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ソードアート・オンライン~隻腕の大剣使い~

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第30話みんなの心が、ユイに起きた異変


2024年10月31日、第1層・《はじまりの街》

《黒の剣士》と《閃光》夫妻の娘、記憶喪失の謎の少女ユイちゃんの記憶の手掛かりを探す事に協力する事になったオレと未来。最初に訪れたのは第1層の《はじまりの街》。何故かと言うと、《ナーヴギア》の使用年齢制限の13歳より下の子供達がそこの教会で保護されているそうだ。そこに行けばユイちゃんを知っている人がいるかもしれないーーーそんな希望がある事を、オレ達は信じて疑わなかった。

「ここに来るのもひさしぶりだな」

「わたしも」

「オレ達攻略組だもんな・・・」

「低層に来ることはあっても1層に来ることはないもんね」

ピンクのセーターと黒いフリルのスカートを着たユイちゃんをおんぶする相変わらず黒一色のキリト、黄色いセーターの茶色のスカートを着たアスナさんがこの場所を懐かしみ、オレと未来が攻略組がこの場所に来ることはないと答える。
不意にあのデスゲーム開始の日の光景が頭の中を過る。広場に集められた全プレイヤー。血のように赤黒く染まった空。ゲームマスターの赤いローブを身に纏った茅場晶彦。解除されたアバター。そしてーーー現実からも仮想からも奪われた左腕。オレが《隻腕のドラゴン》と呼ばれるようになる隻腕は、現実の友達を死に追いやったーーーオレの罪の根源。

「ねぇユイちゃん。見覚えのある建物とかある?」

ユイちゃんに対するアスナさんの問い掛けが耳に入り意識をはっきりさせる。そうだ、今オレの過去はどうでもいいーーーいや、あいつらの事はどうでもよくないけど今はユイちゃんの記憶を取り戻すのが優先だ。
アスナさんの問い掛けを聞きユイちゃんは周りの建物を見回しているがーーー「わかんない」と返して不安そうな顔をする。

『まあ《はじまりの街》は恐ろしく広いからな。とりあえず中央市場に・・・』

「プフッ!二人とも~~~」

「ハモってるハモってる!」

「わぁ~い!パパとおいちゃんおんなじ~!」

何でハモってんだ壊滅ファッション漆黒(ブラッキー)、思いっきり笑われてんじゃん。そのオレにそっくりな思考どうにかならねぇのか?ん?




******




「ねぇキリトくん。ここって、今プレイヤー何人くらいいるんだっけ?」

「そうだな・・・SAOの中で生き残ってるプレイヤーが約6000人。《軍》を含めるとその3割くらいが《はじまりの街》にいるらしいから・・・」

「2000人弱・・・かな?」

「《軍》・・・そういやここって《軍》のテリトリーか」

現在SAOで生き残っているプレイヤーは攻略組、中層プレイヤー、監獄にいるプレイヤー全てをカウントして約6000人。この《はじまりの街》には軍を含めて2000人弱。その中にはゲームクリアまでこの街から出ないつもりのプレイヤーもいる。
だがこの理屈が通らない所があるーーー人が少なすぎる。それこそ見た感じ2000人弱はおろか、100人いるかどうかの静けさだ。

「子供達を返して!!」

『!?』

突然路地裏の方から女の人の怒鳴り声が聞こえた。

「みんな行くぞ!」

『うん!』




******




「子供達を返してください!!」

「人聞きの悪い事を言わないで欲しいな。ちょっと子供達に社会常識ってモンを教えてやってるだけさ。これも《軍》の大事な任務でね・・・」

見つけた。声の響き具合からそんなに距離はないと思ってたけど、思ったより近かったな。そこにいたのは茶髪を後ろで束ねた青いワンピースを着て眼鏡をかけた顔にそばかすの付いている女性とーーー《アインクラッド解放軍》。

「そうそう、市民には納税の義務があるからな」

『ハハハハハハハハハ!!』

納税ねぇ。確かに現実だったら払わなきゃダメだけどーーー仮にもゲームなんだ。別に義務はない。

「ギン!ケイン!ミナ!そこにいるの!?」

《軍》の連中の向こう側にいる子供達の名前を叫ぶ女の人の前に《軍》の男が視界を塞ぐ。

「サーシャ先生!先生助けて!!」

「お金なんていいから、全部渡してしまいなさい!」

「先生、それだけじゃダメなんだ!」

助けを求める子供に全額払えと女の人ーーーサーシャ先生が言うが、どうやら税金だけじゃないみたいだな。

「アンタら随分税金を滞納してるからなー」

「装備も全部置いてって貰わないとなァ~、防具も全部、何から何までな「そっか、じゃあオレが身ぐるみ剥いでやるよ。お前らの身ぐるみを」グハァッ!?」

正面突破からの後ろにまわって踵落とし。それで昭和ながらのまいっちんぐ発言をしたこの集団のリーダー格の男を蹴り落とす。その隙に娘をおぶった《黒の剣士》、その良き妻の《閃光》様と我妹の《竜の巫女》が子供達の所へ飛び移る。

「おい、おいおいおい!何なんだお前らは!」

「我々《軍》の任務を妨害するのか!?」

「まあ待て。・・・アンタら見ない顔だけど・・・解放軍に楯突く意味が解ってんだろうな!?」

「うっせ、碌でなし連中がい息巻いてんじゃねぇよ。理矢理奪った金で呑んだり食ったりすんだろ?税金泥棒が」

「グハァッ!?」

女子供脅してカツアゲしてる税金泥棒を《竜王拳・竜の樋爪》で再び蹴り落とす。

「恐喝罪、拉致、及びハラスメント発言で・・・全員沈んでろ!!」

『グハァッ!?』

ひさびさに発動、ブレイクダンスのように逆立ちの状態で回転蹴り、《竜王拳・ウロボロス》。こいつで全員サーシャ先生の2m近く後ろに吹き飛ばし、オレもそこにジャンプする。
あとどうでもいいけどコイツら吹き飛ばされた時「グハァッ!?」しか言ってねぇぞ。《軍》の断末魔はみんな「グハァッ!?」なのか?なんだよこの《グハァッ!?軍団》。

「まあ安心しろ《グハァッ!?軍団》。『《グハァッ!?軍団》!?』《圏内》じゃどんな攻撃を受けてもHPは減らない。そういう軽いノックバックが発生するくらいで済む」

その代わりーーー

「その代わりに・・・圏内戦闘は恐怖を刻み込む」

ここまで言って逃げ出そうとする男のケツをサッカーボールのように蹴り飛ばし残りの《軍》のメンバーをボウリングのピンのように吹き飛ばす。サッカーボールでボウリングーーー何かおかしいなコレ。

「ヒッ!!」

『ヒエェェェェェェ!!』

「あ、逃げた」

あの程度で情けねぇなぁーーーもっと頑丈になって出直して来い。

「すげぇ・・・すげぇよ兄ちゃん!!」

「ん?」

なんか助けた子供達とサーシャ先生って人がオレに駆け寄って来たぞ。

「初めて見たよあんなの!」

「うん!すごくカッコ良かった!」

「ありがとうございました!」

「え?いや~・・・アハハハハハ!」

いや~照れるな~~~!やっぱり人助けって気持ちいいなぁ!アハハハハハ!

「みんなの・・・」

「?」

何だ?キリトにおぶられてるユイちゃんが空に手を伸ばしてるーーー

「みんなの心が・・・」

「ユイちゃん?」

「ちょっとゴメンな」

「何・・・?」

「ユイ・・・どうしたんだ!?」

みんなの心がーーーその言葉を聞いたオレ達はユイちゃんに駆け寄る。もしかしたら記憶がーーー

「ユイちゃん、何か思い出したの?」

「わたし・・・わたし・・・わたしここには、いなかった・・・ずっと一人で、暗い所にいた・・・」

「ユイちゃん・・・何それ?」

ここにはいなかった、ずっと一人で暗い所にいたーーーその意味はオレ達には全く解らなかった。未来がユイちゃんに手を差し出そうとするとーーー

「うわぁぁぁぁぁぁ!!」

目を大きく見開いて悲鳴をあげた。だが、それだけじゃない。

ザザザザザザザザザザ

「お兄ちゃん!ユイちゃんの身体が・・・!!」

「それに何だ!?この雑音・・・!」

未来の言う通り、ユイちゃんの身体がノイズがかかっているかのように歪んでいる。それに耳をつんざくような雑音、心なしか視界も上手く効かない気もする。そしてユイちゃんはキリトの背中から落ちアスナさんに抱き抱えられる。雑音も消えたし、視界も戻ってきた。

「ママ・・・恐い!!ママ・・・」

アスナさんの胸の中で、何かに怯えるように泣きじゃくるユイちゃんは意識を手放し気絶した。

「キリト・・・」

「あぁ。何なんだよ・・・今の」

隣に立つこの子の父親に声をかける。
みんなの心、ここにはいなかった、ずっと一人で暗い所にいた、身体にノイズがかかったユイちゃん、耳をつんざく雑音、目に見える歪んだ街並みーーー世界。みんなの心ーーーオレ達?だとしたらオレ達に、ユイちゃんに、SAOにーーー

「何が起こってるんだ・・・?」
 
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