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美食

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8部分:第八章


第八章

「本当にね。普通ですよ」
「普通なのか、ここじゃ」
「だってここは美食倶楽部ですよ」
 だからだというのである。
「これも普通ですよ」
「そういうものなのか」
「はい、だからですね」
 利樹はさらに言ってきた。
「まずは席に座りましょう」
「そうだね。じゃあ座って」
「話はそれからで」 
 こうして一つのテーブル、欧風のそれに向かい合って座る二人だった。すぐに緒方が来てまずは利樹に対してにこやかに笑って声をかけてきた。
「いらっしゃい」
「はい」
 気さくな笑顔に明るい笑顔で返す利樹だった。
「今日は新しい同志を連れて来たんだね」
「同志!?」
 そう言われて思わず怪訝な顔になる彼だった。
「同志というのは」
「八神さんのことですよ」
 その彼の名前を呼んできた利樹だった。
「決まってるじゃないですか」
「僕のことなのか」
「そうですよ。美食倶楽部のね」
「ようこそ、美食倶楽部へ」
 緒方は彼にも気さくな笑みを浮かべて言ってきた。
「ここでは皆同じだよ。美食を求めて来るんだよ」
「はあ」
「この人がですね」
 ここで利樹はその緒方に八神のことを話しだした。
「俺にこの店を紹介してくれたんですよ」
「ああ、そうだったんだ」
「ええ、まあ」
 今の言葉にはおずおずとした調子で返す八神だった。
「そうですけれど」
「そうか。それでも来てくれたのははじめてなんだね」
「そうです」
 このことも認めた。
「それでですけれど」
「この美食倶楽部の食事、是非楽しんで下さい」
「わかりました」
 緒方の勢いに完全に飲まれていた。
「それじゃあ」
「今日は犬料理を御願いします」
 利樹が緒方に告げた。
「保身湯と骨付き肉を煮たものを」
「肉は赤犬でいいね」
「はい、それで御願いします」
 こうしたことまで決められるのだった。
「それで御飯も御願いします」
「御飯はあれだよね」
「十六穀米で御願いします」
「わかったよ、それぞれ二人前で」
「デザートは後で頼みますから」
「了解」
 ここまでやり取りしてから去る緒方であった。程なくしてその犬料理と米が出て来た。八神はまずその様々な雑穀が入った飯を見るのだった。
 見れば麦だけでなく大豆や稗、粟、黍等が入っている。それを見るとどうにも違和感を感じずにはいられない八神なのだった。
 それで顔を顰めさせて利樹にこれは美味いのかと問おうとしたが。彼は既にその雑穀が多く入れられている御飯を美味そうに食べているのであった。
「美味いのか」
「滅茶苦茶美味しいですよ」
 まさにそれを楽しむ言葉で返してきたのだった。
「ですからどうぞ」
「麦飯は食べたことがあるが」
「あれも美味しいじゃないですか」
「まあな」
 それは八神も知っていることだったので認めはする。
 
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