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デート・ア・セブン~七つの大罪と美徳~

作者:事の葉
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四糸乃パペット
  雨の中の宝石

その後、再び瞬きをするとリンは消え、狐珀へと戻る。
「・・・帰りたい」
「そうだな・・・」
二人が空を見るが、曇天の空は太陽の光を見せるつもりはないらしく、常に雨粒を降らせ続ける。まるで、三人を拒んでいるかのように降る雨は地面に小さな小川を作る。
「最近天気予報が外れるな」
呆れたような十香の声が流れる。
最近、というか、ここ一週間だろうか、天気予報はてんで当たる気がしない。最近ほぼ毎日降り続ける雨。
何の前兆もなくその雨は突如として空を覆い、昼間だった筈の天空は夜のように真っ黒くなる。
そして、その雨を予測したことはここ一週間ばかし、一度も無い。
既に信用を失った番組はそれでも天気予報をやるが、晴れと言っても皆が傘を持ってくるのが当たり前となり始めている。
皆が空を睨みつけると同時に、狐珀はなにを思ったか、おもむろに上着を脱ぎ、白Tシャツも脱ぎ始めた
「キ、キツネ!?」
目の前で友人といえど、男が脱ぎ始め、羞恥心の持っている十香は顔を赤くし、声を上げる。が、狐珀はただ迷惑そうな目を十香に向け、なにと一言言うだけである
「いきなり脱ぐな!」
「だってこれは気持ち悪い」
「我慢しろ!」
「ボクの辞書にそんなのない」
そう言うと、全く絞っていない雑巾のようにびしょ濡れになった上着を渡すと、スタスタといつ人が戻って来るか分からない商店街を全く気にしていない狐珀は普通に歩き始める。
「あいつに恥じらいというのは無いのか・・・」
「あるっちゃある・・・んじゃないか?」
しかし、高校一年生の頃、体育で着替えている途中の男の更衣室に女子が間違えて入った時も唯一狐珀だけは一切着替える手を止めず、更には風呂場に琴里が間違えて入ってしまった時も、一切驚かず、ずっとシャワーを浴び続けたというのだ・・・狐珀はどこか、外れているところがあるかもしれない・・・
と、上半身裸の狐珀をずっと見ていると、一番早く戻って来たであろう男が狐珀と偶然にも会い、二人の足が止まる。
しかし、男はバリカンで剃ったであろう髪の右側に龍の入れ墨が、そして、虎の書かれている黒い上着から見える肩には、少し変わった緑色の入れ墨が入れられ、耳と口にはピアスが。という、何処からどう見てもヤンキーにしか見えない男なのだ。
「あれ、大丈夫か?」
「見るからに悪い奴だな」
十香が少し警戒しそちらを見ると、狐珀はそのヤンキー男に連れ去られてしまった。
「あ・・・」
しかし、絶対その後を追いかけようとは思わなかった。
翌日、ボッコボコにされた悲惨な被害者が二人増えるだけである・・・
「ま、まぁキツネなら大丈夫・・・じゃないか?」
何の根拠もない事を言うと、十香は地下シェルターから戻ってきた老人や、客に目を向けてゆく。

あれから2、3分程度経過したであろう時、ずっと金縛りみたいに逸らすことの出来なかったあの曲がり角から、ヤンキーと、ヤンキーの服を身に纏った狐珀が出て来る。ヤンキーが狐珀を肩車して。
そして、狐珀はベシベシとその髪のない頭を叩き、前方を指差す。
そのヤンキーはというと、叩かれる度に相当痛いのだろう、仕返しで持っていた足をこれまたベシベシと叩く。
「なにあの光景」
呆然とした士道の目で見えるその異様な光景を、脳が拒んでいるかのように全く頭に入らない。
そして、足を叩かれるのに怒ったのか、ついには手の平で叩いていたのを、チョップに変更させ、頭頂部を小指の付け根にある出っ張りで見事に攻撃する。
それに反撃するには足ではダメと分かったのか、ヤンキーは思いっきり狐珀を揺らす・・・が、全く落ちる気配がないどころか、そのチョップを止める気配さえない。
「すげぇへばりついてる」
そして、呆然と見て、ようやく分かった。狐珀が傘をチョップしていない方の手で持ち、上着はいつもの白T、そして、後ろにでっかく一つ、前の左右対称の場所に一つずつ、白い龍の描かれている黒い上着を着、少し緩いズボンをドクロがついているベルトで締めている。
どうやら、先程連行された?場所に辿りつくと、最後に一発、遠くから見ても分かる程振りあげた手刀を思いっきり振り下ろす。
見るだけで頭の頭頂部が痛くなり、ぎゅっと目を閉じる。
少し遠くに見えるヤンキーが叫ぶと、地面に前から倒れる。しかし狐珀は、崖から飛び降りてくるヒーローのように飛び、2度縦回転すると、見事に手を斜め上に上げ、新体操の終了みたいな状態で、一切動かない。その逆に、ヤンキーは地面でのたうちまわり、声にならない悲鳴を上げる。
かと思えば、先程のように遠くにいた狐珀は消え、目の前にずんと顔が現れる。
それを予知していた士道は狐珀の顔の丁度真ん中に手の横を喰らわした。
「痛い」
「だろうな」
全く痛そうにしない狐珀。
だら~んとたれた狐珀の左手には、地面との摩擦で少し先端の擦れたビニール傘を持っていた。勿論、開いたとしても二人が精一杯であろうそのビニール傘は三人が入るには狭すぎる。
「傘、二人しか入れないよな?」
「はい」
それを聞いた狐珀は、心なしか少し楽しそうに、士道の目の前に先端と持ち手を持ち、傘を突き出す。
「・・・?」
「相合傘」
「・・・・・・」
それだけ言うと、狐珀はゆっくりと速度を上げ、最後にグッジョブマークを士道に見せると、何処に隠していたのか、ローブのような大きな透明のレインコートを羽織り、フードを被り、フードが取れないように手で抑えながら、周りから来た人の濡れた足跡で滑るかもしれない商店街を、人を避けながら先程轢かれかけた大通りへと出、未だ残っているであろう大型トラックの横を通り過ぎた。
そんな光景を見ながら、狐珀の一言に、士道は十香との相合傘を想像してしまい、恥ずかしさが込みあがる。
しかし、相合傘の意味を知らない十香は無垢な水晶の如き双眸を士道に向け、首を傾げる。
「あいあいがさ、とはなんだ?」
「と、十香。そ、それはだな・・・」
一瞬声が裏返り、どうにかしようと脳を無駄に回転させる。
「あいあいがさとは何だ!?」
周りにいる人をお構いなしにそう叫ぶと、余計顔が熱くなる。
「そ、それはだな・・・男女が一緒の傘に入って・・・」
相変わらずこういうことに慣れない士道は、周りの注目がもっと注がれる前に十香の問いに答える。
「なんだそんなことか。ではやってみるぞ」
「あ、あぁ」
現在、男女一人ずつ、傘が一本の状態、相合傘以外の選択肢がないことに、他に濡れずに戻る術を知らない士道は、ただ首肯するだけしかなかった。半月前だろうか、デートした時でも、ある程度の距離であった為、なんとか落ちつけたが、今回、相合傘とは肩と肩がぶつかるであろう程近くなのだ。
商店街のかまぼこ状の透明な天上にギリギリ入っている場所で、狐珀から貰ったビニール傘を開く。
未だ決心のつかない士道とは逆に、十香は何をするかという興味でワクワクして大雨となる道路へと出る
「・・・シドー?」
十香は、隣に来ない士道に気づき、後ろを振り返る。
「・・・シドーは・・・嫌か?」
十香がそう言うと、悲しいのか、眉を八の字にした。
「い、嫌じゃない!」
ようやく決心のついた士道が、十香の悲しさ混じりの問いに少し声を大きくし、タッタッタッ、と軽く走り、十香の持っていた傘の中に入る。
「そうか。では行くぞ!」
先程までの悲しみが仮面かと勘違いするんじゃないかというくらい、屈託のない笑みを作り、歩き始める。その二人の歩幅は、自然と一緒になっていた。



「・・・傘渡したの失敗かな・・・」
商店街から少し離れた場所を走りながら、士道に渡したビニール傘を思い出す。
確かにレインコートで雨は防げるが、頭を濡らさない為に被ったフードを抑える為に出した手に雨がボツボツと当たる。
「・・・まぁいいや」
正直、雨は嫌いではない。
小さい頃、まだ失感情症を患っていなかった時、雨の日は必ず大人用の長靴を履いて、ビシャビシャと水溜りの上を跳ねて楽しんでいた。場所は、今丁度通りかかる神社で。
ふと、昔を思い出し、通りかかる神社の方を向く。その後、先程まで軽快に走っていた足がゆっくりと止まって行く。
足が疲労に耐えかねた訳でも、グショグショになった靴にうんざりした訳でもない。
ただ―――その神社に。
曇天の空から降る水玉よりも、遥かに気になるものが現れた。
「・・・女の子?」
狐珀の唇は、そんな言葉が現れた。
そう、それは、少女だった。
可愛らしい意匠の施されたレインコートに身を包んだ、小柄な影。
顔はウサギの耳のような飾りのついた大きなフードに頭を覆い隠していた為、分からなかった。
そして、もっとも特徴的なのは、その左手だ。
サーカスに出てきそうなコミカルなウサギ形の人形(パペット)が、そこに装着されていた。
そんな少女が、元からあまり人の来ない神社で、楽しげにぴょんぴょんと跳ね回っていた。
「・・・昔のボクみたい」
そう思い、空から降る雨水なんて気にしない程に、少女を見ていた。周りから見たら変態かもしれないが、昔、母親に盗撮(?)されていた自分を思い出し、少し微笑ましく見守っていた。
雨靄(あまもや)が薄いカーテンに、ひとけのない神社は彼女のステージとなり、まるで踊っているように跳ね回っている少女の楽しさを引き立たせて―――
―――ずるべったぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!
「・・・?」
相変わらず人形のような顔は変わらないものの、首を傾げた。
女の子が・・・・・・コケた。
前にコケたせいで、顔面と腹を盛大に打ち当て、あたりに水しぶきが飛び散る。ついでに彼女の左手からすっぽり抜け、前方に飛んでいった。
・・・しかし、コケた少女はうつ伏せになったまま、動かなくなる。
「・・・あ」
ふと、死んだ?と思い、もたれていた壁から立ち上がり、左右を見て車が来ないことを確認すると、スタスタと歩き始め、未だ動かない少女に寄ると、その小さな身体を抱きかかえるように仰向けにしてやる。
「・・・もしも~し」
そこで初めて、少女の顔を見ることが出来た。
年齢は士道の可愛い妹(らしい)。琴里と同じくらいだろうか。ふわふわの髪は澄み渡った海のような青。柔らかそうな桜色の唇。まるで、フランス人形のように、綺麗であり、可愛らしい少女だった。
「・・・!」
と、そこで少女が目を開いた。長いまつげに飾られた、蒼玉(サファイア)のような瞳が狐珀を捉える。
「あ、生きてた。怪我、大丈夫?」
狐珀が言うと、少女は顔を真っ青に染め、目の焦点をぐらぐら揺らし、狐珀の手から逃れるようにぴょんと跳び上がった。
そして、距離を置いてから、全身を小刻みにカタカタと震わせ、狐珀を怖がるような視線を送ってくる。
「・・・あ、そか」
今考えてみると、起き上がったら知らない高校生がいた。なんてただの犯罪者にしか見えない。しかも、それが心配そうな顔であったらまだ助けてくれた人にも思えなくもないが、表情が滅多に変わらない狐珀だと、余計犯罪者っぽく見えてしまう・・・
「えっと・・・」
「・・・!こ、ない、で・・・・・・ください・・・・・・」
狐珀が足を前に踏み出すと、少女が怯えた様子でそう言い、後ろへ後ずさりする。
「いたく、しないで・・・・・・ください・・・・・・」
「・・・ボク、怖くない子。ダイジョブだよ」
「・・・」
何故か心の底から死にたいと思ってしまったが、少女は、それでも怖がっているのか、まるで飢えたライオンに怯え、震える小鹿のようだった。
「・・・紐落ちてないかな」
既に生きる勇気を失ってしまった目で周りを見渡すと、地面に落ちているパペットに気づいた。
「キミの?」
「・・・・・・!」
ウサギのパペットを持ち上げると、少女は目を見開き、足を一歩踏み出す・・・が、そこで留まった。
パペットは大事、でも、この人は怖い・・・みたいな顔をしながら、じりじりと間合いを測っている。
「・・・面白い子」
心で思ったことを言葉にすると、パペットを持った手を少女に突き出す格好で、ゆっくりと距離を詰めていった。
「・・・・・・っ!」
少女がビクッと肩を揺らすが、狐珀の意図に居づいたのだろう、あちらもゆっくりとすり足で近づいてきた。
そして、狐珀の手からパペットを奪い取るなり、それを左手に装着する。
すると、突然少女が、パペットの口をパクパクさせる。
『やっはー、悪いねおにーさん。たーすかったよー』
テレビでよくみる腹話術だろうか、ウサギのパペットが妙に甲高い声を発してくる。
首を傾げ、動かしている筈の少女の顔を見やるが、まるで狐珀と少女の間を遮るように、ウサギのパペットが言葉を続けてきた
『―――ぅんでさー、起こした時に、よしのんのいろんなトコ触ってくれちゃったみたいだけど、どーだったん?正直、どーだったん?』
「・・・はて?」
狐珀はまた首を傾げる。正直言って、確かに少女を触ったが、別にそんなこと気にしていなかった。
すると、パペットは笑いを表現するようにカラカラと身体を揺らした。
またまたぁー、とぼけちゃってラッキースケベぇ。・・・まぁ、一応は助け起こしてくれたわけだし、特別にサービスしといてア・ゲ・ルんっ』
「おー。太っ腹」
正直全くそんな事は思っていなかったが、少し面白そうだったので、乗ってみることにし、相変わらず無表情ながら、パチパチと手を叩く。
『でしょでしょ~?よしのん、太っ腹っしょ~?』
先程までの少女が演技しているとは思えないそのパペットが器用にパンと手を叩く。それはまるで、別の魂がパペットに入っているような感じだった。
「ボクだったら真似出来ないね」
『ふっふ~ん!よしのんだからね!』
自信げに言うパペットに、内心凄い興味が湧いていた。どうも昔から好奇心だけは人一倍強いらしく、こういうのにも、自然と対応出来るようになってしまっていた。
『っていうか、大丈夫~?頭びしょ濡れだけど~』
パペットがそう言い、また器用に右手を狐珀の頭に向ける。
「あ・・・」
今までのファンタジー小説に迷い込んだような心情に全く気づかなかったが、雨水の力か、風の力か分からないが、フードが取れ、髪を洗う時のようにびしょぬれになっていた。しかも、そこから入った水のせいで、せっかくヤンキーに貰った上着も台無しだ。
「乾かさないと・・・じゃぁバイバイ。また会えるといいね」
『そだね~。おにーさんとは仲良くやれそうだよ~』
それがパペットの言葉であろうと、少女の言葉であろうと、嬉しかった。神社の鳥居をくぐった後、未だ曇天の空を見上げる。空からシャワーのように一つ一つが水玉だと感じさせることのない速さで落ち、さらにそこからは新たに水玉が落ちていく。
うんざりしながらも、フードを被ると、先程までの軽快な走りは何処へ飛んでいったのか、濡れた服の嫌な感覚を感じながら、士道よりも距離のあるこの坂の上にある一軒家に向かう。
「しみぬき・・・あったっけ?・・・まぁ士道に借りればいいや」
最悪士道に借りると決意し、再び歩き始める。
「あの子・・・大変だな・・・でも、いい子」 
 

 
後書き
やっはー。よしのんだよ~・・・すいません。事の葉です。
三日遅れのエイプリルフールですよ~い。だって暇だったんですもん!エイプリルフール何もなかったんですよ!?友人がいない私に嘘をつく人もいないし!家族も家族でなにも変わったこと言わないし!なんなんだあの日は!・・・あ、ちなみに豆知識なんですけど、13年に一度、嘘をついてはいけないエイプリルフールがあるそうですよ?・・・どこかはしりゃぁせん。だって1564年から13年ごとにって・・・数えるだけで私は倒れる自信がありますよ!あでも、ネットによると、2019年はダメそうです。それと、イスラム教はエイプリルフール禁止そうです。

ではでは次回・・・予告編とか苦手なんだよなぁ・・・ま、お楽しみにしといてね~ 
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