幽霊でも女の子
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3部分:第三章
第三章
「俺は三田政之っていうんだ」
まずは政之が名乗った。
「仕事は薬剤師」
「変な薬作っていないでしょうね」
幽霊は政之の仕事を聞いて即座にこう問うた。
「少なくとも合法的なのしか作っていないぜ」
「本当!?」
「法律に触れたらどうしようもないだろ」
彼は言う。少なくとも法律に触れることはしていないというのだ。
「違うか?」
「それだったらまあいいけれど。けれど」
幽霊はまだ言いたかったが止めた。これだけ図太い政之なら本当に何かありそうだったがそれを聞くのが何か怖くなったからである。
「それで私の名前よね」
「そうそう、それそれ」
政之は本題に入って笑みを浮かべる。ベッドに座って話を聞く。
「何ていうの?名前」
「加藤明日香っていうの」
「へえ、いい名前だな」
政之は幽霊の名前を聞いてすぐにこう応えてきた。
「似合ってるよ」
「有り難う」
「それで何で幽霊になってんだ?」
政之が次に聞いたのはそれであった。
「事故かい?病気かい?」
「事故なのよ」
明日香は憮然とした顔で答えた。
「この部屋でガス爆発起こしちゃってね」
「それはまた災難だったな」
「五年前にね。念願の一人暮らしがやっと実現したと思ったらよ」
「そうだったのか」
政之はそれを聞いて少し同情したが顔には出さなかった。そんなに人のいい彼ではないのだ。
「それはまた」
「それからずっとここにいるのよ」
「彼氏は?」
「いるわけないでしょ」
さらに憮然とした顔になる明日香だった。
「幽霊で。ここから離れられないのに」
「じゃあ今フリーかよ」
政之は急にそこを言うのだった。
「あんた彼氏いないんだな」
「当然でしょ。ここから離れられないんだし」
明日香は少し俯いて口を波線にさせて言うのだった。
「死ぬ前までいたけれど」
「だよな。それじゃあ」
政之はそこまで聞いて笑う。思わせぶりな笑みで明日香を見るのだった。
「俺なんかどう?」
「どうって?」
「だから。一緒に住むんだしどうせなら付き合った方がいいじゃないか」
「何でそうなるのよ」
「まあまあ」
そう言いながら立ち上がる。そうして明日香の肩に手を触れると。実感があった。
「何だ、触れるんだ」
「触ろうと思えばね」
明日香は答えた。
「身体を暖めることだってできるし」
「幽霊っていうのも便利なんだな」
「けれど。どういうことよ」
意外と小柄だった。明日香は政之を見上げて問い返す。
「付き合うって」
「だから言ったままだよ」
政之は自分の両手を明日香の両肩に置いてまた言う。
「じゃあ俺じゃ駄目かい?」
「性格は好きになれそうにないけれど」
それは今のところは気にしないことにした。
「顔はね。悪くないし」
「そうそう、男は顔だよ」
政之はまた己の問題のある性格を見せるのだった。
「だったらそれで決まりだよな。それじゃあ早速」
「早速って!?」
「ベッド行こうぜ、ベッド」
「ベッドってまさか」
これはすぐにわかった。明日香も知らないわけじゃない。
「あんた、もう!?」
「付き合うんだったらいいじゃないか」
明日香を半ば強制的にベッドの方に連れて行って言う。
「だろ?それじゃあ」
「あんたってこれまでの彼女にもそうだったの?」
「そうだよ」
ここでも平気な顔であった。
「悪いか?」
「嫌な性格してるわよね、本当に」
「よく言われるさ。それで駄目なのか?」
「駄目じゃないけれど」
ここまで強引だと逆らうことができなかった。明日香としても観念するしかなかった。そうさせるのもまた政之の悪い意味での技量であった。
「わかったわよ。行きましょう」
「じゃあ付き合うんだよな」
「私に拒否権ないんでしょ?」
「あると思うのか?」
やはり性格が悪い男だった。
「ここまで来て」
「そんなのだから嫌われるのよ」
「嫌われても平気だな」
ここでもこう言う。
「何を今更」
「本当に性格が悪いのね」
「毎日みたいに言われてるさ」
だからこそ平気だった。
「まあそれで堪える奴はそもそも芯が細いんだよ」
「あんたに限ってそれはないみたいね」
「全然。言う奴には言わせとけばいいんだ」
それが彼の考えであった。
「違うのか?」
「実際にそんなこと言った人はじめてだわ」
明日香もこれには呆れた。
「ある意味尊敬に値するわ」
「じゃあ尊敬してくれ」
そう言って明日香をベッドに座らせた。彼はその前にいる。
「いいよな、これから」
「断ることできないんでしょ?」
明日香は少し憮然とした顔で政之に言った。
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