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ハーメニア

作者:秋月 俊
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いつもの日常

         PM22:00

ミクとの戦いが終わり、俺達は家の中に戻っていた。まだ戦いの傷が癒えていないミクをソファに寝かせ、俺たちはリビングに集まっていた。

「ミクちゃん大丈夫?」
「はい。体の方はまだですが、話し程度には……」

ミクが答えた。俺たちとしては、ミクを早く返してやりたいのだが、親父が聞きたいことがあるらしい。

「すまない、まだ万全じゃないというのに」
「いえ、どちらにしろ私はもう戻れませんから。お話できることならば、何でもお話します」

辛そうにミクがつぶやいた。

「そうか……詳しくは俺が聞こう。すまないがマコト、ゆかりをお前の家に泊めてくれないあ?」

唐突な頼みに唖然とした。このジジイは内を言ってやがるんだっ!?仮に義妹だとしても、女の子を家に泊めろなんて、この人の頭が正常かどうか疑ってしまう。結月も驚いているし、ミクも驚いているぞ。

「な、何を言っているんですか!?幾ら何でもそれはおかしいでしょう!」
「そうは言われてもな。もしまたマコトを狙って何者かが襲撃してこないとも限らん。その時のために、二人で行動しておいて欲しいんだ」

……そう言われると、確かに。まだ俺一人じゃステージも、響器も発動させることもできない。だったら二人でいたほうが安全ではあるだろう。

「分かった。結月もそれでいいか?」
「えっ!?ほ、本気ですかマコトさん……」
「……ゆかりさん、それが良いと思います。私が失敗した以上、他の人がよこされる可能性もなくはないです」

他の人……もしかしてだが、ミク以外にも俺を狙ってる奴が居る、ということか。これは気をつけないと、今回はなんとかなったものの、次はどうなるかわからないな……

「……わかりました。今日はお世話になります、マコトさん。荷物の用意してきますね」

そう言って結月は部屋を後にした。

「マコトさん……」
「ん?どした、ミク?」」
「本当に……すみませんでした。ゆかりさんにも、謝っていたと伝えておいてくれますか?」
「……おう。また明日、学校でな」

そう言って笑いかけると、ミクも笑い返してくれた。親父を見ると、後は任せろという風に頷いた。俺はそれに頷き返すと、部屋を後にした。

                PM22:30 詠月家 リビング

 「では、早速聞いていこう。君は一体誰に頼まれてここに来た」
「……✕✕✕✕✕」

「!!まさか、あいつはどうしてそんなことを!」
「恐らくですが、マコトさんの力に目をつけたのでしょう」
「馬鹿な……奴はマコトの力は知らないはず。一体どうやって……」
「わかりません。ただ一つわかることは、マコトさんとゆかりさんがこのままじゃ、すぐにやられちゃうということです」
「とはいえ、奴らがいつ襲撃してくるかわからん以上、対策を立てることも容易ではあるまいに」
「安心してください。私が任務に失敗した以上、彼らは警戒してそう簡単に手は出してこないと思います」
「では……」
「その間にマコトさん達を戦えるレベルに上げなければいけません」
「しかし、こちらで戦えるものはがくぽしか」
「私が手伝います。二人は私を友達と言ってくれました。なら次は、私が二人を守ります!」


            5月15日 AM6:00

色々とあったが、無事に俺たちは次の朝を迎えることができた。結月は最初の方は居心地が悪そうにしていたが、流石に疲れたのか、シャワーを浴び終えた後、すぐに眠ってしまった。かく言う俺も、同じような感じだったが……

「んっ……。マコトさん?」

椅子に座ってボケーっとしていると、結月が起きた。

「おはよう。よく眠れたみたいだな」
「おはようございます。ベット借りちゃって、すみません」
「おう。とりあえず朝飯作るから、ゆっくりしててくれ」

そう言うと、俺は椅子から立ち上がりキッチンへ向かった。結月は持ってきた鞄から化粧品らしきものを取り出し、洗面所へ行ったようだ。冷蔵庫を開けて、何を作ろうか考える。卵があるからだし巻き卵は確定として、味噌汁と白米にするか。

「マコトさん、なにかお手伝いすることはありますか?」

肌の手入れが終わったのだろう、結月がキッチンにやってきた。手伝うことと言われても、作るものはそう手間のかからないものばかりだし、そうだな……。

「だったらサラダ作っててもらえるか?キャベツとかはそこの野菜室に入ってるから」
「分かりました」

野菜室から野菜を取り出した結月は、手慣れた風に野菜を切り始めた。

「結構手馴れているんだな」
「お母さんが遅かったりするので、私が晩ごはんを作ったりするんです。マコトさんも、お話に聞いていたよりお上手ですね」
「聞いていたって、マキに?」

結月が頷く。あいつは人のプライベートをバンバンしゃべるので一体どこまで喋ったのか、少し怖いが、褒められて悪い気はしない。完成しただし巻き卵を均等にわけ、皿の上に盛り付ける。既にサラダは持って行ってくれてたのか、いくつか皿が無くなっている。味噌汁も器に注ぎ、リビングの台の上にだし巻き卵と一緒に持っていく。

「ご飯は悪いけど、自分で注いでくれ」
「分かりました」
「「いただきます」」

だし巻き卵をつまみ、口に運ぶ。うん、今日はうまくいったな。

「マコトさん……これ……」
「?どうした結月」

なんだろう、味が合わなかったのか。そういえば苦手なものとか聞いてなかったな、もしかして卵ダメだったか?

「このだし巻き卵、後で作り方教えてください!」
「おわぁ!お、お前……別にいいけども」

まさかそうくるとは……。

「それと、前から思っていたんですが」
「ん?」
「マコトさんは私の事、結月って言いますよね」

唐突な話題転換だな、おい。そういえば、いつの間にか結月は俺のこと、名前で呼んでいたな。いつからだったっけ。ああ、そうだ。昨日の夜からだ。

「私達、一応ではありますけど、家族なんですよね。なのに苗字で呼ぶって、おかしくないですか?」



そう言われると確かに……。

「はい、では名前呼んでください」
「今ぁ!?」
「今です。さぁさぁ」
「いや、別に今じゃなくても……って、だし巻き卵取るなよ!」
「名前呼ぶまでモグモグ……食べ続けますモグモグ……」

ぐぐぐ、このままじゃ俺のだし巻き卵が……。呼ぶしかないか。大丈夫、たった三文字。

「分かった、ゆかり。分かったからだし巻き卵を食べるのをやめてくれ……」
「よし、よく出来ました。では食事を続けましょう」

三個目の俺のだし巻き卵に手を伸ばそうとしていたが、その手を引っ込める。危うくだし巻き卵が全滅してしまうところだった。

               AM7:00

七時。いつもならマキがやってくるころだが

「おっはよう、マコト!」

やってきたか。

「今日もいい天気だ……よ……」
「あ、マキさん。おはようございます」
「……しまった」

完全に失念していた。マキはここにゆかりが居ることを知らない。かと言って、昨日あったことを話したところで信じてもらえるとは思えん。

「なぁんだ。ゆかりちゃんいたんだ。私よりも早く来るなんて、すごいね」

割りと普通の反応……。えっ、そういう感じに解釈するのか。これは助かった。

「そういえばさ、さっきミクちゃんとあったよ。元気してたみたいだから、良かったよね」

それを聞いて俺とゆかりは顔を見合わせた。どうやらあの後、ちゃんと無事に帰れたようだ。もう学校に来れるということは、昨日の傷は癒えたのだろうか。そこが少し心配だ。

「それよりもさ、私今から事務所行かなきゃでさ。もしマコトが起きてなかったらって思ったけど、ゆかりちゃんがいるなら安心だね」
「ああ、そろそろ新曲出すんだっけか。わかった、頑張ってな」
「頑張ってください」

外からクラクションが聞こえる。オジサンが待っているのだろう、マキは俺達に手を振って部屋を後にした。

「マキさんすごいですよね。あの年で人気バンドのギターをやってるなんて」
「小学生の頃からすごかったけどな、俺もここまでなるなんて思わなかった」

あいつが母親を亡くしてからか、急激にギターが上手くなったな。幼なじみとしても鼻が高い。


「それよりもマコトさん」
「ん?」
「着替えたいので申し訳ありませんが」
「トイレいるから終わったら呼んでくれ」

                AM7:30

 ゆかりと共に家を出る。

「それじゃ行きましょうか」
「ああ」

二人で学校に向かう。
昨日とは違う、学校に行き、みんなと過ごすいつもの日常。
何の変哲もない……日常が始まるはずだった。


続く 
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