレータールームか………」
出来れば行きたくはなかった。しかし最近俺の変化に余計に心配かけている手前、顔を出さないわけにもいかない。だがもう21時を回っており、もう居ないかもしれない。
「一応行くか………」
重い足取りで俺はシミュレータールームへと向かった………
「来てくれたか………」
あのメモはいつ残したか分からないが、21時過ぎてもディアだけでなく、シュテルもレヴィもユーリも、それにアミタとキリエも居た。
「どうした皆、全員こんな時間に勢ぞろいして」
「何、皆でブレイブデュエルをしようと思ってな………」
そんなディアの提案にまた自分の内で何かが噴き出そうになる。
「いや、だけど俺はホルダーが………」
「焔はまだ使えんが、ユリは使えるだろ?」
そう言うとディアの背中からホルダーを持ったユリが現れた。
「ユリ………」
ユリは無言でホルダーを俺に渡す。
「どうするレイ?」
「………分かった」
ここまで準備して待ってもらった以上、断るわけにも行かず、そう返事をしてシミュレーターの中へ入った。
「久々だな………」
あの事件から数日しか経っていないのに、まるでずっとやっていなかったような感覚を感じる。
「…………ここは」
ゲームの中に入るとそこは空の上だった。
「懐かしいな………」
ブレイブデュエルを初めてした時も空だった。一面青空で下は海が広がっている。
「お待たせしました、レイ」
シュテルの声で振り向くと皆がそこにいた。
「一体何をするんだ?バトルロワイアルでもするのか?」
と坦々と答えたが、内心は早く戦いたがってうずうずしている自分が居る。それを隠す意味合いもあった。
「もちろんバトルです零治君。だけどただ戦うだけがブレイブデュエルじゃないですよ〜!!」
そう言いながらアミタが指をパチンと鳴らした。すると何も無い空にスタート地点とそのずっと先に僅かに見えるゴール地点、更にその間には人が容易に通れる大きさの金の輪が現れた。
「これは!?」
「スピードレース。スピードレース自体は普通にどこでも出来ますが、これは後に開催されるブレイブバトルの競技の1つになる予定のものです」
「ブレイブバトル?」
「パパとしてはブレイブデュエルの甲子園を目指しているらしいわよ」
キリエの答えに何となく分かった気がする。
「だが普通のブレイブデュエルで学校対抗、全国大会をやれば良いんじゃないのか?」
「レイ、先ほどアミタが言ったが、戦うだけがブレイブデュエルではないのだ」
ディアの言いたい事も分かるが、俺の見てきた中では戦いが一番大きい盛り上がりを見せていた。
ならばそれを前面に出した方が大会も盛り上がる筈だ。
「それじゃあルール説明です。このゲームは名前通りゴールに1番速くゴールに着いた人が勝ちです。但し順番にあの大きな輪を通らなくてはなりません」
「順番に通らないとどうなるの?」
「次の輪には通れません。薄い壁の様な物で通れない様になります」
レヴィの質問にアミタはそう答えた。
と言う事はこのレースは特にコースは決まっておらず、輪を順番に通る事が必須条件と言うわけだ。
「なるほどなるほど………」
シュテルはそう呟き、何度か頷いた。何かこのレースの必勝法でも思い付いたんだろう。
(………って俺は何を………)
自然とこのレースの事を考えてしまっていた。油断すれば内なる自分が何時顔を出してもおかしくないのに。
「………それでは他に質問はありますか?」
そんな事を考えているといつの間にか説明が終わってしまった様だ。
「零治大丈夫?聞いてた?」
「あ、ああ。大丈夫だ………」
そんな俺の様子を見て、キリエは何も言わず、準備を始める。
「それじゃ、あのランプが青に変わったらスタートだよ」
カーレースによく見るスタートのランプがスタート地点の場所にあり、赤に点火していた。
「よ~し、ボクが一番だからね!!」
「さて、それはどうでしょうか………?」
バチバチと隣通しで見えない雷をぶつけ合うシュテルとレヴィ。
「ユーリ、無理はするなよ?」
「分かってます。でもだからって負けません!」
心配するディアにそう宣言するユーリ。ユーリもやる気満々の様だ。
「それじゃあ始まりますよ!!」
「準備は良いかしら?」
アミタとキリエの声の後、ランプが点滅し始める。
電子音と共に下に点滅が移動する。そして…………
『ビ―――――!!!』
大きな電子音と共に皆、一斉に動き………
「うん?アミタ?」
皆が一斉にスタートした中、アミタはその場にとどまっていた。
『何をする気だ………?』
「行きますよ!!ガトリングバースト!!」
「!!」
アミタはすぐにスキルを使って来た。双銃から高速連射される魔力弾は前に進んだ全員に襲い掛かる。
「ふん!!ボクのトップスピードならそんなばら撒いた攻撃………って、えっ!?」
一気にスピードを上げようとしたレヴィをオレンジの輪が拘束した。
「そう簡単に逃がしませんよ」
「シュテるん!?」
そのままバインドから逃れようともがくレヴィだが、とても間に合わない。
「盾にもなってもらいます」
「シュテるんの鬼!!」
そんなレヴィの叫びを無視して、レヴィの後ろに隠れるシュテル。
「私はこれくらいの攻撃なら………!!」
対してユーリは攻撃を気にせず、赤紫の翼を広げ、先に進む。
「くっ、いきなりこう来るとは………!!」
ディアは突っ切るのを諦め、防御に専念しつつ、進むことを選んだ様だ。
「しかしスキルの妨害が有りか………」
戦うだけがブレイブデュエルじゃないとディアは言っていたが、どうやらそうでもなさそうだ。
『マスターどうする?』
「俺達は攻撃を無視して先に進む。ブラックサレナの装甲があれば問題無いだろう」
『了解!!』
俺は攻撃から背を向け、スピードを出す。攻撃を喰らうが、攻撃が拡散している分、それほど大きなダメージは無い様だ。
「やられっぱなしで………終わらない!!」
「!?」
レヴィは攻撃が当たる寸前で力ずくでバインドを引き千切った。
「身体が動けばこんな攻撃!!」
「それは私に失礼ですよ!!」
レヴィの言葉に怒ったのか、照準をレヴィに集中するアミタ。
「いい囮ね」
「アミタもレヴィも甘い………」
並んで最初のリングに向かうディアとキリエが最初にリングを通り抜ける。
「ユーリ、お先」
「あっ!!」
先にいたユーリを抜き、その次に俺が通り抜けた。
「むむぅ………負けないです!!」
そう言って大きな翼を広げる。
(加速するのか?)
「ジャベリンバッシュ!!」
そんな俺の予想を裏切りユーリは前方に翼の羽根を発射した。
「ユリ!」
『フィールド展開!!』
現時点の俺はブラックサレナしか使えず、ブラックサレナが解かれれば無防備になってしまう。
だからなるべくダメージを蓄積させるような戦いは避けたい。幸いにも広範囲ではあるが、フィールドを貫通するような攻撃ではなかった。
「まだです……ってあれ!?もう2つ目をくぐってる!?」
ユーリの掛け声に反応し、前を見ると、言った通りキリエとディアが2つ目の輪を潜り終わっていた。
『マスター』
「ああ、これは先に向かうのを優先したほうが良さそうだ」
攻撃して妨害は全員に効果ある場合や、チーム戦で1番足の速い相手の足止めには良さそうだが、個人での競争の場合はさっさと先に向かい、勝てそうでなければ妨害に移ったほうが良さそうだ。
『マスター!!』
「!?」
ユリの警告に咄嗟に急バックする。すると目の前をオレンジ色の砲撃が通過した。
「残念、外しましたね」
「シュテルか!!」
こっちに向かいながら再び杖を向ける。
「移動しながらの砲撃!?」
「誰もできないなんてこと言ってませんよ!!」
再び放たれるブラストファイアを転移して避ける。
「むっ、その転移はこのゲームだと厄介ですね………」
『マスター、無視して先に!!誰かを巻き添えにすればこっちから狙いを外せるかも………』
「流石のシュテルも複数相手に精密射撃は出来ないと思うが………」
シュテルに足止めを喰らった所為でユーリと少し距離が出来てしまった。
「まずはユーリの方へ……」
『マスター!!』
再びユリの声が聞こえ、振り向くと、そこには魔力を集束し、今にも発射しようとしているシュテルが居た。
「このゲームはダメージによるリタイヤは無いみたいですが、ダメージが蓄積すると解除されるブラックサレナはどうでしょうね?」
「くっ!!」
容赦が無い。俺の最大の弱点を分かりつつ、その弱点を突いてくるシュテルはまさに勝負師と言えるだろう。
だが関心している時間も無かった。直ぐにでも転移し、シュテルの狙いから逃れなければならないが………
「バインド!?」
「巻き添えはごめんです」
とユーリにバインドを掛けられ、逃げられなくなった。更にユーリのバインドは他の人が使うバインドよりかなり強固だ。
「悪く思わないでください。これも勝負ですので」
そんな止めのセリフと共に発射する準備が整ったシュテル。今までに見たことが無い規模の砲撃が今にも発射されようとしていた。
(………これで負けるのもいいのかもしれないな)
先程から内なる自分が出ようと暴れているように感じていた。これ以上ヒートアップすればあの加藤桐谷の時のように我を忘れて暴れるかもしれない。
(そうなるのならいっそ………)
そう思った直後だった。
『メッセージ再生します』
「えっ!?」
不意にラグナルから聞こえる電子音。
『マスター、これは………』
「ユリ、フィールド前面集中展開。暫く頼む」
『りょ、了解!!』
ユリにフィールドの展開を任せ、俺はメッセージを再生した………
「フィールド前面に展開ですか………まあそうするしかないでしょうね」
零治の行動を見て不敵に笑う。シュテル自身、最早このレースの勝利にはこだわっていなかった。皆敢えて狙っていなかった零治への妨害。悩んでいるからこそ実際に体験して乗り越えて欲しいと考えていたのだ。
「シュテるん!?レイに撃つつもり!?」
そんなシュテルを見てレヴィが慌てて止めに入った。
「レヴィですか。アミタは撃退したんですか?」
「何とかね………って違うよ!!ルシフェリオンブレイカー撃つつもり!?」
「ええそうです。でないとフィールドを張ったブラックサレナを倒せませんから」
「倒せませんって………今回はテストプレイでレイにブレイブデュエルの楽しさを思い出してもらうために誘ったんだよ!!」
「ですがレイ自身がブレイブデュエルを避けていてはいくらやっても結果は同じです。例え楽しいと思っても結局もう1人と言っている自分が怖くてまた避けます。内なる自分を必死に押し留めて向き合おうともせず逃げたまま………それじゃあ今のままです」
「でも………」
「スパルタなのは自覚してます。ですが今のレイをこれ以上見ていたくない。王に後ほど怒られるにしても私は譲りません」
「シュテるん………」
シュテルの覚悟にレヴィはそれ以上何も言えなかった。
「少し話し過ぎましたね………いきます、ルシフェリオンブレイカー!!」
高密度に集束した魔力を一気に解放する。巨大な砲撃は零治を安々と飲み込んだ。
「これで終わりですか………?」
確実にブラックサレナを倒せる自信はあった。だが、もし以前のようになるなら自分の予想外の行動に出るだろうとも注意していた。
「!?シュテるん!!」
「大丈夫、見てました。………けれどあの状態で逃げますか………」
零治は砲撃を受けながらも上昇し、砲撃から逃げていた。
「直撃はしていましたし、逃げられないと思ってましたが………」
「それもそうだけどレイの姿が………」
レヴィに言われ、シュテルも気がついた。
「白いロボット?」
見たことのない姿のロボットがそこに居た。
白を基調としながら赤いラインが全体に広がっており、大きい翼が付いている。
「レイ………なのですか?」
その問いにロボットの表情は変わらなかったが、ニヤリと笑ったように感じた。
「レヴィ、シュテル!!」
「「!!」」
不意に名前を呼ばれ驚く2人。しかしロボットはそんな反応を気にせず言葉を続けた。
「この勝負勝たせてもらうぞ!!」
そう言うと翼を広げるロボット。
「いくぜアーベント!!」
『アーちゃんで良いのに………』
そんな文句の後に一気に飛び立つロボット。
そのスピードは凄まじく、一気にユーリに迫っていく。
「シュテるん……レイだよね?………それにレイ………」
「楽しそうに……声が弾んでました………レイもしかして………」
「すごい速さ………ううううう!!ボクも負けてらんない!!」
そう言うとレヴィは加速し、零治を追う。
「良かった………」
残されたシュテルは小さくそう呟いた………
「うおおおおおおお!?」
初めての高機動の動きに付いて行くのが精一杯だが、それでも充分遅れを取り戻せた。
『粘るわね〜』
「まだまだ〜!!」
4つ目のリングを越え、先頭を行くキリエとディアの姿が見えてきた。
「誰か来た!?」
「あれは……もしやレイか!!」
俺の姿を見つけた途端、ドゥームブリンガーを発射するディア。
『あら、ホーミング?マスターちゃんと避けてね』
「簡単に言ってくれる!!」
そう言いながらさらに加速。ドゥームブリンガーから視線を外しそうになるが何とか耐え切って手に持つ長いランチャーで防いだ。
『ちょっと!!主兵装そんな雑に扱わないでよ!!』
「大丈夫だ。この銃は強い子だ。それに………」
そう呟きながら止まり、前を見る。流石に大量に展開されたドゥームブリンガーを簡単に避けられるとは思ってなかったからだ。
「レギオンオブドゥームブリンガー!!」
大量に展開されたドゥームブリンガーが俺に向かって囲むように飛んでくる。
「うおっ!?やっぱり恐ろしいスキルだよなこれ!!」
そう呟きながらアーベントの高機動移動を駆使して振り向き、一気に加速して戻りながら避ける。
「ドゥームブリンガーが追いつかない!?このスピード、レヴィ並か!!」
「この距離じゃ私は無理………ならこっそりお先に行かせてもらうわ………」
と画策したキリエはそろりとディアに気が付かれない様に先に進む。
「さて、上手く当たれよ………」
ドゥームブリンガーと追いかけっこしている内に戻って来た俺はそろりと動くキリエに狙いを定めた。
「パルチザンランチャーBモード………行け!!」
照準を合わせ、発射。弾速の速い魔力弾が発射される。
「なっ!?キリエ!!」
「えっ!?きゃうっ!?」
零治の砲撃を背中に受け、エビ反りになりながら宙を回転する。
「零治の攻撃………?って!!」
連射していた砲撃は無防備に近いキリエに容赦なく襲い掛かる。
「きゃあああああああああ!!」
大きな叫び声と共に襲い掛かる砲撃。半分以上外れたが、気絶するには充分の攻撃だった。
「あの加速力に射撃か………あの速度で動かれながら狙われれば充分脅威だな。………だが、それでも戦い方はあるぞレイ!!デモンズハンド!!」
目の前に小さな扉が出現し、その扉から大きな悪魔の手が現れ、俺を掴んだ。
『バインド!?しかし変わったバインドね………』
「感心してる場合じゃないだろ………確かアーベントって………」
『アーマーだけど装甲には期待しないでね。被弾したら致命傷って考えておいた方が良いわよ?』
「この状況で軽いよな本当………」
「それはレイも一緒だ」
そう言いながらディアは俺に近づいてきた。
「余裕だな」
「デモンズハンドは我が魔力を送り続けている限り、解くには我以上の魔力を使って力ずくで解かねばならない。その代わり、我も他のスキルが使えなくなる欠点があるが………今は我と2人だけ、問題なかろう。それにしてもレイ………吹っ切れたのだな」
「ああ。取り敢えずうだうだ悩むのは止めた。俺の両親はこのゲームを世界の皆が楽しめるゲームだって信じていたし、その自信もあった。俺もそうだと思ってる。だってこんなに興奮する体感ゲームってやっぱないよな。今も空の上で飛んでレースして………そう、アイツの様に憎しみで戦う為じゃない。皆が笑顔になるように皆で楽しめるゲームを望んでいたんだ」
先ほど再生されたメッセージ、それは俺の両親が初めてこのホルダー、ラグナルを使ったときに起動するように設定されたものだった。しかし時間が経ち、その設定も起動しなかったようで、恐らく焔の修理の途中偶然見つかったのでは無いかと思われる。
『あ、あ………えっと初めましてかな。私はこのラグナルを作った研究者、佐藤雅也、こっちが妻の早苗』
『初めまして妻の佐藤早苗です』
小さい時に聞いた懐かしい声。思わず涙ぐんでしまうが、今は泣いている場合ではない。
『先ずはこのホルダーを選んでくれてありがとう。このホルダーは私達が初めて作ったものだったからこうやってメッセージを入れされてもらった。もうブレイブデュエルを経験したかな?まだなら今すぐにでもプレイする事をお勧めするよ。このゲームは私達夫婦の夢、そして仲間たちの夢を形にしたものだ。君は想像した事あるかい?空を駆ける気持ちよさ、海の中も世界、市街地の中でアニメの様な激しいバトル。その全てがこのブレイブデュエルで体験できる。それは決してまがいものなんかじゃない、リアルなものだ。それは断言できる。きっと君の心を興奮と感動で満たしてくれるだろう。長々と話をしてしまったが、私達から最後に一言。このゲームを楽しんでくれ。そしてこのゲームはきっと世界中のみんなを笑顔に出来る。私はそう信じてるよ』
「そんな事が……」
「何か俺が迷ってるのを見かねて両親がメッセージを送ってくれた様にも思えたよ」
まだ根本的な解決には至っていないが、俺の忘れていたものを思い出す事が出来た。
「だからさ、ディア。俺はまたアイツと戦う事になっても今度は憎しみや怒りでは戦わない。アイツに分からせてやる。………このゲームが楽しくて最高だって事を」
そう、その気持ちこそ、あの戦いで失ってしまったもの。俺の両親と同じ夢を追っていた博士には仲間の子供がその気持ちを失ってしまった事が許せなかったからあんなに厳しい言葉を言ったのだと思う。
「レイ………」
「それが俺の意志でもあり、俺の両親がこのゲームに込めた想い………………だから先ずはこの勝負に勝つ!!」
そう宣言した瞬間、俺の内で何かが弾ける。それは以前に暴走した時と同じ感覚。
だけど今回は前とは違っていた。
(レイの雰囲気が変わった………?)
その変化にディアも気が付くが、変化はそれだけじゃなかった。
零治のアーマーの赤いラインが蒼くなり、過剰に溢れる魔力に耐えきれず、デモンズハンドは打ち消された。
『オーバーリミット起動』
ホルダーからの機械音と共に、そこから更に魔力が一気に放出される。
「行くぞ………」
先ほどの熱かった零治とはうって変わり、真逆で冷静な零治の雰囲気に戸惑うディアだが、目の前にいた筈の零治がまるで瞬間移動したように目の前から消えた。
「なっ………!?」
だが、当然瞬間移動したわけでは無い。高速移動により、視界から消えたように見えたのだ。
『オーバーリミット終了まで4分………』
『凄いわね、いきなりここまで使いこなすなんて………いいえ、これはスポーツ選手で言うゾーンみたいなものかしら?兎に角、マスターの事甘く見過ぎてたわ』
そんな呟きにも耳を傾けず、ひたすら前を飛ぶ零治。
『このままゴールに………ってうそ!?』
「行かせないよ!!」
そんな零治に追い付く青い閃光。
レオタードの様なイベントコンパニオンに近い恰好のレヴィが零治に負けない速度で並んだのだった。
「これがボクの最速、スプライトフォームだよ!!」
スプライトムーブの速度に近い速さで動く事の出来るフォーム。
「その分防御は捨てたか………」
「だけど誰も追いつけない、それはレイも一緒だよ!!」
そう自信満々に答えるライは更に加速した。
『私もまだまだよ!!』
アーベントが対抗してスピードを上げる。
「ぐっ………!!」
しかし俺の方は慣れない高機動移動に気を抜けば直ぐにでもバランスを崩し、減速するだろう。だがもうゴールは見えている。
「レイ限界?」
「バカを言うな!!」
「でも攻撃を受けたらどうかな!!」
レヴィは減速覚悟で足で蹴りを入れてきた。いくらレヴィでもこの速度で余計な動きをすればスピードが落ちるだろう。その少しの差でも勝敗が決するかもしれないこの勝負。
「ぐっ!?」
一蹴り入れられただけだが、効果は絶大だった。慣れない操作である俺には何とか真っ直ぐ飛ぶのが精一杯でスピードを維持するのは到底不可能だった。
「貰った!!」
勝ち誇った顔でレヴィは先に進む。だが、簡単には行かせない!!
「あぐっ!?」
左手に付いている三個の銃口。小型のレーザー系統の魔力弾を放てる武装だ。
当てずっぽうだったが一撃当たってくれた。
「攻撃!?でも!!」
一瞬動きが鈍ったレヴィと並び、再び拮抗してゴールを目指す。
そして………
「「ゴール!!」」
両者同着でゴールした。
「「どっちだ!!」」
ゴールと共にオーバーリミットも解け、普通のアーベントに戻る。
「………って魔力量が!!」
『当たり前よ。オーバーリミットは魔力を限界まで消費して限界以上の性能を得る奥の手のスキルだからね』
何となく流れで勝手に発動したものの、これをしょっぱなから使っていれば不味かったかもしれない。
『だからこその焔よ』
俺の心を読んだのかアーベントがそんな事を言ってくる。
「魔力吸収か………だけど焔は………」
『………まあそれはこの勝負を終えてからね』
「勝負?それはボクかレイの勝ちじゃ………」
『貴方達、ルール忘れたの?このレースは順番にリングをくぐって一番速くゴールした人の勝ちでしょ?貴方達は順番に通らず、無視してゴールしたじゃない』
「「あっ………」」
因みに1位はディアだった………
「お疲れみんなどうだった?」
「悪くなかったと思います。敢えて障害物が無い分、色々とどう言った展開を作るかを考えさせられました。地上の時とはまた違った感じだと思います」
「リングをくぐらなくちゃいけないってもの面白かったかな~ちゃんと順番に並んでる訳じゃ無かったから一回見失っちゃうとアミタみたいに混乱しちゃう子もいそうだし」
「あ、あれはレヴィとの戦いの後、追いかけるのに慌てちゃっただけですからねキリエ!!」
と赤面しながら否定するアミタ。キリエは楽しそうに姉弄りを続けている。
「博士………」
そんな中、俺も切り出した。
「僕からは特に無いよ。言いたい事も雅也達が伝えてくれたしね」
「ありがとうございます………!!」
「僕は特に何もしてないって。そのメッセージも彼等が残してくれた物だし、結局気づいたのも零治君自身だ」
そう言ってくれるが、このラグナルの調整も焔の修理もそして恐らくこのデモプレイも博士がセッティングしてくれたものだと思う。
(俺はこの人のお蔭で今の俺がある………この人に会えて本当に良かった)
だがそれは博士だけじゃない。
「みんな、迷惑をかけて悪かった。そしてみんなありがとう。俺はこのブレイブデュエルが大好きだ!」
そう言うと皆の顔も笑顔になった。
「うん!ボクも大好き!!」
「私もです」
「我もだ」
「わ、私もです!!」
「私達もですよ、ね、キリエ」
「そうね~こんなの体験したら嫌いになんてなれないわよね」
ユーリが背伸びをしながら一生懸命言う中、皆笑顔で笑い合う。
「………零治君、後これを」
「はい?あっ………」
博士の背中からひょこりと顔を出す小さな姿。
「焔………」
「………ただいまマスター………って!?」
俺は思わず、焔を捕まえて頬擦りした。
「マスター顔近い顔近い!!」
「良かった、良かった………!!」
焔がじたばたしているが、俺は気にせず焔を大事に掴み続けた。
「また触ってる触ってる!!」
「本当に良かった………」
「この………エロマスター!!!」
顔に小さくも威力のあるパンチを受け、手放す。
「はぁはぁ………マスターの変態!!」
殴られた箇所を撫でつつ、怒る焔を見る。
暫く怒っていた焔だが、俺に見つめられ、恥ずかしそうにそっぽを向いた。
「お帰り焔………」
「………ただいま」
そう言って俺は焔を自分の肩に乗せたのだった………
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