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マネージャーは大変

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3部分:第三章


第三章

「ゲームの役の録音もあって」
「二人共大忙しなんですね」
「困ってるのよ。とにかく時間の調整が」
「そして御二人共」
 しかもなのであった。
「家庭もありますしね」
「そうそう、それそれ」
 房江はペンを縦に動かした。そのことを忘れてはいけないといった口調であった。声優も人間である。家庭を持っていても当然である。
「それは麗子ちゃんと映見ちゃんもそうだし」
「皆さん子供さんおられますしね」
「男だとまだいいのよ」
 房江は今度は腕を組んだ。
「けれど女はね」
「そうはいかないですよね」
「そうなのよ。無理が効かないのよね」
 そう言ってさらに難しい顔になるのだった。
「母親だからね」
「母親は絶対に子供から離れられないのよ」
 房江の今の言葉は断言だった。
「何があってもね」
「そう言う房江さんも」
「そうよ。二人よ」
 こう後輩に答えた。
「二人いるから。それも男の子が二人ね」
「御主人は?」
「それを入れたら三人よ」
 そっちも手がかかるというのである。今度は憮然とした顔になっている。
「三人の世話をしないといけないから大変なのよ」
「けれど残業してますよね」
「そうよ。お仕事がないと生きていけないでしょ」
 家庭だけではないというのである。これが現実だ。
「だからこうしてね」
「マネージャーをですか」
「そうよ。やってるのよ」
「お休みとかは?」
「マネージャーに休みはないわ」
 今度はこう言う。マネージャーとしての責任感も忘れてはいないのだ。
「何があってもね」
「大変ですね」
「あんたもそうじゃない」
 ここで後輩に顔を向ける。その彼女にだ。
「マネージャーじゃない」
「白鳥友利子さんと荒木加絵さんの」
「友利子ちゃんと加絵ちゃんもコンスタントに仕事あるわよね」
「そうなんですよ」
 自分の担当の声優のことになると彼女も急に機嫌をよくなった。
「もうそれで大変で」
「けれどこの時間に変えられるのね」
「二人ですから」
「私は四人よ」
 倍である。しかもただ倍なのではなかった。
「それも四人共ね」
「白鳥さんも荒木さんもかなりお忙しいですよ」
「何で私の担当してる娘は皆こんなにスケジュールが入り組んでるのかしら」
 このことについてあらためて考えるのだった。
「四人共どっちかっていうとメインヒロインっていうよりは」
「お姉様とかライバルキャラとか色っぽい悪役とかですよね」
「そうなのよね。四人共ね」
 そうだというのである。
「麗子ちゃんなんかね。もう何度お姉様って言われたかしら」
「数え切れないですよね」
「映見ちゃんもアーミームーンより前のデビューからそうだったし」
「あっ、プロジェクトS美ですよね」
 後輩はにこりと笑って述べてきた。
「あの時から篠原さんの演技はよかったですよね」
「思いきり切れたお姉様が最初なのはね」
「篠原さんらしいですかね」
「本人はあの時も今もそれで喜んでるわ」
 本人は、というのだ。
 
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