ピンクハウスでもいい
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2部分:第二章
第二章
「それがいいんじゃない」
「またこれ凶悪よ」
友達は平気なままの千佳に対して告げた。
「ライトブルーを下地に」
「ピンクハウスの基本ね」
「ピンクに白に。おまけに装飾まで」
「極めてるじゃない」
完全に趣味が食い違っていた。ある意味ピンクハウスというのはパンクやゴスロリと同じく完全に趣味の世界である。合わない人間にはとことんまで合わないものなのだ。
「だからいいのよ」
「じゃあこれ買うの?」
「うん」
千佳はにこりと笑って答えた。
「丁度駅前で売ってるし」
「ああ、あの店ね」
学校の最寄り駅のすぐ側にあるピンクハウス専門店だ。はっきり言ってそこだけかなり異様な世界にもなっている。やはりピンクハウスは一つの世界だった。
「またあそこなの」
「ええ、お金あるし」
千佳はにこにことして述べる。
「買うわ」
「やっぱり買うの」
「買わないでどうするのよ」
こう言い返す。
「そうでしょ?折角お金あるし見つけたんだし」
「条件は揃ってるわね」
何かを買う為の。さすれば買う。これは最早当然の流れであった。
「それで、なのね」
「そう、それで」
笑顔で言葉を返す。
「いいでしょ、由美子が買うわけじゃないんだし」
「まあね」
その友達由美子は千佳の言葉に応える。言われてみればその通りなのだ。正論で反論することもする気も起こらない程だ。だから由美子としても言わなかったのだ。
「これ似合うかしら、本当に」
「似合うと思うわよ」
由美子は今度は素直に述べた。最初から素直に言っていたが今度はいい意味で素直だった。つまり褒めるのに素直であったのだ。
「千佳には」
「有り難う。やっぱり私ピンクハウスとかって似合うのよね」
「ええ」
千佳のその言葉にこくりと頷く。
「それも保障するわ」
「有り難う。じゃあ今日の放課後行くわ」
「それにしてもねえ」
ここで由美子は困ったような苦笑いを浮かべるのだった。
「服とかそういうのはどうも」
「好みだからいいじゃない」
千佳はそう由美子に言い返す。
「由美子だってハイソックスに凝ってるでしょ」
「まあね」
実際に今もハイソックスだ。黒いハイソックスでその奇麗な脚を際立たせている形になっている。制服なのでそれがさらに目立っていた。
「確かに」
「同じことよ。それじゃあ」
「まあ楽しんできて」
由美子は最後に千佳に対してこう告げた。
「買い物をね」
「ええ」
千佳は笑顔で頷く。こうして買い物に行くことが決定したのだった。
放課後実際に買い物に行く。当然目当てはそのピンクハウスの服である。
店まで大急ぎで行く。外見もかなり派手で可愛らしい。この可愛らしさが逆にけばけばしいという意見もある。やはりピンクハウスは好みが別れる。
店の中もだ。そのお伽話の様な服やアクセサリーで溢れ返っている。千佳はその中を進み店員さんにあの雑誌を広げて言うのだった。
「この服下さい」
ページに付箋までしている。あの服のページだ。服の写真にはもう赤マルまでしている。その赤丸を指差してカウンターにいる店員さんに対して言ったのである。
「その服ですか」
「はい」
千佳は店員さんの言葉にこくりと頷いた。
「ありますよね」
「すいません」
ところが返って来たのは残念な返事だった。
「申し訳ありませんが今さっき」
「売れたんですか」
「そうなんです」
店員さんは申し訳なさそうな顔と声で述べる。
「それで。その」
「ああ、ないんですね」
もう言わずもがなだった。千佳はそこまで聞いて急激に落胆しきった顔になるのであった。それはもう奈落の底に落ちたかのようであった。
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