真田十勇士
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巻ノ三十七 上杉景勝その六
「是非な」
「そして大きくなって欲しいですか」
「是非」
「まことにな」
「では明日も」
「書をですか」
「源四郎殿が読まれたいならな」
このことを願ってくるのならというのだ。
「是非共じゃ」
「わかりました、では」
「書庫を開く用意は何時でもしておきます」
「是非共」
「その様にな、しかし源四郎殿も立派であるが」
幸村の話からだ、兼続はこうも言ったのだった。
「ご長子であり嫡男であられるな」
「はい、源三郎殿もですな」
「あの方もでしたな」
「非常にですな」
「立派な方とのことですな」
「今は徳川家に行かれているという」
彼も人質に出ているのだ。
「その源三郎殿はどうされているか」
「あの方はですな」
「今どうされているか」
「そのことがですな」
「気になりますか」
「少しな」
彼のことも考えるのだった、その信之はというと。
上田から徳川家の領地に入った、その彼を迎えに来たのは本多忠勝だったが真田家の者は彼を見て驚いた。
「何と、四天王の方が」
「自ら来られるとは」
「これはまた凄いのう」
「うむ、想像もしていなかった」
「ようこそ来られました」
本多は信之に恭しく頭を垂れて迎えた。
「ではこれより駿府まで案内致します」
「そうして頂けますか」
「既に駿府には屋敷を用意しております」
信之と彼の家臣が入り住む為の場所がというのだ。
「そこにも入られてです」
「そのうえで」
「書も好きなだけお読み下さい」
「そうしても宜しいのですか」
「何でも不自由があればです」
信之がそう感じた時はというのだ。
「何でもそれがしにお話下され」
「そこまでですか」
「真田殿は当家のお客人です」
本多は確かな声でだ、信之に言った。
「それ故に」
「だからですか」
「はい、何もご案じめされるな」
こうまで言うのだった。
「駿府では学び武芸に励まれ」
「そしてですか」
「憂いなく過ごされて下さい」
「そこまで言って頂けるとは」
「言葉だけではありませぬ」
何時しかだ、本多は信之と馬を並べていた。案内役というのではなくあくまで彼を立てているのは明らかだった。
「当家は言った言葉は守ります」
「それが義だからですか」
「それが徳川家です」
やはり確かな声での言葉だった。
「殿は特にです」
「律儀ですな」
「それが当家の誇りですから」
このことを信之にも約束するのだった。
「ご安心下さい」
「それでは」
「くれぐれも。そして」
「そしてとは」
「はい、それがしの一族ですが」
この前置きからの言葉だった。
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