ピンクハウスでもいい
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4部分:第四章
第四章
「だって。そうでもしないと男って」
「駄目なんだ」
「そういうこと」
にこりと笑って述べる。
「千佳もそういうとこ。頑張りなさいよ」
「私は何か」
少し首を捻ってから言葉を返す千佳であった。
「そこまでは」
「無理?」
「服だってそうだし」
そのピンクハウスについても言う。
「なかったらね。別のを買えばそれで満足するし」
「そうよね、あんたって」
「うん。そういうタイプ」
「服はそれでいいけれどね。それにしても」
由美子は服に話を移してきた。
「あの服は残念だったわね」
「そうね。けれど別の服買ったし」
それで満足だというのだ。やはりそこが千佳であった。
「それはそれで」
「それでもあれね」
由美子は楽しそうに笑ってまた千佳に告げた。
「どんな人が服を買ったか気にならない?」
「あっ、それはあるわ」
その言葉にこくりと頷く。
「やっぱり。誰が買ったのかなって」
「ひょっとしたらその人と会うかもね」
また楽しそうに言う由美子だった。
「ばったりと」
「そうかも。それはそれで面白そう」
「ひょっとしたら」
楽しげに笑いながら言葉を続く。
「松浦先生かも」
「いや、それはないでしょ」
千佳は笑ってそれは否定した。
「似合わないわよ。それに」
「それに?」
「先生ピンクハウスって感じじゃないじゃない」
「それはそうだけれど」
それでもだと。あえて大胆な仮定をしてみせるのだった。
「ひょっとしたらってことがあるじゃない」
「それじゃあ」
「可能性はゼロじゃないわよ」
頭の中ではゼロと思っていても言う。
「だからひょっとしたら」
「若しそうだったらびっくりよ」
見れば千佳も有り得ないといった顔であった。
「そんなのって」
「試しに今度のお休みお店にも言ってみたら?」
「ピンクハウスに?」
「ええ。どうかしら」
「そうね」
千佳は少しだけ考えてから由美子に答えた。
「どちらにしろあの辺りに行くし」
「じゃあ丁度いいじゃない」
「そうね。それじゃあ」
「どっちにしろハンカチとか買うのよね」
由美子はそれについても言ってきた。
「丁度いいじゃない、本当に」
「まさか会えるとは思わないけれど」
ここで言うのは服を買ったその人だった。決して先生ではない。やはりそれは思いもしないことであった。この場合は二人共である。
「行ってみるわ」
「そういうこと。それじゃあ」
ちらりと時計を見る。
「いい時間ね。席に戻るわ」
「ええ」
授業がはじまる時間だった。由美子は自分の席に戻りそうして真面目に授業を受けるのだった。だが今の話で千佳はまた店に行くことになったのだった。
すぐにその休みになった。千佳はあの買った服を着てピンクハウスに向かう。やたらと少女趣味の服装になっているがそれが実に気持ちよかった。
「さて、と」
千佳は次第に見えてきた商店街のピンクハウスを見て呟く。
「ハンカチと。あとは」
何を買おうか考えていた。その時はあの服を買った人が誰なのかは考えてはいなかった。
「アクセサリーを見てね。そんなところね」
そんなことを考えていた。そうして丁度考え終わった辺りで店の前に来た。その時であった。
「有り難うございました」
「はい」
店から誰から出て来た。その人は。
「えっ!?」
千佳はその人を見て思わず息を呑んでしまったのだった。
「えっ!?」
向こうも気付いた。千佳の声で。
「どうして」
「それはこっちの台詞です」
千佳は唖然としたまま述べる。
「どうしてここに」
「そんなこと言われても」
そこにいたのは何と松浦先生であった。その長身にあの服を着ている。似合う似合わない以前にどうしてここにいるのかという謎すらあった。
「と、とにかく」
先生は苦し紛れの感じで言葉を出してきた。
「ここじゃ何だから。そうね」
「どうされるんですか?」
「場所を変えましょう」
こう提案してきた。
「お店の前でお話しても他の人やお店の迷惑になるわよね」
「え、ええ」
千佳も先生に言われてそれに気付いた。そういえばそうであった。
「ですね。それじゃあ」
「下手なところでお話しても」
それでまた他の誰かに見つかってしまうと考えたのだろうか。いつもはクール過ぎるまでにクールな先生の顔が今では狼狽しきったものになっていた。
「あれだから。そうね」
ここで裏手を見た。
「あっちに行きましょう」
「あっちですか」
「そう、あっち」
裏手を指し示して言う。
「そこに喫茶店があるのよ。そこでお話しましょう」
「わかりました。それじゃあ」
「ええ」
こうして二人は一先裏手の喫茶店に入ることになった。そこは千佳の知らない店だった。見れば大正のようなシックな趣きの店であり木造が目立つ。ダークブラウンの店によく似合うコーヒーの香りが支配していた。その中の木のテーブルに向かい合って座った。
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