| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

剣士さんとドラクエⅧ

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

26話 決意

・・・・

 パチンパチンと呪いが弾かれたり、魔法陣に吸収されたりする奇妙な音が響く部屋で、トウカは僕達の前で意識を取り戻した。起きた瞬間から意思の強い黒い目をくわっと見開かれ、無理やり捻り出したような掠れた声で訴えてきた。

「……力が足りない。足りなかった」
「トウカ……」
「私は慢心していたんだ。私は、自分が強者だと勘違いしていた。だからドルマゲスにだって勝てると思っていたんだ」
「兄貴……」
「ねえ、事実はどうだった?私は人質を取られれば動けなくなったし、その前も一太刀たりとも入れられなかった。エルトが吹き飛ばされるのだって止められなかった。それに、私……あいつの言葉に動揺してたんだ……なんて未熟な精神だろう。あいつの言っていたアーノルドなんて、知りもしないっていうのに……!」

 暴れることを防ぐため、ベッドに無理やり縛り付けられ、全ての武器を取り上げられ、頑強な防具まで奪われたトウカは未だ体に纏わりつく呪いのせいか、やや青白い顔で、まくし立てる。

 同時に発生する赤い魔法陣がトウカの呪いを解き続けているから、すぐに呪いには勝てるだろうと、それまでは安静にしておくようにとトウカを看た神父様は言っていた。その神父様は、腐りきったマイエラを信じない僕がドニまで行って呼んできた人だった。

「……トウカ、落ち着いて。今は呪いを何とかしないと」
「これを私は制御は出来ない、勝手に発生している魔法陣に何をしろと言うんだ?エルトこそ、大怪我だったろ?」
「あんなに沢山のアモールの水が降り注いだらどんな傷でも癒えるに決まってるよ……ヤンガスもゼシカも必死だったんだ」

 僕はもう、完治したんだ。未だに泣きそうな顔して、でも泣きはせずに顔をくしゃっとさせて行き場のない怒りを、苦しみを持つトウカのほうが心配に決まっている。

 不意にすっと、普段防具に覆われて見えなかったトウカの腕が伸ばされる。どこからあんな怪力が出るのだと聞きたいぐらいの……筋肉は確かに付いてるけど、その割に細い腕が伸ばされる。トウカの手を女の子みたいだ、と以前称したけど、まさにその通りの腕を。

 ……ちょっと待って。しっかりと縛ってた縄は?……うわ、木っ端みじんじゃないか……。そうだよ、鉄格子でやれるもんね、トウカには縄なんて障害にすらならないのか……。

「なぁ、エルト。私はどうやって守れば良かったんだ?」
「……分からないよ。僕だってトウカとやったことは一緒だから」

 僕だってトウカより先に弾かれただけでやったことは全く同じだった。トウカの方がより長く戦っていたんだから時間だけでも稼げていたんだ。

「……私は」

 ぶちりぶちりと太い縄が切れるのを無視してトウカは起き上がる。引っかかりすら感じさせない動きに、安静にしてもらうためにやった僕たちの行動はやっぱり無駄だったんだと悟らされた。

「……陛下の手足にならなくちゃいけない。私は、姫様の憂いを払う為の剣。陛下を、姫様を、そしてトロデーンの民を苦しめる呪いを解くのが役目だ。人の命を救わないといけない。エルトが笑えるようにしなくちゃならないんだ」
「なんでそこまで考えるの。たまには息抜きでもしなよ……」
「……息抜き?」
「何その未知の物を聞いた顔」

 トウカがいくら戦うのが好きな戦闘狂が入ったバトルマスターだからって、たまには他の事で息抜きでもしたほうが良いんじゃないかと思って言ってみれば、うん。目をパチクリされた。力の抜けた腕がぱさりと布団の上に落ちる。

「……稽古じゃなくて?」
「たまにはそれを止めようと言ってるんだ」
「じゃあ久しぶりに数学でもやろうかな……」
「……数術をやろうっていうの?」
「いや、実は嫌いなんだ……。そうだ、なら槍で戦おう」
「僕の出番がなくなる……って、そうじゃないよ。戦いとか勉強とかから離れてよ」

 小さい時は僕と遊んだりしてたけど、流石に今は十八歳のトウカはそんなことをするわけない。同僚の僕たちは顔を嫌でも合わせるから気にしたことはなかったけど……もしかして、過酷な近衛兵の勤務後も家では武器の稽古と勉強しかしてなかったとか?

 そんで考えることは、王家に仕えて人々を守って、民を救うことしか考えてなかったっていうの?立派なことだけど、突き詰めて考えればそれは馬鹿だ。そうやって自分を追い詰めて追い詰めて強くなっても、肝心なところでぷちんと切れてしまうだけだ。それが今のトウカじゃないの?

「……。じゃあ、マシュマロ食べて寝る」
「ただの宿場町にそんな貴族の高級菓子は売ってないと思うな……」
「違うよ。マルチェロに慰謝料請求しようと思って。鉄格子は破壊しちゃったけどそれを払えとか言われたらさあ、流石に暴れちゃうかな。思いっきり足踏みぐらいはしても許されるはずだよね、勿論フル装備でさ」

 慰謝料って、冤罪で捕まったからだよね?世界に名だたる名家の長子がマシュマロだけで満足するとか……。そういえば寝言にマシュマロが出てくるんだっけ、トウカって。……その、足踏みで全部床が抜けたら僕たち、逃げないと危ないかもしれないなぁ。……ちなみに止める気はない。

 だって悪いけど僕、あの人嫌いだから。何でって、喋り方が。

「……案外可愛らしい好みね」
「そうかな?ボクは昔から甘いものが好きだから別に可愛いとか気にしてないけど。あと私服にリボンとか付いてたし」

 力が抜けたのか、疲れたのか、ぼふっと布団にトウカが倒れ込む。その頃には赤色の魔法陣は無くなっていて、呪いの黒いもやも綺麗さっぱり消えていた。

 そして服の裾を引っ張って見せてくる。何重服を着ているのか、その下にも服を着ているみたいだ。……鎖帷子とか外すのはすごく大変だった。

「……おう、この服にもあったわ」
「これ、トウカが何時も鎖帷子の下地にしている服だよね?」
「……弁解すると、母上の趣味な」

 フリルはないけど、女の子っぽくもないけど、良くも悪くも……中性的だった。あんなに日頃から暴れまわっているのに綻び一つない。さすがに高級品だ。……ますますトウカが女の子に見える。いや、言わないけどさ。言ったらなんかまずい気がする。それからとんでもなく失礼だ。

「……そういえば」
「なんだい、ゼシカ」
「防具を外すのを手伝った修道士が指を挟んで怪我してたわ。……有り得ない箇所で」
「……ちょっとでもボクに敵意があったら自動発生するトラップだね、父上特製の。ダメージは物理的」
「……危うくベホイミ騒ぎよ」
「それはそれは。まるで鍛え方が足りないね」

 ベホイミ騒ぎって、出血多量で本当に危ないことを指すんだけど。赤い謎の魔法陣が血をはじきまくってたし、気絶してて知らなかったトウカが無防備な時の自分に敵意がある人が近づいてた、なんて聞いたら心中穏やかじゃないだろうけど……そんなにマイエラの人が嫌いなの?中には良い人もいると思うけどな。赤い聖堂騎士さんとか。

 ……嫌っている僕が言えたもんじゃないけど。

「……さて。マシュマロとかは後回しにして、今日はもう寝よう。明日はオディロ院長のお葬式だから……」
「分かったわ」
「了解でがす」
「……うん」

 暴れたりいきなり剣の稽古に、流石に行きそうにないトウカ。うん、これなら見張ってなくても大丈夫そうだ……ていうか、ゼシカを含んでみんな同室なんだけどさ。修道院だからというか、ささやかな嫌がらせというか、部屋が足りてないというか、ね。

「……ちなみにボクの武器と防具は?」
「手袋の中だよ」
「……ん」

 早速トウカはすらりとした長めの剣を取り出して、嬉々として抱き枕ごとく抱きしめ始めた。……ツッコミはもう疲れたからしないでいいや。寝にくくないのか、とかいう疑問はあるけど。

 すぐに、穏やかな寝息が聞こえていたので、僕たちはそっと離れた。……前もだけど、トウカって寝るの早くないかい? 
 

 
後書き
縄「」
剣「役……得?」
修道士「」

名前出てきたと思ったらまたククールが赤い聖堂騎士呼びに……。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧