どんなになっても
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3部分:第三章
第三章
「そんな変な魚ばかり食べるのかな」
「美味しいって言うけれど」
「それがわからない」
彼にはとにかく全くわからない話であった。
「全くね」
「そうよね。まあとにかくね」
「当分猫の餌には困らないね」
「それはね。ただ」
「ただ?」
「また砂を用意しないと」
シャハラはまた困った顔になって述べた。
「おトイレのね」
「ああ、それだね」
「砂も用意しないといけないし。あとは」
「ははは、他には何もないじゃないかい」
「あるわよ」
今の夫の能天気な言葉にはむっとして返してきたのであった。
「ちゃんとね。あるわよ」
「あるっていうのかい?」
「そうよ、あるじゃない」
言いながら家の壁を指差す。するとそこは研いだ跡がはっきりと残っている。それを彼に指し示したうえでさらに言うのであった。
「あれ、見えるわよね」
「うん、見えるよ」
その研いだ跡を見ながら言うアブドルだった。
「ちゃんとね」
「じゃあわかるわよね」
「そうだね。板でもつけておくか」
「そうしないと家中研ぎ跡だらけよ」
シャハラはうんざりとした顔で夫に述べた。
「本当に。もうそうなってるけれど」
「困ってるんだね」
「はっきり言ってね」
その通りだというのである。
「かなりね」
「ううん、それだったらね」
「板を貼っておいてね」
「そうしようか。じゃあそれは僕がやっておくから」
「ええ」
「君は何もしなくていいよ」
微笑んで妻に言うのであった。
「そのことはね」
「そうさせてもらうわ。けれど」
「けれど?」
「今何匹いるのかしら」
猫の数についても話が為された。
「一体どれだけの数が」
「四十匹はいるよね」
「そうよね。一応全部去勢とか不妊手術はしているけれど」
流石にそれはしておくのであった。これ以上子供までできては面倒が見切れないのは流石にわかっていたからである。捨てるという選択肢はなかった。
「それでもね」
「まあいいじゃないか。猫は宝だよ」
「宝なの」
「そうさ、宝だよ」
屈託の無い笑顔で言うアブドルだった。
「幸せを呼ぶ生き物なんだよ」
「それ誰が言ったの?」
「さて、誰だったかな」
そう言われると首を傾げてしまった。
「一体全体」
「それはわからないの」
「けれどまあいいじゃない。ちゃんと養ってるんだし」
「まあそれはね」
「君にも猫達にもひもじい思いはさせないよ」
そのことはしっかりと言うのであった。
「何があってもね」
「それは頼んだわよ」
「じゃあ晩御飯にしよう」
あらためて妻に言うのであった。
「是非ね」
「ええ、それじゃあね」
こうして夫婦水いらずとはいかず猫達に囲まれながら食事を摂るのであった。そして寝る時もだ。夥しい数の猫達に囲まれてベッドの中で眠るのであった。
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