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スイーツの工夫

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5部分:第五章


第五章

「ただし。慢心はしたら駄目よ」
「それはわかってるつもりだけれどな」
「そういうこと。スイーツは全部いいから」
「そうか」
「努力の結果よ」
 また妹に話した。
「そういうことでね。後はこのスイーツを新製品として売り出すわよ」
「それは任せた」
「任されたわ」
 この店の経営は妹のひかるがやっているのだ。算盤勘定やバイトの面接はである。それは全て彼女が行っているのである。
「ちゃんとね」
「そうしてくれ。じゃあな」
「さて、後は私の腕の見せどころよ」
 ひかるは満面の笑みで話した。
「お兄ちゃんのスイーツ凄いことになるから」
「凄いことにか」
「売れるわよ、これ」
 満面の笑みはそのままである。
「期待しておいて」
「期待していいんだな」
「私も努力するから」
 彼女もだ。努力するというのだ。
「それを見ておいてね」
「ああ、そうする」
 そしてであった。ひかるも動いた。実際に店のサイトで宣伝し店においてものぼりを掲げて自分自身やバイトの娘を出してそのうえでちらしを配ってだ。かなり頑張って宣伝するのだった。
「新製品!美味しいですよ!」
「あのカリスマスイーツ職人の新製品!」
「研究に研究を重ねた一品!」
 連の名前どころか写真まで出して話す。
「これを食べなきゃ損ですよ!」
「一生の損!」
 大袈裟な言葉は続く。
「さあ食べて下さい!」
「どうぞ!」
 その現物も出して食べてもらう。すると食べた通りがかりの者達はこう言うのだった。
 それを聞いてだ。連は一旦休憩で店の中に入ったひかるに対して言った。
「おい」
「宣伝上手くいってるわよ」
「俺の名前や写真も出すのか」
「そうよ」
 あっけらかんと返す彼女だった。
「それがどうかしたの?」
「何で出すんだ」
 憮然とした顔で妹に問う。
「俺を」
「当たり前じゃない」
 ひかるの返答は平然としていた。
「そんなの。当たり前でしょ」
「当たり前?」
「そうよ、今時はそれが当たり前なのよ」
 その平然とした顔と声でまた兄に話した。
「どうしてかっていうとね」
「それでどうしてなんだよ」
「最近は職人もカリスマって言われてるじゃない」
「話は聞くな」
「そういうこと。おまけにお兄ちゃんってルックスいいし」
 それもあるのだという。
「宣伝に使えるから。こんな男前が作ってますってね」
「それで出すんだな」
「断る権利ないから」
 それもないのだというのだった。
「わかったわね」
「断る権利はないのかよ」
「そういうこと。それじゃあね」
「ちぇっ、おかしなことになったな」
「おかしなことじゃないわ」
 それもないのだというのだった。ひかるはだ。
「今時はそれが当然なのよ」
「おかしな時代になったな」
「何時でも多少おかしいものよ」
 随分と哲学的な言葉も出る。
「わからなくてもいいから」
「わからないが作ればいいんだな」
「それがお兄ちゃんの仕事だから」
「それはわかった」
 それはだというのだ。そうしてであった。
 連は作り続けた。釈然としないがそれに専念することにした。それによってだ。店の売り上げは大幅にあがった。大繁盛となった。
 これにまず喜んだのはひかるだ。仕事の後の店の中で兄にこう言う。
「今日も凄い売り上げよ」
「凄いか」
「そうよ、凄いから」
 こう兄に話す。
「もうかなりね」
「じゃあ店の経営はいいんだな」
「いいわよ。ただね」
「ただ。何だ?」
「この売り上げは投資するから」
「投資って何だ?」
「お店の改装に回すわ」
 それにだというのである。ひかるはしっかりとした顔で話す。
 
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